一般向け/高校生向け楽しい化け学
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かなり多くの方が「ガス臭い」という匂いを体験したことがあるでしょう。

コンロでうまく火が着かなかったとき、お風呂の湯沸しの通気口の周り、ガスファンヒーターを付けたとき・・・

これらの「ガス臭い」匂いは燃えている"ガス"の匂いなのでしょうか。


筆者の家のボイラーの排気口
ボイラーを作動させて風呂を沸かしていると
温風からほんのりとガスのにおいがする。



まず一般家庭でガスの元栓をひねったときに出てくるガスは何でしょうか?

いわゆる"都市ガス"ですが、これは天然ガスナフサを原料としています。

主成分はメタンエタンプロパンも少し含まれています。

ではガスのにおいの元はこれらメタンやエタンなのでしょうか。

実はメタンやエタン、プロパンは無臭の気体で、匂いはありません。

(ちなみにブタンや、ペンタン以上の炭素数の液体の炭化水素はいわゆる"ガソリンスタンドのにおい"がします。)

なのでこれらを主成分とした都市ガスは、本来匂いはないはずなのです。


ではなぜ匂いがあるのでしょうか?

実は添加物を混ぜてワザと匂いを付けているのです。

そうしないとガス漏れがわからなくて危険だからです。

日本では空気中のガス濃度が1/1000くらいでもわかるように匂いを付けなくてはならないと法律で定められています。

都市ガスやプロパンガスに添加されているのはチオールという化合物群です。

チオールはアルコールのヒドロキシ基(-OH)チオール基もしくはメルカプト基と呼ばれる-SHに変えた化合物です。


チオール類の構造
左から順にメルカプタン、エタンチオール、ターシャリーブチルメルカプタン


例えばメタノールの-OHが-SHに変わった分子はメルカプタン、もしくはメタンチオールと呼ばれています。

このような物質の中で、エタンチオールやターシャリーブチルメルカプタンが都市ガスにごく微量添加されています。

なぜ極微量かと言うとこれらチオール類の多くはとても強烈な匂いがあって、
エタンチオールは"世界一臭い物質"としてギネス登録されているくらいだとか。


と言うわけで、「ガス臭い」匂いの正体はごく微量添加されているチオール類、ということでした。



○ チオールの逸話

ちなみに、エーテルやケトンのO原子をS原子に置き変えたものも匂いがある。

チオールやチオケトンはとても強烈なにおいがするものがある。

アセトンのOをSに置き換えたトリチオアセトンに関して、ウォーレン有機化学にはこのようなもはや笑えない笑い話が書いてある;

しかし, 最悪の悪臭事件はたぶん1889年にドイツのフライブルク全市民を避難させたものであろう. トリチオアセトンの分解でチオアセトンを作ろうとしたところ, "不快なにおいが短時間に都市の全域に広がり, 失神, 吐き気, 恐慌的な避難をひき起こし, その実験自体をあきらめさせる" ということになってしまった.
 1967年に英国Essoの研究者がトリチオアセトンの分解実験を追試したことは, おそらく無謀きわまりないことだったといえよう. 彼らの話を聞いてみよう. 「においの問題について最悪の予想よりもずっと悪い状態にあることが最近になってやっとわかった. 初期の実験で, 残渣の残っているフラスコの栓が飛んだときにすぐ栓をし直しても, 200メートル離れた建物で働いている同僚から吐き気がし気分が悪くなったと, すぐさま苦情が出た. ごく微量のトリチオアセトンの分解研究をしただけの化学者二人がレストランで皆からいやな目で見られ, ウェートレスからまわりに防臭剤のスプレーをかけられるという恥ずかしい思いをした. その実験室で働いていた者には耐えられないほどのにおいではなかったので, 希釈すれば大丈夫と思っていたのに, そのにおいははるかに強かった. しかも, 密閉系で実験していたので自分たちのせいではないと本気で否定していた. それを実証するために, その人たちと他の見物人に研究所のまわり400メートルほど離れたところに集まってもらった. そしてプロパンジチオールかトリチオアセトンの再結晶母液を排気装置付薬品棚の中の時計皿に1滴たらしたところ, 風下では数秒のうちにその悪臭が感じられた」この強烈なにおいのもとになっている化合物として可能性が二つある. プロパンジチオールと4-メチル-4-スルファニルペンタン-2-オンである. この問題を解決するほど勇気のある人はもはや誰もいそうにない.



◎ 参考

『ウォーレン有機化学〈上〉』, Stuart Warrenら著, 野依良治監訳, 東京化学同人 (2003/02) , Jonathan Clayden・Stuart Warren・Nick Greeves・Peter Wothers (著),野依 良治・柴崎 正勝・奥山 格・檜山 為次郎 (翻訳), 東京化学同人 (2003/02)



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