一般向け/高校生向け楽しい化け学
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フラーレンC60 ――
このサッカーボール型の分子は、比較的最近;1985年に発見されました。
Kroto、Smalley、Curlらによって真空中でグライファイトにレーザーを照射して分解・蒸発させることで人工的に合成されたのです。
その後様々な合成方法が考案され、現在は燃焼法という方法で工業的に生産されています。
「こんな特殊な分子、もちろん身の回りには存在しないよね。」
いやいや!実は我々の身の回りにもあるのです!
それもなんと誰しもが使ったことのある、習字で使う墨の中に・・・!!!!
今回は「墨の中にフラーレンがあるのを見つけた!」という大澤映二らによる論文;「Fullerenes in chinese Ink. A Correction」[1]をご紹介します。
ちなみにこの論文の著者である大澤先生は、Krotoらによってフラーレンが発見される前にその存在を予言していた日本人化学者です。
他にも、自然の炭素質鉱物中にフラーレンが存在することについても研究されていたりします。
墨の中のフラーレン;墨のHPLC分析
さて如何に墨の中でフラーレンを見つけたか。
なんと著者らは墨をトルエンで抽出してHPLC※1にかけちゃったんです。
その結果が図1。
図1. 「明萬歴」墨のHPLC分析結果(ODSカラム)。
論文掲載図を元に作製。
まず最初に多環芳香族炭化水素(PAH)※2のピークがドーーーーンと出てきます。
そして少し遅れて保持時間12分頃にフラーレンC60のピョコっとピークが現れます。
なんとHPLCで見えるくらい墨の中にたくさん入ってるんです。
ちなみにこの図1の墨は「明萬歴」と名付けられた中国の墨で、製造年は1572-1620年頃のものだそうです。
北京のアンティークショップで買ったそうです(笑)
分析結果より、この「明萬歴」でC60の含有率は0.009 ppm。
墨は有機物を不完全燃焼して生じる"すす"を集めて固めたものですが、その燃焼過程でフラーレンが生じるんでしょうかねぇ。
著者らは他にも色々な墨を調べているんですが、例えば現代日本(1992年製造)の「霊華」という墨がすごい!!
C60フラーレンの含有率が0.078 ppmとかなりの量で、しかもなんとレアなC70フラーレンも0.030 ppm含まれているという!!
皆さんも書道の時間に気付かぬうちにフラーレン分散液を作ってるかも知れませんね!(笑)
用語解説
※1. 高速液体クロマトグラフィー(High performance liquid chromatography:HPLC)
クロマトグラフィーの一種で、ポンプを使って高圧の移動相をカラムに通す。
カラム中には固定相(今回は疎水性のODS:オクタデシルシリル基修飾シリカゲル)がある。
混合物中の各物質と固定相との相互作用の大きさの差を利用して分離・検出する機器分析法。
※2. 多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbon:PAH)
ベンゼン環がたくさん縮環した化合物群。
墨は有機物を不完全燃焼したときに生じる炭素質物質の"すす"を固めたものであるが、その"すす"の主成分はPAHであると考えられている。
参考
[1] Fullerenes in chinese Ink. A Correction, 大澤映二ら著, Fullerene Science and Technology, 2007, 5:1, 177-194
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