一般向け/高校生向け楽しい化け学
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前回記事『誰でもできる!フラーレンの描き方【手描き】』でフラーレンC60の(平面に簡略化した)構造式の描き方を紹介しました。
手描きもなかなか味のあるもので、勉強にも最適ですが、やはりパソコンで綺麗に構造式を描く必要が出てきます。
今回は大学生等、パソコンでフラーレンの構造式を描く必要がある方向けです。
完全な立体構造式と、前回のような簡略化平面構造式どちらも紹介しましょう。
構造式を描くソフトは色々ありますが、今回は経済的にChemSketchを使うことにします。
フラーレンの立体構造式の描き方
テンプレートから「Fullerenes」を選択すると、構造最適化済みの立体構造式を貼り付けることができます。
が、それでは他の立体分子に応用できないし、何しろ面白くないのであえてテンプレは使わずに描いてみましょう。
ではまず何が必要かというと、フラーレンの平面な構造式です。
多少汚い構造式でも「3D Structure Optimization」(三次元構造最適化)を行うと綺麗に立体化してくれるので、まずは適当な構造式が必要になります。
「フラーレンの構造式を平面で描くなんて無理!」と思われるかもしれませんが、実は平面で描けます。
それがコチラ!
フラーレンの完全な平面構造式(と立体構造式)
フラーレンを無理やり潰して平面に描いたものです。
外周が底の五角形になっています。
キュバンC8H8などの他の立体的な分子でもこの様にして平面に描くことができます。
キュバンの完全な平面構造式(と立体構造式)
では、綺麗でなくとも良いので適当に平面構造式を描きましょう。
平面構造式を描く。
次に「Tools」にある「3D Structure Optimization」を行います。
すると・・・
3D Structure Optimizationを行うと・・・
綺麗に立体化されフラーレンに!
※ 3D Structure Optimizationを行うと変な形になったり、エラーが出たりすることがありますが、数回3D Structure Optimizationを連続して行うことでそのうち綺麗なフラーレンになると思います。
(一発で綺麗なフラーレンになる確率は低いようです。)
ということで、潰して描いた平面構造式を「3D Structure Optimization」することでフラーレンの立体構造式が描けました!
フラーレンの簡略化平面構造式の描き方
しかし前回記事でも述べたように、立体構造式はゴチャゴチャしていて何かと不便。
次に簡略化して前面だけ見せた構造式を描いてみましょう。
用意するのは先ほど描いた立体構造式。
(もしくはフラーレンのテンプレート。)
まずどの面を正面にしたいかを考えます。
正面にする面を90度回転し、要らない半分を選択、
そして削除。
-90度回転させ、正面にする面を前面に持ってくると・・・
以上で
完成!
ね、簡単でしょう?
これらを応用するとフラーレン以外のややこしい分子でも立体構造や簡略化した平面構造式が描けます。
勉強やレポート、インテリア(?)等にどうぞ!
>>Q1さんのコメントへの返信
>>Winmostarさんのコメントへの返信
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サッカーボール型分子として有名なフラーレンC60。
しかしその構造式を見たことありますか?
高校の教科書には載っていません。
なぜなら、3次元球状のフラーレンを平面で描くとわけわからなくなるからです。
だから高校の教科書には3Dの分子模型だけ載っています。
しかし世の中にはフラーレンの誘導体の化合物があり、化学専攻の学生/化学者はしばしばフラーレンユニットの構造式を描く必要が生じます。
そんなときは大抵、フラーレンの"裏側"を省略して描きます。
例えば
"裏側"を省略したフラーレンの構造式
等。
では構造式がわかったから、さっそく描いてみよう!!
・・・っと、いつかの若き筆者は手描きで描こうとしたが、
全然うまく描けない。
どうしてもバランス良く描けない・・・フラーレンに見えない・・・
これを読んでいる皆さんも、そもそも
「いや・・・こんな複雑なの手描きで描けないっしょ・・・」
と思われるかもしれない。
が、くやしくて仕方ない筆者はフラーレンの描き方を必死に研究しました。
そして
・ 誰でも描ける
・ 描き方を覚えられる
描き方を開発しました!
今回はそんな筆者オリジナルの手描きフラーレン構造式の描き方を紹介します!
なぜ描けない?
まず、なぜ上の構造式はうまく描けないのだろうか。
それは、
・ 16面も描かなければならない。
・ 対称軸が斜めで交差する。
・ 立体的に見せるための微妙な細さ・斜めさが要求される。
という原因があるためであると考えた。
そこで、筆者はそもそも「見せる面」を変えることにした。
見方を変えたフラーレンの構造式
前の図のフラーレンを少し縦に回転させると、このように見える。
するとこの図は
・ 12面しかない!
・ 対称軸が縦横に直交!
・ 面が少なくなったことにより線も少なく!
という大きな利点がある。
しかも後述のようにめちゃくちゃ描き方を覚えやすい!
ということで、さっそくこの図を使ってフラーレンの構造式を手描きしてみましょう!
フラーレン構造式の手描き方
※ まずは定規使わずフリーハンドで描いた方がいいです。
1. 六角形を2つ描く。
ポイント;
・ 本当は正六角形ではなくほんの少し縦長になるのですが、正六角形で描くと見栄えが良くなります。
(大抵最後「ちょっとこのフラーレン細すぎ・・・」ってなるので、気持ち横幅を稼ぎます。)
2. 六角形の上下のくぼみに五角形を描く。
ポイント;
・ 立体感を出すため正五角形ではなく若干縦に潰します。
3. 2で描いた2つの五角形を六角形で囲む。
ポイント;
・ 立体感を出すため、1番上と1番下の六角形はできるだけ縦に圧縮。
4. 左右のくぼみに五角形を描く。
ポイント;
・ 全体的に丸くすることを意識して、あんまりとんがらないように。
以上!
「六角形、五角形、六角形、五角形」と順番に描くだけで骨格は基本的に出来上がります!
でもこのままでは少し不細工だろうし、かつ構造式としての仕上げがあるので・・・
5. 見栄えを良くするため補正する。
ポイント;
・ 大抵縦長になってしまっているので、一番上下の六角形を潰す。
・ 上下、左右は線対象なので、対称性に注意する。
・ 垂直な線、水平な線をしっかり押さえる。
・ ここで定規入れをする。
6. 二重結合を描き加える。
ポイント;
・ 左右対称・上下対称に描くと綺麗で、間違えない。
・ まずど真ん中にナフタレンを描き、順に炭素の手が4本であるように描くと間違えない。
・ ルールを決めて描く;例えば「六角形の中にしか二重結合は描かない」等とすると間違えないし綺麗に描ける。
以上で
完成!!
なんとこれだけでややこしいフラーレンが描けてしまうのです!
ね?簡単でしょ?
描いた構造式で遊ぶ
せっかくフラーレンを描いたのだから、これを改造して誘導体にしてみましょう。
例えばフラーレン誘導体として有名な[60]PCBMという化合物なら、上図の一番下のベンゼン環の1つの二重結合を解いて、シクロプロパンを作って・・・
手描きしたPCBMの構造式
とすれば出来上がり!
初見で見せられると「パソコンじゃなきゃ描けないだろう・・・」という感じのこんな化合物も、簡単に描けてしまうのです!
※ [60]PCBM(フェニルC61酪酸メチルエステル)
有機薄膜太陽電池のn型半導体材料。
有機化合物なのに、n型の半導体になります。
なぜなら長い共役系を持つフラーレンユニットは比較的安定に電子を受け取ることができるからです。
わざわざフェニル基を付けたりエステルにしたりしているのは、有機溶媒に溶けやすくするためです。
(ただのフラーレンは一般的な有機溶媒に溶けない。)
◎ アルドリッチ社HPのPDFファイルにたくさんのフラーレン誘導体が載ってます。
『有機薄膜太陽電池の基礎』アルドリッチ社
フラーレンが今回のような描き方で載っています。
今回は2つの平面構造式;五角形が中心のものと、ナフタレンが中心のものを紹介しましたが、このPDFファイルにはベンゼンが中心に描かれているものもあります。
誘導体に応じて見やすい角度にしているようですね。
◎ ここまで頑張った後に言うのもなんですが、パソコンだと超簡単に描けます。
パソコンでの描き方は次回紹介します。
→ 次回記事;『誰でもできる!フラーレンの描き方【パソ描き】』
先日大分県に旅行に行きました。
別府で地獄めぐりをば。
大分県の別府には温泉地帯があり、いくつかの温泉が赤色や青色に色づいていたり、間欠泉になっていたりするため「地獄地帯」と呼ばれています。
"地獄"は「血の池」「海」「山」「鬼山」「竜巻」「かまど」「坊主」「白池」の8つあります。
温泉は無機化合物の宝庫。
もちろん単なる観光だけではなく温泉化合物もチェックしてきました。
今回は彼らをいくつか紹介します。
【血の池地獄】
真っ赤な血の池地獄
2012/3/23筆者撮影
8つある"地獄"のうち最もポピュラーであろう血の池地獄。
まさに地獄、真っ赤です。
これは酸化鉄の色であるらしい。
酸化鉄には酸化鉄(II)FeO、酸化鉄(III)Fe2O3;赤鉄鉱、四酸化三鉄Fe3O4;磁鉄鉱等がある。
血の池地獄は赤色なので鉄(III)イオンFe3+系であろう。
が組成式は「Fe2O3」ではなく、水中にあるため実際は酸化水酸化鉄(III)FeO(OH)系の化合物だと思います。
高校でも習う水酸化鉄(III)Fe(OH)3が脱水縮合したコロイド;Fe2O3・nH2Oのような形で水中に分散しているのかもしれませんね。
【海地獄】
真っ青な海地獄
2012/3/23筆者撮影
鮮やかな青色の温泉。
この青色は硫酸鉄が原因であるらしい。
硫酸鉄には、硫酸鉄(II)FeSO4と硫酸鉄(III)Fe2(SO4)3がありますが、青色なのでFeSO4系でしょう。
(Fe2(SO4)3は白~赤紫系の色です。)
【かまど地獄(3丁目)】
真っ青なかまど地獄の3丁目
2012/3/23筆者撮影
こちらも鮮やかな青色の温泉。
が、海地獄とは全く原理が違います。
かまど地獄のこの青色の原因物質は、ほぼ純粋な二酸化ケイ素(シリカ)SiO2。
しかし本来二酸化ケイ素は透明か白色の物質です。
実はかまど地獄の湯中には二酸化ケイ素の微粒子が漂っているのですが、この微粒子は数十nm~数百nmの大きさです。
高校物理Iで習いますが、この大きさの粒子は光の散乱を起こしちょうど青色の光を強めて反射します。
(◎ 短波長の青色光の方が長波長の赤色光より散乱を受けやすい。)
このように物理的な物質の構造による光の反射で湯が青く見えます。
一方、海地獄の硫酸鉄による青色は、硫酸鉄が太陽の白色光の内青色の補色(黄色)の光を吸収するからです。
(吸収する光のエネルギー(波長;色に対応)は硫酸鉄の電子の軌道間のエネルギー差に相当し、光を吸収することにより硫酸鉄は励起される。)
このように、同じ青色でも全く原理が違います。
ちなみに硫酸鉄が光を吸収するような化学的な色に対して、かまど地獄の二酸化ケイ素のような物理的構造による色を構造色と呼びます。
【山地獄】
噴気がもうもうとする山地獄
2012/3/23筆者撮影
一方大量の噴気を吐きだしている山地獄。
煙のよう見える噴気の主成分は水H2Oです。
噴気はとても熱く、地熱の力を感じさせられる。
また、噴気を嗅いでみると独特な卵の腐ったような匂いがしました。
硫化水素H2Sでしょう。
H2Sは温泉で噴出する主な気体の1つで、特有の卵の腐ったような匂い(腐卵臭)がし、有毒です。
酸素Oと硫黄Sは同族元素(周期表で同じ列)であり、水分子と硫化水素分子はとても構造が似ている親戚分子です。
酸素原子と硫黄原子が入った化合物の構造はとてもよく似ていて、相互変換も可能なことが多いですが、両者の大きな違いは水素結合形成能の有無(Oは水素結合可;融点・沸点が全然違う)、d軌道の有無(Sはd軌道アリ;Sは原子価拡張ができる)ですね。
以上のように"地獄"で色々な無機化合物と出会えました。
特にかまど地獄3丁目の二酸化ケイ素の構造色にはびっくりしました。
紹介しませんでしたが他の"地獄"も全部回って、間欠泉である竜巻地獄なんかも圧力による水の沸点上昇に起因していたりしていて面白かったです。
筆者はどこへ行っても何をしていても「化学」を探しています。
>>風合瀬様のコメントへの返信
言わずと知れた「ベンゼンのC-Cは共鳴により1.5重結合である」。
共鳴により二重結合を作るπ電子は6つのCに均等に共有され、全てのC-C結合長は等しく、その長さは単結合と二重結合の間の値。
ベンゼンの共鳴
したがって
<C-C結合次数>=[単結合]+[二重結合]
=1(重)+6(電子)÷6(原子)÷2(/対)= 1.5重結合(?)
という気もする。
が、こんな単純平均で良いのだろうか?
今回はベンゼンの分子軌道をヒュッケル法という量子化学的手法を用いて求め、個々のC原子のp軌道の"重なり"から結合次数を手計算により算出してみる。
(分子軌道・・・分子の中の電子の分布。LCAO-MO法では個々の原子の原子軌道の一次結合により表される。)
☆ 以下、仰々しい計算をしますが、計算の仕方・前提は量子力学なのでまだ習っていない方は適当に流してください。
逆に言えば、大学化学ってこんな感じです。
※ 画像が多いので表示に時間がかかったり、うまく表示されないかもしれません(そのときは「更新」してください)。
◎ ヒュッケル法によるベンゼン分子軌道(π軌道)の算出。
仮定;
・ ベンゼンは平面分子とする。
・ ベンゼンの分子軌道Ψを式(1)とする。
・・・(1)
ただし添え字1~6はそれぞれ炭素原子1~6に対応する。
またC1~C6は対応する炭素原子の原子軌道φに掛けられる係数で、規格化条件
・・・(2)
が成り立つ。
・ π軌道のエネルギーの期待値εを、変分定理を用い式(3)で定義する。
・・・(3)
ただし
とした。※ βは負の値である。β<0。
エネルギーεを最小(極小)にするC1~C6を決め、Ψを求める。
εをC1~C6で偏微分すると0になるので(∵そのCの値でεが極小になるから)
・・・(4)
一方(3)式を変形し
・・・(3)'
この(3)'式の両辺をC1~C6で偏微分したそれぞれの結果と(4)式より
・・・(連立方程式A)
となる。
ただしχは
・・・(5)
と置いた。
ここで、連立方程式Aは C1=C2=C3=C4=C5=C6=0 以外の解を持たなければならない。
したがって連立方程式Aの係数行列の行列式は0となるから、
・・・(永年方程式B)
が導かれる。(実は上の偏微分計算をしなくても一発で永年方程式を出すこともできる。)
これを計算すると、(とても綺麗に因数分解できるので、あえて途中計算を書くと)
χについて解くと、
χ = -2, -1(二重解), 1(二重解), 2
である。
したがって(5)式よりそれぞれのχの値に対するεが求まる。
χのそれぞれの値で場合分けする。
それぞれのχの値を永年方程式Bに代入し、それと式(2)を連立させた6元2次連立方程式を解き、C1~C6を求める。
※ 連立方程式Aだけでは同じ意味の式が出てきて求まらないから規格化条件:式(2)も連立させる必要がある。
代数的に解くと難しいので、分子軌道の対称性も考えて解きました。詳細は今度。
(i) χ=-2のとき(ε=ε1=α+2β)
6元2次連立方程式を解くと
したがって分子軌道は
(軌道の図はベンゼンを真上から見たときのもの。赤は+符号、青は-符号を表す。
また、数字は炭素の番号。以下同じ。)
(ii) χ=-1のとき(ε=ε2=α+β)
6元2次連立方程式を解くと
もしくは
したがって分子軌道は二組
(iii) χ=1のとき(ε=ε3=α-β)
6元2次連立方程式を解くと
もしくは
したがって分子軌道は二組
(iv) χ=2のとき(ε=ε4=α-2β)
6元2次連立方程式を解くと
したがって分子軌道は
以上より6つの分子軌道が求まった。
(合計6つの電子が各炭素原子より提供されているので、分子軌道も6つになる。)
βは負の値であるから、分子軌道のネルギーεは
ε1<ε2<ε3<ε4
であるため、安定な分子軌道Ψ1から順に2つずつ電子が組になって配置されるから、(基底状態の)ベンゼンの電子配置は次のようになる。
各軌道のエネルギーと電子の入り方。矢印は電子を表す。「↑↓」で電子二つの対。
以上よりベンゼンの分子軌道が求まった。
◎ π電子密度の算出。
炭素原子rの持つπ電子(二重結合の電子)の数(π電子密度)qrは、上で求めたΨi軌道の炭素原子rに対応する係数Cirを使って
と表される。(ただしνiはΨi軌道に入っている電子の数。「OCC」が乗ったΣは、電子の入っている全ての軌道で和を取るという意味。)
したがって各炭素原子についてqを求めると
となる。すなわち、
π電子(二重結合の電子)はどの炭素原子にも均等に1つずつ存在している。
◎ π結合次数の算出。
炭素原子rと炭素原子sの間のπ結合次数(二重結合の次数)Prsは同様にCir、Cisを用いて
と表される。(CirとCisの積を取ると言うのはその2つの炭素原子の原子軌道の重なりを評価することに対応する。)
したがって各炭素原子についてPを求めると
となる。
ここで、仮にC-Cの一本目の結合(σ結合)は完全に次数1であるとすると、上記Pに1を足したものがC-C間の結合次数になるから
となる。
したがってこれから言えることは
ベンゼンのC-C結合は全て等価で1.67重結合
である。
ということで、以上のヒュッケル法という量子化学的計算によりベンゼンのC-C結合は1.67重結合だと算出されました。
計算手法はともかくとして、手計算でも一生懸命に計算すると結合次数すら計算できるというのが面白いですね。
ちなみにWinMOPACを使ってコンピュータシミュレーションでベンゼンのπ結合次数を計算しても0.666と計算されました。
「結合次数」にも色々な定義があるため一概には言えませんが、少なくともヒュッケル法を用いるとベンゼンは1.5重結合ではないと導かれます。
また、上記の計算は隣接していない原子の影響は全くない等の仮定を置いていますが、実際はそうではないのでモデルの置き方でも色々変わってくると思います。
以上のお話からわかることは、単純平均みたいな直観的計算では結合次数を決めることはできないということです。
◎ 参考
- 『バーロー物理化学〈下〉』G.M. バーロー著, 東京化学同人; 第6版 (1999/05)
- 筆者の大学の先生が作ったとてもわかりやすいプリント
「蛍石型結晶構造」の結晶構造模型を作ったので紹介してみます。
フッ化カルシウム CaF2;蛍石型結晶構造
蛍石CaF2の現物(左)と蛍石型結晶構造模型(右)
【蛍石型結晶構造】
MX2型の塩で、かつイオン半径比が0.73以上である場合に見られる。
上図では灰色がM2+、赤色がX-である。
※ 陰イオンと陽イオンの半径の比で結晶構造は変わる;『結晶 ~限界イオン半径比~』も参考。
蛍石型結晶構造は体心立方格子等と同じ「立方晶」と呼ばれる単位格子が立方体である結晶系に属している。
※ 単位格子は立方体とは限らない。軸がゆがんだものや、辺の長さがバラバラなものもある。例;六方最密充填。
代表的なものにM2+=Ca2+、X-=F-のフッ化カルシウムCaF2;蛍石があるためこの名がある。
フッ化カルシウムの場合なら下図のようになる。
フッ化カルシウムの蛍石型結晶構造
電荷が1:2であるからF-はCa2+の二倍の数あるため、互いの配位数は1:1ではない。
4つのCa2+が1つのF-を四面体的に囲んでいる形で、配位数はそれぞれ8:4になる。
Ca2+だけを見ると立方最密構造(面心立方格子)型の配置になっている。
※ ただしCa2+はF-より小さいためCa2+同士は触れ合っていないから厳密には違う。
Ca2+の立方最密型構造の全ての四面体空孔にF-が入っている構造である。
高校化学で面心立方格子や体心立方格子などを習うが、実際は世の中にはもっとたくさんの結晶構造がある。
特に塩は成分イオンの電荷数、半径比に違いがあるため多種多様な結晶構造を作り、そのためその結晶構造の代表的な鉱物を結晶構造の名前とすることが多い。
例えば同じMX2型の塩でも半径比が0.73と0.41の場合には二酸化チタンTiO2の金鉱石型構造(ルチル型構造)もある。
他にも、同じTiO2でもルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の三種類があるなど、結晶の化学はとても難しい。
【蛍石】
フッ化カルシウムCaF2の鉱物。
上の写真の蛍石は不純物のため緑色である。(純粋なCaF2は白色, 不純物により様々な色の物が産出される。)
蛍石は写真のように正八面体にへき開し、その名のごとく光る性質がある。
蛍石は「fluorite」というが、これがフッ素(fluorine)Fの語源になったとか。
ちなみに蛍石CaF2はフッ化水素HF、そしてそれに次ぐフッ素F2の製造原料である。
蛍石を濃硫酸で処理して蒸留するとフッ化水素の水溶液及び無水物が得られる。
(重要!)
CaF2 + H2SO4 → CaSO4 + 2HF
HFとKHF2(※1)の混合物に水が完全にない状態で(※2)100℃で電気分解するとフッ素が生じる。
2HF → H2 + F2
(※1) K+[HF2]-という塩で、HFだけでは導電率が低いため添加されている。
ちなみに[HF2]-はビフルオリドイオンと言い、[F・・・H・・・F]-の直線構造の陰イオン。
(※2) フッ素は酸素より酸化力が強いので、水があると酸素O2が生じてしまう。
他にも蛍石は融剤に用いられたり、色収差(光の色による屈折率の差)が小さいので光学レンズに用いられたりする。
◎ 参考
- 岩石マニアのオジサンのウンチク。(蛍石の現物の所有者、写真撮影。)
- 『リー無機化学』, リー (著), 浜口 博 (翻訳), 菅野 等 (翻訳), 東京化学同人 (1982/01)
◎ 上の結晶構造模型はHGS分子構造模型Dセット(無機化学セット)で組みました。
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