一般向け/高校生向け楽しい化け学
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とりあえず「化学ビデオ講座」のナンバーを増やしてみます。
今日は有機合成、高校でも習うニトロベンゼンの還元によるアニリンの合成です。
還元剤には鉄粉を用いています。
(☆ スズを用いてもできます。重要!)
化学ビデオ講座No.3 :ニトロベンゼンの還元によるアニリンの合成
<動画の要約>
まず鉄粉・蒸留水・塩酸を用意した。
反応装置を組み立て、3つ口フラスコに蒸留水と鉄粉を入れた。
加熱撹拌しながら、温度計を取ってゆっくりと塩酸を加えた。
次に滴下漏斗でニトロベンゼンを加えた。
すると黒色物質(四酸化三鉄)を生じつつ、アニリン(の塩酸塩)を生じた。
反応終了後、フラスコを水に浸けて冷却し、炭酸カリウムを加えて反応液中の塩酸の中和・アニリン塩酸塩からアニリンの遊離を行った。
蒸留し、水+ニトロベンゼン+アニリン液を得、分液漏斗に入れた。
そこへ塩化ナトリウムを加えて(塩析の原理)よく振って上層に有機層(アニリン+ニトロベンゼン)を得た。
得た有機層を低温で蒸留してアニリンを得た。
(※ 高温で蒸留するとニトロベンゼンも出てきてしまう。)
<解説>
ニトロベンゼンを鉄―塩酸でアニリンに還元する反応である。(ベシャンプ還元と言う。)
C6H5-NO2 + 6H+ + 6e- → C6H5-NH2 + 2H2O
スズを用いた反応式は高校化学の教科書にも載っているが、鉄を用いた場合は載っていない。
鉄を用いた場合は反応が少し難しくなる。
まずFeがFe2+になることで(すなわち塩化鉄(II)になることで)ニトロベンゼンを還元する。
C6H5NO2 + 3Fe + 6HCl → C6H5NH2 + 3FeCl2 + 2H2O
次にFe2+がFe3+になることでニトロベンゼンを還元する。
C6H5NO2 + 6FeCl2 + 6HCl → C6H5NH2 + 6FeCl3 + 2H2O
さらに、塩化鉄(II)と塩化鉄(II)と水が反応して四酸化三鉄を生じ、塩酸を再生する。
FeCl2 + 2FeCl3 + 4H2O → Fe3O4 + 8HCl
以上の反応を足すと、結局、
C6H5NO2 + 9Fe + 4H2O → 4C6H5NH2 + 3Fe3O4
となる。(塩酸は反応前後で正味消費されていないので触媒的役割をしている。)
しかし、アニリンは塩基であるのですぐ塩酸と反応しアニリン塩酸塩になる。
C6H5NH2 + HCl → C6H5NH3+Cl-
これをアニリンに戻すために塩基である炭酸カリウムを加えている。
C6H5NH3+Cl- + K2CO3 → 2C6H5NH2 + 2KCl + CO2 + H2O
また、反応液中には塩酸もたくさん残っているので炭酸カリウムで中和する。
2HCl + K2CO3 → 2KCl + CO2 + H2O
反応後の反応液は残った鉄粉や、生じた四酸化三鉄、塩化カリウム等が混ざっている。
ここからアニリンだけを取り出さねばならない。
だからまず液体だけ取り出すため蒸留し、水が入っているので分液漏斗で有機層を分離する。
有機層にはニトロベンゼン等が入っているので、これをさらに蒸留する。
蒸留するとき、動画では「アセトンで洗ってヒートガンで加熱する」と言っているが、これは水が入ってしまわないようにしているのである。
上の動画でわかるように、有機合成は合成反応自体の操作よりも、後処理と生成物の分離に大きく労力を必要とする。
単に教科書の化学反応式を見ただけではこれはなかなか理解できないのだ。
実験をするとさらに色々問題に直面する。
反応物の濃度は?
フラスコの大きさは?
何ミリグラムくらい生成物が欲しい?
後処理での水や塩基・酸、抽出時に加える塩はいくらぐらい入れるべき?
等など。
化学は、教科書を読むだけではわからないのです!!
が、それが本当に面白い!
◎ 参考
- 『ボルハルト・ショアー現代有機化学〈下〉』, K.Peter C. Vollhardt, Neil E. Schore著, 野依良治監訳, 化学同人; 第4版 (2004/06)
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