一般向け/高校生向け楽しい化け学
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「塩化アルミニウムってどんな物質?」

小・中・高校生「アルミニウムを塩酸に溶かしたら生じるなんの変哲もない塩。」

大学生「極めて強いルイス酸であり、水と激しく反応して塩化水素を生じる危険な物質!!」


実はこの2つの「塩化アルミニウム」は全く違う物質です。

小学校から習うおなじみの物質、塩化アルミニウムAlCl3

しかしこの物質は我々のイメージとは非常に異なった構造、性質を持つ物質です。


金属アルミニウムを塩酸に溶かして生じるのは塩化アルミニウム水和物[Al(H2O)6]Cl3、Al-Cl結合はない ―

金属アルミニウムを塩素ガスと反応させて生じるのは無水塩化アルミニウムAlCl3、非常に危険な物質 ―


2つの意外な姿を持つ塩化アルミニウムを、ひとつずつご紹介いたしましょう。



塩化アルミニウム水和物 [Al(H2O)6]Cl3




小学校でも習うこの反応;

「金属アルミニウムを塩酸に溶かすと塩化アルミニウムが生じる。」

このとき生じる塩化アルミニウムとは、実は錯イオンであるヘキサアクアアルミニウムイオン[Al(H2O)6]3+と塩化物イオンCl-から成る錯塩[Al(H2O)6]Cl3です。

後述の「真の」塩化アルミニウムと区別するため「塩化アルミニウム水和物」と呼ばれることもあります。

晶析させることで結晶として取り出すこともできますが、上図のような構造でありAl-Cl結合はありません

決してAlと3つのClが結合した「AlCl3」ではありません。

しかし慣習上、金属イオンに配位した水分子は省略して書くことが多いので、普通AlCl3と表記されます。


ヘキサアクアアルミニウムイオン[Al(H2O)6]3+は、アルミニウムイオンAl3+に電気的に中性な水分子H2Oが6つ配位した錯イオンです。

実はこいつはなかなかややこしい化学種で、水溶液のpHや濃度で様々な姿に変化します。

下式のように配位した水分子の酸素はプラス電荷を帯び、容易に水素イオンH+が外れるため酸として振舞います。



3つのH+が取れると電気的に中性な水酸化アルミニウムAl(OH)3(水に不溶)になり、さらにもう1つH+が取れると一価の陰イオンであるテトラヒドロキソアルミン酸イオン[Al(OH)4]-(Na塩などは水に可溶)が生じます。

従って塩化アルミニウムの水溶液に水酸化ナトリウムNaOHを少量加えると沈殿が生じ、大量に加えると沈殿が溶けるというお馴染みの現象が起きるわけです。



このように、実は我々がよく知っている塩化アルミニウムとは、Al3+とCl-がイオン結合した"AlCl3"ではなく、アルミニウムイオンが水に取り囲まれた[Al(H2O)6]Cl3という物質だったのです。


ちなみに、アルミニウムを塩酸に溶かした溶液を加熱し蒸発乾固させて[Al(H2O)6]Cl3の結晶を得ることは難しい。

この塩は非常に熱分解しやすく、加熱によって残るのは水や塩化水素HClが取れた酸化アルミニウムAl2O3です。

ましてや後述の「真の」塩化アルミニウムも生じません。

このことからもこの塩がAl-O結合を持っているとわかります。

[Al(H2O)6]Cl3の結晶を得るためには低温で濃縮したり、後述の「真の」塩化アルミニウムを塩酸に溶かした後塩化水素ガスを吹き込んで析出させたり、工夫が必要です。



無水塩化アルミニウム AlCl3

金属アルミニウムに乾いた塩素ガスや塩化水素ガスを反応させると(無水)塩化アルミニウムが生じます。

2Al + 3Cl2 → 2AlCl3

2Al + 6HCl → 2AlCl3 + 3H2

この塩化アルミニウムというのが、我々がイメージするようなAl-Cl結合を持つ物質です。

前述の塩化アルミニウム水和物[Al(H2O)6]Cl3とは全く異なる物質であり、区別するために「無水塩化アルミニウム」と表記されることもあります。

結晶状態では下図左のような構造(AlCl3)nになっていますが、液体・気体状態や、ベンゼン等の溶液中では右のようなμ-クロロ架橋二量体(AlCl3)2になります。



アルミニウムは価電子数が3つなので、3つのClと結合しただけのAlCl3分子ではオクテット則を満たすことができません。

そこでもう1分子のAlCl3とClの非共有電子対を授受することでオクテット則を満たしているのです。




さてこのような我々がイメージするような構造の無水塩化アルミニウムAlCl3ですが、その性質はイメージと全く異なるものです。

この物質は水と非常に激しく反応し、塩化水素を発生します。

AlCl3 + 3H2O → Al(OH)3 + 3HCl

空気中の湿気とも反応するので、無水塩化アルミニウムのビンをあけるとたちまちに白煙を上げて塩化水素を発生します。

またこの物質は非常に強いルイス酸であり、フルーデル=クラフツ反応などの触媒として有用です。

だから私もよく使う物質なのですが、コイツを使うときは目や鼻を刺すような白煙の中、息止めながら素早く秤り取らなければいけません。

さらに、反応が終わったら反応溶液に水を加えてクエンチ(潰す)しなければならないのですが、これがまた大変。

水を加えると激しく塩化水素ガスを生じるので、ゆっくり注意深く処理せねばなりません。

反応のフラスコにはゴム管とガラス管を取り付けて、生じた塩化水素ガスをアルカリの水溶液(塩基トラップ)へ導くことで中和処理します。

以前大スケール反応の後処理で塩化アルミをクエンチした際、非常に激しく塩化水素が発生し制御不能になり、塩基トラップが処理限界を突破して破裂させてしまった経験があります。

・・・っと、このくらい無水塩化アルミニウムはイメージと異なる危険な物質なのです。


また、無水塩化アルミニウムのAl-Cl結合はイオン結合ではなく、共有結合です。

だから液体状態の無水塩化アルミニウムは電気伝導性をほとんど示しません。



このように、塩化アルミニウムは非常にイメージと異なった物質なのです。

塩酸に溶かしてできる「いつもの塩化アルミニウム」はAl-Cl結合がなく、無水塩化アルミニウムは危険な試薬で共有結合性・・・・

思っていた構造・性質と大きく異なり、びっくりだったでしょうか。

大学生の方には、学生実験で塩化水素を撒き散らす塩化アルミニウムを使って「こんな物質だったっけ・・・?」と戸惑った経験のある方もいると思います。

そもそも二種類の「塩化アルミニウム」があったわけですね。

どちらもAlCl3と表記されるのにこんなに違う、化学って面白い!



参考

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