一般向け/高校生向け楽しい化け学
[273]  [272]  [271]  [270]  [256]  [255]  [254]  [253]  [252]  [249]  [248


言わずと知れた「ベンゼンのC-Cは共鳴により1.5重結合である」。

共鳴により二重結合を作るπ電子は6つのCに均等に共有され、全てのC-C結合長は等しく、その長さは単結合と二重結合の間の値。



ベンゼンの共鳴

したがって

<C-C結合次数>=[単結合]+[二重結合]
 =1(重)+6(電子)÷6(原子)÷2(/対)= 1.5重結合(?)

という気もする。

が、こんな単純平均で良いのだろうか?

今回はベンゼンの分子軌道ヒュッケル法という量子化学的手法を用いて求め、個々のC原子のp軌道の"重なり"から結合次数を手計算により算出してみる。
(分子軌道・・・分子の中の電子の分布。LCAO-MO法では個々の原子の原子軌道の一次結合により表される。)

☆ 以下、仰々しい計算をしますが、計算の仕方・前提は量子力学なのでまだ習っていない方は適当に流してください。
 逆に言えば、大学化学ってこんな感じです。

※ 画像が多いので表示に時間がかかったり、うまく表示されないかもしれません(そのときは「更新」してください)。



◎ ヒュッケル法によるベンゼン分子軌道(π軌道)の算出。

仮定;

・ ベンゼンは平面分子とする。

・ ベンゼンの分子軌道Ψを式(1)とする。

 ・・・(1)

 ただし添え字1~6はそれぞれ炭素原子1~6に対応する。

 またC1~C6は対応する炭素原子の原子軌道φに掛けられる係数で、規格化条件

 ・・・(2)

 が成り立つ。

・ π軌道のエネルギーの期待値εを、変分定理を用い式(3)で定義する。


  ・・・(3)

 ただし



 とした。※ βは負の値である。β<0。



エネルギーεを最小(極小)にするC1~C6を決め、Ψを求める。

εをC1~C6で偏微分すると0になるので(∵そのCの値でεが極小になるから)

 ・・・(4)

一方(3)式を変形し

 ・・・(3)'

この(3)'式の両辺をC1~C6で偏微分したそれぞれの結果と(4)式より

 ・・・(連立方程式A)

となる。

ただしχは

 ・・・(5)

と置いた。

ここで、連立方程式Aは C1=C2=C3=C4=C5=C6=0 以外の解を持たなければならない。

したがって連立方程式Aの係数行列の行列式は0となるから、

 ・・・(永年方程式B)

が導かれる。(実は上の偏微分計算をしなくても一発で永年方程式を出すこともできる。)

これを計算すると、(とても綺麗に因数分解できるので、あえて途中計算を書くと)



χについて解くと、

χ = -2, -1(二重解), 1(二重解), 2

である。

したがって(5)式よりそれぞれのχの値に対するεが求まる。

χのそれぞれの値で場合分けする。

それぞれのχの値を永年方程式Bに代入し、それと式(2)を連立させた6元2次連立方程式を解き、C1~C6を求める。
※ 連立方程式Aだけでは同じ意味の式が出てきて求まらないから規格化条件:式(2)も連立させる必要がある。
 代数的に解くと難しいので、分子軌道の対称性も考えて解きました。詳細は今度。


(i) χ=-2のとき(ε=ε1=α+2β)

6元2次連立方程式を解くと



したがって分子軌道は


(軌道の図はベンゼンを真上から見たときのもの。赤は+符号、青は-符号を表す。
 また、数字は炭素の番号。以下同じ。)


(ii) χ=-1のとき(ε=ε2=α+β)

6元2次連立方程式を解くと



もしくは



したがって分子軌道は二組




(iii) χ=1のとき(ε=ε3=α-β)

6元2次連立方程式を解くと



もしくは



したがって分子軌道は二組




(iv) χ=2のとき(ε=ε4=α-2β)

6元2次連立方程式を解くと



したがって分子軌道は





以上より6つの分子軌道が求まった。
(合計6つの電子が各炭素原子より提供されているので、分子軌道も6つになる。)

βは負の値であるから、分子軌道のネルギーεは

ε1<ε2<ε3<ε4

であるため、安定な分子軌道Ψ1から順に2つずつ電子が組になって配置されるから、(基底状態の)ベンゼンの電子配置は次のようになる。



各軌道のエネルギーと電子の入り方。矢印は電子を表す。「↑↓」で電子二つの対。


以上よりベンゼンの分子軌道が求まった。


◎ π電子密度の算出。

炭素原子rの持つπ電子(二重結合の電子)の数(π電子密度)qrは、上で求めたΨi軌道の炭素原子rに対応する係数Cirを使って



と表される。(ただしνiはΨi軌道に入っている電子の数。「OCC」が乗ったΣは、電子の入っている全ての軌道で和を取るという意味。)

したがって各炭素原子についてqを求めると



となる。すなわち、

π電子(二重結合の電子)はどの炭素原子にも均等に1つずつ存在している。


◎ π結合次数の算出。

炭素原子rと炭素原子sの間のπ結合次数(二重結合の次数)Prsは同様にCir、Cisを用いて



と表される。(CirとCisの積を取ると言うのはその2つの炭素原子の原子軌道の重なりを評価することに対応する。)

したがって各炭素原子についてPを求めると



となる。

ここで、仮にC-Cの一本目の結合(σ結合)は完全に次数1であるとすると、上記Pに1を足したものがC-C間の結合次数になるから



となる。

したがってこれから言えることは

ベンゼンのC-C結合は全て等価で1.67重結合

である。


ということで、以上のヒュッケル法という量子化学的計算によりベンゼンのC-C結合は1.67重結合だと算出されました。

計算手法はともかくとして、手計算でも一生懸命に計算すると結合次数すら計算できるというのが面白いですね。

ちなみにWinMOPACを使ってコンピュータシミュレーションでベンゼンのπ結合次数を計算しても0.666と計算されました。

「結合次数」にも色々な定義があるため一概には言えませんが、少なくともヒュッケル法を用いるとベンゼンは1.5重結合ではないと導かれます。

また、上記の計算は隣接していない原子の影響は全くない等の仮定を置いていますが、実際はそうではないのでモデルの置き方でも色々変わってくると思います。

以上のお話からわかることは、単純平均みたいな直観的計算では結合次数を決めることはできないということです。


◎ 参考

拍手

ブログ内検索
PR
Twitter-bot

Twitter @Chemis_twit (管理人)
Copyright 放課後化学講義室 All rights reserved



< カウンター since 2010/9/24 >