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『分子のカタチ』で分子には形のあることを書きました。

しかし実際の分子はもっとたくさんの原子から成っていて、紙の上でそれを考えるのは難しくなってきます。

そこで、もっと複雑な、例えば有機化合物等の場合は分子模型を組むといいです。

分子模型を組むと、分子全体の形・原子の距離等がわかり、それらからその物質の融点や安定性をも読み取れることがあります。

分子模型作りはブロック遊び感覚でできます。

例えばメタンのように手が4つある炭素は四面体のブロック。

アルケンなら三角、アルキンなら直線、ベンゼンなら平面六角形.....


分子模型の組み方には色々あります。

今回は分子模型や、それを作るための道具・ソフトウェア等を紹介します。

まず発泡スチロール球を使ったものを紹介します。


ベンゼンの分子模型




― 発泡スチロール分子模型 ―


これはプラモデル感覚で、趣味のファンが多い分子模型です。

ファンデルワールス半径(原子の占める体積を表す)が1.2Å(1Å=10-10 m)の水素原子に対して直径25mmの発泡スチロール球、酸素や窒素に対して30 mm球、炭素や塩素に対して35 mm球...とすると、ちょうど約1億倍の分子模型が作れます。

空間充填モデルと言われる分子模型の一種で、分子が占める体積や原子同士のぶつかり(立体障害)等が説明しやすいモデルです。


空気中の分子たち
左から順にO2、Ar、CO2、N2、Ne、He


作り方は、穴定規・電熱線カッター・角度定規を用いて発泡スチロール球を所定の半径を持つ球面でカットし、それらを木工用ボンドでつなぎ合わせていきます。

カットする所定の半径を求めるにはその結合している原子同士の原子間距離になるように重ね合わせた二つの円に対してごちゃごちゃと余弦定理で計算すると出ます。

始めは計算は気にせず作り方を見て作ってみましょう。


分子模型作りのツール(仮説社の通販で買えます。)
カッター(左)・孔定規(下)・角度定規(右)



作り方はこれらの素晴らしいHPを参考にしてみて下さい。

小樽分子模型の会

Scillaの分子模型ページ

私も特に高校生のときこれらのサイトには非常にお世話になりました。

初心者でもとてもわかりやすく説明されている分子模型作りのサイトです。


ちなみにどんな分子模型でも、その他原子を色分けする必要のあるときでも、大抵塗り分けられる原子の色は決まっています。

世界でも大抵同じような暗黙の共通認識として考えられていて、このサイトでもそのように色分けしています。


たとえば

原子補足
水素パソコンで表示する場合は見やすくするため水色の場合も
炭素パソコンの画面のバックが黒の場合黄緑や水色の場合も
酸素 
窒素 
塩素時折肌色等違う色のことも
リンピンク茶色のことも
硫黄黄色 
ヨウ素 


等です。

筆者の作った発泡スチロール分子模型を少し紹介しましょう。


炭化水素たち
左から順にCH4、C3H6、C2H2、C6H6



環境問題で取り上げられる窒素酸化物
右上のN2Oは"笑気"と呼ばれる麻酔性ガス。



食べ物の中の分子たち
左はビタミンC、右は酢酸、上は脂肪酸



水の結晶 = 氷 の構造
傑作(作るの大変)!水素結合による六角形構造。


等等

ちなみに定規で測ると「1 cm = 1Å」なので簡単に原子同士の距離が測れます。



― 分子構造模型セットを用いた分子模型 ―


原子に見立てた小さな球と、それら同士をつなぐ棒がセットになっている分子模型セットが書店などで売られています。



これは発泡スチロールとは違って何度でも組んだりばらしたりできて、いわば空間的なブロックパズルです。

球棒モデルといわれる分子模型の一種で、空間充填モデルの込み合ってわかりにくいという欠点を補っています。

原子団の回転が説明しやすかったり、製品として精密に設計された専用の結合棒でより厳密な原子間距離がわかったりします。

何度も組めてかつ精密なため大学や研究機関でもかなりよく用いられます。


例えばこんな分子模型を組んでみました。


ベンゼン分子の構造
真っ平らな平面分子で、C-C結合は"1.5重結合"



シクロヘキサン分子(いす型)の構造
ベンゼンとは打って変わってギザギザな分子。



シクロヘキサン分子(方舟型)の構造
シクロヘキサンにはいす型(安定)、方舟型(不安定)がある。



解熱鎮痛物質アセトアミノフェンの構造
右下の専用縮尺定規で原子間距離が測れます。




― パソコンを用いた3D分子模型 ―


最近は家庭用のパソコンもかなり高性能になり、3Dの描写も可能になりました。

パソコンに専用ソフトをインストールして分子を表示させます。


WinMOPACでエタノール分子の構造を"計算"


有料のものも無料のものもありますが、たとえばJmolというソフトが有名です。


○ Jmol

Jmolはオープンソースでダウンロードが無料なソフトで、サイトからダウンロードできます。

世界的に用いられていて研究者も使っています。

作られた分子のデータを"データバンク"といわれるサイトからダウンロードして表示させます。

しかしこれらはほぼ全て英語で、また専門的でわかりにくいという致命的な欠点があります。

角川書店のブルーバックス文庫で『パソコンで見る動く分子事典』という本が本屋さんで売っています。

これに分子データと日本語化されたJmolが入っていて、インストールや表示手順が書かれているのでお勧めです。

私も最初はそれを買ってJmolを知りました。

エタンのような単純な分子から、下に示すような複雑な分子までたくさん入っています。

例えばこんな風に分子を表示してくれます。


狂牛病原因蛋白質分子プリオン(球棒モデル)
BSEの原因物質。蛋白質は非常に大分子量である。



プリオン(空間充填モデル)
球棒モデルや空間充填モデル等自由に選べる。



プリオン(蛋白質モデル)
蛋白質用の表示にすると構造が見やすくなる。



αへリックス構造
蛋白質のαへリックスの構造。プリオンの構造と比べてみよう。


表示専門のソフトなのでかなりハイクオリティです。

普通のソフトでは表示されない二重結合やベンゼンの"1.5重結合"もちゃんと表示されます。


○ ChemSketch

これは厳密には化学レポート作成用のソフトなのですが、分子を組んだり近似計算を行ったりできる点で
かなり高性能な、世界的に研究者や学生などに用いられているソフトです。

自分で簡単に分子が組めて、3Dモードで3D描画ができます。

欠点は、簡略的な計算をしているため誤差があることや、
自分で計算するためやはりミスをしている場合があることです。

これもオープンソースでサイトからダウンロードできます。

しかし英語で、また専門的で操作が難しいため、これもソフト付きの説明本を買うのが一番いいと思います。

Jmolと同じように角川書店のブルーバックス文庫で『ChemSketchで書く簡単化学レポート』という本が
本屋さんで売っています。

例えばこんな分子を表示させてみました。


グルコース(ワイヤーモデル)
線モデルは構造式に近いが見にくいという欠点が。



グルコース(太線モデル)
"構造式に色がついた"という感じのモデル



グルコース(球棒モデル)
原子は球、結合は棒で表されている。



グルコース(空間充填モデル)
分子の占める体積のわかるモデル。



○ WinMOPAC

これは個人的にかなり重宝しているソフトです。

これも世界的に有名な専門的なソフトです。

これは分子軌道計算をするソフトで、計算したい分子を組むと
あるべき原子配列・結合角に計算して補正してくれます。

角度など、かなり細かい計算結果を出してくれて、計算結果を3Dで表示させることができます。

分子軌道計算によって計算するので精度は高いのですが、私たち素人がやると
設定ミスがあったり、どうしようもないですが誤差等が出てしまいます。

が、うまくできればかなり素晴らしい3D分子が描画できます。

しかしこれも英語で、難しいところがあるので、やはりソフト付の本を買うのがいいでしょう。

同じくブルーバックスの『実践 量子化学入門』という本が良いでしょう。


このサイトで使っている分子の画像もかなりこれで私が計算した結果を示しています。

また分子軌道計算をすると、なんと生成熱や電子の軌道の形やエネルギーまで
具体的な数値を計算できるという優れもの。

細かい機能についてはまた別のページで説明することにしましょう。

例えばこんな分子を計算してみました。


p-ヒドロキシアゾベンゼン
平面の分子。覆っている網は分子軌道



エタノールのメチル基回転障壁の計算
山の頂上が回転障壁のエネルギーに相当する。



三酸化炭素 CO3
実はCO2以上が存在する!



三酸化炭素 CO3 part2
CO3には複数の構造がある。角度は重要。


等等、分子の形がわかればたくさんの事がわかるので、ぜひどれかで作ってみてください。



◎ オススメ


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化学反応式と言うものはまず中学で習います。

「化学反応式とは何ですか?」と聞かれたら、答えられますか?

たぶん化学を習っている高校一年生以上の多くの方は

「どんな物質が反応してどんな物質ができるかを表した式」

と答えられるはずです。

しかし、化学反応式が持つ"量的"な意味を理解できていない方が意外と多いのです。

また、化学反応式には"見方"によって色んな種類があるということで混乱している方も多いです。

化学反応式が自在に使えないと化学の計算問題/化学物質の変化の概念が壊滅的なものになってしまうほど、化学反応式の意味を理解することは重要なのです。

この二点について考えてみましょう。



○ 化学反応式の持つ根本的・量的な意味


簡単な例を挙げて説明します。

小学校で習う
「水素は燃えて水になる。」
ということを例に挙げます。

これを中学生レベルにして物質的に考えると
「水素は酸素と反応して水になる。」
となります。

中学では量的なものも習います。
量的に考えると、
「水素2分子は酸素1分子と反応して水2分子になる。」
となります。

この日本語をそのまま化学反応式で表すと

2H2 + O2 → 2H2O ・・・・(1)

となります。

ただし、「酸素1分子」は「1O2」ですがこの1は省略して単に「O2」と書きます。
(数学で「1x」を「x」と書くのと一緒。)


化学反応式が書けるようになると、逆に(1)式は

「水素2分子は酸素1分子と反応して水2分子になる。」

と日本語に変えることができます。

これだけできるのなら化学反応式は読み書きできます。


例えば「水素1分子と塩素1分子が反応して塩化水素2分子になる。」

と言われれば、同じように訳して

「H2 + Cl2 → 2HCl」

と書けます。


逆に

「2NO + O2 → 2NO2

と書かれていれば

「一酸化窒素2分子と酸素1分子が反応して二酸化窒素2分子になる。」

と日本語訳することができます。


また、重要なルールに「化学反応のそれぞれの分子の係数はもっとも簡単な整数比で書く」というものがあります。

例えば(1)式では

「水素2分子は酸素1分子と反応して水2分子になる。」

なので

「水素4分子は酸素2分子と反応して水4分子になる。」

とも言えます。

しかし

「4H2 + 2O2 → 4H2O」

と書くのは、両辺の係数が全て2で割れるのでダメ、と言うことです。


また化学反応式の右辺と左辺では原子の種類と個数は変わりません。
(◎ 質量保存則

その法則を使えば、両辺の原子の数が合うように係数を考え、何分子ずつ反応するかを考えることができます。


また、高校生レベルで考えると、「分子(原子・イオン)の個数の比」は「分子(原子・イオン)の物質量の比」と読み替えることができるようになるので、例えば(1)式では

「水素2molは酸素1molと反応して水2molになる。」

と読みかえることができます。


これだけできれば化学反応式の根本的な意味はほぼ理解できたと思っていいでしょう。



!注意!

化学反応式」と「熱化学方程式」は全くをもって別の概念です!

例えば

C + O2 → CO2



C + O2 = CO2 + 393.51 kJ ・・・・(*)

は非常に似ているけれども全く違うことを表しています!!

化学反応式は物質の変化を表していますが、熱化学方程式は数学的な「方程式」です。

方程式(5x+3=2yみたいなの)なので、(*)式のCやO2数字を表しています(具体的にはその物質の生成エンタルピー)。

しかし化学反応式のCやO2物質を表しているので、もちろん数字は代入できません。

「→」と「=」を絶対に間違えて書かないようにしましょう。

※ 化学反応式の中には、反応熱がわかりやすいように熱化学方程式のように○○kJと右辺に書いているものもあります。



○ 化学反応(式)の種類


化学反応は見方によって色んな種類があります。

というのも、例えば

C + O2 → CO2 ・・・・(2)

は炭素が酸素と反応して燃える反応なので、燃焼反応です。


また、

H2 + Cl2 → 2HCl ・・・・(3)

は水素と塩素が結びつく反応なので化合です。

しかし、同様に考えると(2)式も2種類の分子が結びつく反応なので化合と言えるのではないでしょうか?

答えは、その通り、です。

ではなぜ呼び方が2つもあるのでしょうか。

それは反応の「見方」が違うからです。

「化合」は、その名の通り2つ以上の物質が「合わさる・くっつく」こと、すなわち分子の反応前後での組み合わさり方に着目しています。

一方「燃焼」反応は、その名の通り「燃える」という反応での現象に着目しています。

その着目の仕方で色んな反応を分類すると、以下のようになります。

簡単な説明と例も付けます。


(1) 組み合わさり方による分類

化合
  1種類の物質が複数の物質から生成する
   例 H2 + Cl2 → 2HCl

分解
  1種類の物質が複数の物質に変化する
   例 2H2O → 2H2 + O2

複分解(あまり一般的な言葉ではない)
  2種類以上の物質が2種類以上の物質に変化する。
   例 Na2CO3 + CaCl2 → CaCO3 + 2NaCl


(2) 現象的(視覚的)な分類

燃焼
  物質が炎を出して燃える
  例 C + O2 → CO2

爆発反応
  急速な燃焼反応や、分解反応のこと
  C3H8 + 5O2 → 3CO2 + 4H2O

沈殿生成反応
  溶液から沈殿が生じる反応。「」は沈殿が生じるということを表す。省略可。
 (参考;「」は気体の発生。)
  CuCl2 + 2NaOH → Cu(OH)2↓ + 2NaCl

                                    等

(3) 反応の本質による分類

酸化反応
  酸素と結びつく/水素を奪われる/電子を奪われる
  2Mg + O2 → 2MgO (マグネシウムの酸化) ・・・・(4)

還元反応
  水素と結びつく/酸素を奪われる/電子をもらう
  CuO + H2 → Cu + H2O (酸化銅の還元) ・・・・(5)

中和反応
  H+の受け渡しを伴う反応
  HCl + NaOH → NaCl + H2O
                     等


(4) その他

 分子の特定の一部分が変わる反応(置換反応等)や、分子を構成する原子の位置が変わること(転移反応等)等、他にも色んな着眼点がある。


以上のように、色々分類できる。

また上記の「燃焼でもあるし化合でもある」ように同じ反応でも着眼点によって複数の分類ができるものもある。


さらに、化学反応には"主人公"がいる。

例えば(4)式を見てもらいたい。

マグネシウムからみると酸素と化合しているので酸化反応である。

しかし酸素からみると電子をもらっているので還元反応である。

(5)式でも、酸化銅からみると還元反応であるが、水素から見ると酸化反応である。

この"主人公"の概念は反応を分類するときに重要であることと、熱化学方程式を考えるときなどにかなり重要になってくる。


※ 上記の分類の定義はその反応を取り扱う分野や状況によって変わることがあります。


かなり多くの人が「モル」が理解できず化学に苦手意識を持ちます。

未知の言葉、「モル」。

では一体「モル」とは何なんでしょう?



コップ一杯には約10モルの水分子が入っている。



―「モル」≒「ダース」―


「モル」と「ダース」は実は非常に似ています。

ではまずダースから考えてみましょう。


「鉛筆1ダースは鉛筆何本ですか?」と聞かれたら

「12本」と簡単に答えられるでしょう。

知っての通りダースとは或る物12個の束ですね。


では鉛筆2ダースでは?

24本ですね。

これは

12本/ダース × 2ダース = 24本

という計算をしたのです。


では3.5ダースでは?

12本/ダース × 3.5ダース = 42本


では48本は何ダースですか?

48本 ÷ 12本/ダース = 4ダース

ですね。


ではここで「1ダースは12本」というのに対して「1モルは6×1023個」という新しい束の単位があるとしましょう。

まだこの段階では原子も分子も考えないでください。

ではダースのときと同じように考えてみましょう。

鉛筆1モルは何本ですか?

上で定義したとおり「6×1023本」ですね。


では2モルでは?

12 ×1023本 (=1.2×1024本)

ですね。


では24×1023本(=2.4×1024本)は何モルでしょうか?

(24×1023本) ÷ (6×1023本/モル) = 4モル

ですね。


モルというものはダースと全く同じく物の束の数をあらわす単位なのです。

ただ「ダース」という言葉が「モル」に変わって、

「12」という数字が「6×1023」に変わっただけなのです。


ではなぜ原子や分子の個数を表すとき「モル」を使うのでしょう?

まず、なぜダースという言葉を使うかというと、

「鉛筆120本を仕入れた」というと数が大きすぎてよくわからないですが、

「鉛筆10ダース仕入れた」というとわかりやすいからです。

同じように、原子や分子の個数は非常に多いので、「モル」という束で考えたほうが計算がしやすいのです。

「このコップの中には6×1024個の水分子が入っている」

と言うより

「このコップの中には10モルの水分子が入っている」

と言ったほうが格段に楽です。

このように、要するに「モル」とは「ダース」と同じで物の束の数を表すものなのです。


―モルとアボガドロ定数―


では「モル」をもう少し専門的に見ていきましょう。

先ほど述べたように、「1モル」は物質「6×1023個」のことです。

物質の量なので物質量といい単位は mol です。


1molは必ず物質6×1023個です。

「酸素分子1mol」は酸素分子が6×1023個で

「水素原子1mol」でも水素原子の数は6×1023個です。


ではこの「6×1023個」とはどこから出てきた数なんでしょうか。

この数のことをアボガドロ定数と言います。

これは質量数12の炭素12gに含まれる炭素原子の数として定義されていて、より詳しい値は

6.02214179....×1023個/molです。(単位の"個"は省略可)

です。


他にも「モル」には

「0℃1気圧の気体分子1molはその種類によらず22.4Lの体積を占める。」

という法則(アボガドロの法則)等、色々な面白い性質があります。



◎ 補足;コップの中の水分子は何モル?


冒頭に「コップ一杯には約10 molの水分子」があると述べました。

試しに本当にそうかどうか計算してみましょう。

水の密度は1 g/mLなので、コップ一杯(約200 mL)には約200 gの水が入っています。

一方水分子の分子量は18、すなわち18 gの水中に1 molの水分子が入っているので

(コップ中の水分子の物質量) = 200 g ÷ 18 g/mol ≒ 10 mol

となるわけです。

言いかえれば、コップ一杯には

6×1023 個/mol × 10 mol = 6×1024

の水分子が入っているというわけです。

コップの中には膨大な量の水分子が入っているとわかります。


普段何気なく使っているセッケンや洗剤、シャンプーやリンス。

これらはなぜ汚れを落とせるのでしょうか。

まず基本的なセッケンの原理を考えてみましょう。

次にそれを応用したリンスへ。

そしてリンスインシャンプーは高度な技術を応用した化学力の結晶なのであった!



○ セッケンの原理


セッケン高級脂肪酸の塩です。

具体的にはステアリン酸ナトリウムラウリン酸ナトリウム等があります。

これらは長いアルキル基と電離したカルボキシル基(-COO-)を持っています。


ラウリン酸ナトリウムの構造
Jmolで描画


アルキル基は親油性疎水性)で油に溶ける性質があり、一方電離したカルボキシル基は親水性で水に溶ける性質があります。

するとセッケン分子は水中で油汚れを下の図のように取り込み、水中に取り去ります。


セッケンの原理


そしてこの水を洗い流すことによって油汚れは綺麗に流し落とせるわけです。

またこの図のように界面活性剤分子が球のように集まっている状態のものをミセルといいます。

洗剤やシャンプーも基本的にはこの原理で汚れを落としています。

ただ、弱酸の塩のセッケンはアルカリ性なので、これで頭を洗うとバサバサになってしまいます。

なのでシャンプーはカルボキシル基ではなく硫酸モノエステルの塩(-OSO3-)やスルホン酸塩(-SO3-)にすることによってナトリウム塩を中性にしています。



○ リンスの原理


シャンプーの原理がわかったところで、次にリンスの原理を考えてみましょう。

実はリンスもとても似ている原理です。

"逆性セッケン"と言われる界面活性剤で、テトラアルキルアンモニウムイオンR1R4N+が入っています。


トリメチルステアリルアンモニウムクロリドの構造
Jmolで描画


アンモニウムイオンの形になっているので、Nは+に帯電しています。

よって、模式的に書くと下の図のようになります。



逆性セッケンの構造


+の部分は親水性で、長いアルキル基は親油性です。

すなわちセッケンとは+か-かだけが違うので、逆性セッケンと呼ばれています。

しかし、構造はシャンプーと似ていますが、まったく違う働きをしてくれます。

髪の毛を構成するたんぱく質はマイナスに帯電しています。

マイナスに帯電している部分にプラスに帯電しているリンス分子がくると、静電的に引き合ってくっつきます。

そのとき下の図のようにプラスの部分が髪の毛にくっつき、疎水性の長いアルキル基を外向きにします。



リンス分子の髪の毛への吸着


するとこの立っている棒のようなアルキル基の分髪の毛同士に隙間ができるため、髪の毛のゴワゴワを消してくれます。

またマイナスな髪の毛をプラスで打ち消してくれるため、静電気のバチバチも消してくれます。

このようにして、また配合された他成分の効果も合わさり、髪の毛をさらさら・ふわふわ・しっとりな感じにしてくれるのです。


ちなみに今説明した「リンス」はより正しくいうと「ヘアコンディショナー」のことです。

日本では今も「リンス」とも言うのですが、リンスとは元々酢のような酸のことで、アルカリ性のセッケンで頭を洗った後中和するための溶液のことでした。

今使っているリンスは上のように逆性セッケンや他の成分の油分で保湿や柔軟効果があるもので、本来の「リンス」とは別物なのです。



○ リンスインシャンプーの化学


ではリンスインシャンプーはどうだろうか。

シャンプーとリンスを混ぜただけのものだろうか。

シャンプー分子はマイナスのイオンで、リンス分子はプラスのイオンである。

すなわち、混ぜたらお互いが引き合ってくっついてしまい、シャンプーとしての機能もリンスとしての機能も失ってしまう

よって、上にあげたようなシャンプー分子とリンス分子は共存して効果を発揮することはできないのである。

しかしリンスインシャンプーは売っているわけで、ちゃんとシャンプーの洗浄力もリンスの柔軟力も発揮している。

ではリンスインシャンプーはどんな仕掛けなのだろうか。

実はリンスの分子を陽イオン高分子にしているのである。

ところどころに上のリンスのようなアンモニウムイオンなどのプラスの部分を持っている高分子で、そこにシャンプー分子が引っ付いている。



リンスの高分子とシャンプー分子


高分子は大きいので水に溶けるのが遅い。

一方シャンプー分子は小さいのですぐにリンス高分子から離れて水中へ散っていく。

はじめに水中へ出て行ったシャンプー分子が髪の毛の汚れをセッケンと同様に水中へさらっていく。


シャンプー分子の洗浄効果


次にリンス高分子が髪の毛へやってきて、普通のリンスと同様にマイナスに帯電している髪の毛と引っ付く。

また、このときにはもうシャンプー分子は洗い流され、いなくなっている。


リンスの高分子の定着


すると「シャンプー → リンス」の順で髪を洗ったことになる!

高分子を使うことによるこの時間差攻撃を考えた化学者は非常にすばらしい発想の持ち主だと思う。

このようにして、リンスインシャンプーは現代の化学力を応用した機能性分子によって力を発揮している。


ということで、横着してシャンプーとリンスを混ぜて一回で頭を洗っている人は、それは効果がないことがわかったでしょう。

これからは横着しないでちゃんとシャンプーしてからリンスするか、もしくはこのすばらしいリンスインシャンプーを使いましょう。



◎ 参考・出典



  


子供のころ、誰しも必ずと言っていいほど遊んだことのあるスライム。

作ったことはありますか?

授業やお楽しみ会的な催し物とかで作ったことのある人も多いでしょう。

簡単に出来るので、一度自分で作ってみましょう。


[材料]

PVA(洗濯糊/化学糊)ホウ砂 、水、絵の具(お好み)

これだけです。



PVA(上に"化学糊"、下に"PVA"と書いてある。)




ホウ砂(結晶)


※ 注意:ホウ砂は有毒です。

普通に触っている分には問題ないですが、傷口に触れると体内へ吸収され中毒を起こしたりするそうです。

本来は水溶液を目の消毒薬として使ったりするので、必要以上に怖がる必要はありません。


[作り方]

・ まずホウ砂の飽和水溶液を作ります。
  容器(ペットボトルなど)に水を入れ、ホウ砂を溶けなくなるまで溶かします。
  しばらくたっても底の沈殿が消えないくらいまで入れましょう。


・ 次にフィルムケースなどを容器にして、水1体積を入れます。
  これに絵の具を加えて色を付けておくと鮮やかなスライムが出来ます。


・ 同じ大きさの別のフィルムケースにPVA1体積を入れます。


・ 同じように、別のフィルムケースにホウ砂の飽和水溶液0.8体積を入れます。
  このとき沈殿が入らないようにしてください。


・ 最後にこれらをプリンの容器等で混ぜます。
  → 出来上がり!


☆ PVAとホウ砂の割合を変えると硬さの異なるスライムが出来ます。
  理想の硬さを目指しましょう!


この前バイト先の塾で昔スライム作りのお楽しみ会で使った材料をもらってきました♪

・・・というかゴミを押し付けられたんですよね(^^;)


っということで上記の方法で作ってみました。

これがなかなか難しい。

好みの硬さになかなかならない。


手を離した直後は形があるんですが・・・

重力に負けてしばらくするとぺったんこ



これはこれで綺麗。

面白いから顔を付けてドラクエのスライムにしてみた。



題名;重力に負けたスライム


我ながら会心の出来・・・!?



スライムの理論


さて、遊んでばかりじゃなくて化学的にスライムを見てみましょう。

なぜPVAにホウ砂水溶液を入れると固まるのか?


まず、PVAとはポリビニルアルコール([-CH(OH)CH2-]n)の略です。

構造は以下のように、長い炭素鎖にヒドロキシ基がたくさんぶら下がっています。



PVAの構造


一方、ホウ砂はメタホウ酸ナトリウム(Na2B4O7・10H2O)です。

ちなみにメタホウ酸イオンは下の構造をしています。



メタホウ酸イオン[B4O7・2H2O]2-の構造


B-OHの部分はアルコールのR-OHと出会うとB-O-Rの無機酸エステル結合を作ります。

特に、炭素1つ飛ばしにヒドロキシ基を持つPVAは、ホウ酸イオンB(OH)4-と下式のように反応し都合良く安定な六員環構造を作ります。




ポリビニルアルコール-ホウ砂結合の構造と生成反応
(最後に示す二つ目の参考文献より。)


このようして2本のPVA鎖がホウ酸イオンによって結びつけられます。(架橋反応

架橋される部分がたくさんあり、複数のPVA鎖同士が結びつけられるため、下図のような網目構造が形成されます。



PVAとメタホウ酸イオンから生じる網目構造


このように架橋すると分子は網のようになり、最初の分子鎖が自由でどろどろのPVAと比べると硬くなりスライムとなります。

またこの網の中に大量の水を取り込みあのひんやりぷよぷよ感が生まれます。

また無機酸エステル結合がこのほどよい硬さを保っているため、スライムに酸を加えるとこのエステル結合は分解されて元のB-OHとR-OHに戻ってどろどろになってしまいます。

なので服についたりして取れなくなった場合は酢をかけると取ることができます。



◎ 参考


  • 『リー無機化学』, リー (著), 浜口 博 (翻訳), 菅野 等 (翻訳), 東京化学同人 (1982/01)


  • "Morphology-reology relationship in hyaluronate/poly(vinyl alcohol)/borax polymer blends", Sook Heum Kim et al.,Polymer 46 (2005) 7156-7163


  • 『Slime』, IRUKAさんのページ ←すばらしいです!!




◎ 参考品


  
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