忍者ブログ
一般向け/高校生向け楽しい化け学
[179]  [178]  [177]  [176]  [175]  [174]  [172]  [167]  [166]  [165]  [164


×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。



さて、最近「今日の分子」を書いていなかったので、久々に分子を紹介しましょう。

筆者が最近扱った物質に、例えばPVAがあります。


今日の分子 No.58 ポリビニルアルコール [-CH2CH(OH)-]n


ChemSketchで描画


無色透明の合成樹脂。

Polyvinyl alcohol」なので略して「PVA」と呼ばれる。

多数のヒドロキシ基を持つため親水性が高く、水に溶ける。

なので洗濯糊に使われる。

PVA水溶液がスーパーなどで「PVA洗濯糊」や「化学糊」と表記されて販売されている。


写真:PVA(上に"化学糊"、下に"PVA"と書いてある。)


PVAを洗濯糊に使うと、洗濯した後PVAが析出して固化して、シャツなどがパリッと綺麗な形に仕上がるわけである。

かつてはデンプンを洗濯糊として用いていたが、デンプンで仕上げたままタンスに保存すると虫が湧いてしまうという欠点があった。

一方PVAは虫に食われないため、PVA洗濯糊で仕上げればタンスに入れていても虫が湧かないのである。

ちなみにPVA等化学合成によって作られた洗濯糊を「化学糊」、デンプンなどの天然物を用いた洗濯糊を「天然糊」という。

ほかにもスライムを作るのに使われる。
『スライムを作ろう!』参照

重要なのはPVAの合成法である。

普通、高分子というのはその繰り返し単位となっている分子(モノマー)から合成する。

例えばポリエチレンならモノマーであるエチレンの付加重合で合成できる。

n CH2=CH2 → [-CH2-CH2-]n

ではポリビニルアルコールはそのモノマーであるビニルアルコールCH2=CHOHの付加重合反応

n CH2=CHOH → [-CH2-CH(OH)-]n

で合成できるだろうか。

実はできない。

というのも、モノマーであるビニルアルコールは、実質的に存在しないのである。
(本当はアセトアルデヒドと化学平衡になっていて極々少量のみ存在する。)

ビニルアルコールを合成したとしても、たちまちアセトアルデヒドに異性化してしまう。
(本当は、化学平衡がアセトアルデヒド側に大きく偏ってビニルアルコールの量がとても少なくなってしまう。)

CH2=CHOH → CH3CHO

よってほとんど存在しないビニルアルコールをモノマーとして付加重合しPVAを合成することはできない。


ではどうやってPVAを合成するのであろうか。

次の2つの反応を使うことで上手にPVAを作ることができる。


1) ビニルアルコールではなく、酢酸ビニルを付加重合する。

n CH2=CHOCOCH3 → [-CH2-CH(OCOCH3)-]n


2) 生成したポリ酢酸ビニルを水酸化ナトリウムで加水分解する。(けん化反応)

[-CH2-CH(OCOCH3)-]n + nNaOH → [-CH2-CH(OH)-]n + CH3COONa


以上のようにして、安定な酢酸ビニルを使って一旦前駆体であるポリ酢酸ビニルを合成してからPVAに変換するのである。

この合成法は高校でも習う重要な方法である。


ちなみに、「2)」のように高分子にしてからの反応を「高分子反応」という。

高分子は一般的に溶媒に溶けにくいし、粘度も大きくなるので、高分子反応は難しく、様々な方法が研究されてきた。

その中でPVAの高分子反応として、日本で開発されたビニロンの合成がある。

[-CH2-CH(OH)-CH2-CH(OH)-CH2-CH(OH)-]n + nHCHO

→ [-CH2-CH(OH)-CH2-(C4H6O2)-]n

ビニロンに関しては次回紹介することにします。

「今日の分子No.59: ビニロン」


◎ 参考
PR
ブログ内検索
Twitter @Chemis_twit (管理人)
Copyright 放課後化学講義室 All rights reserved



忍者ブログ [PR]