一般向け/高校生向け楽しい化け学
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前回も前々回もヒドロキシ安息香酸(すなわちサリチル酸とその異性体)を例にした隣接基効果を説明しましたが、今回もそれを引っ張ってみます。
サリチル酸の第二段階目の酸解離定数を他の二つの異性体と比べると、面白いことに気付きました。
サリチル酸は第一段階目はm-、p-の異性体に比べて酸性度(すなわち解離度)が数十倍大きい。
それに対し、第二段階目の解離度は他の二つに比べて1万分の1程しかありません。
何故でしょうか。
今日はその理由ついて筆者の考えを述べてみます。
主題;
o-ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸)はm-及びp-ヒドロキシ安息香酸と比べ、第一段階目の酸解離定数は数十倍ほど大きいが、第二段階目の酸解離定数は1万分の1ほどしかない。
○ 第一段階の解離度について
前回/前々回記事でも書きましたが、サリチル酸はm-及びp-ヒドロキシ安息香酸よりも酸性度が高くなります。
なぜなら、m-及びp-ヒドロキシ安息香酸は分子内水素結合ができませんが、サリチル酸はカルボキシル基が電離して生じた陰イオン(共役塩基)が分子内水素結合により安定化するからです。
(詳しくは前々回記事『隣接基効果~ヒドロキシ安息香酸の融点・酸性度』を参照)
サリチル酸の第一段階目の電離平衡
サリチル酸の共役塩基の分子内水素結合
具体的に書くと
pKa1(第一段階目のpKa)は、
・ サリチル酸 : pKa1 = 2.78
・ m-ヒドロキシ安息香酸 : pKa1 = 4.07 (⇒サリチル酸の方が19倍強い)
・ p-ヒドロキシ安息香酸 : pKa1 = 4.47 (⇒サリチル酸の方が48倍強い)
・ (参考:一般的なカルボン酸)酢酸 : pKa = 4.76 (⇒サリチル酸の方が95倍強い)
です。
※ 「pKa = -log10Ka」です。
pKaの値が小さいほど酸性が強い。pKaの値が1違うと酸性度は10倍違う。
「pKa」の「p」は「pH = -log10[H+]」と同じ意味の「p」。
サリチル酸は隣接基効果(分子内水素結合)によりm-及びp-ヒドロキシ安息香酸より100倍以上強い酸になるということになります。
○ 第二段階の解離度について
3つのヒドロキシ安息香酸はカルボキシル基だけではなくフェノール性OHでも電離ができる。
カルボキシル基の方が酸性度が大きいのでまずこちらから電離するが、その次にフェノール性OHが電離する。
サリチル酸の二段階の電離平衡
このときの解離度(フェノール性OHが電離する場合のpKa)を比べてみましょう。
pKa2(第二段階目のpKa)は、
・ サリチル酸 : pKa2 = 13.44
・ m-ヒドロキシ安息香酸 : pKa2 = 9.79 (⇒サリチル酸より4500倍強い)
・ p-ヒドロキシ安息香酸 : pKa2 = 9.09 (⇒サリチル酸より22000倍強い)
・ (参考:一般的なフェノール)フェノール : pKa = 9.95 (⇒サリチル酸より3000倍強い)
です。
m-とp-ヒドロキシ安息香酸は普通のフェノールとほぼ同じですが、第一段階目の解離度とは真逆で、サリチル酸の第二段階目の解離度は異常に小さな値となっています。
すなわち、サリチル酸はフェノール性OHの酸性度がとても低くなっているということです。
それもo-やp-の数千~数万分の1。
不思議です。
なぜでしょうか?
考えてみましょう。
筆者は次のように考えます。
サリチル酸の第一段階目の共役塩基は分子内水素結合で安定化しています。
一方、さらに電離したサリチル酸の第二段階目の共役塩基は、分子内水素のプラスとマイナスの引き合いで安定化しているせっかくの状態を壊している上、すぐ隣同士(-COO-と-O-)が負電荷を持っていて静電反発で不安定になってしまいます。
サリチル酸の一段階解離した共役塩基と二段階解離した共役塩基
すなわち「サリチル酸-イオン」は安定なのに「サリチル酸2-イオン」はやたらと不安定なので、「サリチル酸-イオン」は「サリチル酸2-イオン」になりたくないわけです。
だから第二段階目の電離は抑制され、普通のフェノールよりもフェノール性OHの電離度は低くなります。
これもある種の隣接基効果と言えるでしょう。
一方、m-及びp-ヒドロキシ安息香酸はカルボキシル基とヒドロキシル基が遠く離れているため、静電反発は小さいため普通のフェノールと同じくらいの電離度になるのでしょう。
m-及びp-ヒドロキシ安息香酸の二段階電離した共役塩基
以上のように考えてみました。
ちなみに、第二段階目の酸性度はm-とp-ヒドロキシ安息香酸がボロ勝ちしたわけですが、この電離はどっちにしろ微々たるものなので第一段階目が「ヒドロキシ安息香酸の酸性度」を主に決定するため結局全体でみた酸性度はサリチル酸がボロ勝ちします。
◎ 参考
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