一般向け/高校生向け楽しい化け学
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前回記事で、サリチル酸の異性体についてヒドロキシ基の位置で融点や酸性度が変わることを書きました。
『隣接基効果~ヒドロキシ安息香酸の融点・酸性度』
この隣接基効果で酸性度が変化することを応用すれば、副作用のあるサリチル酸をアセチル化することでアセチルサリチル酸(→『今日の分子No.57 :アセチルサリチル酸』)とすると、副作用を低減することができると言うことがわかります。
今回はそれについて書きましょう。
サリチル酸C6H4(OH)(COOH)は古くは鎮痛剤として用いられました。
サリチル酸
しかし粘膜刺激性があって、飲むと喉や胃を痛めるという副作用がありました。
頭は痛くなくなるがお腹は痛くなるという、なんとも微妙な薬だったのです。
これはサリチル酸がカルボン酸としては比較的強い酸だからです。
サリチル酸の電離平衡
サリチル酸はpKa=2.78(第一段階)。
典型的なカルボン酸である酢酸はpKa=4.76。
すなわちサリチル酸の方が約100倍強い酸です。
※ 「pKa = -log10Ka」です。pKaの値が小さいほど酸性が強い。
「pKa」の「p」は「pH = -log10[H+]」と同じ意味の「p」。
お酢は酸なのでそのまま飲むと喉が痛いですが、サリチル酸は酢酸よりもさらに強い酸なのです。
なぜサリチル酸が強い酸なのかと言うと、と言うと、前回の記事『隣接基効果~ヒドロキシ安息香酸の融点・酸性度』でも書きましたが、電離して生じた陰イオン(共役塩基)が分子内水素結合をするので安定だからです。
サリチル酸の共役塩基の分子内水素結合
では逆に考えると、この分子内水素結合をなくしてしまえば酸性度を下げられるのではないか?
という発想が出てきます。
水素結合をなくすには、要するにサリチル酸のフェノール性-OHのHをなくしてやれば良い。
ここでアセチルサリチル酸(商標:アスピリン)の構造を見てみよう。
アセチルサリチル酸の構造
フェノール性-OHのHがアセチル基-COCH3になってなくなっている!
したがってアセチルサリチル酸の共役塩基は分子内水素結合による安定化を受けない。
アセチルサリチル酸の共役塩基―分子内水素結合なし―
したがって酸性度はサリチル酸より低くなると予想される。
実際、アセチルサリチル酸の酸性度はpKa=3.49。
すなわちサリチル酸をアセチル化することにより酸性度は1/5に抑えられるのである。
だからアセチルサリチル酸はサリチル酸より胃に優しい。
アスピリンは1899年にドイツのバイエル社が発売し、20世紀初頭に爆発的に売れ、今なお使い続けられる大ヒット・ロングセラーの解熱鎮痛剤なのである。
このように構造化学、「隣接基効果」を理解することは化学的にとても重要なことです。
身の回りにも色々応用されています。
ちなみにアセチル化してしまって構造が変わると薬効が変わってしまわないか?という疑問が出てくるが、アセチルサリチル酸は小腸で吸収され血中に入ると分解されてサリチル酸に戻るらしい。
アセチル基が加水分解されやすいこともアスピリンがアスピリン足る理由になっているようですね。
さらにちなみに、アセチルサリチル酸にしてもまだ少し酸性度が高いので、実際にはアルミニウムやマグネシウム系のアルカリを入れて中和しているみたいです。
◎ 参考
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