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一般向け/高校生向け楽しい化け学
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夏の風物詩、花火。

今年の夏は、私も会社の同僚たちと花火で遊びました。

花火には金属塩が入っており、それら金属元素の炎色反応が利用されています。

黄色はナトリウム、鮮やかな紅色はストロンチウム、青緑は銅…


以前「化学ビデオ講座No.4 :炎色反応」でも紹介したように、

加熱により金属塩が気化・原子化し、熱励起された電子が元の軌道に落ちてくるときに発光する

とよくと説明されます。

しかし、実は原子発光とは限りません。

実はストロンチウムや銅はSrCl・SrOHやCuClといった二原子分子や三原子分子が発光しているのです。

今回は、炎色反応で原子発光と分子発光を示す元素を分類し、その発光スペクトルの特徴を照会します。



原子発光

ナトリウムやカリウムなどの炎色反応は原子発光です。

例えば、NaClをガスバーナーで加熱すると

NaCl + 熱 → Na + Cl

Na + 熱 → Na*

Na* → Na + 光

と、塩が原子まで熱分解して、Naの電子励起状態Na*が発光します。
(詳くは「化学ビデオ講座No.4 :炎色反応」をご覧ください。)

Na塩の炎色反応のスペクトルは図1のようです。




図1. Na塩の炎色反応スペクトル(文献[1]のスペクトルをトレース).



黄色領域に、非常に幅の狭い輝線スペクトルを示します。

拡大図からわかるように、実はD1線(589.6 nm)とD2線(589.0 nm)にわずかに分裂しています。

これはNa原子核の核スピンと励起電子の電子スピンが平衡(↑↑)か反平行(↑↓)かによって微妙にエネルギーに差が出るスピン-軌道相互作用(Spin orbit coupling:SOC)という効果によります。

なお、励起単原子が光るので、NaClでもNaBrでも炎色反応のスペクトルに変化はありません。



分子発光

一方、ストロンチウムやカルシウム、銅などの炎色反応は分子発光です。

例えば塩化ストロンチウムSrCl2をガスバーナーで加熱すると

SrCl2 + 熱 → SrCl + Cl

SrCl + 熱 → SrCl*

SrCl* → SrCl + 光

の過程でSrCl由来の発光を示します。

実はこれらの塩は結合が強く、ガスバーナー(~1500℃)や花火(~2500℃)の温度では、原子まで分解することがほとんどできないのです。

ではスペクトルはどんな感じでしょうか?

SrCl2の炎色反応スペクトルを図2に示します。




図2. SrCl2の炎色反応スペクトル(文献[1]のスペクトルをトレース).



原子発光のスペクトルとは全く違いますね。

赤色領域に大きく分裂した多数のピークがあり、さらに各ピークには幅があります。

それぞれのピークはSr-Cl結合の振動に由来し、ピークの幅はSrCl分子の回転に由来します。

単原子発光の場合では振動する結合はなく、球対称なので回転の効果もありません。

なお、SrCl*の発光の場合もSOCによる各ピークの分裂があるはずですが、回転によるピーク幅の増大によって隠されてしまっています。


分子発光の特徴として、同じ金属でも陰イオンの種類によってスペクトルや発光色調が変わるという重要な点があります。

例えばSr(NO3)2の水溶液を加熱するとSrOH*由来の発光が得られますが、これは紅色ではなくピンク色に発光します。

他に、銅の場合では、CuSO4は青緑色、CuCl2は青色、Cu(NO3)2は緑色の炎色反応を示します。



以上。

「加熱すると原子化する」とは限らないということでした。

原子発光と分子発光はスペクトルを見ると一目瞭然で見分けられますね。



参考文献
[1] W. Meyerriecks et al, J. Pyrotec., 2003, 18, 710.
[2] 深野哲也, 化学と教育, 2017, 65, 132.
[3] 森下浩史ら, 長崎大学教育学部教科教育学研究報告, 1995, 25, 9.
[4] 名古屋市科学館HP「炎色反応」.

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量子化学計算ソフトGamess(Firefly)のGUIをFacioからMoCalc2012に変えたのですが、その使い心地チェックのためにアセンとフェナセンの構造最適化計算をしてみました。
◎ GamessやMoCalcの導入方法・使い方はPC CHEM BASIC.COMさんのwebページにわかりやすくまとめられています。

さて、今回はアセンとフェナセンのフロンティア軌道から、似て非なる両者の性質の違いを考えてみましょう。


アセンとフェナセンの性質



図1. アセンとフェナセンの構造.

アセン:
1. 縮環していくと不安定化
2. 縮環していくと吸収が長波長化

フェナセン:
1. 縮環しても安定
2. 縮環しても吸収がほとんど長波長化しない。

そもそもアセン類とフェナセン類とは。

アセンはベンゼン環が直線的に3環以上縮環した分子群で、アントラセン(3環)、テトラセン(4環)、ペンタセン(5環)、ヘキサセン(6環)・・・と続きます。

一方、フェナセンはベンゼン環がジグザグに縮環した分子で、フェナントレン(3環)、クリセン(4環)、ピセン(5環)、[6]フェナセン(6環)等があります。

異性体の関係である両分子群は、例えばいずれも有機半導体材料として盛んに研究されており、たくさんの誘導体が合成されています。

しかし、両者の見た目はとても似ていますが、とても異なった電子状態と性質を有します。

アセンは縮環数が増えると急激に不安定化することが知られており、空気と反応するようになり(酸素と反応して過酸化物を生成)、ディールス-アルダー型の二量化も起こしてしまいます。

例えばペンタセンは空気で徐々に酸化されてしまい、光にも弱いことが知られています。

ヘキサセンは非常に不安定で不活性ガス中やマトリックス中でしか取り扱うことができず、ヘプタセン(7環)に至っては極低温下で発生させるのが限界です。1,2

一方フェナセンは安定で、[7]フェナセン(7環)でも空気下で取り扱うことができます。




図2. アセンとフェナセンの共鳴構造式.


両者の違いは定性的には共鳴構造(図2)で理解できるとされています(クラー則)。

アセンはどう頑張っても全ての環に同時にベンゼンを書くことができませんが、フェナセンでは書くことができます。

すなわち、アセンでは縮環に伴い芳香族性が低下しますが、フェナセンは芳香族性を保つわけです。

他にも、フェナセンは4位と5位の水素-水素結合により安定化されているという最近の報告もあります。3


また、アセンは縮環数が増えると吸収が長波長化していきますが、フェナセンは[6]フェナセンでさえも可視域に吸収を示しません。

両者はまさに似て非なる分子群なのです。


アセンとフェナセンのフロンティア軌道

では本題のフロンティア軌道の話に移りましょう。

Gamess(Firefly)を使って、密度汎関数理論DFT)計算(B3LYP/6-31G(d))でアセンとフェナセンの構造最適化を行いました。

各分子の最高占有分子軌道HOMO)と最低非占有分子軌道LUMO)を図3に示し、それらのエネルギーを図4に示します。




図3. アセンとフェナセンのフロンティア軌道(ベンゼンは縮退した軌道のうちの片方だけ掲載). Molekelで描画.




図4. アセンとフェナセンのHOMO/LUMOエネルギー.


アセンでは縮環数が増えるとHOMOが不安定化し、LUMOが安定化します。

これは反応性の増大を示しており、アセンは縮環数が増えると不安定になることが理解できます。

また、アセンは縮環数が増えるとHOMO/LUMOギャップが小さくなり、吸収が長波長化することもよくわかります。

一方、フェナセンは縮環数が増えてもHOMOとLUMOのエネルギーはほとんど変わらず、縮環数の増加は安定性にあまり影響を与えないことが理解できます。

HOMO-LUMOギャップがほとんど変化しないので、縮環しても吸収があまり変わらないことも理解できます。




図5. ペンタセンとピセンの節付きHOMO. Molekelで描画.


加えて、ペンタセンとピセンのHOMOを節面(※)付きで示します(図5)。
※ 軌道の係数がゼロになる面。位相が反転する面。

ペンタセンでは節面が6つありますが、ピセンは3つしかありません。

アセンは縮環するたびに節面が増えていきますが、フェナセンはずっと3つのままです。

軌道は節面が増えると不安定化するので、これからもアセンのHOMOは不安定化していくことが理解できそうですね。



以上、アセンとフェナセンのフロンティア軌道についてでした。

GamessやMoCalc2012は無料で使えるソフトですが、これらと家庭用PCで本格的な量子化学計算が簡単にでき、分子の色や安定性について考察できるのは驚きですね。

分子軌道を表示するだけでも綺麗で楽しいので、ぜひ計算してみて下さい。



参考
  1. T. J. Chow et al, Nature Chem. 2012, 4, 574.
  2. H. F. Bettinger et al, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 14281.
  3. R. F. W. Bader et al, Chem. Eur. J. 2003, 9, 1940.





先日「硫酸のS原子はオクテット則を満たしていないように描かれるが、実際どうなっているのか?」というご質問を頂きました。

結論から言うと、上図のオクテット則を満たす両性イオン構造(右)が妥当で、学校で習うS=O二重結合のある構造(左)ではないとされています。

今回は、従来の硫酸分子の電子構造が如何にして否定され、そして如何にしてより正しい構造が提案されたのかご紹介いたします。



硫酸分子の構造とルイス式



図1. 硫酸のよく描かれるS=O二重結合型ルイス構造Aと、双性イオン型ルイス構造B.


図1に硫酸H2SO4分子のルイス構造式(※)と、S-O結合長を示しています。

また、O原子を区別するために、ヒドロキシ基でない方をOa、ヒドロキシ基の方をObと区別しています。


よく描かれる、「S=O二重結合」を持つルイス構造Aは、S原子が合計6本の価標を持っていて、合計6×2=12個の電子を持つことになります。

これは「最外殻電子が8つで安定」というオクテット則に反します。

量子化学的に言うと、「S原子の1つの3s軌道と3つの3p軌道には合計8つまでしか電子が入らないからおかしい」です。

これまでオクテット則を破る構造Aでも大丈夫だという根拠として、

・ S原子が3s、3p軌道に加えて3d軌道を使うことで、オクテット則を破ることができるはず。

・ O原子の孤立電子対(p軌道)がS原子に配位することで二重結合を形成することができるはず。

等が挙げられてきました。

実際、S-Oa結合(1.42 Å)はS-O単結合(1.6 Å)よりも結合距離が短いということが実験的に知られていたので、SとOの間に二重結合があるのだろうと考えられていました。

しかし、d軌道はs・p軌道に対してエネルギーが高すぎるため、結合に関与できないのではないかという反論もあり、割と最近(1990年代)まで論争になっていました。

ルイス構造式
電子がどの原子に局在、もしくはどの原子間で共有されいるかを(極端に)表した式。高校で習う「電子式」と同じようなもの。



硫酸分子のNBO計算

さてこの論争に決着をつけるべく、2000年にある論文[1]が発表されました。

この論文では、硫酸や類似物質の電子構造を求めるために、自然結合軌道(Natural Bond Orbital; NBO)計算を行っています。

NBO計算とは、分子中の電子がどの原子間にどんな配分で存在するかを算出する量子化学計算です。

すなわちNBO計算はまさにルイス構造式を示してくれるわけです。

いわゆる紙に書くルイス構造式ではX-Y結合があった時「X:Y」すなわち「XとYの間に2電子」としか表せません(表しません)。

一方、NBOはこれを「XとYの間に2電子;Xのs軌道に1.2電子、Yのp軌道に0.8電子の割合で偏っている」のように電子が収容される原子軌道や非整数な電子の偏りまで表してくれます。

なお、結合を作らずに一原子上に局在した電子対、すなわち孤立電子対(Lone Pair; LP)もちゃんと算出してくれます。

NBO計算は電子状態を非常に的確に教えてくれるのです。


では硫酸分子のNBO計算結果を見てみましょう。

S-Oa間に一本目の結合(σ結合)があるのはそうだとして、問題はOa上の3つのp(π)軌道です。

ずばり、Oaの3つのp(π)軌道は「LP, LP, Oa:S」でした。

しかし「Oa:S」π結合は「Oaに1.8電子(89%)、Sに0.16電子(8%)」で、実質Oa上に局在していました。

絵で描くと次の図2のようです。




図2. S-Oa結合の電子の偏り.


正味、Oa上に3つLPがあると考えて良いわけです。

よってS-Oa結合は「S+-O-」のほぼ単結合で、オクテット則に従った双性イオン構造であるわけです。

なお、この強い分極によってS-O間にクーロン引力が働くため、S-Oa結合は普通のS-O単結合より短くなるようです。

二重結合しているから結合距離が短いわけではなかったのです。


以上のように、今日では硫酸分子の構造をS=O二重結合で書くのは適切ではないと考えられます。
(8%はO原子からS原子にπ軌道が流れ込んでいるので、全く二重結合性がないわけではないですが。)


やっと最近になって、NBO計算や非経験的分子軌道計算によって高価数原子の真の姿が徐々に明らかになって来ています。

つい6年くらい前に私も学部の無機化学で習った「p軌道からd軌道に昇位してsp3d混成軌道に~」等の"教科書の内容"が否定され、より正しい電子構造に更新されていっています。
(SF4とかPF5とかこういうの大体はσ*軌道が関与する三中心四電子結合らしい。d軌道は関係なし。)

化学(科学)って、身近なことでもまだまだわからないことがたくさんで、まだまだどんどん進歩していって面白いですね。


参考
[1] T. Stefan and R. Janoschek, J. Mol. Model. 2000, 6, 282.
[2] 『Discovering Chemistry With Natural Bond Orbitals』Frank Weinhold, Wiley (2012).




実はなんと紫外可視吸光光度計を買いました!!!

・・・と言っても、古くてもう動かないジャンク品なんですけど。

なんとヤフオクで1000円でした。

私は研究で吸光光度計をよく使うのですが、分解して中身の勉強をしたりパーツ取りに使えるなということで。


ということで、今回は紫外可視吸光光度計を分解して、その光学系がどのようになっているか解説します。


紫外可視吸光光度計の原理



そもそも紫外可視吸光光度計とは?

紫外可視吸光光度計とは、物質の紫外光~可視光の吸収を測定する装置です。

物質がどの波長の光をどれだけ吸収するかが分かり、波長ごとに測定することで吸収スペクトルが得られます。

紫外~可視領域の光吸収は物質の電子遷移と対応しているので、吸収スペクトル測定は物質の電子状態を知るための最も基本的な測定です。

他にも、ある波長における物質固有の吸収の強さ(モル吸光係数)をあらかじめ決めておくと、サンプル溶液中のその物質の濃度を測定することもできます。

上図のように、ランプから出た白色光から分光器回折格子プリズム)で単色光を取り出し、サンプルに当ててその光の減衰を検出することで測定します。

それでは実際にどんな構造をしているか見てみましょう。


紫外可視吸光光度計の解体

1. 外見



まずは外見。

これは日本分光社製のUbest-55というダブルビーム型(後述)の紫外可視吸光光度計です。

装置上に制御パネルがあり、測定内容に合わせたプログラムパッケージ(カード型)を差し込んで使います(残念ながらもう動かない)。

サンプルは手前の窓を開けてセットします。

さて、蓋を順に開けていってみましょう。


2. 外装の取り外し



光学系が入った黒いカバーと、セル室が見えます。

セル室とは、サンプルをセットする部屋で、測定したいサンプル(溶液、薄膜、粉末等)や測定内容(吸収スペクトル測定・反射スペクトル測定・温度変化測定等)に合わせて交換します。

今は積分球(後述)という装置がセットされています。


3. 光学系カバーの取り外し





黒いカバーを取り外すと、非常に綺麗な光学系が出てきました(セル室も取り外しています)。

・ ランプ室
 短波長領域用の重水素ランプ(185~400 nm)と長波長領域用のタングステンランプ(350~3000 nm)がセットされており、ランプ室のミラーが動くことで光源の切り替えを行います。いずれも曇りのない新品同様のランプです!

・ 分光器(ツェルニー-ターナー方式)
 回折格子とミラーとスリットがあり、光の回折現象によって単色光を取り出します。回折格子の角度を変えることで取り出す波長を変えられます。

・ チョッパー
 扇風機の羽のようにモーターにミラーが付いたもので、一定周期で高速回転することで単色光を参照サンプル(ブランク)測定用と試料測定用の光に分割します。このようにブランクと測定試料を常に同時に測定する方法をダブルビーム方式といい、光源の揺らぎや減衰に起因する測定エラーを減らすことができます。

・ セル室
 奥にブランク(空っぽもしくは溶媒だけ)、手前に測定したい試料をセットします。

・ 検出器室
 光を検出する光電子増倍管があります。ミラーによってブランク光も試料光もどちらも1つの検出器に誘導されます。


4. 積分球の分解



最も一般的に測定されるのは溶液サンプルですが、この吸光光度計には主に固体を測定する積分球(高価!)がセットされていました。

積分球とは、上の写真のように中が真っ白に塗られた球で、固体サンプルを反射した光が集められて下部の光電子増倍管に送られるという器具です。

光の通過しない固体サンプルを測定でき、拡散反射スペクトルや、それを換算することで得られる吸収スペクトルを測定できます。

ちなみに、積分球がセットされているときは上で紹介した検出器室の光電子増倍管は使いません。


【動画】紫外可視吸光光度計の機械的動作(始動・初期化)

この吸光光度計、測定はできないんですが、なんと電源を入れるとちゃんと始動して、光学系の初期化が行われます。

どこがどう動いて何をするのか、百聞は一見にしかずなので、動画を撮ってみました。



初期化動作解説

0:03: 電源投入
0:08: スリットが回転して初期化される(カチャカチャと音が鳴る)。
0:16: 黄色いカットフィルターが初期化される(カンカンカンと音が鳴る)。
0:23: チョッパーの回転が始まる(けたたましい音が鳴る)。
0:26: 回折格子の角度を変えるモーターが回り、分光器が初期化される。
1:00: ランプが灯る(キューンと音が鳴る。ランプ室の穴が光り、手前の壁に反射光が映る)。
1:20: シャッターが初期化される(カンカンと音が鳴る)。

といった感じです。

カッコイイですね。


いつも使っている装置ですが(研究室の吸光光度計のメーカーは島津ですが)、なかなか中を見ることはないので非常に勉強になりました。

実際にやってみるのが一番勉強になりますね。



ドイツ製単結晶ケイ素(直径18 mm)。種結晶400円で購入。CZ法(後述)の種結晶部分?


お久しぶりです、実はインドに化学の修業しに行ったりしてまして、なかなか更新できてませんでした。


さて、先日石のイベントに行ってみると、上の写真の単結晶ケイ素が売っていました。

装置に固定するためでしょうか、くびれが入っている部分で商品価値はないみたいで、スクラップとしてたった400円だったので買ってみました。

たたき割られた面のケイ素が、鉄とは違う感じの光沢でなかなか綺麗です。


また、先日生野銀山の坑道見学に行ったところ、併設されていた鉱山資料館で三菱によるケイ素の展示がありました。

ということでケイ素に縁を感じたので、今回は現代の電子社会に極めて重要な単結晶ケイ素の製造方法をご紹介致します。



単結晶ケイ素



ケイ素の結晶構造(ダイヤモンド格子)。単位格子の一辺の長さ(格子定数) = 5.4Å


ケイ素Si原子がダイヤモンド格子を組んだケイ素の単結晶(塊全体で1個の結晶)。

ケイ素は炭素と同じ14族元素であり、炭素と同じく四面体方向に4つの結合手を持つため、炭素と同じダイヤモンド格子を組みます。
(※ 熱的に不安定ですがβスズ構造も取れます。)

単結晶ケイ素は、Si原子がぐちゃぐちゃに結合したアモルファスケイ素よりもバンドギャップが狭く、導電性が高いという特徴があります。

また、たくさんの小さな結晶がくっついてできた多結晶ケイ素は、粒界で電気伝導が妨げられるため、単結晶のケイ素が求められます。

単結晶ケイ素は重要な半導体材料であり、リンPやホウ素Bのドーピングなどの加工を経て、ダイオードやトランジスタ等の半導体素子が作られます。



単結晶ケイ素の製造方法
I. ケイ素の製造(多結晶ケイ素の製造)

(左)原料のケイ石と(右)製造された多結晶ケイ素(生野銀山:鉱山資料館蔵)。




高純度多結晶ケイ素の製造プロセス


1. ケイ素源としてケイ石(SiO2)を採取する。
なお、ケイ石はどこにでもあるありふれた鉱物ですが、品位の高い北欧産のものがよく用いられます。

2. ケイ石を電気炉で加熱溶融し、炭素Cもしくは一酸化炭素COを用いて還元して純度約98%の粗ケイ素を得る。
・ SiO2 + 2C → Si + 2CO
・ SiO2 + 2CO → Si + 2CO2

3. 粗ケイ素の粉末を超高純度塩化水素HClと反応させ、トリクロロシランSiHCl3を得る。
・ Si + 3HCl → SiHCl3 + H2

4. 揮発性液体であるSiHCl3を数回蒸留し、不純物1 ppb以下の超高純度SiHCl3を得る。

5. 加熱した超高純度ケイ素(別途用意)を置いた反応炉にSiHCl3と超高純度水素H2の混合ガスを導入して、固体ケイ素表面でSiHCl3の還元反応を起こし、多結晶ケイ素を析出させる。
・ SiHCl3 + H2 → Si + 3HCl
※ 反応式には諸説あるが、これが有力らしい[4]。


II. チョクラルスキー法(CZ法)による単結晶ケイ素の製造


CZ法で作られた単結晶ケイ素(生野銀山:鉱山資料館蔵)



CZ法による単結晶作製装置


溶融ケイ素の表面に細い棒状の種結晶(単結晶ケイ素)を接触させ、回転させながらゆっくり引き上げて冷やし、結晶を成長させます。

このような方法をチョクラルスキー法(CZ法)といい、ケイ素の他にもゲルマニウム等の半導体、金などの金属、サファイアのような無機単結晶を作製することができます。

結晶には面がありますが、種結晶の特定の面を使って引き上げることで、好きな結晶方位を持つ棒状単結晶を得ることが出来ます。

これを薄くスライスして{100}や{111}面のシリコンウェハーが作られ、半導体素子へと加工されます。

なお、こうして作られた単結晶ケイ素の純度はなんと99.999999999%(9が11個 ⇒ 「11N」)に達するそうです。


以上。

ケイ素は原料は豊富ですが、純度を高めたり、単結晶を得るために多大な労力が掛けられているのです。

こうして作られた単結晶ケイ素が働いて、今あなたのパソコンやスマートフォンにこの記事を表示しているんですね。



参考・出典
  1. 『現代無機材料科学』』足立吟也、南努 (著), 化学同人 (2007/01)
  2. 『半導体が一番わかる』内富直隆 (著), 技術評論社 (2014/5/2)
  3. 生野銀山:鉱山資料館資料
  4. 『半導体生産現場で見る化学反応の実際と設計』羽深等(2008)
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