一般向け/高校生向け楽しい化け学
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バイト先の塾で高校化学を教えているが、どうも「定番の考え方」に抵抗があります。

ちょうど今サリチル酸のアセチル化についてプレゼンを作っているところなので、それを例にとりましょう。

「ココとココが酢酸として取れて、残りがくっついてアセチルサリチル酸ができます」っという次の定番表現;


式1.定番の縮合の考え方(アセチル化)


残念ながらこれは化学的にはとてもナンセンスな考え方です。

いや、もちろん高校化学の範囲では反応の意味(形式的意味)を理解するのには十分なんでしょうが、より深く化学を知りたい人には物足りない図式です。

いやいや、むしろここが或る意味有機化学で最も重要なところのひとつかもしれないですが・・・・


化学反応は「原子・分子がぶつかって反応する」のが鉄則です。

というか、普通に考えるとワープはありえないわけで、結合するには原子同士が触れ合う他ありません。

上の図式ではあたかも

1) サリチル酸のH-がぶちっと切れて

2) 無水酢酸のCH3COO-がぶちっと切れて

3) それらがくっついて酢酸CH3COOHとなって

4) サリチル酸と無水酢酸が切れて残った断片がお互いくっついて、アセチルサリチル酸になる。

と読むしかなさそうです。

でも実際はこの反応ではそんな都合良くブチブチ切れる反応は起こっていません。

専門的になりますが、酸触媒でのサリチル酸のアセチル化は、次のような反応で起こります。


式2.アセチル化;大学での有機化学の考え方(クリックで拡大)


ちなみに赤い矢印は「電子対の動き」を表す専門的な記号ですが、あまり気にせずフィーリングで見てください。

簡単に解釈すると;

・ 原子(の孤立電子対)から他の原子に矢印が伸びていれば、その二原子が衝突したことを表す。

・ 結合から矢印が伸びていれば、その結合が切れた、すなわち原子同士が離れて行ったことを表す

・ ただし、「(電子を供与する原子・結合)→(電子を受容する原子・結合)」に矢印を描く。

ということです。


式2を見ると、要するにサリチル酸と無水酢酸がくっついた中間体が生じるということがわかります。

式1のようにブチブチ切れるのではないのです。

また、式2では酸触媒(H+)がどのように働いているかよくわかります。

式2ではH+はくっついたり離れたり、±消費ゼロということがわかります。

ようするにH+はそれ自体は消費されないが反応を助長する物質;触媒であるとわかります。

高校化学では触媒がいったい何をしているかほとんどわかりません。

式2前半では、H+はカルボニル基のOにくっつくことで、反応するそのカルボニル基をよりプラスな雰囲気にして、サリチル酸のマイナスな雰囲気のヒドロキシ基の攻撃を受けやすくしているのです。


もうひとつ式2からわかる面白いことを紹介しましょう。

サリチル酸の-OHのHを青色に、無水酢酸のカルボニル基の酸素Oの一つを赤色に塗って区別できたとします。

定番の式1から想像すると


「式1」から予想される結果


ですが、式2からわかる結果は


「式2」から予想される結果


です。

そう、生じた酢酸のカルボニル基のC=OのOの由来が違うのです。

「無水酢酸の元C-O-C」のOがカルボニル基のOになるのです。

式1の考え方では、まさか二重結合の位置が変わるなんて予想できませんね。

さらに、式2の方では生じた酢酸の-OHのHは青ではなく緑色です。

このHはサリチル酸から来たのではなく、酸触媒のH+から来たのです。

(※注意:上式は反応した瞬間の状態を表しています。実際は酢酸になると電離するのですぐにH+が交換しわからなくなります。)


このように、正しい反応の図式(専門的には「反応機構」と言う)を描くと色んなことが分かってきます。

まだまだ、もっと面白いことがわかるのですがそれは次回に回しましょう。

ここでちょっと宿題を出します;


・宿題;

 式2に習って「酸触媒で、酢酸とメタノールから酢酸メチルが生じる反応」を書いてみよう!


ヒント:

鉄則は、アルコール(もしくはフェノール)の-OHのOがカルボン酸のカルボニル基のCに衝突することです。

まず酸触媒のH+はカルボン酸のカルボニル基C=OのOにくっつきます。

この反応機構を描くと「エステル化では酸の頭(-OH)が取れる」ということが導かれます。

 →『エステル化 ~酸の頭が取れる!~』へ。


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◎ 参考

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