一般向け/高校生向け楽しい化け学
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今回は前回記事『NOxとNOy』で出てきたNOyの一種、硝酸ペルオキシアセチル(PAN)を紹介します。
ちなみにこのPAN、最後に述べるように筆者は個人的に思い入れが深いのですが、先週筆者がバイトしている塾で生徒に演習させていると出てきてテンション上がりました。
大学入試でも環境問題をテーマにした問題が出題されたりするので、受験生はPANも知っておくといいかもしれませんね。
むしろ、高校化学を学んだなら教養的にこのくらい知っておくべき!と思ったりします。
今日の分子No.76 :硝酸ペルオキシアセチル CH3C(=O)OONO2
英語では「Peroxyacetyl nitrate」(パーオキシアセチルナイトレート)と綴られるため、よくPAN(パン)と略記される。
光化学オキシダントに含まれる反応性窒素酸化物NOyの一種。
(NOyについては2012/2/11記事『NOxとNOy』参照。)
ペルオキシ基-O-O-を持ち、不安定で強い酸化力を持つ。
排気ガスから出る窒素酸化物と炭化水素が日光の下で反応して生成する。
例;CH3C(=O)OO・ + NO2 → CH3C(=O)OONO2
その証拠にPANの濃度レベルは遠隔地域では数~数百pptv程度であるが、大都市とその郊外では数~数十ppbvにも及ぶ。
PANは地表付近では熱分解が主要な消失過程であり、その大気中寿命は常温で数十分から数時間程度である。
最近は減ったが以前よく発令されていた光化学スモッグとは、この光化学オキシダントやエアロゾルがスモッグ状になったものである。
構造を見てもらえればその反応性はよくわかっていただけると思うが、こんな物質が大気中をウヨウヨしているのは堪ったものではない。
PANは目の痛みを引き起こし植物の葉を茶色化するなど、オゾンO3と同様に毒性を有する。
ちなみに光化学オキシダントの8割くらいはオゾンであるらしい。
オゾンは紫外線から我々を守ってくれていたりして「良い者」みたいなイメージがあるが、実はこれを吸入したり目に暴露されると甚大な健康被害をもたらす。
他にも光化学オキシダントにはPAN型化合物が数種類存在する。
これらはPANのアセチル基-C(=O)CH3に炭化水素基が付いた化合物である。
すなわちアセチル基の代わりに種々のアシル基-C(=O)Rになっている。
(アセチル基もアシル基の一種である。)
PANsの一般的な構造
このようなPAN型化合物はペルオキシアセチルナイトレート類(peroxyacyl nitrates)と呼ばれ、PANsと略記される。
例えば
・ PPN:パーオキシプロピオニルナイトレート;CH3CH2C(=O)OONO2
・ PnBN:パーオキシ-n-ブチリルナイトレート;CH3CH2CH2C(=O)OONO2
・ PiBN:パーオキシイソブチリルナイトレート;(CH3)2CHC(=O)OONO2
・ PBzN:パーオキシベンゾイルナイトレート;C6H5C(=O)OONO2
・ MPAN:パーオキシメタクリロイルナイトレート;CH2=C(CH3)C(=O)OONO2
・ APAN:パーオキシアクリロイルナイトレート;CH2=CHC(=O)OONO2
等が大気中に存在することがわかっている。
実大気中には PAN >> PPN >> APAN ≒ PiBN ≒ PnBN のような序列で存在しているようである。
種々のPANsの構造
PANは人工的に合成することができる。
人工合成品は気分析の際の標準物質として用いられる。
PANは蒸気圧が比較的高いため得られた溶液は拡散チューブを用いて気化させることができる。
・ 液相合成法
過酢酸CH3COOOHを硫酸酸性下、硝酸でニトロ化し、その後有機溶媒を用いて抽出することで液体のPANを得る方法。
・ 気相合成法
大過剰のアセトン存在下、少量の一酸化窒素NOを導入して光化学反応を起こさせることでPANを得る方法。
まずアセトンに285nmの紫外線を照射することでパーオキシアセチルラジカルCH3C(=O)OO・を生成させ、そこに少量の一酸化窒素NOを導入して二酸化窒素NO2へと変換し、さらにパーオキシアセチルラジカルと反応させることでPANを生成する。
気相合成法は収率が90%以上で高く、かつ安全であるため近年よく用いられている。
個人的にPANは思い入れが深い分子です。
中学生の頃好きだった分子TOP5には確実に入る。
(ニトログリセリンやベンゼンも大好きだった。)
『アトキンス 分子と人間』(東京化学同人)という、中学の時筆者がとても好きだった本に出てきたPAN。
なんてったって「硝酸ペルオキシアセチル」、長くて舌噛みそうな名前。
構造もなんだか他と違っててカッコいい。
挙句の果てに、中学三年生の美術の最後の作品に登場させてしまった。
さてPANはどこにいるでしょうか?
筆者作(当時中学三年) 題名;LIMITLESS(←さすが中学生 笑)
美術の先生苦笑い。
懐かしい。
◎ 参考
- 『実験化学講座〈20-2〉環境化学』日本化学会編, 丸善(2007/1/31)
- 東京大学HP『NH ラジカルと NO の高温反応に関する研究』
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