一般向け/高校生向け楽しい化け学
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さて、前回『P4分子の構造』という記事を書きましたが、それに続いて白リンについての記事を書きます。
美しいバラには棘がある、美しい白リン分子には毒がある。
リンの同素体は未解決。
さて、白リンとはどんな物質でしょうか。
今日の分子 No.75 白リン P4
分子式P4を持つリンPの同素体の一つ。
正四面体の各頂点にP原子が配置している化学構造を持つ。
白リンの融点は44.1℃と非常に低温である。
これはまさに白リンが分子結晶を作ることによる。
※ 結晶の融点は融点は一般に 共有結合結晶>イオン結晶>金属結晶>分子結晶 の順になる。
(各結晶の構成要素(原子orイオンor分子)同士の結合の強さによる差から生ずる。)
ベンゼンC6H6や二硫化炭素CS2等に溶け、水に不溶な無色~白色の固体。
暗所では青白色の「燐光」が観測でき、これが今日の化学用語「リン光」の語源にもなっている。
ニラのような匂いがすると言う。
一方分子の美しさとは裏腹に、反応性が高くかなり危険な猛毒物質である。
皮膚に触れると火傷を負い、また皮膚から吸収され中毒を起こし、服用すると数時間ののちに死亡(経口致死量0.1g)するという。
また自然発火性があり、たった50℃に発火点を持つ。
酸化されやすいため、空気中で酸化されて熱を持ち発火点50℃に達すると自然発火するのである。
一旦発火し燃焼すると、融点が低いため融解し液状となり火面を広げ被害を拡大する恐れがある。
以上のようにとても危険なため第三類危険物(自然発火性物質)で危険等級Ⅰ(←最も危険な部類)に指定され規制対象である。
一方水とは反応しないので水中に沈めることで安全に保存できる。
ただし、保護液(水)の酸性化を防ぐために消石灰を溶かしておくのだが、塩基性が高くなりすぎると次は下記の反応が起こり可燃性で自然発火性かつ猛毒なホスフィンPH3ガスを発生する。
P4 + 3OH- + 3H2O → PH3 + 3H2PO3-
このように、美しい分子構造とは裏腹にかなり危険な性質を持っている物質である。
白リンの形態での用途は少ないが、その発火性・反応性・毒性ゆえに軍事用の焼夷弾(白リン弾)や発煙剤、殺猟剤に使われる。
大部分はリン酸や赤リンなどの原料として使われる。
白リンはその名の通り、白色のロウ状の固体という外見を持ったリンである。
淡黄色の固体である「黄リン」と呼ばれる物質を精製すると得られる。
「白リン = 黄リン」や「黄リンはリンの同素体」という記述がよくなされるが、正確には誤り。
正確には黄リンは、表面に赤リンが含まれることで黄色みがかった白リンであり、同素体(純物質)ではなく混合物であるという。
黄リンに対して、赤リンはP原子が複雑に配置した物質で、空気中で安定で無毒であり発火点も約260℃と高く、反応性が低い。
赤リンは黄リンを約400℃で加熱することで生じる赤褐色の粉末である。
赤リンは紫リンと白リンとの固溶体とも考えられている。
また黒リンという同素体は化学的に安定で、なんと金属光沢のある電気の良導体である。
取扱いは容易であるが高温、高圧下で合成しなければならない。
他にもリンは様々な同素体が知られているが、よくわかっていないことも多い。
下にリンの同素体をいくつか示す。
同素体 | 備考 |
---|---|
α-白リン | P4構造 |
β-白リン | -76.9℃ 以下α→β転移 |
赤リンI | α-P4→Ⅰ 230~350℃ |
赤リンII | Ⅰ→Ⅱ 460℃ |
赤リンIII | Ⅱ→Ⅲ 520℃ |
赤リンIV | Ⅰ→Ⅳ 490~525℃ |
赤リンV | Ⅰ→Ⅴ 575℃ |
赤リンVI | α-P4→ 300℃(800MPa) |
灰色リン | >400℃(封管) |
黒リン | 斜方;>1300MPa>220℃ 無定形;>550℃ 黒リン→赤リン転移 |
○ 白リンP4が関係する化学反応
・ 白リンの工業的製法
リン鉱石Ca10(PO4)6F2、珪砂SiO2(フラックス)、コークスC(還元剤)を混合し電気炉内で反応させる。
2Ca10(PO4)6F2 + 18SiO2 + 30C → 3P4 + 18CaSiO3・1/9CaF2 + 30CO
・ 赤リンの工業的製法
白リンを約400℃で数時間加熱すると赤リンが生成する。
P4(白リン) → 4P(赤リン)
・ ホスフィンの工業的製法
白リンを水酸化ナトリウム存在下水と分解する。
P4 + 3NaOH + 3H2O → PH3 + 3NaH2PO3
・ 白リンの燃焼
白リンは空気中で燃焼し十酸化四リン(五酸化二リン、無水リン酸とも)P4O10(『今日の分子No.30 :十酸化四リン』参照)を生成する。
P4 + 5O2 → P4O10
☆ また、リン酸の工業的製法(乾式法)はこうして作った十酸化四リンを水や希リン酸で水和する。
P4O10 + 6H2O → 4H3PO4
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◎ 参考
- 『化学便覧 応用化学編 第6版』, 日本化学会編, 丸善(2003/01)
- 『化学便覧 応用化学編 第5版』, 日本化学会編, 丸善 (1995/3/15)
- 『実験化学講座 第5版』, 日本化学会編, 丸善 (2007/1/31)
- 『新実験化学講座 [8]無機化合物の合成』, 日本化学会編, 丸善 (1977/06)
- 『チャレンジライセンス乙種1・2・3・5・6類危険物取扱者テキスト』, 工業資格教育研究会 (著) ,実教出版(2005/10)
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