一般向け/高校生向け楽しい化け学
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一昨日21日、オウム真理教の裁判が事実上終結しました。
戦後日本で起こった最悪のテロ、地下鉄サリン事件。
これにより「サリン」という本来マニアックであるはずの神経毒物質が有名になってしまった。
我らの化学が悪用された、悲しい事件である。
筆者はこのサリンと言う化合物を通して、「知識を持つ」とは何かを考えてみたい。
また、サリンと殺虫剤(農薬)の共通点についても触れてみます。
今日の分子 No.72 :サリン CH3P(=O)FOCH(CH3)2
IUPAC正式名:2-(Fluoro-methylphosphoryl)oxypropane
メチルホスホン酸フッ化物(リン酸の2つのヒドロキシ基-OHがフルオロ基-Fとメチル基-CH3に変わったもの)と2-プロパノールとのエステルと言える。
※ ホスホン酸;HP(=O)(OH)2
無色無臭の液体。
極めて強い殺傷性の神経毒で、これを吸入すると神経に障害をきたし呼吸困難や脳や目などに神経系の重い後遺症を残し、死に至らしめる。
日本では1994年の松本サリン事件、1995年の地下鉄サリン事件で使用された。
第二次大戦中ドイツで開発された有機リン系化合物である。
本来は農薬(後述)の開発で発見された物質である。
開発者たちの名前の頭文字から「サリン」と呼ばれていると言う。
「ソマン」、「タブン」という類似構造を持つ姉妹品が存在し、サリンとこれらは化学兵器として用いられている。
サリンを合成する原料は全て(規制はされているものの)市販されていて、かの組織はそれらを購入し合成できたのだという。
合成法をここに書くことはできない。
しかし市販の原料という縛りでサリンを合成したのは合成化学的にはすごい。
また、もし一般人が同じ方法で真似したとしてもほぼ間違いなく失敗して製造者が死ぬ結末になるであろうこの困難な合成をやってのけた。
かなり化学の知識に長けた者が合成設計したのだとわかる。
実際、東大卒や医者など、組織には日本最高クラスの有識者が所属していた。
学問をやって知識を付けることは、その分だけ危険な人間になることである。
と筆者は考えている。
(筆者の先生も同じようなことを言っていた。)
有識者はその知識を悪用することで他者を危険にさらすことができる。
筆者はサリンの合成法を大学の講義で習った。
たった7段階の反応で合成ができる。
(もし真似しても己の死が待っているだけだが。)
ニトログリセリン等の爆薬の合成法も知っている。
「ここに電気陰性度の高い官能基を付けたら良いだろう」等、分子設計の知識もいくらかはある。
化学の知識を付けた分、確実に潜在的に危険な人物になっている。
もし学問を進め知識を持ったなら、自分のその力に対して責任を持たなければならないと思う。
学問には二面性がある。
人を生かすも殺すも使い方次第。
化学で言うなら例えばニトログリセリンの例がある。
これは第一次大戦で使用され数え切れぬほどの人を殺した殺人化合物である。
しかし一方で、ニトログリセリンは血管拡張剤でもあり狭心症患者にとっては命の化合物である。
さて、ニトログリセリンは悪の化合物か、正義の化合物か。
どっちでもないと思う。
どう使うかは人間次第である。
さて、化学の話をしましょう。
サリンは農薬として使われる殺虫剤分子ととても構造が似ています。
実はサリンは最初から化学兵器を作るために開発されたのではなく、農薬開発の過程で生まれました。
サリンも元々は人を幸せにするための技術の1パーツだったのです。
結果、農薬研究は神経毒研究を発展させ、神経毒研究は農薬研究を発展させたのですが。
サリン、Malathion(農薬;殺虫剤)、Malathionの酸化体(猛毒)
どれも同じようなリン酸類似の有機リン系化合物である。
サリンも上の農薬Malathionも、神経伝達物質のアセチルコリンをコントロールするコリンエステラーゼというたんぱく質にくっ付いて阻害します。
結果神経系が正常に作動しなくなり、死に至らしめます。
しかしなぜサリンは人間を殺す物質であるがMalathionは人体に毒性が低くて虫だけを殺す殺虫剤であるのだろうか?
両者には決定的な違いがある。
サリンはP=OであるがMalathionはP=Sであるところである。
一方、P=OであるMalathionの酸化体はP=SがP=Oに変わっただけで猛毒である。
すなわちP=Oは人体に猛毒、P=Sは虫にだけ効く、と言うことになる。
実は正確に言うと、虫の体内ではMalathionは酸化態になりコリンエステラーゼにくっ付いて虫を殺しています。
このことについては次回の記事で解説しましょう。
→ 『農薬の殺虫機構とサリン』
今回は筆者の考え方を長々と書いてしまいました。
しかし、これは大切なことだと思うのです。
◎ 参考
- 『パソコンで見る動く分子辞典』本間善夫, 川端潤著, 講談社(2007)
- 筆者の大学の先生の有難いお話
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