一般向け/高校生向け楽しい化け学
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「有機化学の歴史と化学者 第四弾」
4日間続けた『有機化学の歴史と化学者』特集の連載一旦ラスト。
今回の話題は「ノーベル賞の設立」
取れに伴い、関連する分子を「今日の分子」としてあげます。
「今日の分子」No.10、ニトログリセリン C3H5(ONO2)3
Jmolで描画
もう少し正式な名前を言うと三硝酸グリセリン。
すなわちグリセリンと硝酸3つからなる硝酸エステルということ。
よく間違われるが、ニトログリセリンは「ニトロ」と名が付くがニトロ化合物ではない。
ニトロ化合物とはR-NO2の部分を持つ有機化合物で、ニトログリセリンはR-O-NO2という構造を持っている硝酸エステルである。
しかしニトロ化合物も硝酸エステルもとても不安定で、さらに分子内に酸素原子をたくさん持っているため空気がなくとも少しの摩擦や衝撃で爆発する。
ニトログリセリンもとても不安定であり、1846年に初めて合成されたときわずか一滴を加熱するとビーカーが割れて吹き飛んだという。
そのときはあまりにも不安定であるため爆薬としての実用化は不可能であるとされた。
しかし不可能を可能にする者が天才と呼ばれる者である。(と思う。)
1866年、スウェーデン生まれの化学者アルフレッド=ノーベルはニトログリセリンを珪藻土にしみこませて安定化し、ダイナマイトを発明した。
ノーベルはダイナマイトの発明前、ニトログリセリンの研究中に弟と5人の助手を失っている。
彼は安全な爆薬を作るため努力し、そして衝撃などに安定なダイナマイトを開発した。
しかしダイナマイトは戦争に使われ、むしろ人殺しの兵器として使われ、さらに彼は皮肉にもそれで莫大な利益を得てしまった。
自分の発明が人殺しに使われ心を痛めた彼は、その財産を使ってノーベル賞を設立した・・・
・・・っと子供向けの伝記や、お話で言われたりするが、これはあまりにも美化しすぎである。
実際は実業家として武器製造工場を買い取ったり、ダイナマイトの軍事利用の利権をかけて裁判を起こしたこともあった。
彼の恋人が平和主義者だったことが、ノーベル平和賞の設立のきっかけになったとかなんとか。
ちなみに「ノーベル数学賞」がないのは彼の知り合いにダイッキライな数学者がいたからだとか。
ニトログリセリンは個人的に思い入れが強い物質です。
これはダイナマイトとして殺人兵器に使われることが有名だが、実は人の命を助ける薬にもなる。
ニトログリセリンには血管拡張作用があり、重要な強心剤である。
子供のころこれを知った筆者はその二面性にとても複雑な思いを抱いた。
「悪い化学物質」や「正義の化学物質」なんてものはない。
化学物質を正しく使うも悪しく使うも人間次第である。
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「有機化学の歴史と化学者 第三弾」
今日は特異な性質を示す不飽和化合物;芳香族炭化水素の発見について。
「今日の分子」は高校でも習い、かなり重要であるその代表例のベンゼン。
「今日の分子」No.9、ベンゼン C6H6
Jmolで描画
正六角形に並ぶ炭素同士が単結合と二重結合を交互にした分子。
そしてその単結合-二重結合はクルクルと回る、と表現される。
もしくは「1.5重結合」をした分子として表現される。
現代の量子化学的に言うと厳密には後者の表現が事実に近い。
ベンゼンの構造 |
ベンゼンの面白いところは二重結合があるはずなのに普通の条件では付加反応をしない点にある。
たとえば二重結合を持つヘキセンでは、臭素水を加えるだけでもジブロモヘキサンになってしまう。
しかしベンゼンでは、むしろ置換反応が起きてしまう。
なぜかというと、「二重結合」ではなく、クルクル回っているようなイメージの「1.5重結合」になっていて、結合が安定化しているからである。
この分子を最初に発見したのは、実は電磁誘導の法則で有名なファラデーである。
しかし彼にはその化学式や構造を解くことはできなかった。
その9年もの後、ミッチェルリッヒという化学者がC6H6という分子式を明らかにした。
しかし彼にも構造はわからなかった。
その後30年以上にわたりいくつかの構造式が考案されたが、どれも駄目だった。
なぜこんなにも苦労したのだろうか。
それはベンゼンが不飽和結合を持っているだろうのに、付加反応をしなかったからである。
当時は全くそれが理解できず「不飽和結合はないのだろう」と考えたが、それには無理があったからである。
しかし1865年、ケクレによってついにその構造が考案された。
「二重結合と単結合が交互に並び、それがめまぐるしく回っている」というケクレ構造式。
そして、だから二重結合としての性質は変わっているという理論である。
今日は「回っている」というのは間違っていて、常にその平均、まさに「1.5重結合」をしていると考えられている。
しかし彼の理論は今となってはその点少し微妙であるが、量子化学のなかった当時で考えると理にかなっていると言えた。
ベンゼン・ベンゼン環は有機化学で非常に重要なものであり、この発見でベンゼン置換体の異性体の数は矛盾無く説明できるようになり芳香族化合物の整理・体系化が可能となった。
ケクレのフルネームは「フリードリヒ・アウグスト・ケクレ・フォン・シュトラードニッツ」である。
長い・・・覚えれねぇ・・・
もし筆者がこの名前なら、テスト5教科受けたらひとつは自分の名前のスペルを間違える自信がある。
また、彼のベンゼン構造式の発想について、「夢の中で自分の尾を噛んだ蛇がグルグル回っていた。」という逸話は非常に有名である。
あまりにも有名すぎる伝説で、筆者の高校化学の教科書にも載っていた。
しかしこれは彼が自分の講義にユーモア性を持たせるための持ちネタとしてでっち上げたウソ話だと言われたりするが、本人がそう言ってるんだしまあいいじゃないかと思う。
彼は実は昨日紹介したリービッヒの弟子である。
彼は最初ギーセン大学に建築学を学びに入学した。
当時ギーセン大学にはリービッヒが勤めていた。
彼はリービッヒの有機化学の講義を聴き、とても感動して一旦退学し、有機化学専攻で入りなおしリービッヒの門下生となった。
彼は他にも炭素の原子価が4であるなど、重要な発見をしている。
気づいたんだけど、この3日間は化学史の話をしているというよりか、リービッヒにまつわる筆者のダイスキ化学者特集になってしまっている気がする・・・
特にリービッヒについては一日で書ききれないほどネタがある。
細かいことは今度「化学者特集」の項目を作ってまとめようかな。
若干脱線気味なことだし、この「有機化学の歴史と化学者特集」はとりあえず明日書いて休刊にしようかな。
「有機化学の歴史と化学者 第二弾」
今日紹介する有機化学の歴史は、「異性体の発見」について。
それについて、今回の「今日の分子」は雷酸。
「今日の分子」No.8、雷酸 HCNO
WinMOPACで計算・描画 ※2010/10/7修正
この雷酸のHと銀が置き換わった雷酸銀AgCNOが、今回のポイント。
昨日紹介した「今日の分子No.6」のシアン酸アンモニウムを見てください。
このアンモニウムイオンの代わりに銀イオンの場合はシアン酸銀AgOCNです。
すなわち、雷酸銀もシアン酸銀も、どちらもAg,O,C,Nがひとつずつからなる異性体です。
化学者ヴェーラーは昨日のブログのようにシアン酸塩を研究していて、一方リービッヒは雷酸塩を研究していた。
当時はまだ異性体という概念はなく、あるひとつの分子式であらわされる化合物はただ一通りに決まる、と考えられていた。
しかし雷酸銀には爆発性があるが、シアン酸銀にはない。
この二つの物質は明らかに違う性質を示し、分子式は同じだが異なる物質、すなわち異性体であるとこの二人の化学者は結論付けた。
この二つの物質は無機化合物であるが、この異性体という概念を導入することでたくさんの異性体を持つことが多い有機化合物の研究の発展に大きな恩恵をもたらした。
ユストゥス=フォン=リービッヒは筆者がもっとも尊敬する化学者です。
ヴェーラーとともに19世紀最大の化学者といわれ、有機化学の確立に大きく貢献した。
リービッヒ教授はすごい。
今もとても基本的で重要な有機化合物群の「アルデヒド」というのも、リービッヒのネーミングらしい。
そして有機化学であまりに重要な「官能基」という概念もリービッヒが使い出した。
しかし!なぜかヴェーラーと比べてちょっとマイナーである。
でも実は高校の教科書にも載っている。
リービッヒ冷却器、という実験器具をご存知だろうか。
「下から入れて上から出す」という有名なフレーズのやつである。
リービッヒ冷却器 |
ちなみにリービッヒとヴェーラーは仲良しで、多くの共同研究をしている。
共同でベンズアルデヒドの研究をしてベンゾイル基を見つけたり、尿酸・尿素の研究をしてヴェーラーは「異性化」と、例の「有機化合物初合成」の理論を作り上げたのである。
特にリービッヒはヴェーラーのことが大好きらしく、彼の論文(の日本語訳)を見ると、「ヴェーラー博士は・・・」「ヴェーラー教授によると・・・」という脚注がいーーっぱい出てくる。(ちなみにヴェーラーが三歳年上)
他にもリービッヒは、子供のころ学校の勉強よりも化学のほうが大好きだったので成績が悪かったり、中学校に爆薬を持って行って爆発させて中退になったりした。
そして仕方なく彼は隣町の薬剤師の元へ修行へ(要するに職業指導である)行った。
そこで彼は屋根裏部屋を貸してもらったのだが、またしても彼はその爆薬を誤爆させてしまい怒られまくって追い出されて実家へ・・・
とても人間味があって面白い人物だと思いませんか?
ちなみにその「爆薬」というのは上で紹介した雷酸塩である。
そして1826年、23歳の若き化学者は「異性体」の概念を発見した――
「有機化学の歴史と化学者 第一弾」後半(前半)
「今日の分子」No.7、尿素 (NH2)2CO
Jmolで描画
人間の尿に含まれるので尿素と呼ばれる。
たんぱく質が分解するとアンモニアが出てくるが、アンモニアは有毒なので肝臓で二酸化炭素と反応させて尿素とし、無害化させ尿として排出している。
この分子は人類が始めて無機化合物から合成した有機化合物である。
1828年、フリードリヒ=ヴェーラーは前半で紹介した無機化合物シアン酸アンモニウムの水溶液を加熱することで有機化合物である尿素を作り出した。
NH4OCN → (NH2)2CO
それまでは有機化合物は生物にしか作り出せないと信じられていた。(生気説)
しかしもちろんそんな事はなく、このようにヴェーラーはその説をぶち破り、当時の学会に大きな衝撃を与えた。
そして彼は有機化学の父と呼ばれ、今日の教科書にも必ずその名と反応が載るほどの大有機化学者となった。
ちなみに多くの教科書には「ヴェーラー」ではなく「ウェーラー」と書かれていると思う。
間違いか?と言われるとそういうわけではない。
彼はドイツ人で「Woehler」という名前なのだが、ドイツ語では"W"はヴァ行の発音をするのでヴェーラーと読む。
しかしこれを今の自然科学の世界で一般的な言葉である英語で読むと「ウェーラー」になるので日本語の教科書にも英語読みで書かれている。
だが、まあヴェーラー本人に言わせれば、「ウェーラー」は間違いなんだろうなぁ・・・
「有機化学の歴史と化学者 第一弾」前半
今日から数日間は有機化学の歴史と化学者について特集します。
今日は初めて人工的に合成された有機化合物について。
それに関連する分子を「今日の分子」No.6とNo.7を一挙にあげます。
(今日の分子No.7は次の記事)
「今日の分子」No.6、シアン酸アンモニウム NH4+ -OCN
WinMOPACで計算・描画
左のアンモニウムイオンと右のシアン酸イオンからなる塩である。
アンモニウムイオンとシアン酸イオンは共有結合ではなくイオン結合(+と-がクーロン力で引き合っているだけの結合)なので、上の図では結合の線は描かれていない。また、二重結合や三重結合は省略されて一本の線で表されている。
イオン結合とかの細かいところまでちゃんと計算して描画してくれる分子軌道計算ソフトのWinMOPACはすばらしい。
そして無機化合物であるシアン酸アンモニウムは次に挙げる有機化合物;尿素の原料となる。
(後半)
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