一般向け/高校生向け楽しい化け学
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NOx、すなわち窒素酸化物が大気汚染物質として注目されていることはよく知っておられると思います。
化石燃料の燃焼を主な発生源とし、まず生じる窒素酸化物は大部分はNOであるらしいです。
昨日『実験化学講座』(丸善)を特に目的もなく読んでいると「NOxとNOyの定義」について書かれているページを見つけました。
「NOx」(ノックス)という言葉はよく聞くと思いますが、一方「NOy」という言葉はあまり聞かないと思います。
今回は両者の区別について書いてみることにします。
◎ NOx
NOx(ノックス)は環境化学の言葉で、窒素酸化物を表す。
しかしどうも「狭義のNOx」と「広義のNOx」があるようです。
両者は以下のように表す範囲が異なります。
○ 狭義のNOx
NOとNO2を合わせたもの。
もしくはNOとNO2の物質量の合計値。
(環境化学では「NOx」を「値」として定義していることもあるようです。)
環境化学的に、NOとNO2は一緒にして考えると都合がよいことがあるからである。
何故なら、NOとNO2は環境中で次のように相互変換しているからです。
・ NOの酸化
NO + O3 → NO2 + O2
・ NO2の光分解(「hν」は光を表す。)
NO2 + hν → NO + O
この変換は日中は分単位の時間スケールで起こるため、いちいち別々に空気中の濃度を決めたりしてもあまり意味がなかったりするため
NOx = NO + NO2
と、合わせて決めてしまうと楽なわけです。
○ 広義のNOx
窒素と酸素の化合物の総称。
すなわち一酸化窒素 (NO)、二酸化窒素 (NO2)、亜酸化窒素(一酸化二窒素、笑気)(N2O)、三酸化二窒素(N2O3)、四酸化二窒素 (N2O4)、五酸化二窒素 (無水硝酸)(N2O5) などを合わせた言葉。
日常一般的に「NOx」と言うとこの「広義のNOx」を表すことが多いと思います。
◎ NOy
NOyとは反応性窒素酸化物の総称とされます。
すなわち、
NOy = NO + NO2 + NO3 + N2O5 + HNO3 + HONO + HO2NO2 + PAN + PANs + 有機硝酸塩(RONO2,RO2NO2) + NO3-(エアロゾル中の硝酸イオン)
とされる。
「NOx」を含んで、反応性の窒素酸化物全てを言います。
「NとO以外の元素(H, C)も入ってるから"NOy"と表せないんじゃ・・・」とも思うが、まあ気にしてはいけないようです。
ちなみにNOyを「反応性窒素酸化物の物質量の総和」と、値として定義するときは窒素元素の物質量で定義されるため上の式の「N2O5」に2を掛け算します。
以上のようにNOxとNOyはきちんと区別されています。
まとめると
という感じです。
あと、NOyには「PAN」という物質がありますが、これは硝酸ペルオキシアセチル(peroxyacetyl nitrate)という物質のことです。
またPANsとはペルオキシアセチルナイトレート類(peroxyacyl nitrates)、すなわちPANのアセチル基に炭化水素基が付いてるバージョンです。
PANは個人的に思い入れが強い物質なので次回の記事で紹介します。
◎ 次回記事→『今日の分子No.76 :硝酸ペルオキシアセチル』
最後に、大学の我が恩師(←色々な意味で)の言葉を借りて言っておきたいことがあります。
「NOxは大気汚染物質」ということではない。
「"自然の許容量を超えた"NOxが大気汚染物質」である。
ここのところをぜひ理解してほしいです。
NOxだって自然界で大切な役割があります。
大気中での雷放電や森林火災で生じ、酸化され雨に溶け地面にしみ込み植物や微生物の栄養となる・・・・
もしNOxを完全に大気中から消してしまうと、その時地球上から命も消えるでしょう。
他に汚染物質・毒物と言われているカドミウムだってヒ素だって、体内で微妙元素として機能している。
「この物質は大気汚染物質・毒物」というわけではない。(もちろん法律上はそう決められていますが・・・)
NOxたちを単に悪者みたいに言わないでください。
人間が許容量を超える量を出してしまっているのが問題なのです。
◎ 参考
- 『実験化学講座〈20-2〉環境化学』日本化学会編, 丸善(2007/1/31)
- 筆者の大学の先生の有難いお言葉
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