一般向け/高校生向け楽しい化け学
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最近反応機構の記事が人気みたいなので、今回はみんな大好きベンゼンの反応を解説します。

高校化学には化学反応がどう起こっているのか途中過程が出てこない。⇒ 「化学は暗記物」 という構図ができているように思えます。

化学は暗記ではなく考える学問、結果を覚えるだけではなくて、その途中経過も大切!
(もちろん、結果を覚えることも大切なのですが。)

私は化学反応がどのようにして起こっているのかを表す「反応機構」というものをぜひ知って頂きたい。

ということで、お勉強的ですが反応機構に関する記事も書いていこうと思います。


塩化鉄(Ⅲ)FeCl3存在下、ベンゼンC6H6に塩素Cl2を反応させると置換反応が起こり、クロロベンゼンC6H5Clが生じる。

さて、この反応はどのようにして起こるのか。

素反応に分けて見ていきましょう。

そして3つのポイント;

A. 触媒FeCl3の役割は?

B. どのように起こる?

C. 反応のドライビングフォースは?

を明らかにしていきましょう。


※ 反応式中の「巻き矢印」は電子対の動きを示しています。
「こっちから→こっちへ」電子が動くことを表しています。



ベンゼンのクロロ置換反応機構


1. Cl2の活性化



Cl2が塩化鉄(III)の鉄イオンに配位する。

するとCl2の「Cl」が「Cl+」の状態になる。

極端に書くと式の右に示したような構造で、一番左のClが「Cl+」の状態になっている。


2. 求電子付加



活性化されてプラス的なClと、マイナス的なベンゼン環が引き合う。

するとベンゼンの1つの二重結合が解かれてCl+が付加した形になる。
(ベンゼン環は壊れてしまう。)

◎ プラス的なClがベンゼン環の「電子」を「求」めて「付加」するので求電子付加と言う。


3. H+の脱離:ベンゼン環の再生



Clと同じ炭素にくっついているHがH+として抜けると、安定なベンゼン環が再生するとともに電気的に中性になることができる。

すると「Cl付加→H脱離」で全体としてはベンゼンのHがClに置換したことになる。


4. FeCl3の再生



生じたベンゼン環再生のために脱離したH+と、Clを活性化させた時に生じた錯イオン[FeCl4]-からHClとFeCl3が生成。

⇒ FeCl3は反応前後で正味変化しないので、触媒である。

※ 今回はわかりやすくするため反応3と4を別々に書いたが、FeCl4-が塩基として働いてH+を抜きに行くので、普通反応3と4は1段階で書かれる。


以上をまとめるとよく知った反応式



になる。

このように「求電子付加→脱離」して正味置換が起こる反応を求電子置換反応といいます。

特に芳香族化合物の反応なので、芳香族求電子置換反応と呼ばれます。

混酸を用いたニトロ化、塩化アルミニウム触媒でのアルキル化・アルカノイル化等も芳香族求電子置換反応の一種です。

それぞれ活性種はNO2+、R+、RCO+で、同じように「求電子付加→H+脱離」の反応機構で進みます。


では冒頭のポイントの答えをまとめると;

A. 触媒FeCl3の役割は?
⇒ 反応活性種Cl+を作る。

B. どのように起こる?
⇒ 「求電子付加→H+脱離」で正味置換反応が起こる。

C. 反応のドライビングフォースは?
⇒ プラス的なCl+とマイナス的なベンゼン環との引き合い、安定なベンゼン環の再生。

です。

反応機構の記事のたびに書いている「自然の摂理;プラスとマイナスが引き合う」がちゃんと成り立っていますね。

以上、高校化学では明かされず終いの反応機構と触媒の役割の一例でした。


参考

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 酢酸エチルは、濃硫酸を触媒として酢酸とエタノールから合成できる。酢酸2.0 molとエタノール8.0 molを反応させたところ、酢酸エチル88 gが得られた。酢酸の何%が酢酸エチルに変化したか。
(2013年センター化学I)


こんな問題が先日のセンターで出題されました。

条件に注目!

濃硫酸を混ぜていて、エタノールが無駄に多い・・・?

問題を問題として解いて終わり、なんか面白くないわけで、今回はこの反応条件に注目してみることにします。


ちなみにこれは理論上生成する量に対して実際にはいくら得られたか、すなわち収率を求める問題です。

この問題では酢酸エチルCH3COOCH2CH3(分子量:88)は1 mol生成しているので、答えである収率は50%となります。

結論として、この合成者はヘタクソと言えます。(ぉ

☆ 後述のように、うまくやれば同じ条件でも90%以上の収率が得られるからです。


上記の反応のように、酸触媒下でカルボン酸とアルコールからエステルを合成する方法を「Fischer法」と言います。

問題集などでもよく見かけますが、「なぜ硫酸触媒?なぜエタノールが多い?」

今回はこのFischer法の反応条件を反応化学的・計算化学的に見ていきます。


多くの場合、Fischer法では次のような条件で行われます。

1. 濃硫酸を触媒に用いる。

2. アルコールを大過剰に用いる。


1つずつ見ていきましょう。



1. 濃硫酸を触媒に用いる。

Fischer法は、1895年にEmil = Fischerによって報告されました。

最も重要なポイントは「酸触媒下」という条件です。

さっそくですが、酸触媒下すなわちHが存在する場合のエステル生成反応の素反応を見てみましょう。

☆ 巻き矢印は電子対の動きを意味します。習ってない方は「ココとココが衝突する」程度に思ってください。



反応したHは再生しているので、正味以下の反応式になります。

CH3COOH + CH3CH2OH → CH3COOCH2CH3 + H2O

(A)で、Hカルボニル基のO原子に結合して(元)カルボニル基のプラス性を上げるので、マイナス的なアルコールの酸素原子と結合しやすくする働きをしています。

また(B)で、-OHをH2Oにして外す役割も担っています。

☆ 詳しくは過去記事『エステル化 ~酸の頭が取れる!~』もご参照ください。

このように、Hは正味消費されずに反応を起こりやすくするもの、すなわち触媒として機能しているわけです。

酸触媒なしでカルボン酸とアルコールを混ぜても反応は起こりにくい(反応速度が遅い)ため、酸を加えるわけです。

※ 実は酸触媒として塩酸等ではなく濃硫酸がよく用いられますが、後述のように水をトラップさせるためという理由があります。



2. アルコールを大過剰に用いる。

エステルの合成反応は、逆反応である加水分解と競合する関係になっています。

すなわち化学平衡になっています。



平衡定数Kはエステル合成では大体K=4くらいの値になります。

仮にK=4だとして、真面目にカルボン酸1 molとアルコール1 molを反応させたとすると、生成するエステルはたった0.67 mol、理論上最大でも収率67%しか達成できないわけです。(※)


(※)計算

生成するエステルをx molとすると。



⇒ x = 0.67

触媒を多くしようが、反応時間を長くしようが、絶対にこれ以上の収率を達成することはできません。

そこで、基質の内片方を大過剰に用いるという方法が取られます。

レアで高価なカルボン酸から、そのエチルエステルやメチルエステルを作る場合、安くて入手しやすいアルコール側を大過剰に用いることで解決できます。

このとき、エタノールやメタノールを反応させるなら、それらに溶媒も兼ねさせることでより大過剰・高濃度で反応させることができます。

例えば上のセンター問題のようにカルボン酸2.0 molに対してエタノール8.0 molを(すなわち1:4で)反応させると、(1)式より1.9 molのエステルが得られ、収率93%が見込めます。

したがって、アルコールが過剰に用いられます。


ちなみに私はメチルエステルを作る時、カルボン酸:メタノール=1:10くらいで、カルボン酸をメタノールに溶かして反応させてます。

その場合、同様に計算すると97.3%の反応率が見込めますが、特に副反応が起こらない系なら実際に収率97%ほどで得られてきます。


◎ カルボン酸もアルコールも無駄にできないとき。

場合によっては基質のどちらも過剰にすることができないこともあります。

そのときは、副生してくる水を除くことで逆反応を抑える手法が取られます。

例えば反応と同時に蒸留も行って水を飛ばす方法。

また、酸触媒を濃硫酸にすると、濃硫酸の脱水作用で副生する水が濃硫酸の水和に消費されるため一石二鳥です。


Fischer法に限らず、以上のように合成反応は上手に工夫されています。

日ごろから「なぜこんな条件なんだろう?」という疑問を持って調べてみると、もっと合成が面白くなりますよ!



参考

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前回記事と関連して、今日はベンゼン置換体の「位置」について。


高校の化学Iで習う、ベンゼン置換体の「オルト」、「メタ」、「パラ」。

フェノールはオルト・パラ配向性だとか、ニトロベンゼンはメタ配向性だとかいうやつです。

例えばクロロベンゼンを例にとると、オルト(ortho-)位、メタ(meta-)位、パラ(para-)位は次のようになります。



クロロベンゼンのオルト位・メタ位・パラ位


化合物の名前で言うと、キシレンを例にとると次の3つあるってやつですね。



キシレンの3つの異性体



さて、こんなに慣れ親しんだ3つの位置、オルト・メタ・パラですが、

3つだけですか?

「え!?もうないじゃん!?」って思われるかもしれません。

では問います、ここは何位ですか?



ここは何位?(クロロベンゼンの場合)


高校じゃ習わないんですよねぇ~。

「でもそこにはもう置換基入ってるし・・・」と思われるかもしれませんが、実は後述のようにここが反応する場合もありますし、名前がちゃんと付いているのです。

さて、そんなマイナーで仲間外れにされている位置の名前は・・・

イプソ位!! (ipso位)



クロロベンゼンのオルト位・メタ位・パラ位・イプソ位


この4つの位置を知って初めてベンゼン置換体の「位置」を網羅したことになります。


ちなみにオルト・メタ・パラ・イプソの名の由来は次のようらしいです。(全部ギリシャ語)

・ ortho:正規の

・ meta:越えて

・ para:越えて

・ ipso:それ自身に

なんとなくそんな感じがしますね。


ではお待ちかねの反応にいきたいと思います。

まずは高校でも習うオルト・メタ・パラ位の置換反応から。


○ オルト・パラ置換

ヒドロキシ基やメチル基等の電子供与基があると、導入基にかかわらずオルト位とパラ位が置換されやすい。(オルト・パラ配向性

例;フェノールのニトロ化 → o-ニトロフェノール + p-ニトロフェノール




○ メタ置換

ニトロ基やカルボキシル基等の電子受容基があると、導入基にかかわらずメタ位が置換されやすい。(メタ配向性

例;安息香酸のニトロ化 → m-ニトロ安息香酸




以上は高校でも習う芳香族の置換反応である。

ではイプソ位が置換される反応とはどんな反応であろうか?

要するに、ベンゼンに元々入っていた置換基が他の置換基に変わる反応である。

「そんな変な反応見たことね~よ~」と思われるかもしれません。

でも、

ひとつだけ高校で習うんです。

さて、驚きの事実ですが覚えていますか?

この反応です↓。


○ イプソ置換

ベンゼン環に電子受容基が入っていて、かつ電子受容基がたくさん入っていたり、強塩基を用いたり、高温に加熱したときにイプソ位が置換される。

例;ベンゼンスルホン酸ナトリウムをNaOHとともに融解するとナトリウムフェノキシド(と亜硫酸ナトリウム)が生成する。




こいつが立派なイプソ位置換反応なんですよ。

実は一般的なオルト・パラ置換やメタ置換は「芳香族求電子置換反応」と呼ばれ、導入基がベンゼン環の電子を求めて近づいてくる反応ですが、イプソ置換は「芳香族求核置換反応」と呼ばれ、全く別のメカニズムの反応です。


一般的に芳香族求核イプソ置換はニトロ基等電子受容基が(共鳴できる位置に)たくさん入って電子が欠乏したベンゼン環に起こります。

例;1-クロロ-2, 4-ジニトロベンゼンとアンモニアを加熱する → クロロ基-Clがアミノ基-NH2に置換する。(塩化アンモニウムが副生する。)



☆ オルト・メタ・パラにしろイプソにしろ、「ある置換基から見て」オルト位だとかイプソ位だとか言います。
(上の例では置換されたのは「ニトロ基から見たらメタ位orパラ位じゃないか!」ってなりますが、クロロ基から見るとイプソ位です。)


電子受容基が少ない場合で強塩基を用いた場合はベンザイン機構で起こることもあります。

例;液体アンモニア中でクロロベンゼンをカリウムアミドKNH2と反応させるとアニリンが生成する。



ただし普通この場合は元々メタ位であった場所に導入基が入ったものも生成します。
『今日の分子No.77 :ベンザイン』参照)


以上のように、重要なのに忘れられている「イプソ位」。

いつも仲間外れで可愛そうなのでこの機に覚えてあげましょう!



◎ 参考

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二週間程前にセンター試験がありましたが、「ワッカー酸化」という反応が出ていました。(第4問の問6の下の反応)

高校の教科書ではワッカー酸化という名称は出てきませんが、反応式は載っています。

次の反応;



という、パラジウム触媒を用いたエチレンの直接酸化によるアセトアルデヒドの合成法を「ワッカー酸化」もしくは「ヘキスト-ワッカー法」と言います。

これはアセトアルデヒドの工業的製法です。

後に述べる理由により、とてもとても重要で有名な反応です。

センターにも出るくらいに重要な反応なのですが、高校生にはあまりなじみが薄い気がします。

筆者が塾のバイトで教えている生徒さんも

「見たことはあるような気がするんですけど」

「Hの場所が変わってるし理屈がよくわからない」

とのこと。

確かに、他の有機化学の反応と比べて高校生には反応物から生成物を予想することは難しそうです。

というか、触媒が関係する反応は生成物が全然違う形になったりしてよくわからない、と感じやすいと思います。

今回はワッカー酸化反応の具体的な反応機構(生成物に至るまでの途中式)を紹介したいと思います。

そして、何故この反応が重要なのかということも述べたいと思います。



◎ ヘキスト-ワッカー法(ワッカー酸化)

塩化パラジウム(II)塩化銅(II)触媒とするエチレンのアルデヒドへの酸化反応。

下図のようなスキームで反応が進む。




ワッカー酸化の触媒サイクル。ただしPdの配位子は省略。


簡単に解説します。


① エチレンの配位

まず塩化パラジウム(II);PdCl2にエチレンが配位するところから始まります。

図のように、パラジウムはエチレンの二重結合(π結合)と結合して錯体(π錯体)を作ることができます。



ここが遷移金属の面白いところです。


② 水のエチレンへの求核攻撃

次にエチレンに水分子が孤立電子対をぶつけてきます。

するとC-O結合ができ、Pdとエチレンとの間の弱いπ配位結合がガッチリした単結合(σ結合)になり、同時に電子がClの方に押し出されてCl-となり脱離します。

次に邪魔なH+が取れて、すなわち新しいPd有機金属錯体(σ錯体)と塩化水素HClができます。




③ β水素脱離

②で生じた錯体で結合の組み換えが起こります。

β位のHがPdへ結合し(β水素脱離)、C-C結合がC=Cになり、PdとCの結合は切れて代わりにπ配位結合になります。

そうしてビニルアルコールが配位したヒドリドパラジウム錯体が生成します。



有機金属錯体ではこのように結合が「シュコッ!」とパズルのように組み換わる反応がよく起こります。


④ ハイドロパラデーション

③とちょうど逆の反応(ハイドロパラデーション)が起こります。

すなわちPdに結合しているHがビニルアルコールに渡され、π錯体がσ錯体になります。

ただし、このHはもともと-OHが付いているCと結合していたものですが、そうでない方のCに結合します。

要するに③と④では、Hを一旦Pdの方へ避難させることで他方のCに動かしているわけです。



☆ ここが「Hが動いた?」と高校生の悩みの種の原因です。


⑤ ヒドロキシ基からのβ水素脱離

③と同じ要領でβ水素脱離が起こります。

ただし次はヒドロキシ基-OHのHがパラジウムに移動します。

そうすることで次はC=O結合が形成され、すなわちこれはアセトアルデヒドです。



以上①~⑤でエチレンからアセトアルデヒドが生成します。

「あれ?酸素が関係してないんじゃ?」と思うと思いますが、この続きのパラジウムの反応がまた重要なのです。


⑥ 還元的脱離

⑤で生成した塩化水素化パラジウム(II);Cl-Pd-Hは塩化水素HClを脱離して酸化数0であるのPd(0)を生成します。
※ 「Pd(0)」とは金属パラジウムのことではなく、形式酸化数が0であるパラジウム錯体LnPd(LはトリフェニルホスフィンPh3Pなどの配位子)のことです。



このように脱離することで酸化数が減る(=還元される)特徴的な反応を「還元的脱離」と言います。
(ちなみに逆反応に相当する「付加することで酸化数が増える」反応を「酸化的付加」と言います。)


⑦ 塩化パラジウム(II);PdCl2の再生

⑥の反応でパラジウム(II)はPd(0)になってしまいました。

これではアセトアルデヒドを1mol生成するためにPdCl2を1mol消費することにより、触媒として使えません。

そこで考えられたのが塩化銅(II);CuCl2でPd(0)を酸化することです。



しかしこれでは消費されるのが塩化銅になっただけです。

が、塩化銅(I);CuClは酸素の存在下塩化水素と反応するとCuCl2に酸化再生されます。



すると、一番上に示した反応式が輪っかを閉じます。

PdCl2もCuCl2も正味消費されていないので、これらは触媒であると言えます。

このように、触媒反応で輪になって閉じた反応式を「触媒サイクル」と言います。


PdCl2もCuCl2は消費されていないことがわかりました。

ここで、では何が消費されたかを考えてみましょう。

一番上の反応サイクルを見てください。

輪の外からやってきた物質が消費されるもの、輪の外に投げ出されるものが生成するものです。

すると

消費されるもの;CH2=CH2、H2O、2HCl、1/2O2

生成するもの;2HCl、H2O、CH3CHO

です。

そう、②と⑥で生成するHCl計2分子は⑦の再生に必要なHCl2分子に充当され、その⑦で生じるH2Oが②で消費されるH2Oに充当されます。

したがってこれらは正味消費も生成もしていません。

したがって

正味消費されるもの;CH2=CH2、1/2O2

正味生成するもの;CH3CHO

です。

よって全体の反応を見ると



となり、最初に示した反応式と一致します。

このように、ワッカー酸化ではとても巧妙に無駄なくエチレンの酸化が行われているのです。


以上のように細かく反応を分けると、一見何が起こっているかわからない触媒反応でもなるほどと理解できるのではないでしょうか。

金属錯体を使うと配位結合を利用して上手に原子の組み換えができるわけです。



さて、今回は実はもう一つ伝えたいことがあります。

ヘキスト-ワッカー法―アセトアルデヒドの工業的製法―が何故こんなにも重要視されているかです。

まずアセトアルデヒドの合成法と言われるとどんな反応が思い浮かぶでしょうか。

高校の化学Iでは、「アセチレンに水を付加」する反応が紹介されていると思います。



ビニルアルコールが平衡関係にあるアセトアルデヒドに変わることをうまく利用した反応です。

この反応はつい半世紀ほど前までアセトアルデヒドの工業的製法として用いられてきました。

が、過去形です。

何がいけなかったのでしょうか。

このとき使われる触媒はHgSO4

水銀触媒です。

知ってのように水銀は猛毒です。

60年ほど前、「日本窒素」という化学メーカーがこの反応でアセトアルデヒドを合成していました。

この会社はこの水銀触媒を含んだ排水を海へ捨てていました。

その会社は熊本県の水俣市にありました。

もうお気づきの通り、起こった事件は「水俣病」。

案外知名度が低いのですが、まさにこのアセチレンへの水付加反応が水俣病の元凶だったのです。

排水をそのまま捨てるのはいけないというのは大前提なわけですが、そしてできるだけ危険な薬品は使わないように世界は向かって行きました。

そしてこの反応に取って代わったのが上記の「ヘキスト-ワッカー法」。

ヘキスト-ワッカー法は比較的な安全な触媒を用い、原料はエチレンと空気(酸素)だけで、副生物がないとてもクリーンな反応です。


このように、世の中の状況―経済、環境問題、資源問題、エネルギー問題―に対応して、触媒は進化しています。

ヘキスト-ワッカー法はこのような公害問題の中で評価された歴史的に、現実的に重要な触媒反応なのです。


「アセチレンの水付加の時の水銀触媒が水俣病の原因!」

「だからヘキスト-ワッカー法は取って代わった!」

こういう話は教科書には詳しく載っていないのですが、化学工業は環境や人に優しくあらねばならないので、本当にぜひ知っておいて頂きたいです。



◎ 参考文献

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前回も前々回もヒドロキシ安息香酸(すなわちサリチル酸とその異性体)を例にした隣接基効果を説明しましたが、今回もそれを引っ張ってみます。

サリチル酸の第二段階目の酸解離定数を他の二つの異性体と比べると、面白いことに気付きました。

サリチル酸は第一段階目はm-、p-の異性体に比べて酸性度(すなわち解離度)が数十倍大きい。

それに対し、第二段階目の解離度は他の二つに比べて1万分の1程しかありません。

何故でしょうか。

今日はその理由ついて筆者の考えを述べてみます。



主題;

o-ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸)はm-及びp-ヒドロキシ安息香酸と比べ、第一段階目の酸解離定数は数十倍ほど大きいが、第二段階目の酸解離定数は1万分の1ほどしかない。


○ 第一段階の解離度について

前回/前々回記事でも書きましたが、サリチル酸はm-及びp-ヒドロキシ安息香酸よりも酸性度が高くなります。

なぜなら、m-及びp-ヒドロキシ安息香酸は分子内水素結合ができませんが、サリチル酸はカルボキシル基が電離して生じた陰イオン(共役塩基)が分子内水素結合により安定化するからです。
(詳しくは前々回記事『隣接基効果~ヒドロキシ安息香酸の融点・酸性度』を参照)



サリチル酸の第一段階目の電離平衡





サリチル酸の共役塩基の分子内水素結合


具体的に書くと

pKa1(第一段階目のpKa)は、

・ サリチル酸 : pKa1 = 2.78

・ m-ヒドロキシ安息香酸 : pKa1 = 4.07 (⇒サリチル酸の方が19倍強い)

・ p-ヒドロキシ安息香酸 : pKa1 = 4.47 (⇒サリチル酸の方が48倍強い)

・ (参考:一般的なカルボン酸)酢酸 : pKa = 4.76 (⇒サリチル酸の方が95倍強い)

です。

※ 「pKa = -log10Ka」です。
pKaの値が小さいほど酸性が強い。pKaの値が1違うと酸性度は10倍違う。
「pKa」の「p」は「pH = -log10[H+]」と同じ意味の「p」。

サリチル酸は隣接基効果(分子内水素結合)によりm-及びp-ヒドロキシ安息香酸より100倍以上強い酸になるということになります。


○ 第二段階の解離度について

3つのヒドロキシ安息香酸はカルボキシル基だけではなくフェノール性OHでも電離ができる。

カルボキシル基の方が酸性度が大きいのでまずこちらから電離するが、その次にフェノール性OHが電離する。



サリチル酸の二段階の電離平衡


このときの解離度(フェノール性OHが電離する場合のpKa)を比べてみましょう。

pKa2(第二段階目のpKa)は、

・ サリチル酸 : pKa2 = 13.44

・ m-ヒドロキシ安息香酸 : pKa2 = 9.79 (⇒サリチル酸より4500倍強い)

・ p-ヒドロキシ安息香酸 : pKa2 = 9.09 (⇒サリチル酸より22000倍強い)

・ (参考:一般的なフェノール)フェノール : pKa = 9.95 (⇒サリチル酸より3000倍強い)

です。

m-とp-ヒドロキシ安息香酸は普通のフェノールとほぼ同じですが、第一段階目の解離度とは真逆で、サリチル酸の第二段階目の解離度は異常に小さな値となっています。

すなわち、サリチル酸はフェノール性OHの酸性度がとても低くなっているということです。

それもo-やp-の数千~数万分の1。

不思議です。

なぜでしょうか?

考えてみましょう。


筆者は次のように考えます。

サリチル酸の第一段階目の共役塩基は分子内水素結合で安定化しています。

一方、さらに電離したサリチル酸の第二段階目の共役塩基は、分子内水素のプラスとマイナスの引き合いで安定化しているせっかくの状態を壊している上、すぐ隣同士(-COO-と-O-)が負電荷を持っていて静電反発で不安定になってしまいます。



サリチル酸の一段階解離した共役塩基と二段階解離した共役塩基


すなわち「サリチル酸-イオン」は安定なのに「サリチル酸2-イオン」はやたらと不安定なので、「サリチル酸-イオン」は「サリチル酸2-イオン」になりたくないわけです。

だから第二段階目の電離は抑制され、普通のフェノールよりもフェノール性OHの電離度は低くなります。

これもある種の隣接基効果と言えるでしょう。

一方、m-及びp-ヒドロキシ安息香酸はカルボキシル基とヒドロキシル基が遠く離れているため、静電反発は小さいため普通のフェノールと同じくらいの電離度になるのでしょう。



m-及びp-ヒドロキシ安息香酸の二段階電離した共役塩基


以上のように考えてみました。

ちなみに、第二段階目の酸性度はm-とp-ヒドロキシ安息香酸がボロ勝ちしたわけですが、この電離はどっちにしろ微々たるものなので第一段階目が「ヒドロキシ安息香酸の酸性度」を主に決定するため結局全体でみた酸性度はサリチル酸がボロ勝ちします。


◎ 参考



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