一般向け/高校生向け楽しい化け学
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
さて、昨日少し「反応機構」なるものについて書きましたが(『高校の有機化学は化学的でない』参照)、それを考えれば色々重要なことがわかります。
例えばエステル化反応において、エステルの-C-O-C-結合のOは酸とアルコールどちら由来か、等。
今日はそれについて説明しましょう。
○ 「酸触媒でメタノールと酢酸が脱水縮合して酢酸メチルが生じる」反応
さて、高校ではたぶんカルボン酸(酢酸)とアルコール(メタノール)が脱水縮合してエステルを与える反応を、下の式Aのように説明されると思います。
式A.定番の縮合の考え方(エステル化):酸の頭が取れる
この式では酸の頭(-OH)が水となって取れていますが、なぜ下の式Bのようにアルコールの頭(-OH)が水となって取れるのではないのでしょうか。
式B.アルコールの頭は取れない?
しかし昨日も書きましたが、式Aや式Bの書き方は非常にナンセンスな表現で、化学的ではありません。
いきなり水として取れるのではなく、エステル化はそんな風に無理やりブチブチと切れて組み換わるようなものではありません。
「反応機構」を書いて素反応を考えてみましょう。
☆ 以下、区別のため酢酸部を青色、メタノール部を緑色で描きます。
(1) H+化による酢酸のカルボニル基の活性化
酢酸のカルボニル基C=Oの酸素原子が、その孤立電子対を使って水素イオンと結合を作ります。
酸素の手が三本になり正電荷を帯びるのはオキソニウムイオンH3O+の生成と同じような配位結合であるからです。
なぜこれが「活性化」なのかは次に述べます。
※ 式中の赤い矢印は「電子対の動き」を表す専門的な記号ですが、あまり気にせずフィーリングで見てください。
簡単に解釈すると;
・ 原子(の孤立電子対)から他の原子に矢印が伸びていれば、その二原子が衝突したことを表す。
・ 結合から矢印が伸びていれば、その結合が切れた、すなわち原子同士が離れて行ったことを表す
・ ただし、「(電子を供与する原子・結合)→(電子を受容する原子・結合)」に矢印を描く。
ということです。
(2) メタノールのOの、活性化された酢酸の(元)カルボニル炭素への求核攻撃
自然の摂理に「プラスとマイナスは引きあう」というものがあります。
メタノールのヒドロキシ基OHのO原子は孤立電子対を持っています。
これが「マイナス」です。
一方、酢酸のカルボニル基C=OのCは酸素によって電子が引かれてδ+に帯電していますが、(1)式でプラスなH+がくっついたことでさらにプラスに帯電しています。
よってメタノールの-OHのOと、酢酸の活性化されたカルボニル炭素は引き合い結合します。
※ 「プラスっぽいところにマイナスがぶつかっていくこと」を専門的には「求核攻撃」と言います。
(3) H+の脱離
(2)式で結合を作ったは良いものの、その分元メタノールのOは手が三本になり正電荷を持ってしまいました。
じゃあ彼はどうするかといいますと、H+を放出することで電気的に中性になり落ち着くのです。
(4) H+化によるヒドロキシ基の活性化
またH+がくっつきます。
ただし、次はヒドロキシ基です。
同じように酸素は手が三本になり正電荷を持ちます。
ちなみにR-OH2+をアルキルオキソニウムイオンと言います。
(5) C=O結合の形成と水の脱離
(4)式で生成した-OH2+部分は水H2Oとして取れやすい性質があります。
その分、隣のヒドロキシ基-OHのOが孤立電子対を押し込んできて、中心炭素の手の数を合わせつつ水が押し出されどこかへ飛んでいきます。
(6) H+の脱離
最後にまたH+の脱離が起こります。
(5)式でヒドロキシ基がC=O結合を作ったのは良いものの、手が三本になり正電荷を帯びてしまいました。
(3)式と同様に、H+を捨てることで電気的中性を取り戻し、安定な生成物:酢酸メチルになるのです。
以上。
これが真のエステル化です。
「水が取れて残った部分がくっつく」ではなく「メタノールと酢酸がくっついて、そして水が抜ける」のです。
(1)~(6)式では「プラスとマイナスが引きあう~~」や「電気的中性を保つため~~」というような理屈があるのが面白い。
やっぱり「科学的」なのがいいですね。
そして本題の「酸の頭(OH)が取れる」という点について。
(2)式のように、カルボン酸のカルボニル基にアルコールのヒドロキシ基がぶつかってくるので、エステルのC-O-C結合のOはアルコール由来になるのということがわかります。
ということでカルボン酸側から「OH分」が取れるわけです。
ちなみに「OH分」が取れるのです。
(3)式の生成物を見てわかるように、酢酸の元カルボニル基のOHと、元からOHだったOHは(3)式の生成物ではもはや等価になっています。
だから(4)、(5)式で 「H+化→水となって脱離」するのは元からOHだったOHでも元C=OだったOHでも良いのです。
だから要するに、高校化学的書き方をすると
でも
でも良いわけです。
と、こんな感じです。
反応機構を考え素反応を書いていくことで、詳細に反応・生成物を予想することができます。
この反応機構というものは数学でいうところの途中計算みたいなものです。
数学の計算で計算結果だけ暗記して答案に書いても点数がないのと同じで、化学者は反応機構を考えてやっと反応・結果を理解するのです。
あと、上の(1)~(6)式から酸触媒(H+)の役割がわかります。
(1)~(6)を見ると、H+は2回くっつき2回取れています。
要するにH+は正味消費が±ゼロです。
でもカルボニル基の活性化・ヒドロキシ基の活性化という反応を起こりやすくする役割(=活性化エネルギーを下げる役割)をしています。
なのでH+「それ自身は消費されないが反応を促進する物質」、すなわち触媒なのです。
高校化学で習う式は途中式がないので触媒(例えばエステル化でH+)が反応式に出てこないので何をやっているか分からないのですが、実際はこのように働いているのです。
◎ 参考
- 『ボルハルト・ショアー現代有機化学〈上〉』, K.Peter C. Vollhardt, Neil E. Schore著, 野依良治監訳, 化学同人; 第4版 (2004/03)
PR
最新記事
(2018/09/23)
(2017/08/14)
(2017/03/07)
(2016/08/17)
(2016/05/05)
(2015/07/19)
(2015/04/11)
(2014/11/23)
(2014/08/03)
(2014/05/11)
カテゴリー
ブログ内検索