一般向け/高校生向け楽しい化け学
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筆者の彼女が水疱瘡(みずぼうそう)に罹ったらしい。
この手の感染症は大人になってから罹るとしんどい。
残念ながら筆者は医者でも薬剤師でもないので無力。
「お大事に~」と言うことしかできない。
さて、水疱瘡はあの特有のマメみたいなのができるのが特徴ですが、そいつの処置にフェノールC6H6OHと酸化亜鉛ZnOの混ぜ物を塗ったりするらしいです。
※ 筆者は専門家ではないため、ここに書く医薬品の情報を使用の参考にすることはできません。
「フェノール・亜鉛華リニメント」という塗り薬らしいです。
皮膚そう痒症、汗疹、じん麻疹、小児ストロフルス、虫さされに対する鎮痛・鎮痒・収れん・消炎剤とのこと。
フェノールは古くは石炭酸と呼ばれ、殺菌・防腐作用を持ち明治時代はコレラの対策に用いられました。
が、フェノールは毒性があるため現在はあまり使われないようですが。
◎ フェノール C6H6OH
Jmolで描画
この「フェノール・亜鉛華リニメント」は塗るとまずフェノールの防腐、消毒、鎮痒作用と酸化亜鉛の収れん作用(縮む作用)の効果を発揮し、さらにしばらくして水分が蒸発すると添加されているトラガント(ある種の樹木から採れる物質)の薄膜が残って皮膚をコーティングして保護してくれるとのこと。
一口で二度おいしい、うまいこと作られた薬ですね。
◎ 参考
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一昨日2011/9/29日、2011年のイグ・ノーベル賞授賞式があったそうです。
今年はイグ・ノーベル化学賞を日本人が受賞しました!!
名誉ですねぇ。
「イグ・ノーベル賞」とはノーベル賞のパロディー賞で、世界中の研究から「笑えて考えさせられる」研究をした人に贈られる賞です。
受賞することは結構な名誉です。
日本人はなんと5年連続受賞していて、日本の研究が(笑われながらも)高く評価されているということです。
今年イグ・ノーベル化学賞を受賞したのは滋賀医科大の今井氏ら7名。
功績は「火災など緊急時に眠っている人を起こすのに適切な空気中のわさびの濃度発見と、これを利用したわさび警報装置の開発」で、「非常にユニークかつ実用的」(同賞事務局)ということらしい。
聴覚障害者等、普通の警報装置では危険を察知できない人にも危険を伝えられると言う。
さてその原理は要するに・・・
わさびのにおいがする気体を噴射して叩き起こす
ということ。
いや、でも、ホントすごい。
嗅覚に訴えるという発想と、わさびを使うという発想。
やはりまず発想がこの業界の勝負なのですね。
「化学賞」という名前だけあって、もちろん化学が関係しています。
その「ワサビの匂い」というのが「アリルイソチオシアネート」という物質。
◎ アリルイソチオシアネート CH2=CHCH2N=C=S
いわゆるワサビの匂いがする物質。
ワサビをすりおろした時、これの配糖体が酵素が触媒し酸素と反応して精製するという。
ちなみに・・・
・「アリル」:CH2=CHCH2- をアリル基という。
・「イソチオシアネート」:イソシアネート-N=C=OのOがSに置き換わった(Sに置き換ることを「チオ」と表現する)部分。
で合わせて「アリルイソチオシアネート」という物質名になっている。
できることなら筆者もぜひ受賞したい。
ちなみに筆者の大好きな『世界で一番美しい元素図鑑』の著者:セオドア・グレイさんもイグ・ノーベル賞受賞者である。
功績は「ピリオディックテーブルテーブル」(周期表テーブル)を作ったこと。
※ 「周期表」は英語で「ピリオディック・テーブル」と言う。周期表の形をした、各マスに本物の元素が入っている机を作ったのである。
嗚呼・・・筆者も欲しい、イグ・ノーベル賞・・・・・
ちなみに今年のイグ・ノーベル平和賞もヤバい。
受賞者はリトアニアの首都ビリニュスの市長と言う。
功績は「違法駐車している高級車を装甲車で踏みつぶして問題解決」。
天才過ぎる・・・筆者にはイグ・ノーベル賞の受賞は夢のまた夢か・・・(笑)
◎ 参考
昨日の記事『今日の分子No.68 :硫化水素』で触れた水素化処理についてもう少し説明します。
石油化学工業で留分の水素化処理によるS、N、Oの除外。
原油を蒸留して得た留分には単純な炭化水素だけでなく、含硫黄化合物・含窒素化合物・含酸素化合物も含まれています。
石油化学製品(ガソリンや軽油等)に硫黄や窒素元素が入っていると、製品を燃料として燃やした時にSOxやNOx等環境問題になる物質が生じてしまいます。
また、留分を接触改質したり接触分解したりするとき、硫黄系の官能基が入っていると、触媒と反応して高価な触媒を痛め壊してしまう恐れがあります。
- 接触改質;触媒を用い、アルカンを脱水素したり転移させたりする化学変換。オクタン価(→『今日の分子No.56 :イソオクタン』参照)の向上が期待できる。
- 接触分解;触媒を用い、分子量の大きな炭化水素分子をC-C結合の切断により、小さな炭化水素分子にする化学変換。
だから反応させる留分や最終的な石油化学製品にはできるだけCとHのみから成る炭化水素だけが入っているようにしたいわけです。
そこで、じゃあ含硫黄・窒素・酸素化合物を捨てればいいかと言うとそうではない。
炭素鎖の一角にちょろっとSやNが入っているだけなので、捨ててしまってはモッタイナイのです。
だから化学変換により還元して化合物中からSやN、Oを追いだしてしまおうという考え方です。
そこで登場するのが「水素化処理」(hydrorefining process;「水素化精製」とも。基本的に脱硫が目的)。
触媒存在下、接触改質や接触分解をする前に留分と水素を反応させます。
S、N、OはそれぞれH2S、NH3、H2Oとなって除かれます。
触媒には アルミナ or シリカ-アルミナ or ゼオライト に Co-Mo or Ni-Mo を担持させたもの等、硫黄で傷付いてしまわないものを用います。
具体的には次のようなパターンの化学反応が起こります。
◎ 水素化処理反応
触媒;<アルミナ or シリカ-アルミナ or ゼオライト> 担持 <Co-Mo or Ni-Mo>
・硫黄系
チオールの水素化処理反応
スルフィドの水素化処理反応
ジスルフィドの水素化処理反応
チオフェン系の水素化処理反応
・窒素系
ピリジン系の水素化処理反応
・酸素系
フェノール類の水素化処理反応
この内、生じたH2Sは分離され、酸化されて単体硫黄Sにされて製品として出荷されます。
また、この記事の一番上に示した図のように、水素化処理で使う水素は改質工程で副生した水素が使われていて、環境的・経済的です。
◎ 参考
- 『新しい工業化学―環境との調和をめざして』足立 吟也 , 馬場 章夫, 岩倉 千秋 , 化学同人
- 筆者の大学の先生の有難い講義(2011)
今週は散々で、疲労してしまっている筆者。
二日酔いになったり、クレーム処理まがいの仕事をやるハメになったり・・・
ところで、先ほど中学校の教科書を読んでいたらこんな分子が出てきたので紹介。
環境や化学工業に密接に関係する分子です。
今日の分子No.68 :硫化水素 H2S
Jmolで描画
IUPAC名:hydrogen sulfide または スルファン。
周期表で硫黄Sは酸素Oの真下の同族元素なので、H2S分子の形は水H2Oと同じく折れ線。
強い腐卵臭を持つ無色の気体。
実際、腐った卵からは硫化水素が出ているらしい。
卵のたんぱく質は硫黄を多く含み、細菌がそれを分解すると硫化水素を生じる。
水に少し溶け、水溶液は酸性を示す。
硫化水素水溶液のことをしばしば「硫化水素水」という。
あと、味は甘いらしい。
今『Organic Compound Bible』で読むまで筆者も知らなかった。
これを硫化水素の水溶液を舐めたいとは思わない。
硫化水素は有毒である。
また、硫化水素は空気より重い気体で、低いところに滞留する。
温泉地などで硫化水素が発生している場所があるが、窪みにたまりやすく、ここへ転落して中毒死するという事件もしばしば報じられる。
また一時、「硫化水素ガス自殺」なる自殺が流行し、社会問題になった。
硫化水素は有毒で危険であることはもとより、可燃性で火を付けると爆発する恐れがある。
だから硫化水素を発生させられると一帯を立ち入り禁止、火気厳禁にせねばならず、非常に危険かつ迷惑なのである。
硫化水素は腐敗で生じたり、天然ガスや火山ガス、温泉に含まれる。
また人間や動物の排泄物からも生じる。
下水等から生じて悪臭問題・環境問題になったりもする。
工業的には石油からガソリンなどを作る際の副生生物で回収される。
原油には硫黄や窒素や酸素を含む物質も含まれているが、ここから炭化水素だけを(化学変換により)取り出したい。
だから「水素化処理」という処理が行われる。
例えば軽質油はゼオライトに担持させたCo-Mo触媒を用いて水素加圧下300~400℃で処理する。
するとS、N、Oを含む有機化合物は還元され炭化水素となり、それぞれの元素はH2S、NH3、H2Oになる。
このうち硫化水素を分離し、多くの場合は酸化されて単体の硫黄Sにされて出荷される。
ちなみにこのとき使われる水素は石油の改質工程(リフォーミング)で副生するものであり、1つの工場内で余すところなくうまく物質が使われている。
(∴ゴミが少なくかつ経済的)
原油からガソリンなどを作る時の簡略化工程
水素がうまく回されている。
※ 反応については『石油化学~水素化処理反応』
一方、中学の教科書では硫化鉄に塩化水素を加えた場合に生じると習う。(希硫酸でもOK)
FeS + 2HCl → FeCl2 + H2S
高校でも硫化水素は重要な物質である。
硫化水素には還元性がある。重要
H2S → S + 2H+ + 2e-
また、硫化物イオンは重金属イオンと出会うと不溶性の硫化物塩を生じるため、硫化水素水溶液を金属イオンの水溶液に加えることで金属元素の分析ができる。
ある種の硫化物はpHによって溶けたり沈殿したりすることも重要。
酸性でも沈殿 | Ag2S、PbS、CuS、CdS、SnS、SnS2、HgS 等 |
中性または塩基性で沈殿 | FeS、ZnS、NiS、MnS 等 |
なぜFeS等、酸性の時に溶けることがあるかと言うと、
溶解平衡;
FeS ⇔ Fe2+ + S2-
と同時に酸性条件では化学平衡
S2- + H+ ⇔ HS-
HS- + H+ ⇔ H2S
も成立しS2-が消費されるので、溶解平衡が右側(溶解側)に動くからである。
◎ 参考
- 『Organic Compound Bible』Ka Man Fong (2011)
- 『新しい工業化学―環境との調和をめざして』足立 吟也 , 馬場 章夫, 岩倉 千秋 , 化学同人
- 『化学I』数研出版(2006)
- 『未来へひろがるサイエンス 1分野(下)』啓林館(2008)
大学が購読してる電子ジャーナルのシステムで『Tetrahedron』の最新号からいくつか論文をダウロードして来ました。
『Tetrahedron』(テトラヘドロン)とは、ELSEVIER社(エルゼビア;国際的な学術系出版社)が出版している化学のジャーナル(最新の論文集みたいなもの)です。
最新の研究を知り、自分の研究のヒントにすることは大切なことなので、ジャーナルを読むことは研究者にとって重要な習慣です。
大学が学生も自由に読めるように購読しているので、筆者ら学生は学校のパソコンを使って好きな論文をダウンロードできます。
(※ 案外学生が自由に読めるようにしてくれている大学は少ないらしいです。電子ジャーナルの購読料は高い。有難いことに筆者の大学(公立)は割とその辺はお金割いてくれてます。)
「Tetrahedron」という単語は日本語に訳すと「四面体」です。
なぜ「四面体」が化学ジャーナルの名前になっているかと言うと、よくある"化学"のイメージは炭素の四本の手が作る「四面体」かベンゼンの「六角形」だからでしょうな。
特に六角形はCMとか薬用商品の箱とかのデザインによく登場しますね。
化学嫌いの人は"あの亀の甲"を見ると虫唾が湧くそうですが(笑)
ちなみに筆者の恋人も化学構造式を見たら虫唾が湧くタイプの人です(笑)
(なんで化学ヲタクな筆者とうまくいってるんだろう・・・)
さて、今読んでるのは有機EL(ケータイの画面等に使われている発光素子;筆者の大好物)に使うために合成された或る最新物質の合成法と特性についての論文です。
ポルフィリン(植物が光合成するために使う分子クロロフィルの中枢となる化学構造)の構造を持った物質についてです。
合成法が載っているわけですが、論文に載っているこの手の合成反応には必ずと言っていいほど「Suzuki」(鈴木カップリング;去年のノーベル化学賞、2010/10/10記事参照)が使われています。
化学反応の矢印の上に「 1)Suzuki, 2)Metallation 」みたいな感じで載っています。
鈴木カップリングは簡単かつ汎用的かつ超便利な強力な反応。
確かにこんなに使われていたらノーベル賞にもなるわって程使われています。
・・・ですが、「 1)Suzuki, 2)Metallation 」って直訳すると「 1)鈴木, 2)金属化 」で、「金属化」(反応)と「鈴木」(人名)が同格に書かれているのはどうかと思ってしまいます(笑)
「Suzuki coupling」とか「Suzuki reaction」って書かないと変だろ!・・・っと思うのですが、「Suzuki」だけで「鈴木カップリング」だとわかるほど鈴木カップリングが普及しているというわけですよね。
さすが鈴木大先生・・・・
あっ、もちろんですがジャーナルは全部英語です。(至極当然、当たり前です。)
だから英語は絶対必須です。
絶対要ります。
他にも有機物太陽電池の論文もダウンロードしたので読んでます。
ジャーナルを読むと化学と英語の両方が鍛えられますね。
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