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一般向け/高校生向け楽しい化け学
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大涌谷ロープウェイから望む箱根の山々 2012/10/07筆者撮影


神奈川県の箱根に一泊二日で旅行に行って来ました。

研究室のメンバーたちと、温泉や美術館、大涌谷等を観光。

温泉ではこの匂いは硫化水素H2Sだ析出してるのは炭酸カルシウムCaCO3だと、美術館では材質は御影石だポリカーボネート[-O-C6H4-C(CH3)2-C6H4-O-CO-]nだと、大涌谷では硫黄Sだ亜硫酸ガス(=二酸化硫黄)SO2だと、無意識に化学トークを展開する変な集団でした。

楽しい2日間でした。

特に火山ガス吹き出る大涌谷では、火山性の物質たちや興味深い化学反応と出会ったので、ちょっと紹介してみたいと思います。


火山性物質~神奈川県大涌谷


山のふもとからケーブルカーに乗って山を登り、途中でロープウェイに乗り換えて頂上へ。

ロープウェイが火山ガスが吹き出る噴煙地の真上を・・・・


噴煙と硫黄:ロープウェイから 2012/10/07筆者撮影 クリックで拡大


吹き出る火山ガスの白煙!(水蒸気、硫化水素H2S、二酸化硫黄SO2など)

大量にゴロゴロしている硫黄S!(写真の黄色い物。階段や建造物との大きさと比較するといかに大量かよくわかる。)

突如現れたこの山肌に我々化学野郎たちは大興奮!

みんな硫黄硫黄と叫び写真を撮りまくりました。
(ロープウェイは我々一団で貸し切り状態になっていたので、他人に迷惑はかけてません!)


火山ガスには硫化水素H2Sや二酸化硫黄SO2が含まれています。

高校の化学でも習いますが、これらは酸化還元反応をして硫黄になります。

半反応式
H2S → S + 2H+ + 2e- ・・・・(1)
SO2 + 4H+ + 4e- → S + 2H2O ・・・・(2)

全反応式 [式(1)×2+式(2)]:
2H2S + SO2 → 3S + 2H2O ・・・・(3)

硫化水素と二酸化硫黄が含まれる高温の火山ガスが冷却されると上記反応が起こるため、硫黄が産出されるそうです。


☆ 高温条件では硫黄が水と反応して式(3)の逆反応が起こるとのこと。

だから火山ガスは冷却されて初めて硫黄を析出するそうです。



大涌谷名物「黒たまご」~火山ならではの化学反応


ロープウェイを降り、大涌谷の売店に行くと「黒たまご」なる黒いゆで卵が特産品として販売されていました。


大涌谷名物「黒たまご」 2012/10/07筆者撮影


説明書きを読んで感激!

なんとこの黒色、温泉ならではな化学反応により形成されていたのです!!

黒たまごの作り方と、段階的なその化学をご紹介しましょう!


① 約80℃の温泉池で1時間生卵をゆでる。

⇒ 気孔の多い殻に温泉池の成分である鉄分が吸着される。

⇒ さらに硫化水素が反応する。

⇒ 殻が鉄分が黒色不溶な硫化鉄FeSになり、殻が黒変する。
 Fe2+ + H2S → FeS↓ + 2H+


② 黒くなったゆで卵を蒸し釜へ移動し約100℃の蒸気で15分蒸す。

⇒ おいしい黒たまごの出来上がり!!


さっそく購入・・・うまい!!

やはりこういうのは現地で出来たてのアツアツを食べるのがおいしいですね。



大涌谷噴煙地


大涌谷は道が舗装されていて、火山ガスが吹き出る噴煙地まで近づくことができます。

目と鼻の先で噴き出す噴煙には圧巻されます。


大涌谷噴煙地 2012/10/07筆者撮影


地球の雄大さよ・・・

噴煙地へ登る途中には、湧きでる温泉でできた川や池があります。

噴煙地付近に、先の黒たまごを作る温泉池がありました。

ちょうど卵を引き上げるところが見れて幸運でした。


黒たまごを作る温泉池 2012/10/07筆者撮影


温泉池に鉄分が含まれているということと硫黄泉ということから、これら温泉池の水色は硫酸鉄(II)FeSO4、白く濁っているのはコロイド状の硫黄といったところでしょうか。

以前訪れた大分県の地獄温泉(『地獄(大分県)の化合物 』)での経験も踏まえながら考えていました。



こういうのを生で見ると地球の雄大さをつくづく感じます。

色、形、温度、匂い・・・五感をフルに使って自然を感じました。

百聞は一見に如かずと言いますが、ぜひまた色んな所を訪れたいと思いますし、読者の皆様にもオススメ致します。

旅先でも化学!!
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今回も引き続きグリーンケミストリー(Green Chemistry;GC)についてです。

→ 第一回記事『グリーンケミストリー~(1)入門編』(GC各記事へのインデックスあり)


今回は化学反応のグリーン度を表す指標である「原子利用率」、「原子経済」、「E-ファクター」について。

これらは、原料を原子のレベルで無駄なく使おうという考えのもと、生まれました。

そしてさらに、これらの指標において望ましい反応について、解説します。

未来の工業反応は、ずばり付加反応と転移反応だ!!


◎ 今回関係するグリーンケミストリーの12ヶ条

第1条. 予防
廃棄物を出してから処理するのではなく、はじめから出さない。

第2条. 原子の利用効率
原料物質中のできるだけ多くの原子が最終製品産物に残るような合成法を設計する。



化学反応の効率評価―収率・選択性―


まず始めに、従来からある化学反応の効率を表す「収率」と「選択性」から考えます。


【収率】

収率とは、化学反応式より理論的に得られる目的生成物の量に対する、実際の反応で得られた目的生成物の量の割合のことである。





実際に合成をすると、反応が100%進まなかったり、予期せぬ物質が生じたり、分離工程でロスしたりする等、理論的に得られる量は得られない。

収率の高い反応ほど効率の良い反応と言える。


【選択性】

選択性とは、実際に反応した原料から理論的に得られる目的生成物の量に対する、実際に目的生成物の量の割合のことである。





化学反応の中には、競合する反応があって目的生成物以外の生成物が生じることがある。(例:記事頭の化学反応の下式の脱離反応。求核置換反応と脱離反応は競合する。)

反応条件や触媒を工夫するなど、選択性の高い化学反応ほど効率の良い反応と言える。


以上のように、まず収率や選択性が良い反応が求められる。

これを前提に、次の「グリーン度」の評価に移ります。



グリーン度の指標―E-ファクター・原子利用率・原子経済―


さて、収率や選択性で評価した反応の「効率」は、あくまで目的生成物の得られる量だけを考えましたが、GCでは副生成物にも注目します。

GCの考え方では、副生成物、すなわち廃棄物ができるだけ生じない合成法を用いるべきです。(上記第二条)

そのため、目的生成物と副生成物の割合を評価する指標として、「原子利用率」、「原子経済」、「E-ファクター」があります。


【E-ファクター】

E-ファクターとは、目的生成物の質量に対する副生成物の質量です。

要するに、副生成物が目的生成物の何倍生じるか、ということです。





E-ファクターが小さいほど、その反応は副生成物が少なく、グリーンであるということになります。


【原子利用率】

原子利用率とは、化学反応式の右辺(生成系)の全生成物の分子量の和に対する、目的生成物の分子量の割合(%)です

要するに、全生成物の何%が目的生成物か、ということです。





原子利用率が大きいほど、その反応は副生成物が少なく、グリーンであるということになります。


【原子経済】

原子利用率の「分子量」を「式量」に読み替えたもので、同じ考え方の指標です。






E-ファクター・原子利用率の例


では具体例に参りましょう。

例えば還元剤や工業原料として重要なヒドロキノンC6H4(OH)2という物質があります。

この物質の工業的製法として、アニリンC6H5NH2を二酸化マンガンMnO2で酸化してから硫酸酸性で鉄で還元するという、式(A)の合成法が取られていました。


 ・・・・(A)

※ Mw : 分子量

この反応は、一目見てわかるように大量の副生物を生じます。

E-ファクターと原子利用率を計算すると;








となります。

言い換えると、目的生成物の4.2倍の量の副生成物を生じ、全生成物の内19%だけが目的生成物であるということです。


一方近年、フェノールC6H5OHを過酸化水素H2O2で酸化するという新反応:式(B)が発明されました。


 ・・・・(B)


従来の式(A)と比べると明らかにすっきりした反応です。

この反応のE-ファクターと原子利用率を計算すると;








となり、従来の式(A)よりとても小さなE-ファクター、とても大きな原子利用率となります。

すなわち、この新反応は副生成物(=廃棄物)が少ないよりグリーンな反応であると言えるのです。

また、副生成物が無害な水であり、これまた良い。


以上のように、E-ファクターや原子利用率を用いれば、数値的にグリーン度を評価できてとても便利なのです。



原子利用率の高い化学反応


化学反応はその形式により、置換反応付加反応脱離反応、そして転移反応の大きく4つに分けられます。

では、原料を無駄なく使うにはどの反応が理想的なのでしょうか。


【置換反応】

骨格分子上の1原子が、他の原子に置き換わる反応。

例えば、クロロベンゼンC6H5Clの工業的製法として、下式の置換反応が用いられます。





置換反応は、交換して抜け出た原子があるわけだから、必ず副生成物が生じてしまいます。

すなわち、収率100%でも必ずゴミが出て、そして絶対に原子利用率は100%になりません。


【付加反応】

骨格分子の二重結合に、他の分子を割ってくっ付ける反応。

例えば、シクロヘキサノールC6H11OHの工業的製法として、下式の付加反応が用いられます。





付加反応は副生成物が出ない!!

すなわち

E-ファクター = 0!

原子利用率 = 100%!


付加反応は、ゴミが出ないとても経済的な反応なのです。


【脱離反応】

骨格分子の持つ隣り合った原子を抜き去って、二重結合を作る反応。
(付加反応のちょうど逆)

例えば、塩化ビニルCH2=CHCl(重合すると塩ビ樹脂[-CH2-CHCl-]nになり消しゴム等に使われる)の工業的製法として、下式の脱離反応が用いられます。





脱離反応は、脱離する分子が生じるわけだから必ず副生成物が生じてしまいます。

すなわち、収率100%でも必ずゴミが出て、そして絶対に原子利用率は100%になりません。


【転移反応】

骨格分子の原子が移動し構造が大きく変わる反応。

例えば、ε-カプロラクタムC6H11NO(重合するとナイロン6)の工業的製法として、下式の転移反応が用いられます。





転移反応は副生成物が出ない!!

すなわち

E-ファクター = 0!

原子利用率 = 100%!


転移反応も、ゴミが出ないとても経済的な反応なのです。


※ オキシム(>C=N-OH)がアミド(-CO-NH-)に変化する転移反応をベックマン転移といいます。

ちなみに、触媒としてゼオライトを用いた気相ベックマン転移によるε-カプロラクタム製造反応は高収率・省エネ・省資源・低副成物とのこと。

これを開発した住友化学は、グリーン・サステイナブル ケミストリー賞を受賞していて、上式はまさにグリーンケミストリーな化学反応なのです。


以上のように、付加反応と転移反応は副生成物を生じない、原子の利用効率が高い理想的な反応です。

これからの時代は、単に収率が良い反応を求めるのではなく、副生成物が少ないもしくは生じない合成反応を開発していかなければなりません。

また、副生成物が少ないことは、廃棄物の危険性/廃棄物処理の費用が少なくなることにもつながり、環境にも人にも安全で、経済的にもプラスになります。



参考






グリーンケミストリー」という言葉をご存知でしょうか。

もちろん「緑色の色素を研究する化学」ではありません。

「グリーン」は「環境」的な意味で、「グリーンケミストリー」とは「環境に優しいものづくりを目指す化学」という意味です。

現代の化学工業に絶対必要になってくる大切な概念です。

これから数回にわたり、グリーンケミストリーにスポットを当てて記事を書いていきたいと思います。

第2回:『グリーンケミストリー~(2)原子の利用効率

第3回:『グリーンケミストリー~(3)生合成/生分解プラスチック


グリーンケミストリーとは


グリーンケミストリー(green chemistry:GCと略す)とは、化学製品の設計段階から廃棄されるまでの全ライフサイクルにわたって、ヒトや生態系への悪影響を最小限にしながら経済的・効率的にものを作ろうという活動のこと。

簡単に言えば「環境に優しいものづくりを目指す化学」という意味です。

ポイントは、化学製品そのものがヒトや環境に悪影響を及ぼすかどうかだけでなく、その製造プロセスにおける被害も考慮するところです。

GCは20世紀に浮上した化学工業の問題;公害、環境問題、資源の枯渇、エネルギー問題、化学工場事故...等を反省し、提案された概念。

わざわざ環境配慮をするため製造コストが増してしまう恐れがありますが、うまくすればむしろコスト削減もでき、経済的な利点もあります。

これからの化学には絶対必要となってくる概念です。



グリーンケミストリーの12ヶ条


1994年、GCの具体的な行動目標として、次の「グリーンケミストリーの12ヶ条」が提案されました。

  1. 予防
    廃棄物を出してから処理するのではなく、はじめから出さない。


  2. 原子の利用効率
    原料物質中のできるだけ多くの原子が最終製品産物に残るような合成法を設計する。


  3. 毒性の少ない方法
    可能な限り環境や人間に対して毒性の少ない物質を使って合成する。


  4. 安全な化学物質の設計
    機能が同じならできるだけ毒性の少ないもの使用する。


  5. 安全な溶媒や反応補助物質
    溶媒や分離のためにはできるだけ毒性の少ない物質を使う。


  6. エネルギー効率の向上
    化学プロセスのエネルギー消費は環境への影響、経済性を考慮して最小限にする。


  7. 再生可能な原料
    技術的に可能で経済性もあるなら、枯渇性資源ではなく再生可能な原料を使う。


  8. 化学修飾の削減
    反応の効率化等のための官能基の修飾は、余分の薬品を要し廃棄物も増やすので、できるだけ避ける。


  9. 触媒の活用
    選択性の高い触媒は反応の効率を高めるのに優れている。


  10. 環境中で分解する製品
    化学製品は使用後、無害なものに分解し、残留性がないようにすべきである。


  11. 汚染防止のためのリアルタイムの分析
    化学プロセスにおいて、有害物質の生成をモニター、制御するにはリアルタイムで計測する分析法が必要である。


  12. 事故予防のための本質的な安全性
    爆発、火災、有害物質の漏出等の事故が起こらないような方法を取る。




グリーンケミストリーの具体例


次回記事からグリーンケミストリーの例を詳しく挙げていきますが、グリーンケミストリーの考え方が具体的にどういったものなのか一例をあげて説明します。

例えばp-アセトアニソールCH3COC6H4OCH3の工業的製法として、今まで下の(1)式の反応が用いられてきた。

 ・・・(1)

※ 「-Me = -CH3」です。よく用いられるので覚えておきましょう。

この反応にはいくつか問題点がある;

  1. 危険な塩化アセチルCH3COClを用いる。


  2. 強酸であり、後処理が必要な塩化水素HClが生じる。


  3. ジククロメタンCH2Cl2等、有害な溶媒を用いる。


  4. 触媒である塩化アルミニウムAlCl3は生成物と錯体を作り、等量分消費され実質「触媒」として機能しない。


  5. 4のため、生成物の加水分解操作が必要。


  6. 塩化アルミニウムや塩酸、溶媒等を含む廃液が大量に生じる。(製品1 kgあたり4.5 kgの水系排出物)


  7. 収率は85~95%で、良いとは言えない。


  8. 単位操作(反応、後処理、分離など)が12プロセスもある。


したがって、12ヶ条で言うところの1条(廃棄物処理)、3条(毒性)、5条(有害溶媒)、9条(触媒)に合致せず、環境に優しいグリーンな反応とは言えない。


そこで、p-アセトアニソール製造法として(2)式の新反応が考案され、実用化に成功した。

 ・・・(2)

この反応には次のような利点があり、(1)式の反応を改善している;

  1. 溶媒が必要ない。


  2. 比較的安全な酢酸しか副生しない。


  3. ゼオライトH-βは固体酸触媒として働き、消費されず再利用できる。


  4. H-βは不溶性の固体なので、ろ過だけで分離できる。


  5. 廃棄物が少ない。(製品1 kgあたり0.035 kgの水系廃出物。しかも水99%・酢酸0.8%。)


  6. 収率が95%で優秀。


  7. 単位操作が2プロセスしかない。


したがって環境に与える負荷は小さく、グリーンな製造反応だと言える。

しかも、上記新反応ではプロセスが少なく触媒の再利用もできるため、より低コストで製造ができそうである。

このように、危険な溶媒を必要としたり、廃棄物や反応剤等の無駄が出る反応を改善し、あわよくば経済性もアップさせるのがグリーンケミストリーである。


以上一例を示したが、GCはもっともっと奥深い。

次回からGCの様々な面を紹介していきます。


第2回:『グリーンケミストリー~(2)原子の利用効率

第3回:『グリーンケミストリー~(3)生合成/生分解プラスチック


参考文献




「上手な人が作ると、グリニャール試薬は銀色透明な液体になる――」

以前、ある講義で有機合成の教授がそうおっしゃった。


(そんな馬鹿な・・・・)

我々学生たちは一斉にそう思った。

当時学生実験で臭化フェニルマグネシウムというグリニャール試薬の一種を調製したのだが、全員が全員茶色や肌色に濁った汚い液体になった。

だから「銀色で透明なグリニャール試薬」は我々の間では神話と化していた・・・・



今日の分子No.80 :臭化フェニルマグネシウム C6H5MgBr (+2THF)


ChemDraw Ultraで作図、Jmolで描画。
※ 緑:Mg, 茶:Br


ブロモベンゼンC6H5Brと金属マグネシウムから調製される、最も一般的なグリニャール試薬の1つ。

基本的に金属Mgにブロモベンゼンのエーテル溶液を混ぜるだけ。(あと活性剤として少量のヨウ素I2を入れる。)



臭化フェニルマグネシウムの調製 ※配位している溶媒は省略


なんと金属のマグネシウムがブロモベンゼンを滴下するとみるみる溶けていくという、不思議な反応なのである。


◎ グリニャール試薬の構造

普通は上反応式のように溶媒分子を省略するが、実際は上分子模型のように溶媒(主にエーテル)二分子がMgに配位してオクテット則を満たすようになっている。



THF(テトラヒドロフラン;C4H8O)が配位した構造。


さらに濃度や構造によっては、ジャングルジム型の多量体を作るなど複雑な構造を取る。


グリニャール試薬とはR-Mg-Xの構造を持つ有機金属化合物
(Rはアルキル基やアリール基。XはBr、I等のハロゲン。色々種類がある。)

最近はグリニャール反応剤、グリニア等とも呼ばれる。

炭素-マグネシウム結合があることがポイント。

高校化学では出てこなくて奇妙に思えるかもしれないが、このような炭素-金属結合がある化合物を有機金属化合物という。


グリニャール試薬の面白い所は、マグネシウムが炭素より電気陰性度が小さいため、炭素がδ-に帯電していることである。

これによってグリニャール試薬の炭素はδ+に帯電している部分を攻撃することができる。

すると新しいC-C結合を形成することができる。

例えば臭化フェニルマグネシウムをホルムアルデヒドHCHOと反応させ、後処理として酸を加えるとベンジルアルコールC6H5OHが生成するだろう。



グリニャール試薬の反応例 ~マイナスとプラスは引きあう~


このように、グリニャール試薬は重要な反応剤なのである。



一方グリニャール試薬は水や空気・熱等に弱く、基本的に単離はできず、保存は難しい。

調製して直ぐに反応物と反応させなければならない。
(種類によっては比較的安定で保存が可能な物もある。)

調製時は絶対禁水。

水が混ざると反応して潰れてダメになってしまう。

また反応熱が結構出るのだが、温度が上がり過ぎてもグリニャール試薬は死んでしまう。

その一方で、温度が低いとグリニャール試薬の生成反応が進行しないため、シビアな温度管理が必要になってくる。

失敗すると茶色などに濁った汚い液体ができてしまい、次の反応の収率が悪くなる。

混ぜる速さ、タイミング、濃度、温度・・・・・

このように、グリニャール試薬の調製は熟練の感覚が必要で難しいのだ。


が、うちの研究室に「グリニア作り名人」と呼ばれる先輩がいらっしゃるのだ。

先日グリニャール試薬を調製する必要があった時、その繊細な作り方を伝授していただいた。

まず先輩の操作を見て学んで、自分の頭の中でイメージして、そして自分ひとりでそれを実践してみると・・・・

伝説の銀色透明のグリニャール試薬ができたよーーー!!!

以前学生実験の時に完敗した反応だけあって、リベンジとなるこの成功は最高にテンションの上がるものでした。

それ以来何度かグリニャール試薬を調製していますが、今のところ百発百中で成功しています!

では気になるその方法とは・・・


はぁ!?教えてやるわけねーよ!糞して寝な!(言い過ぎ。)


これは我が研究室に代々受け継がれている秘伝の調製法。

それに、もし文章に書いてもそれは伝わらない。

実際の操作を見て、微妙な溶媒量、混合速度、タイミング、全てを体で覚えなければならない。

化学実験はそういうところがあり、徒弟が住み込みで職人からワザを伝授されるように、体を使ってモノにする必要がある。

化学は紙の上だけでできるような簡単な学問ではないのです。



◎ 参考



さて、4月も終わり。

4月と言えば桜ですね。

今年も大学のキャンパスは美しい桜が満開でした。

ということで私のPCの今月の壁紙は、桜にまつわる分子「シアニジン」でした。

今回はこの分子を紹介します。


今日の分子No.79 :シアニジン C15H11O6+


ChemSketchで作図、Jmolで描画
※ 手が三本あるO原子(赤色)が正電荷を持っています。
(図はフラビリウムカチオン構造;後述)


植物に含まれているアントシアニン類の色素の一種。

イチゴ、リンゴの皮、サクランボ等の色の一因。

桜にも含まれている。

植物生体に含まれている時は、シアニジンのヒドロキシ基-OHに糖類が結合している形などで存在している。



シアニジンはpHに敏感で、pHによって劇的に色が変わる。

例えば、ケシの樹液は酸性なので花は赤色に色づきますが、ヤグルマギクはアルカリ性なので青色になります。

ある植物は受粉前後で樹液のpHを変えて花の色を変化させて、受粉後は虫に見つからないようにするものもあるとか。

1つの物質を無駄なくうまく使っている自然の凄さがわかる分子である。

「ムラサキキャベツでpH指示薬を作る」という小中学校の理科の実験がありますが、そのムラサキキャベツの色素も実はシアニジンです。
(他にも類似な構造のアントシアニン系色素が入っているようです。)

・・・というように、シアニジンは身の回りにたくさんあり、pHによってドラマチックに変色する不思議な分子なのです。



ではなぜシアニジンはpHによって色を変えるのでしょうか。

3位のヒドロキシ基に単糖であるグルコースが結合したシアニジン;C3Gを例にとって考えてみます。

C3Gは下図の4つの構造と化学平衡にあります。



シアニジン(C3G)の四つの構造。(Rはグルコース残基。)
*ただしキノン型塩基(Quinoidal base)構造のC=Oになる部分は他にもパターンがある。


これらは下式のように水酸化物イオンOH-が関する化学平衡の関係にある。
水素イオンH+を用いて逆方向に平衡の式を書くことも可能。)



シアニジン(C3G)の化学平衡と平衡化学種の色。


ルシャトリエの原理により、水酸化物イオンの濃度が大きくなると平衡は右向きに偏っていきます。

すなわち、pHが変わると存在するシアニジン化学種の濃度比が変わり、水溶液の色が変わるのです。


※ 注意!

「化学平衡」の関係にあるので、アルカリ性にしたからと言って完全にフラビリウムカチオン(Flavylium cation)構造がなくなるわけではない。

どんなpHでもどの構造のシアニジンもいくらかは存在する、という化学平衡の概念を念頭に置いておこう。



では「なぜちょっと構造が変わると色が変わってしまうのか?」というところに興味が湧いてくる。

上図の4つの化学構造を眺めてみると、単結合と二重結合が交互に並んだ構造(共役系)の長さや様子が変わっていることがわかる。

実はこの共役系の長さ・様子が物質の色を支配する要因の1つ。

長く、美しいベンゼン環様の共役系を持つフラビリウムカチオン構造は青緑の光を吸収することで、残った鮮やかな赤色をしている。

一方、分子の真ん中辺りで共役系が分断されてしまっているカルビノール疑似塩基(Carbinol pseudobase)構造は可視光を吸収することができず無色である。


シアニジンは、その構造と色、光、pHが応答・関係し、自然の凄さを感じさせてくれる面白い物質なのである。



◎ 参考



>>shin1さんのコメントへの返信
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