一般向け/高校生向け楽しい化け学
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さて、今日は憎き塩化水素を紹介します。

先週塩酸の蒸気を吸ってしまって大ダメージを喰らわされた筆者です。

今日の実験で筆者の隣で濃塩酸使ってるヤツがいて、あの塩酸臭がしたとき思わず過剰反応してしまいました。

塩酸、塩化水素は危険な試薬です。



今日の分子No.71 :塩化水素 HCl


塩化水素。WinMOPACで計算・描画


無色で刺激臭のある気体。

腐食性があり有毒。

工業的に重要な物質。

極めて水溶性の大きな気体であり、その水溶液は「塩酸」と呼ばれる。


○ 塩化水素の水溶液

塩化水素は水溶液中で電離して水素イオンを生じる酸である。

このときほぼ完全電離し、極めて強い酸である。
(2011/11/13記事『濃塩酸(12mol/L)のpHは「-1」!!』も参照。)

HCl → H+ + Cl-


また、塩酸は揮発性の酸である。
(揮発して生じるのは塩化水素HCl)

一方硫酸は不揮発性の酸なので、食塩に硫酸を加えて加熱すると塩化水素が追い出される反応が起こる。

NaCl + H2SO4 → NaHSO4 + HCl


あくまで「HClという分子式を持つ物質」が「塩化水素」(hydrochloride)であり、「HClの水溶液」が「塩酸」(hydrochloric acid)である。

混同しないように。

しかし塩化水素のことを「塩酸ガス」と呼んだり、工業的には塩化水素は水に溶かして塩酸として出荷されることが多いので「塩化水素の製造 = 塩酸の製造」と同一視されたり、慣用的には塩化水素と塩酸があまり区別なく呼ばれていることも多い。


また、同様の構造を持つハロゲン化水素の水溶液(ハロゲン化水素酸)は

・フッ化水素HF : フッ化水素酸

・塩化水素HCl : 塩酸

・臭化水素HBr : 臭化水素酸

・ヨウ化水素HI : ヨウ化水素酸

である。
(HF→HIと周期が下がるほど酸性が強くなることも覚えておこう。これは周期が下がるほど原子半径が大きくなることによる。)

塩酸も本来は「塩化水素酸」(hydrochloric acid)と呼ばれるべきであるが、日本語では慣用的に塩酸と呼ばれる。

※ 元素名に「酸」を付けて名付けられた物質は、基本的にオキソ酸(酸化物の酸)である。
例:ホウ酸B(OH)3、炭酸H2CO3、マンガン酸H2MnO4、等。


○ 塩化水素の反応

イオン化傾向が水素より大きな金属と反応し、様々な金属塩化物を生じる。

Zn + 2HCl → H2 + ZnCl2

また、塩基と反応しても塩化物を生じる。<<中和反応>>

NaOH + HCl → NaCl + H2O

特にアンモニアNH3とは気相でも(水がなくても)直接中和反応をし、塩化アンモニウムNH4Clの白煙を生じる。

NH3 + HCl → NH4Cl

アルカンやアルケンに対して付加反応をすることができる。

CH2=CH2 + HCl → CH3CH2Cl

塩化水素は反応性が高く、他にも様々な反応をする。


○ 塩化水素の工業的製法

塩化水素の工業的製法はいくつかあり、塩化水素を直接的に合成する方法(直接合成法;電解ソーダ法)と、副生する塩化水素を回収する方法(ルブラン-ソーダ法、副生塩酸)がある。

現在は副生塩酸が主流で、2000年度では2,493,604トン(35%換算)の内合成塩酸751,561トン、副生塩酸1,742,043トンであることから明らかである。

生じた塩化水素を水に吸収させ低濃度の塩酸とし、それを濃縮することで濃塩酸として出荷する。
(※ ガス吸収で濃塩酸を作ることはできない。なぜなら濃度20%ほどで急激に蒸気圧増大するからである。)


・ 直接合成法;電解ソーダ法

水素H2と塩素Cl2を反応させて塩化水素を直接合成する方法を(塩化水素の)直接合成法と言う。

H2(g) + Cl2(g) → 2HCl(g)

※ この反応では水素を10%程過剰にして行う。
1:1で完全に反応するが、そうすると爆発する危険性があるためである。
(水素:塩素=1:1の混合気体を「塩素爆鳴気」と言う。)

この水素と塩素は食塩水の電気分解(電解ソーダ法)によって供給する方法が多い。

2NaCl + 2H2O → 2NaOH + H2 + Cl2


・ ルブラン-ソーダ法(現在は使われていない)

古典的な炭酸ナトリウム製造法であるルブラン-ソーダ法では第一段階目で塩化水素が生じる。

1) 2NaCl + H2SO4 → Na2SO4 + 2HCl

2) Na2SO4 + 2C + CaCO3 → Na2CO3 + CaS + 2CO2

かつてはこの塩化水素を回収して塩酸を製造していた。

しかしルブラン-ソーダ法は今はアンモニアソーダ法(ソルベー法)もしくは塩安法に取って代わられていて、使われていない。


・ 副生塩酸

有機合成化学工業において、有機化合物に塩素を反応させて塩素化(塩素置換)するとHClが生じる。

これを捨てるのはモッタイナイので、分離回収して得る。

例えば塩化ビニルの製造(EDC法)では、塩化鉄(III)触媒下80℃でエチレンに塩素を反応させて1,2-ジクロロエタンとし、それを熱分解して塩化ビニルとするとき塩化水素が脱離する。

CH2=CH2 + Cl2 → CH2Cl-CH2Cl → CH2=CHCl + HCl

※ 最近はこの副生したHClをエチレンに酸化・付加反応させて再利用し、実質副生しないようにする方法(オキシ塩素化法)が用いられたりする。


他にも、ホスゲンCOCl2を使ったイソシアナート(ポリウレタンの材料)の合成時等にHClが副生する。

R(NH2)2 + 2COCl2 → R(NHCOCl)2 + 2HCl

R(NHCOCl)2 → R(NCO)2 + 2HCl

※ R = C6H3(CH3)

今はこの手の反応による副生塩酸が多いらしい。


◎ 参考

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