一般向け/高校生向け楽しい化け学
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前回の二硫化炭素の説明に加えて、ビスコースレーヨンについて。
ビスコースレーヨン(ビスコース法レーヨン)とは、
- セルロースを水酸化ナトリウム水溶液と二硫化炭素で処理してビスコースと呼ばれるコロイド溶液を作る。
- ビスコースを細孔から希硫酸に噴出すると繊維状にセルロースが再生。
ビスコースレーヨンのメリットは
- そのままでは商品にできない粗なセルロース繊維を、光沢があって長い絹糸のような上質な繊維にできる。例えば綿は綺麗な綿花から取らなければならないが、ビスコースレーヨンは木材パルプから作ることもできる。
- 再生するとき、好きな形状の材料を作れる。(長さや形。繊維状orフィルム状。)
- 再生した繊維は化学的には天然のセルロースと同一である。だから吸湿性もあるし、捨てても土に帰る。
- ビスコースレーヨンは他のセルロース化学修飾樹脂(ニトロセルロースなど)と比べて化学的に安定。
これらはセルロースを溶かすことによって達成されるものである。
本来セルロースは水や溶媒に溶けないため、一旦コロイド溶液にできるビスコース法は優秀である。
ではなぜビスコース法ではセルロースを溶かすことができるのだろうか。
高校化学では習わないが、次のような化学反応で可溶化→再生している。
1. セルロースを水酸化ナトリウムで処理。
セルロースのヒドロキシ基(-OH)がNaアルコキシド(-O-Na+)になる。
この生成物をアルカリセルロースという。
アルカリセルロースの生成
2. アルカリセルロースを二硫化炭素CS2と反応させビスコースにする。
アルカリセルロースと二硫化炭素が反応すると、Naアルコキシド部分がキサントゲン酸Na(R-O-C(=S)S-Na+)になる。
セルロースキサントゲン酸Naの生成
セルロースが強い不溶性を持つのは、セルロース分子同士が水素結合で強く結びついているからである。
しかしこのセルロースキサントゲン酸Naになるとヒドロキシ基が減り水素結合する能力が減少し、水酸化ナトリウム水溶液に溶解しコロイド溶液になる。
このコロイド溶液がビスコースである。
ちなみにビスコースとは「ビスコ:ドロドロした」+「オース:砂糖」という造語である。
ビスコースは黄色く、ドロドロしている。
この黄色はキサントゲン酸(xanth-=黄色;キサントプロテイン反応の"キサント")部分由来である。
また、キサントゲン酸(R-O-C(=S)SH)はちょうど炭酸モノエステル(R-O-C(=O)OH)の酸素二つを硫黄で置き換えた構造である。
3. ビスコースを希硫酸に入れる。
キサントゲン酸Na部分が分解してヒドロキシ基になる。
すなわち、元のセルロースに戻る。
セルロースの再生
このとき繊維状に再生するもよし、フィルム状に再生するもよし。
繊維状に再生すると光沢のある絹状繊維;レーヨンになる。
また繊維の長さも自由に決定できる。
フィルムに再生するとセロハンになり、これもセロハンテープなど生活の役に立つ。
ちなみにレーヨン(rayon)は「ray:光」+「on:綿(cotton)」の造語らしい。
このようにビスコース法ではセルロースを一旦可溶化し、そこから自由に再生できるというのが特徴である。
粗な木材から上質な繊維を作れ、作った繊維は自然に帰るというのも大きな特徴である。
ネット資料では国立科学博物館産業技術史資料情報センターの資料等にビスコース法等の歴史が載ってます。
(資料中の「セルロースザンテート」がセルロースキサントゲン酸Naのことです。)
あと、高校化学でビスコースレーヨンと対で出てくる銅アンモニアレーヨンも覚えておきましょう。
◎ 参考
- 筆者の大学の先生の有難いお話
- 国立科学博物館産業技術史資料情報センター『衣料用ポリエステル繊維技術の系統化調査』
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今日はポリスチレン(PS)を合成しました。
中にたまってる白い粉がPS 2011/4/14 筆者撮影
ラジカル重合で作りました。
いわゆる付加重合
n CH2=CHX → -(CH2-CHX)n-
(※ スチレンの重合なら-Xは-C6H5)
の反応ですが、まず反応の発端となる二重結合の解裂を起こさなければなりません。
ここで開始剤(R-R)と呼ばれる、分解してラジカル(R・)を出す試薬を使います。
すると
R-R → 2R・
R・ + CH2=CHX → R-CH2-CHX・
R-CH2-CHX・ + CH2=CHX → R-CH2-CHX-CH2-CHX・
R-CH2-CHX-CH2-CHX・ + CH2=CHX
→どんどん成長
→停止反応(ラジカル同士結合したりする)
→ -(CH2-CHX)n-
とスムーズに反応します。
このように、ラジカル反応を使って重合反応開始し成長反応を起こす反応をラジカル重合と言います。
教科書には簡単に書いてありますが、実際にはこのようにちょっとしたテクを使って反応をスムーズに進行させます。
◎ 参考
- 『基礎高分子科学』高分子学会編, 東京化学同人 (2006/07)
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