一般向け/高校生向け楽しい化け学
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
酢酸エチルは、濃硫酸を触媒として酢酸とエタノールから合成できる。酢酸2.0 molとエタノール8.0 molを反応させたところ、酢酸エチル88 gが得られた。酢酸の何%が酢酸エチルに変化したか。
(2013年センター化学I)
こんな問題が先日のセンターで出題されました。
条件に注目!
濃硫酸を混ぜていて、エタノールが無駄に多い・・・?
問題を問題として解いて終わり、なんか面白くないわけで、今回はこの反応条件に注目してみることにします。
ちなみにこれは理論上生成する量に対して実際にはいくら得られたか、すなわち収率を求める問題です。
この問題では酢酸エチルCH3COOCH2CH3(分子量:88)は1 mol生成しているので、答えである収率は50%となります。
結論として、この合成者はヘタクソと言えます。(ぉ
☆ 後述のように、うまくやれば同じ条件でも90%以上の収率が得られるからです。
上記の反応のように、酸触媒下でカルボン酸とアルコールからエステルを合成する方法を「Fischer法」と言います。
問題集などでもよく見かけますが、「なぜ硫酸触媒?なぜエタノールが多い?」。
今回はこのFischer法の反応条件を反応化学的・計算化学的に見ていきます。
多くの場合、Fischer法では次のような条件で行われます。
1. 濃硫酸を触媒に用いる。
2. アルコールを大過剰に用いる。
1つずつ見ていきましょう。
1. 濃硫酸を触媒に用いる。
Fischer法は、1895年にEmil = Fischerによって報告されました。
最も重要なポイントは「酸触媒下」という条件です。
さっそくですが、酸触媒下すなわちH+が存在する場合のエステル生成反応の素反応を見てみましょう。
☆ 巻き矢印は電子対の動きを意味します。習ってない方は「ココとココが衝突する」程度に思ってください。
反応したH+は再生しているので、正味以下の反応式になります。
CH3COOH + CH3CH2OH → CH3COOCH2CH3 + H2O
(A)で、H+はカルボニル基のO原子に結合して(元)カルボニル基のプラス性を上げるので、マイナス的なアルコールの酸素原子と結合しやすくする働きをしています。
また(B)で、-OHをH2Oにして外す役割も担っています。
☆ 詳しくは過去記事『エステル化 ~酸の頭が取れる!~』もご参照ください。
このように、H+は正味消費されずに反応を起こりやすくするもの、すなわち触媒として機能しているわけです。
酸触媒なしでカルボン酸とアルコールを混ぜても反応は起こりにくい(反応速度が遅い)ため、酸を加えるわけです。
※ 実は酸触媒として塩酸等ではなく濃硫酸がよく用いられますが、後述のように水をトラップさせるためという理由があります。
2. アルコールを大過剰に用いる。
エステルの合成反応は、逆反応である加水分解と競合する関係になっています。
すなわち化学平衡になっています。
平衡定数Kはエステル合成では大体K=4くらいの値になります。
仮にK=4だとして、真面目にカルボン酸1 molとアルコール1 molを反応させたとすると、生成するエステルはたった0.67 mol、理論上最大でも収率67%しか達成できないわけです。(※)
(※)計算
生成するエステルをx molとすると。
⇒ x = 0.67
触媒を多くしようが、反応時間を長くしようが、絶対にこれ以上の収率を達成することはできません。
そこで、基質の内片方を大過剰に用いるという方法が取られます。
レアで高価なカルボン酸から、そのエチルエステルやメチルエステルを作る場合、安くて入手しやすいアルコール側を大過剰に用いることで解決できます。
このとき、エタノールやメタノールを反応させるなら、それらに溶媒も兼ねさせることでより大過剰・高濃度で反応させることができます。
例えば上のセンター問題のようにカルボン酸2.0 molに対してエタノール8.0 molを(すなわち1:4で)反応させると、(1)式より1.9 molのエステルが得られ、収率93%が見込めます。
したがって、アルコールが過剰に用いられます。
ちなみに私はメチルエステルを作る時、カルボン酸:メタノール=1:10くらいで、カルボン酸をメタノールに溶かして反応させてます。
その場合、同様に計算すると97.3%の反応率が見込めますが、特に副反応が起こらない系なら実際に収率97%ほどで得られてきます。
◎ カルボン酸もアルコールも無駄にできないとき。
場合によっては基質のどちらも過剰にすることができないこともあります。
そのときは、副生してくる水を除くことで逆反応を抑える手法が取られます。
例えば反応と同時に蒸留も行って水を飛ばす方法。
また、酸触媒を濃硫酸にすると、濃硫酸の脱水作用で副生する水が濃硫酸の水和に消費されるため一石二鳥です。
Fischer法に限らず、以上のように合成反応は上手に工夫されています。
日ごろから「なぜこんな条件なんだろう?」という疑問を持って調べてみると、もっと合成が面白くなりますよ!
参考
- 『ボルハルト・ショアー現代有機化学〈下〉』, K.Peter C. Vollhardt, Neil E. Schore著, 野依良治監訳, 化学同人; 第4版 (2004/06)
PR
最新記事
(2018/09/23)
(2017/08/14)
(2017/03/07)
(2016/08/17)
(2016/05/05)
(2015/07/19)
(2015/04/11)
(2014/11/23)
(2014/08/03)
(2014/05/11)
カテゴリー
ブログ内検索