一般向け/高校生向け楽しい化け学
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蛍石(Fluorite):CaF2

フッ化カルシウムそのもので、純粋なものは無色透明の結晶。

その結晶構造は「蛍石型結晶構造」であり、MX2型かつイオン半径比が0.73以上である場合に見られる代表的な構造をしています。
(詳しくは過去記事:『フッ化カルシウム ~蛍石型結晶構造』


光る石として有名ですが、それはランタノイド元素が不純物として含まれている一部のものです。

多くの発光性蛍石は青紫色に光りますが、これは不純物のユーロピウム(II)イオンEu2+による発光です[1]。

幸運なことに、私の蛍石はUVランプで青紫色に光ってくれました!




蛍石(産地不明, Mineraさんからの頂き物)
(左)常光下、(右)365 nm光照射下


またもやラボの分光光度計で測定した天から降ってきた発光スペクトルはこんなのでした。



蛍石の発光スペクトル(励起波長:295 nm)


青色領域(発光極大:412 nm, 432 nm)に加え、興味深いことに目には見えない紫外線領域(発光極大:323 nm, 345 nm)にも発光がありました。

発光波長的に、青色領域はユーロピウム(II)イオンEu2+由来、紫外線領域はセリウム(III)イオンCe3+由来でしょう。

さてこれらがどのような電子遷移に基づく発光か見ていきましょう。

以下ちょっと専門的です。


Ce3+イオンの発光
Ce3+イオンの発光は希土類としては珍しく、f-f遷移ではなくてf-d遷移に基づきます[1]。
(実はEu2+もです。後述。)

f-f遷移は奇関数-奇関数の遷移なので対称禁制であり吸収や発光が弱いですが、d軌道は偶関数なのでf-d遷移は対称許容で強い発光になります。

一般に蛍石はプロメチウムを除く全てのランタノイド元素が10~100 ppmほど含まれていますが、Ce3+とEu2+の発光が強いためほとんど見えないそうです。

さてCe3+の発光は323 nmと345 nmのふた山に割れていますが、これはそれぞれ5d(Eg)→4f(2F5/2)と5d(Eg)→4f(2F7/2)の放射失活遷移に対応します。

すなわち励起光によってf軌道からd軌道に1電子持ち上がった状態から失活してf軌道に戻るときに発光するわけですが、このときf軌道の電子状態が2F5/22F7/2の2パターンあるということです。




Ce3+イオンの吸収・発光のエネルギー図



Eu2+イオンの発光
まずEu2+イオンは非常に面白いイオンで、なんと希土類のくせに2価です。

3族である希土類元素はEuも含め通常3価のイオンになります。

しかしEuは希土類中最も安定な2価イオンになり、蛍石のように天然中にも普通にEu2+イオンとして存在します。

これはEu原子が[Xe]4f76s2の電子配置であるため、2つ電子を失ったEu2+イオンの電子配置は[Xe]4f7となりf軌道が半閉殻になるからです。

f-f遷移に基づく赤色発光を示すEu3+イオンと打って変わって、Eu2+イオンはf-d遷移に基づく青色の発光を示します[2]。

Eu2+イオンの発光は、より詳細には5d(Eg)→4f(8S7/2)遷移であるとされています。

この遷移は一般的には420~430 nmに極大を示すひと山の発光であると報告されていますが[1, 2, 3]、私の蛍石ではなぜかふた山でした。

格子欠陥等でEu2+の結晶場が2種類あるとか、F-以外の陰イオンが不純物として混ざっていて二種類のEu2+錯体が入っているとか色々考えられますがまだわかりません。


いや~蛍石を眺めているとランタノイドの軌道を走る電子を感じられますね!楽しい!!


参考
[1] A. Sidike et al, Phys. Chem. Minerals., 30 (2003) 478-485.
[2] M. Czaja et al, Phys. Chem. Minerals., 39 (2012) 639-648.
[3] G. B. Stryganyuk et al, OPTICS AND SPECTROSCOPY, 103 (2007), 568-572.

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