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一般向け/高校生向け楽しい化け学
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下品な話で申し訳ありませんが、今、筆者の足がとても臭いです。

匂いがするということは、その匂い分子が揮発して鼻の嗅覚レセプターに結合して信号を送っているということ。

では一体この臭いにおいはどんなヤツが原因なんでしょうか。

そう、コイツが足の裏の臭いの犯人だ!


今日の分子 No.54 イソ吉草酸 (CH3)2CHCH2COOH


Jmolで描画


正式名称:3-メチルブタン酸。

炭素数が同じで直鎖のCH3CH2CH2CH2COOHを吉草酸といい、それの枝分かれした異性体なのでイソ吉草酸と呼ばれる。

天然の脂肪酸である。

水に少し溶け、有機溶媒に溶けやすい無色透明、揮発性の液体。

不快な刺激臭がある。

この物質は足の裏の匂いや口臭の原因物質だといわれる。

ライオン株式会社は東京医科歯科大と連携して中高年の口臭の原因は、足の裏の匂いの原因物質のこのイソ吉草酸等の揮発性低級脂肪酸であると明らかにしたという。

http://www.mylifenote.net/009/lio_27.html

細菌がこのイソ吉草酸を生産し、あの特有の不快臭を出すのだという。



一般に脂肪酸は臭い。

例えば酢の成分である酢酸CH3COOHは刺激臭がある。

酢の匂いはいわゆる酸っぱい酢の匂いであるが、炭素数が増大するに連れて不快さが増すという。

C3H7COOHあたりから匂いの質が変わってきて、酢的匂いから不快な匂いになるという。

パルミチン酸C15H31COOHもかなり不快なにおいがする。

ただし一番臭いのは炭素数4、5あたりである。

なぜなら炭素数が増大すると分子が大きくなるので揮発性が乏しくなり、鼻に到達しにくいので匂いがあまりきつくならないからである。

炭素数4、5あたりが不快さと揮発性の和が最大に達するわけである。

で、イソ吉草酸は最悪の臭さの炭素数5である。

炭素数4、5あたりの揮発性脂肪酸は「凶悪的な臭さ」・「3日前のウ●コみたいな臭い」と言われる。

※ 筆者の表現ではない。筆者の大学の先生様がそうご表現なさったのである。


一方、揮発性低級脂肪酸のエステルは果実のような快い芳香を持つ。

例えばイソ吉草酸エチル(CH3)2CHCH2COOCH2CH3は、においが180度変わってリンゴのような良い香りがし、香料に用いられる。

他にも酢酸エチルCH3COOCH2CH3も果実臭がするし、酪酸メチルC3H7COOCH3は食品用香料に用いられ、実際天然の果実に含まれる。


化学物質は少し構造が変わるだけで、ここまで性質は変わる。

これが化学の面白いところ。

この場合決定的なのはカルボン酸の酸性のHがエステルになってなくなった、ただそれだけのことです。

香水を嗅いで「良い香り・・・」とうっとりしても、もしかしたらその分子は足の裏の臭い分子とほとんど構造が同じかもしれない。



◎ 参考
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前回の二硫化炭素の説明に加えて、ビスコースレーヨンについて。


ビスコースレーヨン(ビスコース法レーヨン)とは、
  • セルロースを水酸化ナトリウム水溶液と二硫化炭素で処理してビスコースと呼ばれるコロイド溶液を作る。

  • ビスコースを細孔から希硫酸に噴出すると繊維状にセルロースが再生。

という過程(ビスコース法)でセルロースを再生させた再生繊維(人絹、レーヨン)である。

ビスコースレーヨンのメリットは
  • そのままでは商品にできない粗なセルロース繊維を、光沢があって長い絹糸のような上質な繊維にできる。例えば綿は綺麗な綿花から取らなければならないが、ビスコースレーヨンは木材パルプから作ることもできる。

  • 再生するとき、好きな形状の材料を作れる。(長さや形。繊維状orフィルム状。)

  • 再生した繊維は化学的には天然のセルロースと同一である。だから吸湿性もあるし、捨てても土に帰る。

  • ビスコースレーヨンは他のセルロース化学修飾樹脂(ニトロセルロースなど)と比べて化学的に安定。

ということである。

これらはセルロースを溶かすことによって達成されるものである。

本来セルロースは水や溶媒に溶けないため、一旦コロイド溶液にできるビスコース法は優秀である。


ではなぜビスコース法ではセルロースを溶かすことができるのだろうか。

高校化学では習わないが、次のような化学反応で可溶化→再生している。


1. セルロースを水酸化ナトリウムで処理。

セルロースのヒドロキシ基(-OH)がNaアルコキシド(-O-Na+)になる。

この生成物をアルカリセルロースという。



アルカリセルロースの生成


2. アルカリセルロースを二硫化炭素CS2と反応させビスコースにする。

アルカリセルロースと二硫化炭素が反応すると、Naアルコキシド部分がキサントゲン酸Na(R-O-C(=S)S-Na+)になる。



セルロースキサントゲン酸Naの生成


セルロースが強い不溶性を持つのは、セルロース分子同士が水素結合で強く結びついているからである。

しかしこのセルロースキサントゲン酸Naになるとヒドロキシ基が減り水素結合する能力が減少し、水酸化ナトリウム水溶液に溶解しコロイド溶液になる。

このコロイド溶液がビスコースである。

ちなみにビスコースとは「ビスコ:ドロドロした」+「オース:砂糖」という造語である。

ビスコースは黄色く、ドロドロしている。

この黄色はキサントゲン酸(xanth-=黄色;キサントプロテイン反応の"キサント")部分由来である。

また、キサントゲン酸(R-O-C(=S)SH)はちょうど炭酸モノエステル(R-O-C(=O)OH)の酸素二つを硫黄で置き換えた構造である。



3. ビスコースを希硫酸に入れる。

キサントゲン酸Na部分が分解してヒドロキシ基になる。

すなわち、元のセルロースに戻る。



セルロースの再生


このとき繊維状に再生するもよし、フィルム状に再生するもよし。

繊維状に再生すると光沢のある絹状繊維;レーヨンになる。

また繊維の長さも自由に決定できる。

フィルムに再生するとセロハンになり、これもセロハンテープなど生活の役に立つ。

ちなみにレーヨン(rayon)は「ray:光」+「on:綿(cotton)」の造語らしい。


このようにビスコース法ではセルロースを一旦可溶化し、そこから自由に再生できるというのが特徴である。

粗な木材から上質な繊維を作れ、作った繊維は自然に帰るというのも大きな特徴である。


ネット資料では国立科学博物館産業技術史資料情報センターの資料等にビスコース法等の歴史が載ってます。
(資料中の「セルロースザンテート」がセルロースキサントゲン酸Naのことです。)

あと、高校化学でビスコースレーヨンと対で出てくる銅アンモニアレーヨンも覚えておきましょう。



◎ 参考


数日前、塾生が怪訝な目でこの物質の化学式を見ていました。

高校生にはあまりなじみがないようです。

単純な構造の分子なのですが。

教科書の後ろのほうに出てくる、化学史的には重要な物質なのです。


今日の分子 No.53 二硫化炭素 CS2


WinMOPACで計算・描画 ※空間充填モデル,見やすくするため原子サイズ変更。


構造式「S=C=S」。

二酸化炭素と同じ直線分子。

ちょうど二酸化炭素の酸素原子が、酸素と同族元素である硫黄と置き換わった分子である。

ただし二硫化炭素は分子量が大きいため液体である。

赤熱させた炭素に硫黄蒸気を反応させて合成する。


純度の高いものは無色でほとんど無臭の液体。
(通常は不純物などで不快臭を持つ)

揮発性・引火性である。

第四類危険物(引火性液体)特殊引火物に指定されている。

危険等級はⅠで、第四類危険物の中では最も危険な物質に分類されている。

発火点は90℃。

これは、火を着けなくても90℃になれば自然と発火してしまうことを意味する。
(参考;重油の発火点は約300℃)

また、引火点(火を近づけたら燃える最低の温度)は-30℃以下だとされる。

さらに爆発範囲は1.0~50.0体積%で、異常な広さ、下限値の低さである。

  ☆ 爆発範囲(別名:燃焼範囲)[単位:体積%];
   ある可燃性物質の蒸気が空気と混合しているとき、
   着火などのきっかけでその物質が爆発するときの濃度範囲。
   可燃性物質が薄すぎても爆発せず、濃すぎても酸素が少なくて爆発しない。
   爆発範囲が広かったり、下限値が低かったりすると爆発する危険性が高いと言える。

しかも二硫化炭素は燃えると有毒な二酸化硫黄を出す。

また、二硫化炭素自体きわめて有毒で、農薬(殺虫剤)にも用いられるという。

このように二硫化炭素は非常に危険な物質である。

しかし、二硫化炭素は水に溶けずかつ水よりも重いので、貯槽に水を張り二硫化炭素を沈めることで安全に貯蔵できる。


危険であるが、二硫化炭素はかなり重要な物質である。

二硫化炭素は優秀な溶媒で、多くの有機化合物を溶解し、さらに硫黄・ヨウ素・リン等も溶かす。

ゴム等、高分子化合物を溶かす性質も優秀である。

また、工業化学史最高に重要なもののひとつ、ビスコースレーヨンの製造に使われる。

これは高校の化学Ⅱでも習う。

綿(セルロース)を濃水酸化ナトリウムで処理したのち二硫化炭素に溶かす。
(コロイド溶液になる。これをビスコースと呼ぶ。)

ビスコースを細い穴から希硫酸中に押し出すと、セルロースが再生し綺麗な繊維になる。

こうして得られた繊維をビスコースレーヨンと言い、品質の低い綿を美しい絹状繊維に作り変えることのできる、画期的な技術である。

ちなみに、ビスコースを膜状に再生するとセロハンになり、こちらも言わずもがな生活に役立つ材料である。


ビスコースレーヨンができる詳細な経路は高校では習いません。

でも次回詳しく書こうと思うので、興味のある人はご覧ください。
→コチラです。


◎ 参考


今日(日付変わってるから厳密には昨日)、筆者が化け学教える塾生が増えました。

なんでも、文系だけどセンター理科は化学でやるとのこと。


「どうせ化学なんて受験以降まったく役に立たないと思っているでしょう」

と授業後問うてみると、「はい」と。

筆者は文系でも必要だと思います。

「例えば大人になって通訳さんになったとしよう。でも、化学が要るのですよ」

と言って、筆者の物理化学のテキスト(問題が英語で書いてある)を見せて、

「これ、英語で書いてあって難しいけど今日やった熱化学方程式の内容。もしあなたが通訳さんになったとき、今日の化学の授業の内容がわかっていればこの文章が訳せる。すなわち仕事が取れる。逆にわかっていなければ訳せない。この仕事はできない。結果できる仕事が減る。」

と、ちょっと具体的に焦らせてみた。

高校生はなかなか"勉強は意味無くない"という具体例を示されることが少ないと思う。

大抵親や先生にわけもわからず「勉強しろ」を連呼されるだけ。


もちろん上の例は、化学を将来の仕事と絡めた一例。

生活の中でも化学はいくらでも役に立つ。

例えば、界面活性剤;逆性せっけん等の意味がわかっている人はシャンプーとリンスを混ぜて一度に使うと意味がないことがわかる。
リンスインシャンプーの化学参照。)

化学が全くできない人は、もしかしたら混ぜて使って損をしてしまうかもしれない。

他にもエセ科学に騙されないために理科全般の知識が必要。

奇跡の水H4Oとか、運気の波動を増幅するナノ構造のパワーストーンとか、物質に記憶があるとか何とかのホメオパシーとか・・・・理科をちゃんと勉強してエセ科学から自分を守らなければならない。

あと同素体と同位体。

ほんとセンター頻出ですね。

もしも同位体と同素体を混同していたら、最近の原発のニュースの意味はかなり理解しがたいでしょう。

「放射性同位体?同位体って黒鉛とダイヤモンド?もしかして俺の鉛筆も危ないのかも!!」

とか思わないように!
(実際、"ヨウ素=危ない"のニュースでヨウ素が入ったうがい薬のイソジンが毒だと思ってバッシングした人がいる!!)


ちなみに化け学男の筆者は今経済学に入門してみたりしています。

この知識があればネズミ講とか、破産確実の金融商品とかから身を守れるかもしれない。
(あれ?ちょっと違う?(笑))

自分の専攻や将来の仕事に"関係ない"と思っている学問でも、より広範囲の能力を得るため、生活の中の危険から身を守るために必要だと思います。


さっき、パソコンで見る動く分子事典のJmolのライブラリ見てたら面白い分子を発見!!

その名も「かつお節ペプチド」。

そこだけで便宜的にそう呼ばれているだけなのかと思って、本見てみたりネットで調べたりしてみたがどうにも結構共通認識な物質名のようだ。

他にもイワシペプチドとかブナハリタケペプチド、ワカメペプチド、ノリペプチド、ゴマペプチドというのもあるらしい。

世の中に星の数ほど種類のあるペプチドですが、なぜわざわざ彼らは特別に名前を付けらたのでしょうか。

かつお節ペプチドを例に探ってみましょう。


今日の分子 No.52 かつお節ペプチド IVGRPRHQG


Jmolで描画。クリックで拡大。


かつお節のたんぱく質を酵素で分解して得られるペプチド。

ペプチドとは、アミノ酸がアミド結合で数個~数十個繋がったもの。

さらに多くのアミノ酸が繋がったものをたんぱく質という。

たんぱく質を酵素等で加水分解するとペプチドになり、さらに加水分解するとアミノ酸に分解される。


ペプチドはアミノ酸が順序良く結合したものなので、その構造を表すときアミノ酸の略号を並べる。
(化学式で表記するには分子が大きすぎ、わかりにくい。)

たとえばかつお節ペプチドは構造式に相当するものが「IVGRPRHQG」であるが、これは

イソロイシン-バリン-グリシン-アルギニン-プロリン-アルギニン-ヒスチジン-グルタミン-グリシン

という順で結合したペプチドであることを表している。

また、かつお節ペプチドには構造が「LKPNM」である別種もある。


生物はそれぞれ固有のたんぱく質を持っている。

近年、食品中のたんぱく質から生成するある種のペプチドが様々な生理活性を示すことが明らかになってきた。

例えばかつお節ペプチドは血圧降下作用を示すという。

他にもイワシペプチドや酸乳ペプチドと呼ばれるものも血圧降下作用をもつという。

これらは、人間の血圧上昇にかかわる酵素;アンジオテンシンI変換酵素(ACE)なるものを阻害することでその力を発揮するという。


これらペプチドが配合されたサプリメントや機能食品がトクホ取ったりして発売されたりしているらしい。

例えば日経のこの記事にこれらのペプチドや、その商品化、阻害機構が載っています。

上に示したページの真ん中辺に、これらのペプチドがACEの活性部位に入り込むことが書いてあるが、これらのペプチドを調べることにより新しいタイプの人工ペプチドが画期的な医薬品として登場するかもしれない。


◎ 参考
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