一般向け/高校生向け楽しい化け学
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今回のテーマはずばり分子のダンス!

我々の身の回りにある分子たちは常に活発に熱運動を行っています。

並進:分子が直線移動すること。

振動:結合が伸縮、変角すること。

回転:分子がくるくる回転すること。

分子のダンスは「振動」に由来します。



ベンゼンの振動モード

では兎にも角にも、さっそく分子のダンスを見てみましょう。

ベンゼンC6H6を例に取ります。

量子力学的な計算により、ベンゼンは主に次の4種類のダンスを踊ることがわかります。

※ このページでは量子力学計算ソフトGAMESSを用いて計算した結果を描画ソフトMolekelで出力しています。自前で計算しているので完璧ではありませんが、だいたいこんな感じです。


1. C-H伸縮振動

ベンゼンのC-H伸縮振動(GIFアニメ)
C-H結合が伸び縮みする振動モード。

ベンゼンさんノリノリです(笑)

このように結合が伸び縮みする振動を伸縮振動と言います。

原子の結合とは、ちょうど2つの球がバネで繋がれた様なモデル(調和振動子)で表すことができます。

そのバネのビヨンビヨンの仕方で、このような伸縮振動や後述する変角振動が起こります。


2. C-C環伸縮振動

ベンゼンC-C環伸縮振動(GIFアニメ)
次はC-C結合が伸び縮みする振動モード。

なんだか生物みたいなウネウネした不思議な振動です。

伸縮振動の中でも、このように特に環が伸び縮みする環伸縮振動と言います。


3. C-H面内変角振動

C-H面内変角振動(GIFアニメ)
C-H結合の角度が変化する振動モード。

環伸縮と似ていてわかりにくいですが、この振動では上下のC-Hはほぼ固定されているのが特徴です。

よく見ると、C-H結合の振動はベンゼン環と同一平面内で起こっていることがわかります。

これが面内変角振動と呼ばれる所以です。


4. C-H面外変角振動

C-H面外変角振動(GIFアニメ)
こちらもC-H結合の角度が変化する振動モード。

連続でブリッジをしているような振り付けです。

こちらはわかりやすく、ベンゼン環に対して垂直にC-H結合が振動しているのが特徴です。

これが面外変角振動と呼ばれる所以です。


これら4つがベンゼンのダンスです。

ベンゼンの可愛らしいダンス、いかがだったでしょうか?



IRスペクトルと分子の振動

ところで、分子がこのようにダンスをするにはその分エネルギーを与える必要があります。

分子の振動のエネルギーは赤外線(IR)のエネルギーに相当します。

なので分子に赤外線を当てると、分子はそれを吸収して振動運動を始めます。

また、各振動モードに対して特有の波長の赤外線を吸収する性質があります。

例えばベンゼンの場合、上記4つの振動モードは次の4つのピークに対応します。


ベンゼンのIRスペクトル(計算値。実測値とは少しズレているので注意。)

横軸が照射した赤外線の波数(Wave number:波長の逆数)。

縦軸は透過率(Transmittance)で、下向きのピークが吸収を表しています。

このように、照射した赤外線の波長に対して透過or吸収強度を測定したスペクトルを赤外吸収スペクトルIRスペクトル)と言います。

基本的にIRスペクトルの吸収波長は官能基に特徴的なものであり、異なる物質でも同じ官能基を持っていればほぼ同じ位置にピークを示します。

したがって、IRスペクトルは測定物質がどんな官能基を持っているかを教えてくれる便利なツールです。


以上、ベンゼンのダンスとそれに対応するIRスペクトルについてでした。

分子のダンス ― 振動モードを理解することは、有機化合物の同定や、量子力学的挙動を考える上でとても重要です。



使用ソフト・計算条件
  • Firefly(PC-GAMESS), 3-21Gレベルで振動計算
  • Facio
  • Molekel
参考

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