一般向け/高校生向け楽しい化け学
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世の中には、普通では考えられないような面白い化合物があります。
例えば、今回紹介する物質はナトリウム陰イオンNa-が含まれます。
「Naは陽性な金属原子だから負電荷を持つなどあり得ない!」
なんて固定観念に囚われてはいけません。
最近(30年ほど前から)、Na-やK-等、アルカリ金属の陰イオン「アルカリドイオン」が安定に存在できることが報告されています。
驚きの事実ですね。
これらは、量子化学的に考えると、1族元素はs軌道に1つの電子を持つためもう1電子受け入れるとs軌道が閉殻的な構造になるので割かし安定なのだろう、と予想できます。
もちろん、普通の構造の化合物中でNa-イオンは安定に存在できません。
なぜならNa-はとても強い還元作用を持つため、対になる陽イオンにすぐ電子を渡してしまうからです。
だから分子にこんな工夫をします。
とりあえず具体的に構造を見てみましょう。
[Na(2,2,2-crypt)]+Na-の結晶中での構造(水素省略)
橙色:Na+ 金色:Na-
黒色:C 青色:N 赤色:O
※ 炭素に結合している水素は省略。
※ 図にはNa-イオンが6個あるが、これは結晶中で[Na(2,2,2-crypt)]+に最近接しているNa-イオンであり、この隣にも[Na(2,2,2-crypt)]+イオンが並ぶので1/6 Na-が6個ある(=正味1個分)ということになる。
組成式: Na2C18H36N2O6 (化学量論的)
示成式: [Na+(C18H36N2O6)]Na-
Na+に有機化合物C18H36N2O6(2,2,2-クリプタンド;2,2,2-cryptと略す)が配位した電荷1+の錯イオンに、対イオンとしてNa-がくっついた塩。
なんと物質中にNa+とNa-が共存している。
溶液状態では深い青色、固体では金色であるという。
金属ナトリウムに2,2,2-クリプタンドを反応させることで得られる。
ここでは細かくは説明しないが、クリプタンドとはカゴ状の配位子であり、カゴの中に金属イオンを包み込み安定な錯体を作ることができる。
分子中の2つのN原子と6つのO原子の非共有電子対が8方向から金属イオンに配位するのだ。
2,2,2-クリプタンドC18H36N2O6の構造
2,2,2-クリプタンドとNa+の錯体;[Na(2,2,2-crypt)]+の構造
一番上の図を見ると一目瞭然、Na+は2,2,2-クリプタンドに完全に包み込まれてしまっていてNa-と面していない。
したがって
Na+ + Na- → 2Na (metal)
等の反応でNa-が電子を失って潰れてしまうことはない。
このようにNa+とNa-をクリプタンドで隔離し安定化することでこのような"異常な"化合物を安定に存在させているのだ。
世の中には驚きの物質が存在するものである。
「Na-なんて存在不可能!」なんて固定観念に囚われてはいけない。
技術を巧みに使えば色々なことができるもので、この例のように適切な分子設計によりNa-を安定に存在させることに成功したわけである。
化学の世界は広い。
◎ 参考
- Frederick J. Tehan, B. L. Barnett, and James L. Dye "Alkali Anions. Preparation and Crystal Structure of a Compound Which Contains the Cryptated Sodium Cation and the Sodium Anion" J. Am. Chem. Soc. / 96.23 / November 13, 1974
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