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一般向け/高校生向け楽しい化け学
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金属ビスマスの結晶。色は表面の酸化膜による構造色。
結晶は堀石廉様提供。2012/12/31 筆者撮影。
クリックで拡大(壁紙サイズ)



ビスマス】 蒼鉛:Bismuth

原子番号83、元素記号Bi。

第6周期第15族(窒素族)元素。


Biはだいぶ後ろの元素。


単体は人畜無害、低融点(271℃)、重い(比重:9.78)。

そのため、鉛の代替品としてハンダや魚釣りのオモリ等に用いられます。

化合物も無害なものが多く、酸化ビスマスBi2O3は整腸剤に用いられます。

胃もたれや胸やけの薬である次サリチル酸ビスマスC7H5O3BiOH製剤は有効成分の57%がビスマスであるというから、まさにビスマスを飲むようなものです。

また最近、有機ビスマス化合物は発光材料としても注目されてきました。(後述)



胃薬である次サリチル酸ビスマスの構造。
なかなか面白い構造をしている。

今筆者が最も注目している元素なのですが、なんとBi結晶を石華工廠堀石廉様に頂きました!
(しかも3つも!)

今回はそんなビスマスの魅力を大紹介!

まず美しき彼らの写真をご覧ください!



ビスマス結晶


2012/12/31 筆者撮影

ビスマスの人工結晶。

融解したビスマスをゆっくり冷却し、一部生じた結晶部分をつまみ上げたり、結晶部分以外を流し除く等して作られるようです。

冷却の際、表面に酸化膜が生じ、それが美しい構造色を生み出します。

また、ビスマスには結晶の面よりも稜が成長しやすい性質があります。

これがビスマス結晶の"じょうご"型構造の所以です。
(この形を「骸晶」と言います。)

もっと美しい写真や、結晶の作り方や詳しい話は石華工廠HP様にありますので、興味のある方はぜひご覧ください。


構造色
物体表面に被膜構造があったりデコボコ構造があったりすると、光が干渉して波長の強め合い・弱め合いが生じて反射光に色が付く現象。
例えば水に油を垂らすと生じる虹色や(油膜の厚みによる干渉)、CDの記録面の緑やピンク(デコボコによる回折・干渉)。
ビスマス結晶の赤や緑はビスマスという物質そのものの色ではなくて、酸化被膜という表面構造によるもの。


ちなみにビスマスのインゴットはビスマス本来の色である銀色です。


2012/12/31 筆者撮影
インゴットも堀石廉様提供。


インゴットを割った断面には美しい内部結晶が見られます。


2012/12/31 筆者撮影



ビスマスはオール放射性元素!

実はビスマスには安定同位体ありません

全てが放射性同位体です。

ゆえに、上の写真はまさに放射性同位体の塊なのです。

「え、ヤバいんじゃないの!?」

と思われるかもしれません。

でもご安心ください!

ビスマスはほぼ100%、209Biから成っているのですが、これは半減期が1900京年もあります。

宇宙の年齢が100億年くらいなので、ビスマスは超長寿です。

これは100億個の209Bi原子があるとすると、100億年後は4つだけ減っているという計算です。

要するに、実用上ビスマスは減ることのないほぼ安定元素ということです。


ちなみに209Biは超超ゆっくりα崩壊4He2+を放出)して205Tlになります。

209Bi → 205Tl + α


放射性元素ポロニウムの合成法

209Biに中性子nを照射すると210Biが生じ、徐々にβ崩壊(電子を放出)して210Poになります。

209Bi + n → 210Bi → 210Po + β

こうして合成されたPoはα線源や静電気除去ブラシの材料として用いられます。



ビスマスの最新研究

さて、ここからは筆者の専門領域(有機金属化合物)になってきますが、ビスマスの最新情報をご紹介いたします。

例えば、有機ビスマス化合物:ジチエノビスモール。



ジチエノビスモール誘導体[4]

これはりん光性発光材料を指向して合成されました。

原子番号の大きな元素(原子核の正電荷が大きな元素)が高い発光効率を示すのですが、ビスマスは使い物になる元素で最大の原子番号を持つので有望です。

現在、原子番号の大きな元素として白金やイリジウム等の高価なレアメタルがりん光性有機金属錯体に用いられています。

一方、ビスマスは2円/gで取引されている安価な金属であり、これまた注目されている所以になっています。



白金と言えば、最近2012年、こんな不思議な化合物が発表されました。



Pt-Bi化合物:Pt→Bi結合がある[5]


この化合物、Pt-Bi結合があるんですが、

「Bi:→Pt」ではなく「Pt:→Bi」

なんです!

普通に考えたら前者なのに。

ビスマスは窒素族元素ですが、例えばテトラアンミン銅(II)イオン[Cu(NH3)4]2+はN:→Cu配位結合を持つし、同じく窒素族であるPも上構造式の中でもP:→Pt配位結合を作っています。

が、ビスマスは配位が逆なのです。

これもビスマスが大きな原子番号を持っていることが原因になっているようです。
(例えば、ビスマスの非共有電子対はとても安定になっている:不活性電子対効果

※ もっと専門的に言うと、上の例でビスマス原子が持つ配位サイトはBi-Cl結合のσ*軌道。
Bi-X結合と180°反対側に、比較的低エネルギーで十分な大きさのσ*軌道が形成される。


以上。

無害で安定な不安定元素で、安価で不思議な性質を持つ金属、ビスマス。

上記性質以外にも、最強の反磁性、大きな熱電効果、凝固すると体積が増す等、面白い性質が盛りだくさん。

これからもっともっと注目されるかもしれません。



参考

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大涌谷ロープウェイから望む箱根の山々 2012/10/07筆者撮影


神奈川県の箱根に一泊二日で旅行に行って来ました。

研究室のメンバーたちと、温泉や美術館、大涌谷等を観光。

温泉ではこの匂いは硫化水素H2Sだ析出してるのは炭酸カルシウムCaCO3だと、美術館では材質は御影石だポリカーボネート[-O-C6H4-C(CH3)2-C6H4-O-CO-]nだと、大涌谷では硫黄Sだ亜硫酸ガス(=二酸化硫黄)SO2だと、無意識に化学トークを展開する変な集団でした。

楽しい2日間でした。

特に火山ガス吹き出る大涌谷では、火山性の物質たちや興味深い化学反応と出会ったので、ちょっと紹介してみたいと思います。


火山性物質~神奈川県大涌谷


山のふもとからケーブルカーに乗って山を登り、途中でロープウェイに乗り換えて頂上へ。

ロープウェイが火山ガスが吹き出る噴煙地の真上を・・・・


噴煙と硫黄:ロープウェイから 2012/10/07筆者撮影 クリックで拡大


吹き出る火山ガスの白煙!(水蒸気、硫化水素H2S、二酸化硫黄SO2など)

大量にゴロゴロしている硫黄S!(写真の黄色い物。階段や建造物との大きさと比較するといかに大量かよくわかる。)

突如現れたこの山肌に我々化学野郎たちは大興奮!

みんな硫黄硫黄と叫び写真を撮りまくりました。
(ロープウェイは我々一団で貸し切り状態になっていたので、他人に迷惑はかけてません!)


火山ガスには硫化水素H2Sや二酸化硫黄SO2が含まれています。

高校の化学でも習いますが、これらは酸化還元反応をして硫黄になります。

半反応式
H2S → S + 2H+ + 2e- ・・・・(1)
SO2 + 4H+ + 4e- → S + 2H2O ・・・・(2)

全反応式 [式(1)×2+式(2)]:
2H2S + SO2 → 3S + 2H2O ・・・・(3)

硫化水素と二酸化硫黄が含まれる高温の火山ガスが冷却されると上記反応が起こるため、硫黄が産出されるそうです。


☆ 高温条件では硫黄が水と反応して式(3)の逆反応が起こるとのこと。

だから火山ガスは冷却されて初めて硫黄を析出するそうです。



大涌谷名物「黒たまご」~火山ならではの化学反応


ロープウェイを降り、大涌谷の売店に行くと「黒たまご」なる黒いゆで卵が特産品として販売されていました。


大涌谷名物「黒たまご」 2012/10/07筆者撮影


説明書きを読んで感激!

なんとこの黒色、温泉ならではな化学反応により形成されていたのです!!

黒たまごの作り方と、段階的なその化学をご紹介しましょう!


① 約80℃の温泉池で1時間生卵をゆでる。

⇒ 気孔の多い殻に温泉池の成分である鉄分が吸着される。

⇒ さらに硫化水素が反応する。

⇒ 殻が鉄分が黒色不溶な硫化鉄FeSになり、殻が黒変する。
 Fe2+ + H2S → FeS↓ + 2H+


② 黒くなったゆで卵を蒸し釜へ移動し約100℃の蒸気で15分蒸す。

⇒ おいしい黒たまごの出来上がり!!


さっそく購入・・・うまい!!

やはりこういうのは現地で出来たてのアツアツを食べるのがおいしいですね。



大涌谷噴煙地


大涌谷は道が舗装されていて、火山ガスが吹き出る噴煙地まで近づくことができます。

目と鼻の先で噴き出す噴煙には圧巻されます。


大涌谷噴煙地 2012/10/07筆者撮影


地球の雄大さよ・・・

噴煙地へ登る途中には、湧きでる温泉でできた川や池があります。

噴煙地付近に、先の黒たまごを作る温泉池がありました。

ちょうど卵を引き上げるところが見れて幸運でした。


黒たまごを作る温泉池 2012/10/07筆者撮影


温泉池に鉄分が含まれているということと硫黄泉ということから、これら温泉池の水色は硫酸鉄(II)FeSO4、白く濁っているのはコロイド状の硫黄といったところでしょうか。

以前訪れた大分県の地獄温泉(『地獄(大分県)の化合物 』)での経験も踏まえながら考えていました。



こういうのを生で見ると地球の雄大さをつくづく感じます。

色、形、温度、匂い・・・五感をフルに使って自然を感じました。

百聞は一見に如かずと言いますが、ぜひまた色んな所を訪れたいと思いますし、読者の皆様にもオススメ致します。

旅先でも化学!!


先日大分県に旅行に行きました。

別府で地獄めぐりをば。

大分県の別府には温泉地帯があり、いくつかの温泉が赤色や青色に色づいていたり、間欠泉になっていたりするため「地獄地帯」と呼ばれています。

"地獄"は「血の池」「海」「山」「鬼山」「竜巻」「かまど」「坊主」「白池」の8つあります。

温泉は無機化合物の宝庫。

もちろん単なる観光だけではなく温泉化合物もチェックしてきました。

今回は彼らをいくつか紹介します。



血の池地獄


真っ赤な血の池地獄
2012/3/23筆者撮影


8つある"地獄"のうち最もポピュラーであろう血の池地獄。

まさに地獄、真っ赤です。

これは酸化鉄の色であるらしい。

酸化鉄には酸化鉄(II)FeO酸化鉄(III)Fe2O3赤鉄鉱四酸化三鉄Fe3O4磁鉄鉱等がある。

血の池地獄は赤色なので鉄(III)イオンFe3+系であろう。

が組成式は「Fe2O3」ではなく、水中にあるため実際は酸化水酸化鉄(III)FeO(OH)系の化合物だと思います。

高校でも習う水酸化鉄(III)Fe(OH)3が脱水縮合したコロイドFe2O3・nH2Oのような形で水中に分散しているのかもしれませんね。



海地獄


真っ青な海地獄
2012/3/23筆者撮影


鮮やかな青色の温泉。

この青色は硫酸鉄が原因であるらしい。

硫酸鉄には、硫酸鉄(II)FeSO4硫酸鉄(III)Fe2(SO4)3がありますが、青色なのでFeSO4系でしょう。
(Fe2(SO4)3は白~赤紫系の色です。)



かまど地獄(3丁目)】


真っ青なかまど地獄の3丁目
2012/3/23筆者撮影


こちらも鮮やかな青色の温泉。

が、海地獄とは全く原理が違います。

かまど地獄のこの青色の原因物質は、ほぼ純粋な二酸化ケイ素シリカSiO2

しかし本来二酸化ケイ素は透明か白色の物質です。

実はかまど地獄の湯中には二酸化ケイ素の微粒子が漂っているのですが、この微粒子は数十nm~数百nmの大きさです。

高校物理Iで習いますが、この大きさの粒子は光の散乱を起こしちょうど青色の光を強めて反射します。
(◎ 短波長の青色光の方が長波長の赤色光より散乱を受けやすい。)

このように物理的な物質の構造による光の反射で湯が青く見えます。

一方、海地獄の硫酸鉄による青色は、硫酸鉄が太陽の白色光の内青色の補色(黄色)の光を吸収するからです。
(吸収する光のエネルギー(波長;色に対応)は硫酸鉄の電子の軌道間のエネルギー差に相当し、光を吸収することにより硫酸鉄は励起される。)

このように、同じ青色でも全く原理が違います。

ちなみに硫酸鉄が光を吸収するような化学的な色に対して、かまど地獄の二酸化ケイ素のような物理的構造による色を構造色と呼びます。



山地獄


噴気がもうもうとする山地獄
2012/3/23筆者撮影


一方大量の噴気を吐きだしている山地獄。

煙のよう見える噴気の主成分は水H2Oです。

噴気はとても熱く、地熱の力を感じさせられる。

また、噴気を嗅いでみると独特な卵の腐ったような匂いがしました。

硫化水素H2Sでしょう。

H2Sは温泉で噴出する主な気体の1つで、特有の卵の腐ったような匂い(腐卵臭)がし、有毒です。

酸素O硫黄S同族元素周期表で同じ列)であり、水分子と硫化水素分子はとても構造が似ている親戚分子です。


水分子(左)と硫化水素分子(右)の構造
ChemSketchで描画


酸素原子と硫黄原子が入った化合物の構造はとてもよく似ていて、相互変換も可能なことが多いですが、両者の大きな違いは水素結合形成能の有無(Oは水素結合可;融点・沸点が全然違う)、d軌道の有無(Sはd軌道アリ;Sは原子価拡張ができる)ですね。



以上のように"地獄"で色々な無機化合物と出会えました。

特にかまど地獄3丁目の二酸化ケイ素の構造色にはびっくりしました。

紹介しませんでしたが他の"地獄"も全部回って、間欠泉である竜巻地獄なんかも圧力による水の沸点上昇に起因していたりしていて面白かったです。

筆者はどこへ行っても何をしていても「化学」を探しています。


>>風合瀬様のコメントへの返信


蛍石型結晶構造」の結晶構造模型を作ったので紹介してみます。


フッ化カルシウム CaF2;蛍石型結晶構造


蛍石CaF2の現物(左)と蛍石型結晶構造模型(右)


【蛍石型結晶構造】

MX2型の塩で、かつイオン半径比が0.73以上である場合に見られる。

上図では灰色がM2+、赤色がX-である。
※ 陰イオンと陽イオンの半径の比で結晶構造は変わる;『結晶 ~限界イオン半径比~』も参考。

蛍石型結晶構造は体心立方格子等と同じ「立方晶」と呼ばれる単位格子が立方体である結晶系に属している。
※ 単位格子は立方体とは限らない。軸がゆがんだものや、辺の長さがバラバラなものもある。例;六方最密充填

代表的なものにM2+=Ca2+、X-=F-のフッ化カルシウムCaF2;蛍石があるためこの名がある。

フッ化カルシウムの場合なら下図のようになる。



フッ化カルシウムの蛍石型結晶構造


電荷が1:2であるからF-はCa2+の二倍の数あるため、互いの配位数は1:1ではない。

4つのCa2+が1つのF-を四面体的に囲んでいる形で、配位数はそれぞれ8:4になる。

Ca2+だけを見ると立方最密構造面心立方格子)型の配置になっている。
※ ただしCa2+はF-より小さいためCa2+同士は触れ合っていないから厳密には違う。

Ca2+の立方最密型構造の全ての四面体空孔にF-が入っている構造である。


高校化学で面心立方格子や体心立方格子などを習うが、実際は世の中にはもっとたくさんの結晶構造がある。

特に塩は成分イオンの電荷数、半径比に違いがあるため多種多様な結晶構造を作り、そのためその結晶構造の代表的な鉱物を結晶構造の名前とすることが多い。

例えば同じMX2型の塩でも半径比が0.73と0.41の場合には二酸化チタンTiO2の金鉱石型構造(ルチル型構造)もある。

他にも、同じTiO2でもルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の三種類があるなど、結晶の化学はとても難しい。



【蛍石】

フッ化カルシウムCaF2の鉱物。

上の写真の蛍石は不純物のため緑色である。(純粋なCaF2は白色, 不純物により様々な色の物が産出される。)

蛍石は写真のように正八面体にへき開し、その名のごとく光る性質がある。

蛍石は「fluorite」というが、これがフッ素(fluorine)Fの語源になったとか。


ちなみに蛍石CaF2はフッ化水素HF、そしてそれに次ぐフッ素F2の製造原料である。

蛍石を濃硫酸で処理して蒸留するとフッ化水素の水溶液及び無水物が得られる。
(重要!)

CaF2 + H2SO4 → CaSO4 + 2HF

HFとKHF2(※1)の混合物に水が完全にない状態で(※2)100℃で電気分解するとフッ素が生じる。

2HF → H2 + F2

(※1) K+[HF2]-という塩で、HFだけでは導電率が低いため添加されている。
   ちなみに[HF2]-はビフルオリドイオンと言い、[F・・・H・・・F]-の直線構造の陰イオン。

(※2) フッ素は酸素より酸化力が強いので、水があると酸素O2が生じてしまう。


他にも蛍石は融剤に用いられたり、色収差(光の色による屈折率の差)が小さいので光学レンズに用いられたりする。


◎ 参考
  • 岩石マニアのオジサンのウンチク。(蛍石の現物の所有者、写真撮影。)

  • 『リー無機化学』, リー (著), 浜口 博 (翻訳), 菅野 等 (翻訳), 東京化学同人 (1982/01)



◎ 上の結晶構造模型はHGS分子構造模型Dセット(無機化学セット)で組みました。




明けましておめでとうございます。

年始早々から忙しかったので久々の更新です。


さて、昨日アルバイト先の塾の生徒さんが「リンP4は融点が低い」という表現で悩んでいました。

普通、高校の教科書にはリンの化学式が載っていません。

一口に「リンP」と言っても、実は様々な同素体があります。

代表的なのは赤リンPと黄リンPです。

・・・っと高校の教科書に載っているが、実は黄リンは同素体ではなく「白リン」をベースに赤リンがちょっと混ざったような混合物らしいです。

赤リンはPが何原子か結合した化学式Pn、白リンはP原子が4つ結合した化学式P4という分子です。

恐らく、高校の教科書では「リンは赤リンと黄リン」と丸く収めたいのに、実は黄リンが混合物っぽいとか言う理由から「黄リンは化学式P4」とは言えないためややこしいので「リンは組成式P」と簡単に書いているのだと思います。

そのためか教科書でリンのページは薄っぺらいし、P4分子の存在が載っていません。


赤リンは化学式Pnの高分子的な固体なので融点は高い(600℃)。

一方黄リンは上記のようにほぼ白リンP4なので、分子結晶です。

だから黄リン(白リン)は融点が低く、なんとたった44℃。

・・・というように、リンの同素体には化学式P4というまさしく分子の形態を持つ物質があるわけです。


さて、では気になってくるのはP4分子の形です。

あまりなじみのない元素、なじみのない化学式ですからぱっと聞いただけでは構造もよくわかりませんね。

「P-P-P-P」みたいな直線か、あるいは枝分かれか、もしかしたら環状構造を取っているのか・・・・

なんと、実は下図のように正四面体の各頂点にP原子が配置した化学構造を取るらしいです。


P4分子の構造。WinMOPACで計算・描画


そうすると、Pの原子価は3ですが、全てのP原子がその手の数を満足できるというわけです。


四面体構造を取ると手の数は合いますが、本当に「正」四面体なのかなぁと思いました。

で、先ほどWinMOPAC(分子軌道計算ソフト)で計算してみたのですが、

○ 計算結果

・ 全ての∠P-P-P = 60.00°

・ 全てのP-P結合長さ = 2.197Å

というまぎれもなくP4分子が正四面体であるという結果が得られました。

その計算で得られた正四面体構造がまさしく上の図です。

本当に美しい正四面体だったので感動してしまいました。


しかし、美しいバラにはトゲがあると言いますが、美しい分子構造を持つ黄リン(白リン)は猛毒で、触るとひどい火傷を負い、飲むとまず死にます。

しかも自然発火性まであります。

黄リンの物性については次回の記事に書くことにします。

→ 次回;『今日の分子No.75 :白リン


いや~しかし、やはり分子軌道計算は強いですねぇ。

カチカチカチっと数回クリックするだけで簡単にパソコン上で計算できてしまうコンピュータ化学の進歩にも感動です。



◎ 参考

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