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一般向け/高校生向け楽しい化け学
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今日も高校で習う基礎的な分子について掲載します。

「今日の分子」No.15、酢酸 CH3COOH


Jmolで描画


日本の食卓に出てくる普通の酢の主成分。

とても酸っぱくて特有の刺激臭がある。

純粋なものは、実は非常に引火しやすくて危険物指定されている。

これはカルボン酸という有機化合物群で、カルボキシル基-COOHを持つ。

カルボキシル基は電離してH+と-COO-になり、酸である。

酢酸は金属、たとえばナトリウムと出会うと酢酸ナトリウム CH3COONa となる。

またカルボン酸R-COOHはアルコールR'-OHと出会うと脱水縮合してカルボン酸エステルR-COO-R'となる。


酢酸はエタノールが二段階酸化されたもので、

CH3CH2OH(エタノール) → CH3CHO(アセトアルデヒド) → CH3COOH(酢酸)

と段階的に酸化される。体内でもお酒を飲んだときこのような酸化が起こり、最終的に二酸化炭素になる。


ちなみに酢酸と鉛の塩の(CH3COO)2Pbの水溶液は白くて甘いシロップ状でありこれを飲むのが一時中世ヨーロッパで流行ったらしい。

しかし言わずもがな鉛が入っているため有毒であり、音楽家のベートーベンの耳が聞こえなくなったのも、ベートーベンがこの酢酸鉛を好んで飲んでいたからだという一説がある。


--以下マニアック--

カルボキシル基は水素結合が強く、また対称性が良いため気体状態の酢酸は下図の様に一部二量体となっている。


Jmolで描画


なので見かけの物質量は小さくなるので、理想気体の状態方程式 PV=nRT に全然従ってくれない。

デュマの分子量測定法や凝固点降下も理論式に全然当てはまってくれない厄介な物質である。

理論式は、あくまでとても理想的な時しか成り立たないということを実感させてくれる分子である。
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最近マイナーな分子やマニアックな分子を紹介したので、今日は基本的な分子について紹介します。

「今日の分子」No.14、メタノール CH3OH


Jmolで描画


言わずと知れた最も単純なアルコール類の化合物。

高校2年の二学期くらいに習う有機化学で出てくる。

アルコール類とは炭化水素の-Hを-OH(ヒドロキシ基)で置き換えた化合物で、一般にR-OHで表される。

一般的なアルコールと知られるエタノールはこれの炭素数が2の場合でCH3CH2-OHである。

アルコール類は水H2Oと同様に-OHの部分を持つため相性がよく、水によく溶ける。

ただしアルコールは同時に油の性質を持つ炭化水素基も分子内に持ち合わせるため、油とも相性がよい。

しかし炭素数が6、7、8・・・と増えてくると油としての性質が大きくなっているため水に溶けにくくなっている。

一方、グリセリンCH2(OH)CH(OH)CH2OHのように、分子内に多くのヒドロキシ基を持つと水への溶解度は大きくなる。

このようにアルコール類は性質が似通っているが、異なる性質もある。

たとえば、エタノールはお酒に含まれていてちょっと大人は飲んだくらいでは普通全然平気であるが、メタノールは毒性が強く失明したり死亡することもある。

しかしエタノールも大量に飲むと泥酔→死亡ということもあるので、そういう点では似通っていると言える。

またアルコールに耐性のない人は少量の飲酒でも危険な状態になる。

飲酒には気をつけましょう!


ちなみにメタノールは高圧高温・金属酸化物の触媒下で一酸化炭素と水素との混合物を反応させると合成することができる。

CO + 2H2 → CH3OH

ちなみに、一酸化炭素やメタノールなどの炭素数1の簡単な物質から炭素数のより大きな複雑な分子を合成する化学の分野を「C1化学」といい、現在工業化学の分野で重要視されている。


ちょっと書くのが遅れたが、先日一昨日9日、ハンガリーで化学工場の有毒汚泥が流出するという事故が起こった。

酸化アルミニウム工場の大型貯水池の堤防が決壊したらしい。

この汚泥には重金属が含まれていて、すでにこの事故で数人が亡くなっているらしい。

不幸にも大きくて有名なドナウ川にも流れ込んだらしく、汚泥は広い地域に広がってしまうだろう。

さらに、この汚泥が乾燥すれば粉末となり空気中に飛散し、各地へ飛散してしまう恐れもあるようだ。

また化学が叩かれる悲しいニュースである。


なぜ堤防の耐久点検をしていなかったのか。

なぜ決壊したときの最低限の安全策を構じていなかったのか。

なぜ・・・なぜ・・・


筆者は危険物取扱者や化学責任者の免許を持っていて、化学工場のタンクや配管の規定について少しは理解しているつもりだ。

法律には、きちんと点検をして保守管理をするように、っといろんな項で出てくる。

なぜこんな法律や資格があるのだろうか。

それは人の命を守るためである。

化学は、人の生活を豊かにしたり命を守ったりするが、一方でその高度で膨大な力により人を死に追いやる一面も併せ持つ。

現代の高度な技術はその知識を持っている者でなければ制御できない。

だから化け学をやる人間は、このようなことが起こらないように一生懸命勤めなくてはならない。―例え他人がその努力に気づいてくれなくとも―

このような、技術者が持つべき"当たり前"な倫理観念を「技術者倫理」という。


さて、今日は少し重くなっているが、そんな安全に関する化学の話しをしよう。

事故事例;
硝酸を入れていたアルミニウム製屋外タンクに、雨の次の日穴が開いて硝酸が漏れ出していた。

いったい何が起こったのだろうか?

まず硝酸とは、酸化力のある酸でイオン化傾向の小さな銅等の金属も溶かすことができる。


硝酸 Jmolで描画


しかしこれには面白い性質があり、濃度が濃い濃硝酸はアルミニウムや鉄を溶かすことができない。(アルミや鉄は銅よりもイオン化傾向は小さいのに!)

これはアルミニウムや鉄は硝酸と反応すると表面に緻密な酸化膜「不動態」(重要!)を作り、バリアーされるので内部まで硝酸が染み入ることができないためである。

だから濃硝酸はアルミニウムや鉄で出来たタンクに入れる。

しかし不動態を作るのは濃硝酸のときだけで、薄い希硝酸のときは鉄もアルミニウムも溶かしてしまう(もちろん銅等も)。

実はこの事故事例のタンクは、天井の点検がずさんで雨が入ってしまったのである。

すると濃硝酸が希釈されて希硝酸となり、アルミニウム製のタンク壁を溶かしてしまったのである。


このように高校生でも理解できるような原理でも事故は起こっている。

天井の点検さえちゃんとしていればこんな事故は起こらなかった。

すべきことはきちっとする、これは化学に限ったことではない。


現在先生も学生もノーベル化学賞で活気付いています。

なので先日偉大な日本人化学者二名が受賞されたノーベル化学賞の反応について掲載してみます。

今日は鈴木章先生が開発なされた「鈴木カップリング反応」について。


今から少し昔、1970年代以前は複数の有機化合物同士をくっつけて新しい化合物を作るというのは非常に難しかった。

要するに、炭素-炭素結合を新しく作り出すことが困難だった。

当時鈴木先生は有機ホウ素化合物について研究されていました。

そして1979年、パラジウム触媒と有機ホウ素化合物を使って、二種類の有機化合物同士を自由自在に結合させる夢のような化学反応「鈴木カップリング」を発明されたのです。

これはまさに夢のような反応です。

二つの有機化合物をカチッとブロック遊びのように好きに繋げることができるのです。


具体的な反応を見てみましょう。(『ウォーレン有機化学〈下〉』を参考)

①(赤)の化合物と②(青)の化合物をくっつけて③の化合物を作る反応。



まず①と有機ホウ素化合物(カテコールボラン)を反応させ、次いで水と反応させ、①'を作ります。
※ 以下の反応はわかりやすくするため副生成物を除いています。



次にパラジウムと塩基の存在下、①'と②を反応させます。



すると-B(OH)2と-Brが取れて、その代わりC-C結合ができるという結果です。

ちなみにもう少し詳しく書くと、途中パラジウムが割り込んできて、PdのBrと①'の①部分が交換されます。



ここからパラジウムだけ取れて③が生成するというカラクリです。
(PdL2の"L"はリガンド、すなわち配位子のことです。)

このような有機ホウ素化合物とパラジウムを使った一連のクロスカップリング反応を「鈴木カップリング」もしくは「スズキ・カップリング」、「鈴木-宮浦カップリング」といいます。


この反応はたくさんの用途に使用でき、画面の液晶・医薬品・その他工業的な大量生産にも使えます。

この反応は大学の教科書に当たり前のように載るほど、化学を学ぶ上で重要で必須な反応です。

もちろん筆者の教科書にも鈴木先生の名前と反応が載っています。


また筆者の或る先生は、ノーベル化学賞が発表された翌日一番に「この反応は化け学やっている人は合成が専門でなくとも絶対に知っておかなくてはならない程重要な反応です。知っているのが常識ですから、絶対に理解しておいてください!」

っととても喜んでおりました。

学生的には何故か説教されているようにしか聞こえませんでしたが(笑)


◎ 参考


今日Jmolの分子データベースを特に意味もなく見てると、こんな面白い分子を見つけたので掲載。

「今日の分子」No.13、キュウリアルコール C9H15OH


Jmolで描画


キュウリアルコール・・・変な名前(笑)

IUPAC正式名称を付けてみると

ノナ-(E)-2-(Z)-6-ジエン-1-オール

どっちにせよ変な名前(笑)


全く知らない分子だったので、とりあえずネットで検索。

すると信頼できそうな特許のwebページのハウス食品の項やその他HPが引っかかった。

とりあえず、キュウリアルコールはその名の通りきゅうりに含まれているらしい。

そしてきゅうりの香りはこの分子が原因らしい。

ハウス食品はこのキュウリアルコールとキュウリアルデヒドなどなどを混ぜてわさび香味調合品の特許を取っているらしい。

要するにこの分子は食品にわさびの香りを付けるのに使える。

マイナーな割りに結構役に立っている分子だ。

身近に使われていても知らない分子は山ほどあるのが面白いところ。

色んな分子のデータが入っている講談社ブルーバックス文庫「パソコンで見る動く分子辞典」の付属ソフトJmol(ブルーバックス版)はオススメ。


>> 芦髙實様への拍手レス


◎ 参考
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