一般向け/高校生向け楽しい化け学
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最近界面活性剤の話をよく耳にしたので、ここでちょっとミセルに関するマメ知識を紹介してみます。
今回のキーワードの「臨界ミセル濃度」の概念を知っておくと、生活の中で役に立つかもしれません。
◎ 予備知識
まず用語確認をしましょう。
※ 「臨界ミセル濃度」は高校化学では習わないので覚えなくてもいいですが、最後に述べるようにこれを知っておくと生活の中で役に立つこともあります。
○ ミセル
セッケン分子等の界面活性剤分子が溶液中で数十~数百分子程集まって作る球状の分子集合体をミセルと言う。
例えば水中でセッケンがミセルを作ると、内側が疎水性、外側が親水性になり水に分散(溶解とは少し異なる)している状態になる。
※ ミセルはある程度大きな粒子なのでコロイド粒子としてふるまう。
界面活性剤は手を加えなくても自発的に秩序立った集合体を作りますが、この様な現象を「自己組織化」と言います。
○ 臨界ミセル濃度(critical micelle concentration:CMC)
界面活性剤を水に溶かしたとしても、実際は界面活性剤がある濃度以上でないとミセルを形成しない。
ミセルを作るか作らないかのギリギリの濃度を臨界ミセル濃度と言い、界面活性剤の種類で変わる。
◎ 「なぜ臨界ミセル濃度以上でないとミセルは形成されないのか」
さて、気になるのは「なぜ臨界ミセル濃度以上でないとミセルは形成されないのか」ということである。
界面活性剤分子がミセルを作るドライビングフォース(界面活性剤にミセルを作らせる要因)を考えて、説明しましょう。
まず、単純な直鎖アルカン(もちろん疎水性)をただの水に添加していくことを考えます。
アルカンは「油」なので水にはなじみませんが、そんな物質でもほんの少しは溶けます。
すると下のグラフのように、<横軸>アルカンを添加していくと <縦軸>水中に溶けているアルカンの単分子数は途中まで増えていきますが、溶解度(溶解限界)以上になると溶けきれなくなって、それ以上添加しても溶けている分子数は変わらなくなるでしょう。
※ 「単分子数」と言っているのは、後に示す界面活性剤の場合と軸を合わせるためです。アルカンは水中でミセルを作らないので、「単分子数=分子数」です。
アルカンを水に添加したとき。
じゃあ溶けきれなくなったアルカンはどこへ行ったかというと、相分離(いわゆる二相分離)して水の上に浮いてしまっているでしょう。
量との関係は下の図のように示されるでしょう。
水にアルカンを溶解限界以上添加した分は相分離する。
ここまでは簡単ですね。
溶けきれなくなったら分離する、それだけです。
では次に界面活性剤を水に添加して行く場合を考えます。
結論を言うと、下図のようにアルカンの場合と同じグラフになります。
界面活性剤を水に添加したとき。
ただし溶解限界が臨界ミセル濃度に置き換わっています。
さて、一体何がどうなったのでしょうか。
界面活性剤分子だって、まずは普通に溶けます。
1分子1分子バラバラで溶けます。
しかしモノには溶解度というものがあって、界面活性剤だってある濃度以上では相分離を起こさざるをえません。
だから途中で水溶液中の単分子の増加はなくなります。
がしかし!
界面活性剤はミセルを作ることにより、アルカンの場合のように塊りになって分離しなくても済みます。
逆にいえば、ミセルを作ってもミセルの内側と外側で確かに相分離は起こっているわけです。
アルカンの場合と同じで、相分離を起こすか否かの限界である「溶解度」があるわけですが、ここで相分離の結果としてミセルを形成するわけです。
いわゆる二相分離とは違う形の分離なので、ミセルを作る場合のこの相分離を起こすか否かの限界を「臨界ミセル濃度」というのです。
水に界面活性剤を臨界ミセル濃度以上添加した分はミセルという形で相分離する。
以上のように、相分離を起こさないとミセルを形成できない(形成する必要がない;形成する気がない;凝集するのは熱的に不利)ので、ある十分な濃度「臨界ミセル濃度」以上でないとミセルの形成は起こらないのです。
しかし「洗浄」「乳化」等の日ごろの界面活性剤のお仕事は、ミセルを形成していないと起こらない現象です。
だから臨界ミセル濃度以上でないと、界面活性剤はいわゆる界面活性剤としての役目は果たせない。
例えば、家計を気にして洗剤の量を半分とかにケチる方がいますが、
それが臨界ミセル濃度以下の量ならその洗剤は洗剤としての仕事を全くせず、節約どころかむしろ洗剤を捨てているだけ
ということになります。
臨界ミセル濃度の概念がわかっている人は、洗剤のパッケージに書かれている使用量をちゃんと守って使ってくれるはずです。
◎ 参考
- 筆者の大学の先生の有難いお話。
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