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一般向け/高校生向け楽しい化け学
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量子化学計算ソフトGamess(Firefly)のGUIをFacioからMoCalc2012に変えたのですが、その使い心地チェックのためにアセンとフェナセンの構造最適化計算をしてみました。
◎ GamessやMoCalcの導入方法・使い方はPC CHEM BASIC.COMさんのwebページにわかりやすくまとめられています。

さて、今回はアセンとフェナセンのフロンティア軌道から、似て非なる両者の性質の違いを考えてみましょう。


アセンとフェナセンの性質



図1. アセンとフェナセンの構造.

アセン:
1. 縮環していくと不安定化
2. 縮環していくと吸収が長波長化

フェナセン:
1. 縮環しても安定
2. 縮環しても吸収がほとんど長波長化しない。

そもそもアセン類とフェナセン類とは。

アセンはベンゼン環が直線的に3環以上縮環した分子群で、アントラセン(3環)、テトラセン(4環)、ペンタセン(5環)、ヘキサセン(6環)・・・と続きます。

一方、フェナセンはベンゼン環がジグザグに縮環した分子で、フェナントレン(3環)、クリセン(4環)、ピセン(5環)、[6]フェナセン(6環)等があります。

異性体の関係である両分子群は、例えばいずれも有機半導体材料として盛んに研究されており、たくさんの誘導体が合成されています。

しかし、両者の見た目はとても似ていますが、とても異なった電子状態と性質を有します。

アセンは縮環数が増えると急激に不安定化することが知られており、空気と反応するようになり(酸素と反応して過酸化物を生成)、ディールス-アルダー型の二量化も起こしてしまいます。

例えばペンタセンは空気で徐々に酸化されてしまい、光にも弱いことが知られています。

ヘキサセンは非常に不安定で不活性ガス中やマトリックス中でしか取り扱うことができず、ヘプタセン(7環)に至っては極低温下で発生させるのが限界です。1,2

一方フェナセンは安定で、[7]フェナセン(7環)でも空気下で取り扱うことができます。




図2. アセンとフェナセンの共鳴構造式.


両者の違いは定性的には共鳴構造(図2)で理解できるとされています(クラー則)。

アセンはどう頑張っても全ての環に同時にベンゼンを書くことができませんが、フェナセンでは書くことができます。

すなわち、アセンでは縮環に伴い芳香族性が低下しますが、フェナセンは芳香族性を保つわけです。

他にも、フェナセンは4位と5位の水素-水素結合により安定化されているという最近の報告もあります。3


また、アセンは縮環数が増えると吸収が長波長化していきますが、フェナセンは[6]フェナセンでさえも可視域に吸収を示しません。

両者はまさに似て非なる分子群なのです。


アセンとフェナセンのフロンティア軌道

では本題のフロンティア軌道の話に移りましょう。

Gamess(Firefly)を使って、密度汎関数理論DFT)計算(B3LYP/6-31G(d))でアセンとフェナセンの構造最適化を行いました。

各分子の最高占有分子軌道HOMO)と最低非占有分子軌道LUMO)を図3に示し、それらのエネルギーを図4に示します。




図3. アセンとフェナセンのフロンティア軌道(ベンゼンは縮退した軌道のうちの片方だけ掲載). Molekelで描画.




図4. アセンとフェナセンのHOMO/LUMOエネルギー.


アセンでは縮環数が増えるとHOMOが不安定化し、LUMOが安定化します。

これは反応性の増大を示しており、アセンは縮環数が増えると不安定になることが理解できます。

また、アセンは縮環数が増えるとHOMO/LUMOギャップが小さくなり、吸収が長波長化することもよくわかります。

一方、フェナセンは縮環数が増えてもHOMOとLUMOのエネルギーはほとんど変わらず、縮環数の増加は安定性にあまり影響を与えないことが理解できます。

HOMO-LUMOギャップがほとんど変化しないので、縮環しても吸収があまり変わらないことも理解できます。




図5. ペンタセンとピセンの節付きHOMO. Molekelで描画.


加えて、ペンタセンとピセンのHOMOを節面(※)付きで示します(図5)。
※ 軌道の係数がゼロになる面。位相が反転する面。

ペンタセンでは節面が6つありますが、ピセンは3つしかありません。

アセンは縮環するたびに節面が増えていきますが、フェナセンはずっと3つのままです。

軌道は節面が増えると不安定化するので、これからもアセンのHOMOは不安定化していくことが理解できそうですね。



以上、アセンとフェナセンのフロンティア軌道についてでした。

GamessやMoCalc2012は無料で使えるソフトですが、これらと家庭用PCで本格的な量子化学計算が簡単にでき、分子の色や安定性について考察できるのは驚きですね。

分子軌道を表示するだけでも綺麗で楽しいので、ぜひ計算してみて下さい。



参考
  1. T. J. Chow et al, Nature Chem. 2012, 4, 574.
  2. H. F. Bettinger et al, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 14281.
  3. R. F. W. Bader et al, Chem. Eur. J. 2003, 9, 1940.

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