一般向け/高校生向け楽しい化け学
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
果物の王様、ドリアン。
南国に結実するそれは強烈な匂いを放つことであまりにも有名。
筆者は小学生の時、担任の先生がお土産で買ってきた「ドリアン飴」を食べてそのあまりの匂いに撃沈された。
「あのガスのような匂いはなんなのだろう・・・」
ずっとそう思っていたが、先日「ドリアンの香り物質の詳細な同定に成功した!」という論文[1]を発見した。
しかも最新(2012年)で、ACS(アメリカ化学会:化学の最高権威)出版である!
コイツ等(下図)がドリアン臭の正体だ!!
ドリアンに含まれる主な香気活性物質。構造の下に匂いを示してある。
※ 最下部の二つの構造は平衡混合物。
特に「ドリアン臭」を持つのは赤く示した1, 1-エタンジチオールCH3CH(SH)2だという。
さすが硫黄系、チオール(R-SH)やスルフィド(R-S-R')は臭くて有名だが、まさにドリアン臭の正体はコイツ等だったのだ!
☆ 硫黄系化合物の臭さ;
硫化水素 H2S:腐った卵の匂い
メタンチオール CH3SH:都市ガスの着臭成分
ジメチルスルフィド CH3SCH3:磯の香り
他にも、ドリアン果肉の上にある果頭部分には、「ドリアン臭」のする1-プロパンチオールCH3CH2CH2SH等の香気活性物質が含まれているらしい。
同定の仕方
ところで、数百・数千という種類の化合物が入り乱れているであろうドリアン果肉から、いったいどうやってこんな化合物をひとつひとつ分離・同定したのであろうか?
その論文の著者らは次のようにして分離し、同定している。
- タイ産のドリアンをネット通販で購入し、刈り取ってから2日で空輸してもらう。
- ドリアンの果肉をジクロロメタンCH2Cl2に氷冷しながら分散させ、硫酸ナトリウムNa2SO4(脱水剤)を加え、ろ過する。
- この抽出液を40℃で高真空香気蒸留(solvent-assisted flavor evapolation : SAFE)して揮発性の香気混合物を分離。
- 得た混合物をGC-O、GC-FID及びGC-MSで匂い、保持時間、分子量を分析
- これらの結果から予想される参照化合物と、ドリアンの各香気成分のGC保持時間とを比較し、決定。
まずGCとは、ガスクロマトグラフィー(通称:ガスクロ)のこと。
クロマトグラフィーとは、例えばシリカSiO2の粉を詰めた管(カラム)に混合物を流し込むと、各成分分子のシリカへの吸着力が弱い物質から順に出てくるという分離手段。
ガスクロマトグラフィーはカラムにガス状のサンプルを通すことで、成分を分離し順番に流し出してくれる。
GC-Oとは、ガスクロ-オルファクトメータのこと。
ガスクロからオルファクトメーターに接続している装置である。
オルファクトメーターとは嗅覚測定器だが、要するに人間に嗅がせるということである。
ガスクロで順番に流れだしてくる香気成分を人間が順番に嗅ぐことによって、その匂いが強いか弱いか(ドリアン臭の基となっているか)を調べたというわけ。
GC-FIDとは、ガスクロ-水素炎イオン検出機のこと。
同様にガスクロからFIDに接続している装置である。
GCから流れだしてくる各成分を順番に水素炎で燃やしてイオン化し、検出する。
物質が何秒かかってGCカラムから流れ出してきたか、という時間(保持時間)を高感度で測定できる。
温度など条件が同じなら、保持時間は各化合物で一定なので、予想した参照化合物をGCに通して同じ時間の保持時間ならアタリ!ということになる。
(※ ただし保持時間がほとんど同じ化合物もあるので、これだけで決めるのは危険。)
GC-MSとは、ガスクロ-質量分析装置のこと。
質量分析とは、分子に電子をぶつける等してイオン化し、電場で加速してその飛行時間を測定する等して分子の分子量を測定する便利な測定法。
イオン化したとき、場合によっては分子が部分的に壊れて、フラグメントと呼ばれる部分構造分子を生じる。
例えば、上で示したドリアン臭物質CH3CH(SH)2(分子量94)を質量分析にかけたとする。
すると分子量94の分子イオンピークはもちろん、-SHがもげたCH3CHSH+に対応する分子量61のフラグメントイオンピーク等が得られ、構造もわかってしまう優れもの。
ガスクロから順番に出てくる成分を質量分析することで、その保持時間に対する分子がわかる。
・・・このように、近年発達した最新の分析技術を用いてドリアンのにおい成分は同定されたのだ!!
ドリアンの入手法も最新の技術;ネット通販!
化学の技術の進歩は目覚ましいですね!
>> あしだかみのる様への拍手レス
参考
[1] 『Characterization of the Major Odor-Active Compounds in Thai Durian (Durio zibethinus L. 'Monthong') by Aroma Extract Dilution Analysis and Headspace Gas Chromatography-Olfactometry』, Jia-Xiao Li, Peter Schieberle, and Martin Steinhaus, J. Agric. Food Chem. 2012
↑ クリックでACSの論文ページ。GC-Oで匂いを嗅いでいる、ちょっとシュールだけどおしゃれな画像があります。
PR
最新記事
(2018/09/23)
(2017/08/14)
(2017/03/07)
(2016/08/17)
(2016/05/05)
(2015/07/19)
(2015/04/11)
(2014/11/23)
(2014/08/03)
(2014/05/11)
カテゴリー
ブログ内検索