一般向け/高校生向け楽しい化け学
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さて、4月も終わり。
4月と言えば桜ですね。
今年も大学のキャンパスは美しい桜が満開でした。
ということで私のPCの今月の壁紙は、桜にまつわる分子「シアニジン」でした。
今回はこの分子を紹介します。
今日の分子No.79 :シアニジン C15H11O6+
植物に含まれているアントシアニン類の色素の一種。
イチゴ、リンゴの皮、サクランボ等の色の一因。
桜にも含まれている。
植物生体に含まれている時は、シアニジンのヒドロキシ基-OHに糖類が結合している形などで存在している。
シアニジンはpHに敏感で、pHによって劇的に色が変わる。
例えば、ケシの樹液は酸性なので花は赤色に色づきますが、ヤグルマギクはアルカリ性なので青色になります。
ある植物は受粉前後で樹液のpHを変えて花の色を変化させて、受粉後は虫に見つからないようにするものもあるとか。
1つの物質を無駄なくうまく使っている自然の凄さがわかる分子である。
「ムラサキキャベツでpH指示薬を作る」という小中学校の理科の実験がありますが、そのムラサキキャベツの色素も実はシアニジンです。
(他にも類似な構造のアントシアニン系色素が入っているようです。)
・・・というように、シアニジンは身の回りにたくさんあり、pHによってドラマチックに変色する不思議な分子なのです。
ではなぜシアニジンはpHによって色を変えるのでしょうか。
3位のヒドロキシ基に単糖であるグルコースが結合したシアニジン;C3Gを例にとって考えてみます。
C3Gは下図の4つの構造と化学平衡にあります。
シアニジン(C3G)の四つの構造。(Rはグルコース残基。)
*ただしキノン型塩基(Quinoidal base)構造のC=Oになる部分は他にもパターンがある。
これらは下式のように水酸化物イオンOH-が関する化学平衡の関係にある。
(水素イオンH+を用いて逆方向に平衡の式を書くことも可能。)
シアニジン(C3G)の化学平衡と平衡化学種の色。
ルシャトリエの原理により、水酸化物イオンの濃度が大きくなると平衡は右向きに偏っていきます。
すなわち、pHが変わると存在するシアニジン化学種の濃度比が変わり、水溶液の色が変わるのです。
※ 注意!
「化学平衡」の関係にあるので、アルカリ性にしたからと言って完全にフラビリウムカチオン(Flavylium cation)構造がなくなるわけではない。
どんなpHでもどの構造のシアニジンもいくらかは存在する、という化学平衡の概念を念頭に置いておこう。
では「なぜちょっと構造が変わると色が変わってしまうのか?」というところに興味が湧いてくる。
上図の4つの化学構造を眺めてみると、単結合と二重結合が交互に並んだ構造(共役系)の長さや様子が変わっていることがわかる。
実はこの共役系の長さ・様子が物質の色を支配する要因の1つ。
長く、美しいベンゼン環様の共役系を持つフラビリウムカチオン構造は青緑の光を吸収することで、残った鮮やかな赤色をしている。
一方、分子の真ん中辺りで共役系が分断されてしまっているカルビノール疑似塩基(Carbinol pseudobase)構造は可視光を吸収することができず無色である。
シアニジンは、その構造と色、光、pHが応答・関係し、自然の凄さを感じさせてくれる面白い物質なのである。
◎ 参考
- 『アトキンス 分子と人間』P.W. ATKINS (著), 千原 秀昭 (翻訳), 稲葉 章 (翻訳), 東京化学同人 (1990/04)
- 三津和化学薬品株式会社HP, 『日本の四季を化学する-第11回 桜の化学-』
- Naveena Yanamala et al.(2009), "pH-dependent Interaction of Rhodopsin with Cyanidin-3-glucoside.", Photochemistry and Photobiology, 2009, 85: 454-462
>>shin1さんのコメントへの返信
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