一般向け/高校生向け楽しい化け学
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酢酸エチルは、濃硫酸を触媒として酢酸とエタノールから合成できる。酢酸2.0 molとエタノール8.0 molを反応させたところ、酢酸エチル88 gが得られた。酢酸の何%が酢酸エチルに変化したか。
(2013年センター化学I)
こんな問題が先日のセンターで出題されました。
条件に注目!
濃硫酸を混ぜていて、エタノールが無駄に多い・・・?
問題を問題として解いて終わり、なんか面白くないわけで、今回はこの反応条件に注目してみることにします。
ちなみにこれは理論上生成する量に対して実際にはいくら得られたか、すなわち収率を求める問題です。
この問題では酢酸エチルCH3COOCH2CH3(分子量:88)は1 mol生成しているので、答えである収率は50%となります。
結論として、この合成者はヘタクソと言えます。(ぉ
☆ 後述のように、うまくやれば同じ条件でも90%以上の収率が得られるからです。
上記の反応のように、酸触媒下でカルボン酸とアルコールからエステルを合成する方法を「Fischer法」と言います。
問題集などでもよく見かけますが、「なぜ硫酸触媒?なぜエタノールが多い?」。
今回はこのFischer法の反応条件を反応化学的・計算化学的に見ていきます。
多くの場合、Fischer法では次のような条件で行われます。
1. 濃硫酸を触媒に用いる。
2. アルコールを大過剰に用いる。
1つずつ見ていきましょう。
1. 濃硫酸を触媒に用いる。
Fischer法は、1895年にEmil = Fischerによって報告されました。
最も重要なポイントは「酸触媒下」という条件です。
さっそくですが、酸触媒下すなわちH+が存在する場合のエステル生成反応の素反応を見てみましょう。
☆ 巻き矢印は電子対の動きを意味します。習ってない方は「ココとココが衝突する」程度に思ってください。
反応したH+は再生しているので、正味以下の反応式になります。
CH3COOH + CH3CH2OH → CH3COOCH2CH3 + H2O
(A)で、H+はカルボニル基のO原子に結合して(元)カルボニル基のプラス性を上げるので、マイナス的なアルコールの酸素原子と結合しやすくする働きをしています。
また(B)で、-OHをH2Oにして外す役割も担っています。
☆ 詳しくは過去記事『エステル化 ~酸の頭が取れる!~』もご参照ください。
このように、H+は正味消費されずに反応を起こりやすくするもの、すなわち触媒として機能しているわけです。
酸触媒なしでカルボン酸とアルコールを混ぜても反応は起こりにくい(反応速度が遅い)ため、酸を加えるわけです。
※ 実は酸触媒として塩酸等ではなく濃硫酸がよく用いられますが、後述のように水をトラップさせるためという理由があります。
2. アルコールを大過剰に用いる。
エステルの合成反応は、逆反応である加水分解と競合する関係になっています。
すなわち化学平衡になっています。
平衡定数Kはエステル合成では大体K=4くらいの値になります。
仮にK=4だとして、真面目にカルボン酸1 molとアルコール1 molを反応させたとすると、生成するエステルはたった0.67 mol、理論上最大でも収率67%しか達成できないわけです。(※)
(※)計算
生成するエステルをx molとすると。
⇒ x = 0.67
触媒を多くしようが、反応時間を長くしようが、絶対にこれ以上の収率を達成することはできません。
そこで、基質の内片方を大過剰に用いるという方法が取られます。
レアで高価なカルボン酸から、そのエチルエステルやメチルエステルを作る場合、安くて入手しやすいアルコール側を大過剰に用いることで解決できます。
このとき、エタノールやメタノールを反応させるなら、それらに溶媒も兼ねさせることでより大過剰・高濃度で反応させることができます。
例えば上のセンター問題のようにカルボン酸2.0 molに対してエタノール8.0 molを(すなわち1:4で)反応させると、(1)式より1.9 molのエステルが得られ、収率93%が見込めます。
したがって、アルコールが過剰に用いられます。
ちなみに私はメチルエステルを作る時、カルボン酸:メタノール=1:10くらいで、カルボン酸をメタノールに溶かして反応させてます。
その場合、同様に計算すると97.3%の反応率が見込めますが、特に副反応が起こらない系なら実際に収率97%ほどで得られてきます。
◎ カルボン酸もアルコールも無駄にできないとき。
場合によっては基質のどちらも過剰にすることができないこともあります。
そのときは、副生してくる水を除くことで逆反応を抑える手法が取られます。
例えば反応と同時に蒸留も行って水を飛ばす方法。
また、酸触媒を濃硫酸にすると、濃硫酸の脱水作用で副生する水が濃硫酸の水和に消費されるため一石二鳥です。
Fischer法に限らず、以上のように合成反応は上手に工夫されています。
日ごろから「なぜこんな条件なんだろう?」という疑問を持って調べてみると、もっと合成が面白くなりますよ!
参考
- 『ボルハルト・ショアー現代有機化学〈下〉』, K.Peter C. Vollhardt, Neil E. Schore著, 野依良治監訳, 化学同人; 第4版 (2004/06)
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【ビスマス】 蒼鉛:Bismuth
原子番号83、元素記号Bi。
第6周期第15族(窒素族)元素。
Biはだいぶ後ろの元素。
単体は人畜無害、低融点(271℃)、重い(比重:9.78)。
そのため、鉛の代替品としてハンダや魚釣りのオモリ等に用いられます。
化合物も無害なものが多く、酸化ビスマスBi2O3は整腸剤に用いられます。
胃もたれや胸やけの薬である次サリチル酸ビスマスC7H5O3BiOH製剤は有効成分の57%がビスマスであるというから、まさにビスマスを飲むようなものです。
また最近、有機ビスマス化合物は発光材料としても注目されてきました。(後述)
胃薬である次サリチル酸ビスマスの構造。
なかなか面白い構造をしている。
今筆者が最も注目している元素なのですが、なんとBi結晶を石華工廠の堀石廉様に頂きました!
(しかも3つも!)
今回はそんなビスマスの魅力を大紹介!
まず美しき彼らの写真をご覧ください!
ビスマス結晶
2012/12/31 筆者撮影
ビスマスの人工結晶。
融解したビスマスをゆっくり冷却し、一部生じた結晶部分をつまみ上げたり、結晶部分以外を流し除く等して作られるようです。
冷却の際、表面に酸化膜が生じ、それが美しい構造色※を生み出します。
また、ビスマスには結晶の面よりも稜が成長しやすい性質があります。
これがビスマス結晶の"じょうご"型構造の所以です。
(この形を「骸晶」と言います。)
もっと美しい写真や、結晶の作り方や詳しい話は石華工廠HP様にありますので、興味のある方はぜひご覧ください。
※ 構造色
物体表面に被膜構造があったりデコボコ構造があったりすると、光が干渉して波長の強め合い・弱め合いが生じて反射光に色が付く現象。
例えば水に油を垂らすと生じる虹色や(油膜の厚みによる干渉)、CDの記録面の緑やピンク(デコボコによる回折・干渉)。
ビスマス結晶の赤や緑はビスマスという物質そのものの色ではなくて、酸化被膜という表面構造によるもの。
ちなみにビスマスのインゴットはビスマス本来の色である銀色です。
インゴットを割った断面には美しい内部結晶が見られます。
2012/12/31 筆者撮影
ビスマスはオール放射性元素!
実はビスマスには安定同位体がありません。
全てが放射性同位体です。
ゆえに、上の写真はまさに放射性同位体の塊なのです。
「え、ヤバいんじゃないの!?」
と思われるかもしれません。
でもご安心ください!
ビスマスはほぼ100%、209Biから成っているのですが、これは半減期が1900京年もあります。
宇宙の年齢が100億年くらいなので、ビスマスは超長寿です。
これは100億個の209Bi原子があるとすると、100億年後は4つだけ減っているという計算です。
要するに、実用上ビスマスは減ることのないほぼ安定元素ということです。
ちなみに209Biは超超ゆっくりα崩壊(4He2+を放出)して205Tlになります。
209Bi → 205Tl + α
☆ 放射性元素ポロニウムの合成法
209Biに中性子nを照射すると210Biが生じ、徐々にβ崩壊(電子を放出)して210Poになります。
209Bi + n → 210Bi → 210Po + β
こうして合成されたPoはα線源や静電気除去ブラシの材料として用いられます。
ビスマスの最新研究
さて、ここからは筆者の専門領域(有機金属化合物)になってきますが、ビスマスの最新情報をご紹介いたします。
例えば、有機ビスマス化合物:ジチエノビスモール。
ジチエノビスモール誘導体[4]
これはりん光性発光材料を指向して合成されました。
原子番号の大きな元素(原子核の正電荷が大きな元素)が高い発光効率を示すのですが、ビスマスは使い物になる元素で最大の原子番号を持つので有望です。
現在、原子番号の大きな元素として白金やイリジウム等の高価なレアメタルがりん光性有機金属錯体に用いられています。
一方、ビスマスは2円/gで取引されている安価な金属であり、これまた注目されている所以になっています。
白金と言えば、最近2012年、こんな不思議な化合物が発表されました。
Pt-Bi化合物:Pt→Bi結合がある[5]
この化合物、Pt-Bi結合があるんですが、
「Bi:→Pt」ではなく「Pt:→Bi」
なんです!
普通に考えたら前者なのに。
ビスマスは窒素族元素ですが、例えばテトラアンミン銅(II)イオン[Cu(NH3)4]2+はN:→Cu配位結合を持つし、同じく窒素族であるPも上構造式の中でもP:→Pt配位結合を作っています。
が、ビスマスは配位が逆なのです。
これもビスマスが大きな原子番号を持っていることが原因になっているようです。
(例えば、ビスマスの非共有電子対はとても安定になっている:不活性電子対効果)
※ もっと専門的に言うと、上の例でビスマス原子が持つ配位サイトはBi-Cl結合のσ*軌道。
Bi-X結合と180°反対側に、比較的低エネルギーで十分な大きさのσ*軌道が形成される。
以上。
無害で安定な不安定元素で、安価で不思議な性質を持つ金属、ビスマス。
上記性質以外にも、最強の反磁性、大きな熱電効果、凝固すると体積が増す等、面白い性質が盛りだくさん。
これからもっともっと注目されるかもしれません。
参考
- 石華工廠HP様 Special Thanks!
- 『世界で一番美しい元素図鑑』セオドア・グレイ著, 創元社
- 石と元素の周期表
- 『Synthesis of Dithienobismoles as Novel Phosphorescence Materials』Joji Ohshita et al, Organometallics, Vol. 29, 3239-3241, 2010
- 『Gold- and Platinum-Bismuth Donor-Acceptor Interactions Supported by an Ambiphilic PBiP Pincer Ligand』Christian Limberg et al, Angewandte, Volume 51, Issue 20, pages 4989-4992, May 14, 2012
2013年、明けましておめでとうございます!
さてさて、今年は巳年。
蛇と言えば、やはりベンゼンですよね!!
ベンゼンC6H6という物質を発見したのはファラデーですが、いわゆる亀甲構造を考案したのはケクレという化学者です。
彼は夢の中で蛇が自分の尾を咥えてグルグル回っているのを見て、ベンゼンの環状構造を思いついたと言います。
この蛇の逸話は、本当は彼のユーモアで後付けされたという説もありますが、どちらにせよなかなか面白い話です。
・・・ということで今年はベンゼン年です。
今年もよろしくお願い致します。
新年のご挨拶まで。
Chemis.
ちなみに、高校の教科書にも載っているケクレは、フルネームが
「フリードリヒ・アウグスト・ケクレ・フォン・シュトラードニッツ」
というドイツ人化学者です。
(実は以前にも紹介しているのですが。)
他にも、炭素の原子価が4であることを発見したり、二重結合の概念を作ったり、彼の功績はすごい。
リービッヒ(冷却管)の弟子で、ウィリアムソン(エーテル合成法)の友達。
デュマ(分子量測定法)の元に留学しに行ったり、ブンゼン(バーナー)の部下になったり。
弟子にバイヤー(フェノールフタレイン)がいる。
なかなか世界が狭くて面白い。
果物の王様、ドリアン。
南国に結実するそれは強烈な匂いを放つことであまりにも有名。
筆者は小学生の時、担任の先生がお土産で買ってきた「ドリアン飴」を食べてそのあまりの匂いに撃沈された。
「あのガスのような匂いはなんなのだろう・・・」
ずっとそう思っていたが、先日「ドリアンの香り物質の詳細な同定に成功した!」という論文[1]を発見した。
しかも最新(2012年)で、ACS(アメリカ化学会:化学の最高権威)出版である!
コイツ等(下図)がドリアン臭の正体だ!!
ドリアンに含まれる主な香気活性物質。構造の下に匂いを示してある。
※ 最下部の二つの構造は平衡混合物。
特に「ドリアン臭」を持つのは赤く示した1, 1-エタンジチオールCH3CH(SH)2だという。
さすが硫黄系、チオール(R-SH)やスルフィド(R-S-R')は臭くて有名だが、まさにドリアン臭の正体はコイツ等だったのだ!
☆ 硫黄系化合物の臭さ;
硫化水素 H2S:腐った卵の匂い
メタンチオール CH3SH:都市ガスの着臭成分
ジメチルスルフィド CH3SCH3:磯の香り
他にも、ドリアン果肉の上にある果頭部分には、「ドリアン臭」のする1-プロパンチオールCH3CH2CH2SH等の香気活性物質が含まれているらしい。
同定の仕方
ところで、数百・数千という種類の化合物が入り乱れているであろうドリアン果肉から、いったいどうやってこんな化合物をひとつひとつ分離・同定したのであろうか?
その論文の著者らは次のようにして分離し、同定している。
- タイ産のドリアンをネット通販で購入し、刈り取ってから2日で空輸してもらう。
- ドリアンの果肉をジクロロメタンCH2Cl2に氷冷しながら分散させ、硫酸ナトリウムNa2SO4(脱水剤)を加え、ろ過する。
- この抽出液を40℃で高真空香気蒸留(solvent-assisted flavor evapolation : SAFE)して揮発性の香気混合物を分離。
- 得た混合物をGC-O、GC-FID及びGC-MSで匂い、保持時間、分子量を分析
- これらの結果から予想される参照化合物と、ドリアンの各香気成分のGC保持時間とを比較し、決定。
まずGCとは、ガスクロマトグラフィー(通称:ガスクロ)のこと。
クロマトグラフィーとは、例えばシリカSiO2の粉を詰めた管(カラム)に混合物を流し込むと、各成分分子のシリカへの吸着力が弱い物質から順に出てくるという分離手段。
ガスクロマトグラフィーはカラムにガス状のサンプルを通すことで、成分を分離し順番に流し出してくれる。
GC-Oとは、ガスクロ-オルファクトメータのこと。
ガスクロからオルファクトメーターに接続している装置である。
オルファクトメーターとは嗅覚測定器だが、要するに人間に嗅がせるということである。
ガスクロで順番に流れだしてくる香気成分を人間が順番に嗅ぐことによって、その匂いが強いか弱いか(ドリアン臭の基となっているか)を調べたというわけ。
GC-FIDとは、ガスクロ-水素炎イオン検出機のこと。
同様にガスクロからFIDに接続している装置である。
GCから流れだしてくる各成分を順番に水素炎で燃やしてイオン化し、検出する。
物質が何秒かかってGCカラムから流れ出してきたか、という時間(保持時間)を高感度で測定できる。
温度など条件が同じなら、保持時間は各化合物で一定なので、予想した参照化合物をGCに通して同じ時間の保持時間ならアタリ!ということになる。
(※ ただし保持時間がほとんど同じ化合物もあるので、これだけで決めるのは危険。)
GC-MSとは、ガスクロ-質量分析装置のこと。
質量分析とは、分子に電子をぶつける等してイオン化し、電場で加速してその飛行時間を測定する等して分子の分子量を測定する便利な測定法。
イオン化したとき、場合によっては分子が部分的に壊れて、フラグメントと呼ばれる部分構造分子を生じる。
例えば、上で示したドリアン臭物質CH3CH(SH)2(分子量94)を質量分析にかけたとする。
すると分子量94の分子イオンピークはもちろん、-SHがもげたCH3CHSH+に対応する分子量61のフラグメントイオンピーク等が得られ、構造もわかってしまう優れもの。
ガスクロから順番に出てくる成分を質量分析することで、その保持時間に対する分子がわかる。
・・・このように、近年発達した最新の分析技術を用いてドリアンのにおい成分は同定されたのだ!!
ドリアンの入手法も最新の技術;ネット通販!
化学の技術の進歩は目覚ましいですね!
>> あしだかみのる様への拍手レス
参考
[1] 『Characterization of the Major Odor-Active Compounds in Thai Durian (Durio zibethinus L. 'Monthong') by Aroma Extract Dilution Analysis and Headspace Gas Chromatography-Olfactometry』, Jia-Xiao Li, Peter Schieberle, and Martin Steinhaus, J. Agric. Food Chem. 2012
↑ クリックでACSの論文ページ。GC-Oで匂いを嗅いでいる、ちょっとシュールだけどおしゃれな画像があります。
グリーンケミストリー(Green Chemistry;GC)関連第三弾!
→ 第一回記事『グリーンケミストリー~(1)入門編』(GC各記事へのインデックスあり)
今回は環境に優しい合成・製品という話題で、プラスチックの生合成と、生分解性のプラスチックについてです。
生分解性プラスチックという言葉は最近有名になってきたので、まずそれから説明します。
◎ 今回関係するグリーンケミストリーの12ヶ条
第3条. 毒性の少ない方法:
可能な限り環境や人間に対して毒性の少ない物質を使って合成する。
第9条. 触媒の活用:
選択性の高い触媒は反応の効率を高めるのに優れている。
第10条. 環境中で分解する製品:
化学製品は使用後、無害なものに分解し、残留性がないようにすべきである。
生分解性プラスチックとは
石、粘度、鉄・・・人間が得た材料の中でも、プラスチックというものは、その加工性・耐久性・多様性等において、最高傑作のひとつではないかと思います。
例えば最も身近なポリエチレン[-CH2-CH2-]nは、単純な炭化水素であるエチレンCH2=CH2を付加重合させたもので、ビニール袋や弁当箱、はたまた水道管にまで使われています。
何せ腐らないし、錆びないし・・・
だが、実はこの便利な性質が裏目に出て環境問題になっています。
「腐らない」
これは逆に言えば、例えばポリエチレンの袋を山や川に捨てたとしても、何年、何十年たってもずーーっとポリエチレンはポリエチレンとして残り続けます。
例えばバナナの皮を捨てたとしたら、数日したら微生物の働きで腐りだし、数か月もすれば完全に分解させて跡形もなくなっていると思います。
ポリエチレンの袋は、例えばウミガメがクラゲと間違えて食べてしまうという問題があります。
強靭なそれは消化液でも分解されず、消化器官に詰まりその生物を死に至らしめます。
このように、環境中に残存する物質(プラスチック、ダイオキシン、フロン...等)は、環境に負荷を与える物質とされ、グリーンケミストリーの12ヶ条でも第10条に「化学製品は使用後、無害なものに分解し、残留性がないようにすべきである。」と宣言されています。
したがって、要するに「腐るプラスチック」が必要とされました。
そこで登場したのがポリ乳酸[-CH(CH3)COO-]n。
乳酸HO-CH(CH3)COO-Hが縮合重合したポリマーです。
乳酸は言わずと知れたありふれた天然物質。
ヨーグルトとかに入ってるあれです。
そしてそれが単にエステル結合で重合したポリ乳酸は、微生物の持つ分解酵素によって水と二酸化炭素にまで分解することができます。
したがって、もしもポリ乳酸ボトルが山に捨てられたとしても、しばらくすれば跡形もなく土に還るのです。
このように、生物によって分解されるプラスチックのことを生分解性プラスチックと言い、現在の"残存性プラスチック"にとって代わるべきであると期待されています。
ポリ乳酸はボトル等として実用化され始めているようです。
ちなみに、ポリ乳酸は堆肥の中等微生物がたくさんいるところでしかなかなか分解されません。
したがって「ポリ乳酸ボトルが気づいたら腐って中身が漏れた!!」なんてことにはならないのです。都合がいい!!
めでたしめでたし・・・と言いたいところですが、まだまだ課題があります。
例えばその生分解性を生かすならば、捨てるとき普通に焼却処分するよりも、生物に分解してもらった方が良い。
しかしあなたは「燃えるごみ・燃えないゴミ・生分解性プラスチック」というゴミの分別を見たとこがあるでしょうか?
おそらくありませんね。
今現在は捨てるとき焼却処分されるため、その生分解性という性質はあまり生かせられていません。
とりあえずもっと生分解性プラスチックが生活の中にあふれるようになって、リサイクルの一種類のように廃棄されるようになればいいですね。
生合成プラスチックとは
さて、前項で生物はポリ乳酸というプラスチックを分解できるというお話でした。
実は、逆の原理で生物にプラスチックを合成させることもできるのです!
例えば、植物は光合成で作ったグルコースC6H12O6を重合させ、多糖であるデンプン[-C6H10O5-]nという形で貯蔵することはご存知の通りです。
同じように、ある種の微生物は栄養をポリエステルにして蓄える性質があります。
例えば枯草菌(納豆菌の仲間)はグルコースを栄養源にして発酵し、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)を作ります。
ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)は溶融形成可能な熱可塑性樹脂で、結晶性が高く強い材料です。
さらに、エネルギー貯蔵のための物質なわけですから、もちろん生分解性プラスチックでもあります。
したがって、微生物にグルコースをエサとして与えるで生分解性まである素晴らしいプラスチックを合成することができます。
これはグリーンケミストリーの第3条「毒性の少ない方法」、第9条「触媒の活用」(微生物の酵素の活用)、第10条「環境中で分解する製品」に合致し、素晴らしい合成プロセス・材料であると思います。
ちなみに、こんな技術まで開発されています。
ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)は硬くて強いプラスチックですが、その反面"もろい"という欠点があります。
この欠点を補うために、水素細菌にグルコースと一緒にプロピオン酸CH3CH2COOHをエサとして与えると、3-ヒドロキシ吉草酸ユニット-OCH(C2H5)CH2CO-が共重合した形のポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシ吉草酸)が生成します。
3-ヒドロキシ吉草酸ユニットが入ると柔らかさが増し、粘り強い材料となる。
しかもエサとして与えるグルコースとプロピオン酸の組成比を変えることで、各ユニットの割合が調節でき、好きな柔らかさを持ったプラスチックを作ることができるという優れもの。
もう商品化もされているという。
また、これら微生物の遺伝子を植物の遺伝子に導入することで、植物にプラスチックを合成させる取り組みも行われているという。
いつか「プラスチックの実がなる木」が出来て、プラスチックの製造は畑で実を収穫する・・・なんてことになるかもしれませんね。
以上のように、環境に負荷の少ない生分解性プラスチックや、発酵という安全な合成法でプラスチックを合成するという試みが実用段階まできています。
ゴミが環境に負荷を与えないためにも、安全に合成するためにも、生物の事をよく知って力を借りる必要があるようです。
参考
- 『環境にやさしい21世紀の化学』安保 正一, 水野 一彦 編著, エヌ・ティー・エス (2005/08)
- 『グリーンケミストリー』, Paul T. Anastasら原著, 丸善 (1999/03)
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