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一般向け/高校生向け楽しい化け学
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さて、先週塩酸の蒸気をもろに吸い込んで地獄を見た筆者です。

塩化水素HClが高濃度で溶けた水溶液を煮沸していました。

もくもくと上がる塩酸の湯気、これはヤバイです、吸わないように本当に注意しましょう!!



塩化水素HClの構造。「塩化水素」はコイツの物質名、「塩酸」はコイツの水溶液の呼び名。
WinMOPACで計算・描画



さて、具体的に濃塩酸とはどれくらい危険なのでしょうか?

一般的なイメージでわかりやすいpH;水素イオン指数で表してみましょう。

まず市販されている試薬の「濃塩酸」とは、一般的にモル濃度が12 mol/Lの塩化水素水溶液です。

なぜ「濃塩酸」が12 mol/Lと中途半端な濃度かと言うと、塩化水素を飽和するくらいまで水に溶かすとこのくらいの濃度になるかららしいです。

※ 「HCl」という物質は「塩化水素」である。塩酸とは「塩化水素水溶液」のことを指す。この違いは重要。
 また、塩化水素は揮発性なので、ある濃度の塩酸を持ってきてもそのうち塩化水素が気化して濃度が変わってしまう。だから塩酸は滴定等の標準物質には適さない。
 ちなみに、空気中の二酸化炭素を吸ってしまう水酸化ナトリウムも標準物質には不適。覚えておこう!


では12 mol/Lの塩化水素水溶液のpHとはどれほどか?

塩化水素は強酸で完全電離していると考えると(※後述)、12 mol/L濃塩酸の水素イオン濃度[H+]は12 mol/L。

pH = -log [H+]

なので

pH = -1

「え!pHがマイナス!?」

っと思うかもしれない。

しかし別にpHが負の数値を取ることは驚くことではない。

定義より、[H+] = 1 mol/LならpH = 0だし、[H+]がそれより大きな値ならpHは負の値になる。

小学校・中学校のイメージで

「1・・・強酸性、7・・・中性、14・・・強アルカリ性」

なんてイメージがあるが、別にpHは1から14までの値とは限らないのだ。


さて話を戻しましょう。

しかし濃塩酸のpHは「-1」で、これはかなりヤバイレベルの強酸性である。

コワイコワイ。

この濃度の濃塩酸はガンガン気化する塩化水素で発煙し、かなりの刺激臭がし、人体に危険なこと極まりない。

手につくくらいなら大したことないが、目に入ると失明してしまう危険性がある。

だから「濃塩酸」と書いた試薬瓶から塩酸を取りだす際は、ドラフト等でキチンと換気しながら取り扱いましょう。

間違っても蒸気を吸ってしまったりしないように!!

あれは悶絶物です・・・・



※ 濃塩酸中で塩化水素は完全電離しているか?

結論を言うと、そう考えて問題なさそうです。

強酸で、いつも電離定数なんて考えない塩酸ですが、ちゃんと電離定数Kaはあります。

Ka = 104

くらいです。

これはかなり大きな値です。

酢酸のKa = 1.75×10-5と比べると、なんと10億倍の酸性度!!ということ。

ゆえにいつもは電離定数なんて考えずに完全電離しているものとして計算しますが、今回は濃度が濃いのでこれを考慮してみましょう。

化学平衡の式より、

Ka = [H+][Cl-]/[HCl]

ここで

[Cl-] = [H+]、

[HCl] = C - [H+]

を代入し、2次方程式を解くと
(C;塩酸の全濃度、すなわち12 mol/L)

[H+] = -Ka/2 + √(Ka2+4KaC)/2

Ka=104 mol/L、C=12 mol/Lを代入すると、

[H+] = 11.99 mol/L
(電離度α=99.9%)

これは有効数字を考えると実質[H+]=12 mol/Lで、塩酸が完全電離していると考えても良いと言うことになります。

ゆえに濃塩酸は

pH = -1

というところ。

たまには馬鹿でっかい平衡定数の化学平衡も計算したくなりますね。


ところで、今日はヨードホルム反応の記事『ヨードホルム反応の仕組み』で、「わかりやすかった」と筆者あてにTwitterで呟いてくれた方がいました。

いや~うれしい。

この手の話でいつも言っていますが、「頑張って書いた甲斐あったな~」と思います。

これからも精進いたします。
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