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一般向け/高校生向け楽しい化け学
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ドイツ製単結晶ケイ素(直径18 mm)。種結晶400円で購入。CZ法(後述)の種結晶部分?


お久しぶりです、実はインドに化学の修業しに行ったりしてまして、なかなか更新できてませんでした。


さて、先日石のイベントに行ってみると、上の写真の単結晶ケイ素が売っていました。

装置に固定するためでしょうか、くびれが入っている部分で商品価値はないみたいで、スクラップとしてたった400円だったので買ってみました。

たたき割られた面のケイ素が、鉄とは違う感じの光沢でなかなか綺麗です。


また、先日生野銀山の坑道見学に行ったところ、併設されていた鉱山資料館で三菱によるケイ素の展示がありました。

ということでケイ素に縁を感じたので、今回は現代の電子社会に極めて重要な単結晶ケイ素の製造方法をご紹介致します。



単結晶ケイ素



ケイ素の結晶構造(ダイヤモンド格子)。単位格子の一辺の長さ(格子定数) = 5.4Å


ケイ素Si原子がダイヤモンド格子を組んだケイ素の単結晶(塊全体で1個の結晶)。

ケイ素は炭素と同じ14族元素であり、炭素と同じく四面体方向に4つの結合手を持つため、炭素と同じダイヤモンド格子を組みます。
(※ 熱的に不安定ですがβスズ構造も取れます。)

単結晶ケイ素は、Si原子がぐちゃぐちゃに結合したアモルファスケイ素よりもバンドギャップが狭く、導電性が高いという特徴があります。

また、たくさんの小さな結晶がくっついてできた多結晶ケイ素は、粒界で電気伝導が妨げられるため、単結晶のケイ素が求められます。

単結晶ケイ素は重要な半導体材料であり、リンPやホウ素Bのドーピングなどの加工を経て、ダイオードやトランジスタ等の半導体素子が作られます。



単結晶ケイ素の製造方法
I. ケイ素の製造(多結晶ケイ素の製造)

(左)原料のケイ石と(右)製造された多結晶ケイ素(生野銀山:鉱山資料館蔵)。




高純度多結晶ケイ素の製造プロセス


1. ケイ素源としてケイ石(SiO2)を採取する。
なお、ケイ石はどこにでもあるありふれた鉱物ですが、品位の高い北欧産のものがよく用いられます。

2. ケイ石を電気炉で加熱溶融し、炭素Cもしくは一酸化炭素COを用いて還元して純度約98%の粗ケイ素を得る。
・ SiO2 + 2C → Si + 2CO
・ SiO2 + 2CO → Si + 2CO2

3. 粗ケイ素の粉末を超高純度塩化水素HClと反応させ、トリクロロシランSiHCl3を得る。
・ Si + 3HCl → SiHCl3 + H2

4. 揮発性液体であるSiHCl3を数回蒸留し、不純物1 ppb以下の超高純度SiHCl3を得る。

5. 加熱した超高純度ケイ素(別途用意)を置いた反応炉にSiHCl3と超高純度水素H2の混合ガスを導入して、固体ケイ素表面でSiHCl3の還元反応を起こし、多結晶ケイ素を析出させる。
・ SiHCl3 + H2 → Si + 3HCl
※ 反応式には諸説あるが、これが有力らしい[4]。


II. チョクラルスキー法(CZ法)による単結晶ケイ素の製造


CZ法で作られた単結晶ケイ素(生野銀山:鉱山資料館蔵)



CZ法による単結晶作製装置


溶融ケイ素の表面に細い棒状の種結晶(単結晶ケイ素)を接触させ、回転させながらゆっくり引き上げて冷やし、結晶を成長させます。

このような方法をチョクラルスキー法(CZ法)といい、ケイ素の他にもゲルマニウム等の半導体、金などの金属、サファイアのような無機単結晶を作製することができます。

結晶には面がありますが、種結晶の特定の面を使って引き上げることで、好きな結晶方位を持つ棒状単結晶を得ることが出来ます。

これを薄くスライスして{100}や{111}面のシリコンウェハーが作られ、半導体素子へと加工されます。

なお、こうして作られた単結晶ケイ素の純度はなんと99.999999999%(9が11個 ⇒ 「11N」)に達するそうです。


以上。

ケイ素は原料は豊富ですが、純度を高めたり、単結晶を得るために多大な労力が掛けられているのです。

こうして作られた単結晶ケイ素が働いて、今あなたのパソコンやスマートフォンにこの記事を表示しているんですね。



参考・出典
  1. 『現代無機材料科学』』足立吟也、南努 (著), 化学同人 (2007/01)
  2. 『半導体が一番わかる』内富直隆 (著), 技術評論社 (2014/5/2)
  3. 生野銀山:鉱山資料館資料
  4. 『半導体生産現場で見る化学反応の実際と設計』羽深等(2008)
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