一般向け/高校生向け楽しい化け学
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「グリーンケミストリー」という言葉をご存知でしょうか。
もちろん「緑色の色素を研究する化学」ではありません。
「グリーン」は「環境」的な意味で、「グリーンケミストリー」とは「環境に優しいものづくりを目指す化学」という意味です。
現代の化学工業に絶対必要になってくる大切な概念です。
これから数回にわたり、グリーンケミストリーにスポットを当てて記事を書いていきたいと思います。
第2回:『グリーンケミストリー~(2)原子の利用効率』
第3回:『グリーンケミストリー~(3)生合成/生分解プラスチック』
グリーンケミストリーとは
グリーンケミストリー(green chemistry:GCと略す)とは、化学製品の設計段階から廃棄されるまでの全ライフサイクルにわたって、ヒトや生態系への悪影響を最小限にしながら経済的・効率的にものを作ろうという活動のこと。
簡単に言えば「環境に優しいものづくりを目指す化学」という意味です。
ポイントは、化学製品そのものがヒトや環境に悪影響を及ぼすかどうかだけでなく、その製造プロセスにおける被害も考慮するところです。
GCは20世紀に浮上した化学工業の問題;公害、環境問題、資源の枯渇、エネルギー問題、化学工場事故...等を反省し、提案された概念。
わざわざ環境配慮をするため製造コストが増してしまう恐れがありますが、うまくすればむしろコスト削減もでき、経済的な利点もあります。
これからの化学には絶対必要となってくる概念です。
グリーンケミストリーの12ヶ条
1994年、GCの具体的な行動目標として、次の「グリーンケミストリーの12ヶ条」が提案されました。
- 予防:
廃棄物を出してから処理するのではなく、はじめから出さない。 - 原子の利用効率:
原料物質中のできるだけ多くの原子が最終製品産物に残るような合成法を設計する。 - 毒性の少ない方法:
可能な限り環境や人間に対して毒性の少ない物質を使って合成する。 - 安全な化学物質の設計:
機能が同じならできるだけ毒性の少ないもの使用する。 - 安全な溶媒や反応補助物質:
溶媒や分離のためにはできるだけ毒性の少ない物質を使う。 - エネルギー効率の向上:
化学プロセスのエネルギー消費は環境への影響、経済性を考慮して最小限にする。 - 再生可能な原料:
技術的に可能で経済性もあるなら、枯渇性資源ではなく再生可能な原料を使う。 - 化学修飾の削減:
反応の効率化等のための官能基の修飾は、余分の薬品を要し廃棄物も増やすので、できるだけ避ける。 - 触媒の活用:
選択性の高い触媒は反応の効率を高めるのに優れている。 - 環境中で分解する製品:
化学製品は使用後、無害なものに分解し、残留性がないようにすべきである。 - 汚染防止のためのリアルタイムの分析:
化学プロセスにおいて、有害物質の生成をモニター、制御するにはリアルタイムで計測する分析法が必要である。 - 事故予防のための本質的な安全性:
爆発、火災、有害物質の漏出等の事故が起こらないような方法を取る。
グリーンケミストリーの具体例
次回記事からグリーンケミストリーの例を詳しく挙げていきますが、グリーンケミストリーの考え方が具体的にどういったものなのか一例をあげて説明します。
例えばp-アセトアニソールCH3COC6H4OCH3の工業的製法として、今まで下の(1)式の反応が用いられてきた。
・・・(1)
※ 「-Me = -CH3」です。よく用いられるので覚えておきましょう。
この反応にはいくつか問題点がある;
- 危険な塩化アセチルCH3COClを用いる。
- 強酸であり、後処理が必要な塩化水素HClが生じる。
- ジククロメタンCH2Cl2等、有害な溶媒を用いる。
- 触媒である塩化アルミニウムAlCl3は生成物と錯体を作り、等量分消費され実質「触媒」として機能しない。
- 4のため、生成物の加水分解操作が必要。
- 塩化アルミニウムや塩酸、溶媒等を含む廃液が大量に生じる。(製品1 kgあたり4.5 kgの水系排出物)
- 収率は85~95%で、良いとは言えない。
- 単位操作(反応、後処理、分離など)が12プロセスもある。
したがって、12ヶ条で言うところの1条(廃棄物処理)、3条(毒性)、5条(有害溶媒)、9条(触媒)に合致せず、環境に優しいグリーンな反応とは言えない。
そこで、p-アセトアニソール製造法として(2)式の新反応が考案され、実用化に成功した。
・・・(2)
この反応には次のような利点があり、(1)式の反応を改善している;
- 溶媒が必要ない。
- 比較的安全な酢酸しか副生しない。
- ゼオライトH-βは固体酸触媒として働き、消費されず再利用できる。
- H-βは不溶性の固体なので、ろ過だけで分離できる。
- 廃棄物が少ない。(製品1 kgあたり0.035 kgの水系廃出物。しかも水99%・酢酸0.8%。)
- 収率が95%で優秀。
- 単位操作が2プロセスしかない。
したがって環境に与える負荷は小さく、グリーンな製造反応だと言える。
しかも、上記新反応ではプロセスが少なく触媒の再利用もできるため、より低コストで製造ができそうである。
このように、危険な溶媒を必要としたり、廃棄物や反応剤等の無駄が出る反応を改善し、あわよくば経済性もアップさせるのがグリーンケミストリーである。
以上一例を示したが、GCはもっともっと奥深い。
次回からGCの様々な面を紹介していきます。
第2回:『グリーンケミストリー~(2)原子の利用効率』
第3回:『グリーンケミストリー~(3)生合成/生分解プラスチック』
参考文献
- 『新しい工業化学―環境との調和をめざして』足立 吟也 (編集), 馬場 章夫 (編集), 岩倉 千秋 (編集), 化学同人 (2004/01)
- 『グリーンケミストリー―環境にやさしい21世紀の化学を求めて』, 宮本純之ら訳, 化学同人 (2001/11)
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