一般向け/高校生向け楽しい化け学
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今回も引き続きグリーンケミストリー(Green Chemistry;GC)についてです。

→ 第一回記事『グリーンケミストリー~(1)入門編』(GC各記事へのインデックスあり)


今回は化学反応のグリーン度を表す指標である「原子利用率」、「原子経済」、「E-ファクター」について。

これらは、原料を原子のレベルで無駄なく使おうという考えのもと、生まれました。

そしてさらに、これらの指標において望ましい反応について、解説します。

未来の工業反応は、ずばり付加反応と転移反応だ!!


◎ 今回関係するグリーンケミストリーの12ヶ条

第1条. 予防
廃棄物を出してから処理するのではなく、はじめから出さない。

第2条. 原子の利用効率
原料物質中のできるだけ多くの原子が最終製品産物に残るような合成法を設計する。



化学反応の効率評価―収率・選択性―


まず始めに、従来からある化学反応の効率を表す「収率」と「選択性」から考えます。


【収率】

収率とは、化学反応式より理論的に得られる目的生成物の量に対する、実際の反応で得られた目的生成物の量の割合のことである。





実際に合成をすると、反応が100%進まなかったり、予期せぬ物質が生じたり、分離工程でロスしたりする等、理論的に得られる量は得られない。

収率の高い反応ほど効率の良い反応と言える。


【選択性】

選択性とは、実際に反応した原料から理論的に得られる目的生成物の量に対する、実際に目的生成物の量の割合のことである。





化学反応の中には、競合する反応があって目的生成物以外の生成物が生じることがある。(例:記事頭の化学反応の下式の脱離反応。求核置換反応と脱離反応は競合する。)

反応条件や触媒を工夫するなど、選択性の高い化学反応ほど効率の良い反応と言える。


以上のように、まず収率や選択性が良い反応が求められる。

これを前提に、次の「グリーン度」の評価に移ります。



グリーン度の指標―E-ファクター・原子利用率・原子経済―


さて、収率や選択性で評価した反応の「効率」は、あくまで目的生成物の得られる量だけを考えましたが、GCでは副生成物にも注目します。

GCの考え方では、副生成物、すなわち廃棄物ができるだけ生じない合成法を用いるべきです。(上記第二条)

そのため、目的生成物と副生成物の割合を評価する指標として、「原子利用率」、「原子経済」、「E-ファクター」があります。


【E-ファクター】

E-ファクターとは、目的生成物の質量に対する副生成物の質量です。

要するに、副生成物が目的生成物の何倍生じるか、ということです。





E-ファクターが小さいほど、その反応は副生成物が少なく、グリーンであるということになります。


【原子利用率】

原子利用率とは、化学反応式の右辺(生成系)の全生成物の分子量の和に対する、目的生成物の分子量の割合(%)です

要するに、全生成物の何%が目的生成物か、ということです。





原子利用率が大きいほど、その反応は副生成物が少なく、グリーンであるということになります。


【原子経済】

原子利用率の「分子量」を「式量」に読み替えたもので、同じ考え方の指標です。






E-ファクター・原子利用率の例


では具体例に参りましょう。

例えば還元剤や工業原料として重要なヒドロキノンC6H4(OH)2という物質があります。

この物質の工業的製法として、アニリンC6H5NH2を二酸化マンガンMnO2で酸化してから硫酸酸性で鉄で還元するという、式(A)の合成法が取られていました。


 ・・・・(A)

※ Mw : 分子量

この反応は、一目見てわかるように大量の副生物を生じます。

E-ファクターと原子利用率を計算すると;








となります。

言い換えると、目的生成物の4.2倍の量の副生成物を生じ、全生成物の内19%だけが目的生成物であるということです。


一方近年、フェノールC6H5OHを過酸化水素H2O2で酸化するという新反応:式(B)が発明されました。


 ・・・・(B)


従来の式(A)と比べると明らかにすっきりした反応です。

この反応のE-ファクターと原子利用率を計算すると;








となり、従来の式(A)よりとても小さなE-ファクター、とても大きな原子利用率となります。

すなわち、この新反応は副生成物(=廃棄物)が少ないよりグリーンな反応であると言えるのです。

また、副生成物が無害な水であり、これまた良い。


以上のように、E-ファクターや原子利用率を用いれば、数値的にグリーン度を評価できてとても便利なのです。



原子利用率の高い化学反応


化学反応はその形式により、置換反応付加反応脱離反応、そして転移反応の大きく4つに分けられます。

では、原料を無駄なく使うにはどの反応が理想的なのでしょうか。


【置換反応】

骨格分子上の1原子が、他の原子に置き換わる反応。

例えば、クロロベンゼンC6H5Clの工業的製法として、下式の置換反応が用いられます。





置換反応は、交換して抜け出た原子があるわけだから、必ず副生成物が生じてしまいます。

すなわち、収率100%でも必ずゴミが出て、そして絶対に原子利用率は100%になりません。


【付加反応】

骨格分子の二重結合に、他の分子を割ってくっ付ける反応。

例えば、シクロヘキサノールC6H11OHの工業的製法として、下式の付加反応が用いられます。





付加反応は副生成物が出ない!!

すなわち

E-ファクター = 0!

原子利用率 = 100%!


付加反応は、ゴミが出ないとても経済的な反応なのです。


【脱離反応】

骨格分子の持つ隣り合った原子を抜き去って、二重結合を作る反応。
(付加反応のちょうど逆)

例えば、塩化ビニルCH2=CHCl(重合すると塩ビ樹脂[-CH2-CHCl-]nになり消しゴム等に使われる)の工業的製法として、下式の脱離反応が用いられます。





脱離反応は、脱離する分子が生じるわけだから必ず副生成物が生じてしまいます。

すなわち、収率100%でも必ずゴミが出て、そして絶対に原子利用率は100%になりません。


【転移反応】

骨格分子の原子が移動し構造が大きく変わる反応。

例えば、ε-カプロラクタムC6H11NO(重合するとナイロン6)の工業的製法として、下式の転移反応が用いられます。





転移反応は副生成物が出ない!!

すなわち

E-ファクター = 0!

原子利用率 = 100%!


転移反応も、ゴミが出ないとても経済的な反応なのです。


※ オキシム(>C=N-OH)がアミド(-CO-NH-)に変化する転移反応をベックマン転移といいます。

ちなみに、触媒としてゼオライトを用いた気相ベックマン転移によるε-カプロラクタム製造反応は高収率・省エネ・省資源・低副成物とのこと。

これを開発した住友化学は、グリーン・サステイナブル ケミストリー賞を受賞していて、上式はまさにグリーンケミストリーな化学反応なのです。


以上のように、付加反応と転移反応は副生成物を生じない、原子の利用効率が高い理想的な反応です。

これからの時代は、単に収率が良い反応を求めるのではなく、副生成物が少ないもしくは生じない合成反応を開発していかなければなりません。

また、副生成物が少ないことは、廃棄物の危険性/廃棄物処理の費用が少なくなることにもつながり、環境にも人にも安全で、経済的にもプラスになります。



参考


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