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ヨードホルム反応は高校で習う有機化合物の構造決定の手法であるが、またそのややこしい反応・係数ゆえに大学入試等にも良く出される題材である。
しかしアセトン等からヨードホルムCHI3が生じるというのはかなり不思議ではないでしょうか。
- なぜアセチル基のC-C結合が切れてヨードホルムと1炭素少ないカルボン酸塩が生じるのか。
- なぜCH3IやCH2I2やCI4ではなくCHI3が生じるのか。
ヨードホルムCHI3
はじめに:ヨードホルム反応とは?
次の構造を持つ化合物は水酸化ナトリウム水溶液中でヨウ素と反応してヨードホルムCHI3の沈殿と1炭素少ないカルボン酸塩が生じる。(50℃くらいのお湯で加熱。)
ヨードホルム反応陽性の化合物が持つ構造
例)左:アセトン・エチルメチルケトン等、右:エタノール・2-プロパノールなど
※注:酢酸はヨードホルム反応陰性である。
この反応をヨードホルム反応という。
○ ヨードホルム反応の化学反応式
- 左の構造(アセチル基を持つ構造)の場合
CH3-CO-R + 3I2 + 4NaOH → RCOONa + CHI3 + 3H2O + 3NaI ・・・・(1)
- 右の構造(1-ヒドロキシエチル基を持つ構造)の場合
右の構造は酸化されると左の構造を生じるので同じ結果を与える。
まず右の構造は塩基性条件で次のように酸化されて左の構造を与える。
CH3-CH (OH)-R + I2 + 2NaOH → CH3-CO-R + 2NaI + 2H2O ・・・・(2)
次に(1)の反応が起こってヨードホルムを生じる。
よって全反応は(1)式と(2)式を足して
CH3-CH(OH)-R + 4I2 + 6NaOH → RCOONa + CHI3 + 5NaI + 5H2O ・・・・(3)
したがって、ヨードホルム反応の本質は(1)式である。
この(1)式を詳細に見ていきます。
前提:アセトアルデヒドやアセトンは「酸性」
実はアセトアルデヒドなどの、カルボニル基の隣の炭素(α位)に結合しているHはわずかながら電離性があります。
・・・・(4)
普通C-H 結合が電離してC-とH+にはなりません。
それにもかかわらずアセトアルデヒド等が(極々微量だが)電離するのは、その生成物は次の様に「共鳴」して安定化しているからです。
(共鳴して安定化・・・ベンゼンが単結合と二重結合を入れ替えることができて安定なのと同じ理由)
・・・・(5)
この陰イオンは「エノラート」と呼ばれ、エノール(ビニルアルコールなど)が電離したものにも相当します。
ちなみに、共鳴の関係にある構造同士は等価なので、(5)式の2つの化合物は全く同じ化合物です。
だからマイナスの電荷は実際にはCとOの間に広く分布しているのですが、電気陰性度の高い酸素の方に偏っているので(5)式の2つの構造の内右側の構造を普通書きます。
よって、α位に水素を持つカルボニル化合物は塩基と反応するとエノラートを生じます。
・・・・(6)
実は、この様にして生じたエノラートがヨードホルム反応の主人公なのです。
※ 酢酸がヨードホルム反応陰性な理由;
酢酸は塩基性条件ではすぐ中和して酢酸イオンになってしまう。
負電荷を持つ酢酸イオンがさらに負電荷を持つエノラートになることはできない。
ヨードホルム反応の素反応
では本題に移ります。
各々の素反応を見ていきましょう。
(多少噛み砕いて説明します。より正確で、詳細な電子対の動きについては次項参照。)
1. エノラートの生成
・・・・(A)
水酸化ナトリウムのOH-によりα位の水素が引き抜かれエノラートと水が生じます。
中和と同じ様な反応です。
2. C-I 結合の形成
・・・・(B)
エノラートは二重結合を持つため、それをほどくことで2結合分新たに結合が形成できる。
1つはC-OからC=Oになることで満たされ、もう一つはC-I結合の形成により満たされる。
このときエノラートのマイナス電荷はヨウ素に伝えられヨウ化物イオンが生じる。
※ だからカルボニル基の隣の炭素にC-I結合ができる!!
3. 再びエノラートが生成 → C-I 結合が形成
・・・・(C)
・・・・(D)
(B)式で生じた化合物は、元々のカルボニル化合物のH がI で置換されたものである。
よって同様にα位の水素を電離することでまたエノラートになり、C-I結合を作る。
4. さらに再びエノラートが生成 → C-I 結合が形成
・・・・(E)
・・・・(F)
(D)式の生成物もまた同様にα位の水素を電離してエノラートになれるので、同様にα位のH がI に置換される。
◎ しかし(F)式の生成物はα位にHがないのでもうエノラートにはなれない!!
5. 水酸化物イオンのカルボニル基への付加
・・・・(G)
負電荷を持ったOH-が、C=O基のδ+に帯電しているCにぶつかって来て結合を作ります。
元々のカルボニル基の酸素は水酸化物イオンのマイナスをもらいC=OからC-O-になります。
(わかりやすくするため元々のカルボニル基だったOを赤色にしています。)
6. CI3-の脱離
・・・・(H)
C-O-がC=Oに戻るときにCI3-が押し出されます。
このとき、また通常見られないマイナス電荷を持った炭素が現れますが、これは電気陰性度の高いヨウ素によってマイナス電荷が引っ張られているので安定化しています。
しかもヨウ素は3つもくっ付いているので、Cは形式上-1の電荷を持っているように書かれますが、実際はかなり I の方に引き寄せられています。
よってCI3-は安定なので、C-C結合が切れて生じるのです。
※ もしα位のヨウ素置換が不十分な(B)式や(D)式の生成物が(G)式のように水酸化物イオンの付加を受けてもCH2I-やCHI2-として脱離しない!なぜなら上述のように炭素のマイナス電荷をヨウ素に引っ張ってもらえないと安定化できないため、置換しているヨウ素の少ないCH2I-やCHI2-は脱離できないのである。
7. H+の授受
・・・・(I)
(H)式生じたで生じたカルボン酸は酸なので電離してH+を生じることができ、またCI3-はH+をもらって安定なCHI3になれます。よってカルボン酸からCI3-へH+が渡され、ヨードホルムCHI3が生じ反応が完結します。
以上の素反応を足すと
CH3-CO-R + 3I2 + 4OH- → CH3COO- + CHI3 + 3H2O + 3I- ・・・・(7)
になります。
陰イオンがありますが、これらと対になる陽イオンは元々水酸化ナトリウムのNa+だったので、両辺に4Na+を足して
CH3-CO-R + 3I2 + 4NaOH → CH3COONa + CHI3 + 3H2O + 3NaI ・・・・(1)
となり、(1)式と一致します。
(1)式は生成物が多くややこしいですが、ヨードホルム反応は(A)式~(I)式の素反応が組み合わさった反応であると考えると、NaIやH2Oが副生してくることもよくわかりますね。
以上をまとめると、
- エノラートが生じるためカルボニル基の隣のH がI に置換する。
- 強く安定化されたCI3-が脱離してCHI3を生じる。安定化が少ないCH2I-やCHI2-は脱離しないためCH3IやCH2I2は生じない。無論CI4は生じない。
- OH-がカルボニル基に付加して、そしてCHI3を脱離するので、1炭素少ないカルボン酸塩が生じる。
よって、ヨードホルム反応はアセチル基の検出反応たるのです。
ヨードホルム反応の反応機構
以下は大学有機化学的な「反応機構」による表記です。
「巻き矢印」は電子対の動きを表します。
※ エノラートとヨウ素の反応は、エノラートのヨウ素への求核攻撃によります。
よって通常の二重結合へのハロゲン付加とは違うので、環状ヨードニウムイオン中間体は生じません。
◎ 参考文献
- 『ウォーレン有機化学〈上〉』, Stuart Warrenら著, 野依良治監訳, 東京化学同人 (2003/02)
- 『ボルハルト・ショアー現代有機化学〈下〉』, K.Peter C. Vollhardt, Neil E. Schore著, 野依良治監訳, 化学同人; 第4版 (2004/06)
前回のクロロホルムに続いて、関連物質のヨードホルムを紹介。
ちなみにCHX3(Xはハロゲン)をハロホルムと言う。
マニアックで高校化学では出て来ないが、フッ素の時はフルオロホルムCHF3、臭素の時はブロモホルムCHBr3である。
フルオロホルム以外はヨードホルム反応と同様な、対応するハロゲンを用いたハロホルム反応で得られる。
今日の分子No.61 ヨードホルム CHI3
WinMOPACで計算・描画
IUPAC正式名称はトリヨードメタン。
水に不溶な淡黄色の固体。
特有の不快臭がする。
融点118~121℃。
外皮用殺菌消毒剤として用いられる。
(後述する「ヨードホルム反応の生成物」というイメージが強いが、ちゃんとヨードホルムには使い道があるのです!)
ヨードホルムは次のヨードホルム反応で生成する。
ヨードホルム反応
次の構造を持つ化合物は水酸化ナトリウム水溶液中でヨウ素と反応してヨードホルムの沈殿と1炭素少ないカルボン酸塩が生じる。
(50℃くらいのお湯で加熱。)
ヨードホルム反応陽性の化合物が持つ構造
(例)左:アセトン・エチルメチルケトン等、右:エタノール・2-プロパノールなど
※注:酢酸はヨードホルム反応陰性である。
すなわち、この試験を試みてヨードホルムが生じると、上のいずれかの構造を持つ化合物であったということがわかる。
構造解析の、19世紀に確立された古典的な化学的手法の一つである。
左の構造(アセチル基を持つ構造)の場合、反応式は
CH3-CO-R + 3I2 + 4NaOH → CH3COONa + CHI3 + 3H2O + 3NaI ・・・・(1)
である。
右の構造(1-ヒドロキシエチル基を持つ構造)も同じ結果を与える理由は、右の構造が酸化されると左の構造になるからである。
(ただ丸暗記するのではなくて、そう理屈をつけて考えると覚えやすい。)
右の構造の第一級アルコールもしくは第二級アルコールは塩基性条件で次のように酸化されて左の構造を与える。
CH3-CH(OH)-R + I2 + 2NaOH → CH3-CO-R + 2NaI + 2H2O ・・・・(2)
よって右の構造の場合のヨードホルム反応式は、(1)式と(2)式を足して、
CH3-CH(OH)-R + 4I2 + 6NaOH → CH3COONa + CHI3 + 5NaI + 5H2O ・・・・(3)
である。
ヨードホルム反応は、有機化合物の構造決定で入試でもよく出されて重要。
ヨードホルム反応は係数がややこしいので係数付けの問題もしばしば出題されている様。
ちなみに筆者は未定係数法で係数付けをしない。
だって連立方程式で6個も変数出てきて計算ややこしいし、間違えるし。
じゃあどうしているかと言うと、いつも反応機構考えて係数付けてます。
(※反応機構:2011/7/20の『エステル化 ~酸の頭が取れる!~』等で紹介した、電子の動きを考慮して一つ一つの素反応を考えて作った反応式。)
ヨードホルム反応の反応機構だと、筆者だと2分くらいで書き終わる。
(さっき実際に測ってみると1分53秒だった。)
反応機構を考えれば、仮にNaIやH2Oが副生することをすっかり忘れていても生成することが必然的にわかるから安心。
さて、こうまで書くと一体どんな素反応が実際起こっているか気になってきませんか?
まさかのまさか、実は「不安定ですぐ異性化する」という言葉で名高い「エノール」が関係していたりするのだ!
(正確に言うと、エノールが電離した形の「エノラート」という陰イオン。)
どんな反応かというのは、非常に難しい。
話せば長くなるので、続きは次に回しましょう。
→ 続き;『ヨードホルム反応の仕組み』
◎ 参考
- 『ボルハルト・ショアー現代有機化学〈上〉』, K.Peter C. Vollhardt, Neil E. Schore著, 野依良治監訳, 化学同人; 第4版 (2004/03)
- 『ウォーレン有機化学〈上〉』, Stuart Warrenら著, 野依良治監訳, 東京化学同人 (2003/02)
さっき高校化学の教科書を読んでいて思ったのですが、個々の有機化合物の説明ってほとんどないですね。
有機化合物の反応性・物性は官能基の種類などで系統的に理解できるし、あまりに種類が多いので説明を省いているのでしょうが、でもちょっとさびしい。
例えばクロロメタン類。
環境化学的・工業化学的にかなり重要な物質なのに、なんと説明が脚注に細々と書いてあるだけ・・・
これでは教科書を読んだ初学者は、有機化合物が個性のない記号であらわされた暗記物として認識する恐れがあるんじゃないかと思います。
本当は、有機化合物は実に個性的です。
今日の分子No.60 クロロホルム CHCl3
Jmolで描画
IUPAC正式名称はトリクロロメタン。
メタンの水素が塩素(クロロ-)に三つ(トリ-)置き換わったもの。
特徴的な臭気と灼けるような甘い味をもった透明で無色の蒸発性の液体である。
1831年にユストゥス・フォン・リービッヒ博士らが発見したという。
優秀な有機溶媒である。
引火性もない。
比重は1.5で、水より重い。
だからクロロホルムを分液ろうとでの抽出溶媒に使うと、有機層は下になることに注意。重要!!
(ジクロロメタンCH2Cl2、テトラクロロメタン(四塩化炭素)CCl4でも同様。だたしクロロメタンCH3Clは引火性の気体。)
一方でハロゲン化メタン類は人間の健康を害し、また環境汚染物質である。
クロロホルムは「トリハロメタン」の一種であり発がん性・環境汚染性があるため、化学工場ではできるだけクロロホルム溶媒を用いないようにシフトしつつある。
四塩化炭素やジクロロメタンも同様に規制がかかっている。
クロロホルムには麻酔性があることが有名である。
サスペンスなどで「クロロホルムをしみ込ませたハンカチで口と鼻をふさいで眠らせる」という表現が度々あるが、現実はいくらか違う。
まずクロロホルムにはそんなに微量・短時間で効果があるわけではないため、サスペンスのように数滴のクロロホルムをしみ込ませたハンカチで口と鼻を押さえたくらいでは多少せき込むくらいだという。
が、量が多いと恐ろしいことになる。
こんな話を大学の先生に聞いたことがある。
以前、某大学の化学系の学生が面白がってこれを友達に試したらしい。
すると相手は昏睡状態に陥り、すぐに病院へ運ばれ、3日間眠り続けたという。
このときは3日寝ただけで目覚めたわけであるが、目覚めないこともあるという。
かなり危険な薬品であることを理解しなければならない。
ちなみにクロロホルムはマグネシウムや強塩基と混ぜるな危険!である。
これらとは反応するため、クロロホルムを溶媒として用いるときに注意が必要。
※ マニアック
クロロホルムはマグネシウムと反応すると炭素原子のメタル化反応が起きる。
また、クロロホルムは強塩基と反応するとジクロロカルベン(CCl2)という炭素の手が二本しかない異様な化学種を生じる。(合成化学的には重要な反応。)
◎ 参考
- 『新しい工業化学―環境との調和をめざして』足立 吟也 (編集), 馬場 章夫 (編集), 岩倉 千秋 (編集), 化学同人 (2004/01)
- 大学の先生の有難いお話
- 『ウォーレン有機化学〈下〉』, Stuart Warrenら著, 野依良治監訳, 東京化学同人 (2003/02)
期末テストが終わりました。
すなわち夏休みと言うことです。
しかし、思ったのですが、今日は立秋。
もう秋です。
だから厳密には「夏季休業」じゃなくて「秋季休業」;秋休みなのでは・・・?
大学の夏休みは概して始まるのが遅い。
さて、テストも終わったので学校の図書館で本を借りてきました。
もちろん化学の本ですが、今回はどちらかと言うと学問書という感じではなく化学の雑学的な、「読み物」を借りてきました。
(まあマニアックなのも混ざってますが・・・)
こんなのです;
・『化学者ちょっといい話 (ポピュラー・サイエンス)』
・『キッチンで体験 レオロジー (ポピュラーサイエンス)』
・『宮沢賢治と化学 (ポピュラーサイエンス)』
・『水はなんにも知らないよ (ディスカヴァー携書)』
・『化学語源ものがたり』
・『家の中の化学あれこれ (ポピュラー・サイエンス)』
・『あなたと私の触媒学 (ポピュラー・サイエンス)』
・『完全版 分子レベルで見た体のはたらき (ブルーバックスCD‐ROM)』
・『カーボンナノチューブの挑戦 (岩波科学ライブラリー)』
・『炭素第三の同素体フラーレンの化学 (季刊化学総説 (No.43))』
どれもホントに面白そう!
特に『化学者ちょっといい話』はちょっと読みましたが、とても面白そうです。
化学者にまつわる、一話当たり数行の短いエピソードが並んでいるのですが、ホントに面白い。
特にリービッヒ博士の話;
学生が「先生、全ての物質を溶解できる溶媒を見つけました!」と言って、リービッヒ博士が「それはすごい。でもいったいどんな容器に保存するのかね?」
っとちょっとひねった答え方をする話とか最高です。
或る意味タイトルに矛盾して、偉人達をただ美化して伝える、いわゆる「いい話」じゃないのが面白い!
皆さんもぜひ図書館などで見つけたら読んでみてください。
薄っぺらくて読みやすい本です。
他にも『キッチンで体験 レオロジー』なんて、その題の通り台所でできそうな面白そうな実験を紹介しています。
読んだら実際にやってみようと思います。
ちなみに筆者は宮沢健二が好きなので、『宮沢健二と化学』なんて借りてみました。
宮沢健二童話全集は中学生のころに全巻読破したくらい好きです。
大学の図書館には面白そうな本がたくさんあって楽しいです。
今日はアルカンの異性体を求める式について考えていました。
(ホントは期末テストの試験勉強しないといけないんだけどね!!)
高校の定期テストでアルカンの異性体の数を問われることは良くあります。
炭素数を代入したら異性体の数がすぐ計算できるような公式があったらいいなと考えたことはありませんか?
一方、大学入試ではアルカンの異性体数はあまり問われることはないように感じます。
というのも、炭素数5くらいまでなら覚えたらしまいになってしまうので、出題しても意味ないからでしょう。
覚えていなくても炭素数5くらいまでなら少し考えたら簡単に数え上げられてしまうし。
だから普通は覚えようのない不飽和炭化水素や、酸素が入ったものの異性体が問われますね。
しかし!
炭素数が増えると異性体の数は爆発的に増加するので、実はアルカンの異性体の数を求めるというのはある意味めちゃくちゃ難しい問いでもあるのです。
(逆にいえば、そうだから炭素数5くらいまでしか問われないのですが。)
例えば、炭素数20のアルカン(イコサン)の異性体の数はいくつか数えられますか?
アルカンの、炭素数nに対する異性体の数I(n)は次のようになります。
n | I(n) | n | I(n) | n | I(n) | ||
1 | 1 | 15 | 4347 | 29 | 1590507121 | ||
2 | 1 | 16 | 10359 | 30 | 4111846763 | ||
3 | 1 | 17 | 24894 | 31 | 10660307791 | ||
4 | 2 | 18 | 60523 | 32 | 27711253769 | ||
5 | 3 | 19 | 148284 | 33 | 72214088660 | ||
6 | 5 | 20 | 366319 | 34 | 188626236139 | ||
7 | 9 | 21 | 910726 | 35 | 493782952902 | ||
8 | 18 | 22 | 2278638 | 36 | 1295297588128 | ||
9 | 35 | 23 | 5731580 | 37 | 3404490780161 | ||
10 | 75 | 24 | 14490245 | 38 | 8964747474595 | ||
11 | 159 | 25 | 36797588 | 39 | 23647478933969 | ||
12 | 355 | 26 | 93839412 | 40 | 62481801147341 | ||
13 | 802 | 27 | 240215803 | ||||
14 | 1858 | 28 | 617105614 |
アルカンの異性体数は急激に増加する。
ということで、人間が普通に異性体を数えられるのはn=7くらいまで、徹夜で頑張ってせいぜいn=10まででしょう。
では本題、異性体の数を算出する関数についてです。
上の異性体数、例えばn=40のときのI(n)=約60兆、はもちろん人間が数えたものではありません。
だから要するに、
異性体の数を算出する数式はあります。
が、残念ながらここにさらっと書けるような代物ではないです。
異性体の数を計算する(すなわち点と点の結び方を数える)には、超高等な数学;グラフ理論が用いられます。
他にも漸化式を立てたり色々あるようですが、難しすぎて数学の苦手な筆者にはわかりません。
特に漸化式を立てるというものに、次のようなもの
『http://www.sccj.net/CSSJ/jcs/v5n2/a3/document.pdf』日本コンピュータ化学会、入谷寛(2011/07/31 引用)
がありますが、ちらっと見ただけでもう激ムズなことがわかってしまいます。
しかもこの計算はコンピューターを使ってもn=40まで計算するのに42分を要したらしいです。
なんしか、人間でもコンピューターでも、異性体の数を出すというのはとても難しく時間のかかることなのです。
で、筆者は考えました。
数えれるくらいのnとI(n)の値を使って近似曲線の方程式を求めることにより、もっと大きなnのときのI(n)の値を簡単な代入ですばやく見積もることはできないか、と。
ある種の実験的手法です。
エクセルを用い、1≦n≦10で、nに対してI(n)をグラフにプロットし、6次近似をすると次のような方程式が得られました。
I(n) ≒ 0.00166666666672199000 n6 - 0.04551282051681940000 n5 + 0.50705128215514600000 n4 - 2.82954545510779000000 n3 + 8.27310024236186000000 n2 - 11.53706306053130000000 n + 6.66666698250509000000
相関係数の2乗:R2 = 0.99988322061694500000
この近似曲線をF(n)とします。
するとnと真のI(n)、近似曲線で求めた異性体数F(n)の小数第1位を四捨五入したものは、次のようになります。
n | I(n) | F(n) |
1 | 1 | 1 |
2 | 1 | 1 |
3 | 1 | 1 |
4 | 2 | 2 |
5 | 3 | 3 |
6 | 5 | 5 |
7 | 9 | 9 |
8 | 18 | 18 |
9 | 35 | 35 |
10 | 75 | 75 |
11 | 159 | 161 |
12 | 355 | 336 |
13 | 802 | 666 |
14 | 1858 | 1253 |
15 | 4347 | 2238 |
16 | 10359 | 3819 |
17 | 24894 | 6257 |
18 | 60523 | 9893 |
19 | 148284 | 15161 |
20 | 366319 | 22603 |
1≦n≦10ではうまくいったけど肝心のn≧11では全く役に立たなかったよ・・・orz
難しい・・・・
対数取って桁数だけでも求めようとしたけど、やはりずれが大きい。
n=10までの実験値(人間が数え上げられる数)では妥当な曲線を得るのは難しいととわかりました。
一方、I(n)の対数を取ると、nが大きくなるとlog{I(n)}はほぼ直線に乗ることがわかりました。
nとlog{I(n)}の関係
数学の神秘ですねぇ。