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一般向け/高校生向け楽しい化け学
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先日、私の専門である有機金属化合物を紹介する@vorgmetというTwitterのbotを作りました。

◎ 有機金属化合物;炭素-金属結合のある化合物。

有機金属化合物はとても不思議で美しい構造をしているので、ここでも紹介していこうと思います。



今日の分子No. 83:ツァイゼの陰イオン [PtCl3(CH2=CH2)]-

Mercuryで描画


IUPAC正式名称:トリクロロ(エテン)白金(II)酸イオン。

平面四配位型の白金(II)錯体。

Pt2+イオンにCl-イオン3つとエチレンCH2=CH2配位しています。

よって一価の陰イオンになっており、実際はカリウムイオン等を対イオンとして持っている。

カリウム塩は空気に対して安定な黄色の固体。

世界で最初に見つかった有機金属化合物で、発見者のウィリアム-クリストファー-ツァイゼの名からその名を付けられています。

カリウム塩は、塩化スズ触媒下テトラクロロ白金酸(II)カリウムK2[PtCl4]とエチレンから合成されます。

K2[PtCl4] + CH2=CH2 → K[PtCl3(CH2=CH2)] + KCl


その構造を見てまず思うことは

「白金が結合と結合してる!」

でしょう。

その通り、結合と結合しているのです。

この常識破りの構造の謎を解き明かしていきましょう。

ご存じの通り、エチレンはC-C間に二重結合を持つ化合物です。

一本目の結合(σ結合)はC-C間にガッチリ存在していますが、二本目の結合(π結合)はエチレン平面の上下に「ホワっと」存在しています。



エチレンのσ軌道とπ軌道


この「ホワっと」存在するπ軌道の電子(π電子)がPtの空のd軌道に配位してきます。

受け入れがたいかもしれませんが、実はそんなに変なことでもないです。

例えばアンモニアNH3がPtに配位するとき、窒素の非共有電子対を使ってPtの空のd軌道に配位してきます。

「アンモニアの非共有電子対」が「エチレンのπ電子対」に変わっただけです。



エチレン→Pt配位結合とアンモニア→Pt配位結合


このようにπ電子が金属に配位することを「π配位」といい、そうして形成される錯体を「π錯体」と言います。


実はちょっと難しいですが、このような弱そうな結合を持つπ錯体が安定に存在できる理由として「逆供与」というもう1つの結合があります。

例えばこのツァイゼイオンでは、

・ エチレンの結合性π軌道(電子で満たされている)からPtの空のd軌道への電子の流れこみ:「供与」(上で述べた結合)

・ Ptの満たされたd軌道(非共有電子対)からエチレンの非結合性π軌道(電子が入っていない)への電子の流れこみ:「逆供与」

の二重の結合で安定化されています。


このようなπ錯体はπ配位子が比較的外れやすいことから配位子交換反応で別の有機金属錯体の原料となったりします。

また、触媒サイクルの反応中間体としても生じていたり、工業的にも非常に重要です。
(例:『ヘキスト-ワッカー法の機構~水俣病と触媒の進化~』


以上のように、有機金属化合物はとても不思議で面白い物質群です。

興味のある方はぜひ研究してみてください!



参考
『有機金属化学』, 植村 榮ら著, 丸善 (2009/12)
 ↑ 読みやすくて良い本ですが誤植や図のミスが多いのが玉に瑕。
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