一般向け/高校生向け楽しい化け学
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グリーンケミストリー(Green Chemistry;GC)関連第三弾!
→ 第一回記事『グリーンケミストリー~(1)入門編』(GC各記事へのインデックスあり)
今回は環境に優しい合成・製品という話題で、プラスチックの生合成と、生分解性のプラスチックについてです。
生分解性プラスチックという言葉は最近有名になってきたので、まずそれから説明します。
◎ 今回関係するグリーンケミストリーの12ヶ条
第3条. 毒性の少ない方法:
可能な限り環境や人間に対して毒性の少ない物質を使って合成する。
第9条. 触媒の活用:
選択性の高い触媒は反応の効率を高めるのに優れている。
第10条. 環境中で分解する製品:
化学製品は使用後、無害なものに分解し、残留性がないようにすべきである。
生分解性プラスチックとは
石、粘度、鉄・・・人間が得た材料の中でも、プラスチックというものは、その加工性・耐久性・多様性等において、最高傑作のひとつではないかと思います。
例えば最も身近なポリエチレン[-CH2-CH2-]nは、単純な炭化水素であるエチレンCH2=CH2を付加重合させたもので、ビニール袋や弁当箱、はたまた水道管にまで使われています。
何せ腐らないし、錆びないし・・・
だが、実はこの便利な性質が裏目に出て環境問題になっています。
「腐らない」
これは逆に言えば、例えばポリエチレンの袋を山や川に捨てたとしても、何年、何十年たってもずーーっとポリエチレンはポリエチレンとして残り続けます。
例えばバナナの皮を捨てたとしたら、数日したら微生物の働きで腐りだし、数か月もすれば完全に分解させて跡形もなくなっていると思います。
ポリエチレンの袋は、例えばウミガメがクラゲと間違えて食べてしまうという問題があります。
強靭なそれは消化液でも分解されず、消化器官に詰まりその生物を死に至らしめます。
このように、環境中に残存する物質(プラスチック、ダイオキシン、フロン...等)は、環境に負荷を与える物質とされ、グリーンケミストリーの12ヶ条でも第10条に「化学製品は使用後、無害なものに分解し、残留性がないようにすべきである。」と宣言されています。
したがって、要するに「腐るプラスチック」が必要とされました。
そこで登場したのがポリ乳酸[-CH(CH3)COO-]n。
乳酸HO-CH(CH3)COO-Hが縮合重合したポリマーです。
乳酸は言わずと知れたありふれた天然物質。
ヨーグルトとかに入ってるあれです。
そしてそれが単にエステル結合で重合したポリ乳酸は、微生物の持つ分解酵素によって水と二酸化炭素にまで分解することができます。
したがって、もしもポリ乳酸ボトルが山に捨てられたとしても、しばらくすれば跡形もなく土に還るのです。
このように、生物によって分解されるプラスチックのことを生分解性プラスチックと言い、現在の"残存性プラスチック"にとって代わるべきであると期待されています。
ポリ乳酸はボトル等として実用化され始めているようです。
ちなみに、ポリ乳酸は堆肥の中等微生物がたくさんいるところでしかなかなか分解されません。
したがって「ポリ乳酸ボトルが気づいたら腐って中身が漏れた!!」なんてことにはならないのです。都合がいい!!
めでたしめでたし・・・と言いたいところですが、まだまだ課題があります。
例えばその生分解性を生かすならば、捨てるとき普通に焼却処分するよりも、生物に分解してもらった方が良い。
しかしあなたは「燃えるごみ・燃えないゴミ・生分解性プラスチック」というゴミの分別を見たとこがあるでしょうか?
おそらくありませんね。
今現在は捨てるとき焼却処分されるため、その生分解性という性質はあまり生かせられていません。
とりあえずもっと生分解性プラスチックが生活の中にあふれるようになって、リサイクルの一種類のように廃棄されるようになればいいですね。
生合成プラスチックとは
さて、前項で生物はポリ乳酸というプラスチックを分解できるというお話でした。
実は、逆の原理で生物にプラスチックを合成させることもできるのです!
例えば、植物は光合成で作ったグルコースC6H12O6を重合させ、多糖であるデンプン[-C6H10O5-]nという形で貯蔵することはご存知の通りです。
同じように、ある種の微生物は栄養をポリエステルにして蓄える性質があります。
例えば枯草菌(納豆菌の仲間)はグルコースを栄養源にして発酵し、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)を作ります。
ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)は溶融形成可能な熱可塑性樹脂で、結晶性が高く強い材料です。
さらに、エネルギー貯蔵のための物質なわけですから、もちろん生分解性プラスチックでもあります。
したがって、微生物にグルコースをエサとして与えるで生分解性まである素晴らしいプラスチックを合成することができます。
これはグリーンケミストリーの第3条「毒性の少ない方法」、第9条「触媒の活用」(微生物の酵素の活用)、第10条「環境中で分解する製品」に合致し、素晴らしい合成プロセス・材料であると思います。
ちなみに、こんな技術まで開発されています。
ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)は硬くて強いプラスチックですが、その反面"もろい"という欠点があります。
この欠点を補うために、水素細菌にグルコースと一緒にプロピオン酸CH3CH2COOHをエサとして与えると、3-ヒドロキシ吉草酸ユニット-OCH(C2H5)CH2CO-が共重合した形のポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシ吉草酸)が生成します。
3-ヒドロキシ吉草酸ユニットが入ると柔らかさが増し、粘り強い材料となる。
しかもエサとして与えるグルコースとプロピオン酸の組成比を変えることで、各ユニットの割合が調節でき、好きな柔らかさを持ったプラスチックを作ることができるという優れもの。
もう商品化もされているという。
また、これら微生物の遺伝子を植物の遺伝子に導入することで、植物にプラスチックを合成させる取り組みも行われているという。
いつか「プラスチックの実がなる木」が出来て、プラスチックの製造は畑で実を収穫する・・・なんてことになるかもしれませんね。
以上のように、環境に負荷の少ない生分解性プラスチックや、発酵という安全な合成法でプラスチックを合成するという試みが実用段階まできています。
ゴミが環境に負荷を与えないためにも、安全に合成するためにも、生物の事をよく知って力を借りる必要があるようです。
参考
- 『環境にやさしい21世紀の化学』安保 正一, 水野 一彦 編著, エヌ・ティー・エス (2005/08)
- 『グリーンケミストリー』, Paul T. Anastasら原著, 丸善 (1999/03)
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今回も引き続きグリーンケミストリー(Green Chemistry;GC)についてです。
→ 第一回記事『グリーンケミストリー~(1)入門編』(GC各記事へのインデックスあり)
今回は化学反応のグリーン度を表す指標である「原子利用率」、「原子経済」、「E-ファクター」について。
これらは、原料を原子のレベルで無駄なく使おうという考えのもと、生まれました。
そしてさらに、これらの指標において望ましい反応について、解説します。
未来の工業反応は、ずばり付加反応と転移反応だ!!
◎ 今回関係するグリーンケミストリーの12ヶ条
第1条. 予防:
廃棄物を出してから処理するのではなく、はじめから出さない。
第2条. 原子の利用効率:
原料物質中のできるだけ多くの原子が最終製品産物に残るような合成法を設計する。
化学反応の効率評価―収率・選択性―
まず始めに、従来からある化学反応の効率を表す「収率」と「選択性」から考えます。
【収率】
収率とは、化学反応式より理論的に得られる目的生成物の量に対する、実際の反応で得られた目的生成物の量の割合のことである。
実際に合成をすると、反応が100%進まなかったり、予期せぬ物質が生じたり、分離工程でロスしたりする等、理論的に得られる量は得られない。
収率の高い反応ほど効率の良い反応と言える。
【選択性】
選択性とは、実際に反応した原料から理論的に得られる目的生成物の量に対する、実際に目的生成物の量の割合のことである。
化学反応の中には、競合する反応があって目的生成物以外の生成物が生じることがある。(例:記事頭の化学反応の下式の脱離反応。求核置換反応と脱離反応は競合する。)
反応条件や触媒を工夫するなど、選択性の高い化学反応ほど効率の良い反応と言える。
以上のように、まず収率や選択性が良い反応が求められる。
これを前提に、次の「グリーン度」の評価に移ります。
グリーン度の指標―E-ファクター・原子利用率・原子経済―
さて、収率や選択性で評価した反応の「効率」は、あくまで目的生成物の得られる量だけを考えましたが、GCでは副生成物にも注目します。
GCの考え方では、副生成物、すなわち廃棄物ができるだけ生じない合成法を用いるべきです。(上記第二条)
そのため、目的生成物と副生成物の割合を評価する指標として、「原子利用率」、「原子経済」、「E-ファクター」があります。
【E-ファクター】
E-ファクターとは、目的生成物の質量に対する副生成物の質量です。
要するに、副生成物が目的生成物の何倍生じるか、ということです。
E-ファクターが小さいほど、その反応は副生成物が少なく、グリーンであるということになります。
【原子利用率】
原子利用率とは、化学反応式の右辺(生成系)の全生成物の分子量の和に対する、目的生成物の分子量の割合(%)です
要するに、全生成物の何%が目的生成物か、ということです。
原子利用率が大きいほど、その反応は副生成物が少なく、グリーンであるということになります。
【原子経済】
原子利用率の「分子量」を「式量」に読み替えたもので、同じ考え方の指標です。
E-ファクター・原子利用率の例
では具体例に参りましょう。
例えば還元剤や工業原料として重要なヒドロキノンC6H4(OH)2という物質があります。
この物質の工業的製法として、アニリンC6H5NH2を二酸化マンガンMnO2で酸化してから硫酸酸性で鉄で還元するという、式(A)の合成法が取られていました。
・・・・(A)
※ Mw : 分子量
この反応は、一目見てわかるように大量の副生物を生じます。
E-ファクターと原子利用率を計算すると;
となります。
言い換えると、目的生成物の4.2倍の量の副生成物を生じ、全生成物の内19%だけが目的生成物であるということです。
一方近年、フェノールC6H5OHを過酸化水素H2O2で酸化するという新反応:式(B)が発明されました。
・・・・(B)
従来の式(A)と比べると明らかにすっきりした反応です。
この反応のE-ファクターと原子利用率を計算すると;
となり、従来の式(A)よりとても小さなE-ファクター、とても大きな原子利用率となります。
すなわち、この新反応は副生成物(=廃棄物)が少ないよりグリーンな反応であると言えるのです。
また、副生成物が無害な水であり、これまた良い。
以上のように、E-ファクターや原子利用率を用いれば、数値的にグリーン度を評価できてとても便利なのです。
原子利用率の高い化学反応
化学反応はその形式により、置換反応、付加反応、脱離反応、そして転移反応の大きく4つに分けられます。
では、原料を無駄なく使うにはどの反応が理想的なのでしょうか。
【置換反応】
骨格分子上の1原子が、他の原子に置き換わる反応。
例えば、クロロベンゼンC6H5Clの工業的製法として、下式の置換反応が用いられます。
置換反応は、交換して抜け出た原子があるわけだから、必ず副生成物が生じてしまいます。
すなわち、収率100%でも必ずゴミが出て、そして絶対に原子利用率は100%になりません。
【付加反応】
骨格分子の二重結合に、他の分子を割ってくっ付ける反応。
例えば、シクロヘキサノールC6H11OHの工業的製法として、下式の付加反応が用いられます。
付加反応は副生成物が出ない!!
すなわち
E-ファクター = 0!
原子利用率 = 100%!
付加反応は、ゴミが出ないとても経済的な反応なのです。
【脱離反応】
骨格分子の持つ隣り合った原子を抜き去って、二重結合を作る反応。
(付加反応のちょうど逆)
例えば、塩化ビニルCH2=CHCl(重合すると塩ビ樹脂[-CH2-CHCl-]nになり消しゴム等に使われる)の工業的製法として、下式の脱離反応が用いられます。
脱離反応は、脱離する分子が生じるわけだから必ず副生成物が生じてしまいます。
すなわち、収率100%でも必ずゴミが出て、そして絶対に原子利用率は100%になりません。
【転移反応】
骨格分子の原子が移動し構造が大きく変わる反応。
例えば、ε-カプロラクタムC6H11NO(重合するとナイロン6)の工業的製法として、下式の転移反応が用いられます。
転移反応は副生成物が出ない!!
すなわち
E-ファクター = 0!
原子利用率 = 100%!
転移反応も、ゴミが出ないとても経済的な反応なのです。
※ オキシム(>C=N-OH)がアミド(-CO-NH-)に変化する転移反応をベックマン転移といいます。
ちなみに、触媒としてゼオライトを用いた気相ベックマン転移によるε-カプロラクタム製造反応は高収率・省エネ・省資源・低副成物とのこと。
これを開発した住友化学は、グリーン・サステイナブル ケミストリー賞を受賞していて、上式はまさにグリーンケミストリーな化学反応なのです。
以上のように、付加反応と転移反応は副生成物を生じない、原子の利用効率が高い理想的な反応です。
これからの時代は、単に収率が良い反応を求めるのではなく、副生成物が少ないもしくは生じない合成反応を開発していかなければなりません。
また、副生成物が少ないことは、廃棄物の危険性/廃棄物処理の費用が少なくなることにもつながり、環境にも人にも安全で、経済的にもプラスになります。
参考
- 『新しい工業化学―環境との調和をめざして』足立 吟也 (編集), 馬場 章夫 (編集), 岩倉 千秋 (編集), 化学同人 (2004/01)
- 『グリーンケミストリー』, Paul T. Anastasら原著, 丸善 (1999/03)
「グリーンケミストリー」という言葉をご存知でしょうか。
もちろん「緑色の色素を研究する化学」ではありません。
「グリーン」は「環境」的な意味で、「グリーンケミストリー」とは「環境に優しいものづくりを目指す化学」という意味です。
現代の化学工業に絶対必要になってくる大切な概念です。
これから数回にわたり、グリーンケミストリーにスポットを当てて記事を書いていきたいと思います。
第2回:『グリーンケミストリー~(2)原子の利用効率』
第3回:『グリーンケミストリー~(3)生合成/生分解プラスチック』
グリーンケミストリーとは
グリーンケミストリー(green chemistry:GCと略す)とは、化学製品の設計段階から廃棄されるまでの全ライフサイクルにわたって、ヒトや生態系への悪影響を最小限にしながら経済的・効率的にものを作ろうという活動のこと。
簡単に言えば「環境に優しいものづくりを目指す化学」という意味です。
ポイントは、化学製品そのものがヒトや環境に悪影響を及ぼすかどうかだけでなく、その製造プロセスにおける被害も考慮するところです。
GCは20世紀に浮上した化学工業の問題;公害、環境問題、資源の枯渇、エネルギー問題、化学工場事故...等を反省し、提案された概念。
わざわざ環境配慮をするため製造コストが増してしまう恐れがありますが、うまくすればむしろコスト削減もでき、経済的な利点もあります。
これからの化学には絶対必要となってくる概念です。
グリーンケミストリーの12ヶ条
1994年、GCの具体的な行動目標として、次の「グリーンケミストリーの12ヶ条」が提案されました。
- 予防:
廃棄物を出してから処理するのではなく、はじめから出さない。 - 原子の利用効率:
原料物質中のできるだけ多くの原子が最終製品産物に残るような合成法を設計する。 - 毒性の少ない方法:
可能な限り環境や人間に対して毒性の少ない物質を使って合成する。 - 安全な化学物質の設計:
機能が同じならできるだけ毒性の少ないもの使用する。 - 安全な溶媒や反応補助物質:
溶媒や分離のためにはできるだけ毒性の少ない物質を使う。 - エネルギー効率の向上:
化学プロセスのエネルギー消費は環境への影響、経済性を考慮して最小限にする。 - 再生可能な原料:
技術的に可能で経済性もあるなら、枯渇性資源ではなく再生可能な原料を使う。 - 化学修飾の削減:
反応の効率化等のための官能基の修飾は、余分の薬品を要し廃棄物も増やすので、できるだけ避ける。 - 触媒の活用:
選択性の高い触媒は反応の効率を高めるのに優れている。 - 環境中で分解する製品:
化学製品は使用後、無害なものに分解し、残留性がないようにすべきである。 - 汚染防止のためのリアルタイムの分析:
化学プロセスにおいて、有害物質の生成をモニター、制御するにはリアルタイムで計測する分析法が必要である。 - 事故予防のための本質的な安全性:
爆発、火災、有害物質の漏出等の事故が起こらないような方法を取る。
グリーンケミストリーの具体例
次回記事からグリーンケミストリーの例を詳しく挙げていきますが、グリーンケミストリーの考え方が具体的にどういったものなのか一例をあげて説明します。
例えばp-アセトアニソールCH3COC6H4OCH3の工業的製法として、今まで下の(1)式の反応が用いられてきた。
・・・(1)
※ 「-Me = -CH3」です。よく用いられるので覚えておきましょう。
この反応にはいくつか問題点がある;
- 危険な塩化アセチルCH3COClを用いる。
- 強酸であり、後処理が必要な塩化水素HClが生じる。
- ジククロメタンCH2Cl2等、有害な溶媒を用いる。
- 触媒である塩化アルミニウムAlCl3は生成物と錯体を作り、等量分消費され実質「触媒」として機能しない。
- 4のため、生成物の加水分解操作が必要。
- 塩化アルミニウムや塩酸、溶媒等を含む廃液が大量に生じる。(製品1 kgあたり4.5 kgの水系排出物)
- 収率は85~95%で、良いとは言えない。
- 単位操作(反応、後処理、分離など)が12プロセスもある。
したがって、12ヶ条で言うところの1条(廃棄物処理)、3条(毒性)、5条(有害溶媒)、9条(触媒)に合致せず、環境に優しいグリーンな反応とは言えない。
そこで、p-アセトアニソール製造法として(2)式の新反応が考案され、実用化に成功した。
・・・(2)
この反応には次のような利点があり、(1)式の反応を改善している;
- 溶媒が必要ない。
- 比較的安全な酢酸しか副生しない。
- ゼオライトH-βは固体酸触媒として働き、消費されず再利用できる。
- H-βは不溶性の固体なので、ろ過だけで分離できる。
- 廃棄物が少ない。(製品1 kgあたり0.035 kgの水系廃出物。しかも水99%・酢酸0.8%。)
- 収率が95%で優秀。
- 単位操作が2プロセスしかない。
したがって環境に与える負荷は小さく、グリーンな製造反応だと言える。
しかも、上記新反応ではプロセスが少なく触媒の再利用もできるため、より低コストで製造ができそうである。
このように、危険な溶媒を必要としたり、廃棄物や反応剤等の無駄が出る反応を改善し、あわよくば経済性もアップさせるのがグリーンケミストリーである。
以上一例を示したが、GCはもっともっと奥深い。
次回からGCの様々な面を紹介していきます。
第2回:『グリーンケミストリー~(2)原子の利用効率』
第3回:『グリーンケミストリー~(3)生合成/生分解プラスチック』
参考文献
- 『新しい工業化学―環境との調和をめざして』足立 吟也 (編集), 馬場 章夫 (編集), 岩倉 千秋 (編集), 化学同人 (2004/01)
- 『グリーンケミストリー―環境にやさしい21世紀の化学を求めて』, 宮本純之ら訳, 化学同人 (2001/11)
NOx、すなわち窒素酸化物が大気汚染物質として注目されていることはよく知っておられると思います。
化石燃料の燃焼を主な発生源とし、まず生じる窒素酸化物は大部分はNOであるらしいです。
昨日『実験化学講座』(丸善)を特に目的もなく読んでいると「NOxとNOyの定義」について書かれているページを見つけました。
「NOx」(ノックス)という言葉はよく聞くと思いますが、一方「NOy」という言葉はあまり聞かないと思います。
今回は両者の区別について書いてみることにします。
◎ NOx
NOx(ノックス)は環境化学の言葉で、窒素酸化物を表す。
しかしどうも「狭義のNOx」と「広義のNOx」があるようです。
両者は以下のように表す範囲が異なります。
○ 狭義のNOx
NOとNO2を合わせたもの。
もしくはNOとNO2の物質量の合計値。
(環境化学では「NOx」を「値」として定義していることもあるようです。)
環境化学的に、NOとNO2は一緒にして考えると都合がよいことがあるからである。
何故なら、NOとNO2は環境中で次のように相互変換しているからです。
・ NOの酸化
NO + O3 → NO2 + O2
・ NO2の光分解(「hν」は光を表す。)
NO2 + hν → NO + O
この変換は日中は分単位の時間スケールで起こるため、いちいち別々に空気中の濃度を決めたりしてもあまり意味がなかったりするため
NOx = NO + NO2
と、合わせて決めてしまうと楽なわけです。
○ 広義のNOx
窒素と酸素の化合物の総称。
すなわち一酸化窒素 (NO)、二酸化窒素 (NO2)、亜酸化窒素(一酸化二窒素、笑気)(N2O)、三酸化二窒素(N2O3)、四酸化二窒素 (N2O4)、五酸化二窒素 (無水硝酸)(N2O5) などを合わせた言葉。
日常一般的に「NOx」と言うとこの「広義のNOx」を表すことが多いと思います。
◎ NOy
NOyとは反応性窒素酸化物の総称とされます。
すなわち、
NOy = NO + NO2 + NO3 + N2O5 + HNO3 + HONO + HO2NO2 + PAN + PANs + 有機硝酸塩(RONO2,RO2NO2) + NO3-(エアロゾル中の硝酸イオン)
とされる。
「NOx」を含んで、反応性の窒素酸化物全てを言います。
「NとO以外の元素(H, C)も入ってるから"NOy"と表せないんじゃ・・・」とも思うが、まあ気にしてはいけないようです。
ちなみにNOyを「反応性窒素酸化物の物質量の総和」と、値として定義するときは窒素元素の物質量で定義されるため上の式の「N2O5」に2を掛け算します。
以上のようにNOxとNOyはきちんと区別されています。
まとめると
という感じです。
あと、NOyには「PAN」という物質がありますが、これは硝酸ペルオキシアセチル(peroxyacetyl nitrate)という物質のことです。
またPANsとはペルオキシアセチルナイトレート類(peroxyacyl nitrates)、すなわちPANのアセチル基に炭化水素基が付いてるバージョンです。
PANは個人的に思い入れが強い物質なので次回の記事で紹介します。
◎ 次回記事→『今日の分子No.76 :硝酸ペルオキシアセチル』
最後に、大学の我が恩師(←色々な意味で)の言葉を借りて言っておきたいことがあります。
「NOxは大気汚染物質」ということではない。
「"自然の許容量を超えた"NOxが大気汚染物質」である。
ここのところをぜひ理解してほしいです。
NOxだって自然界で大切な役割があります。
大気中での雷放電や森林火災で生じ、酸化され雨に溶け地面にしみ込み植物や微生物の栄養となる・・・・
もしNOxを完全に大気中から消してしまうと、その時地球上から命も消えるでしょう。
他に汚染物質・毒物と言われているカドミウムだってヒ素だって、体内で微妙元素として機能している。
「この物質は大気汚染物質・毒物」というわけではない。(もちろん法律上はそう決められていますが・・・)
NOxたちを単に悪者みたいに言わないでください。
人間が許容量を超える量を出してしまっているのが問題なのです。
◎ 参考
- 『実験化学講座〈20-2〉環境化学』日本化学会編, 丸善(2007/1/31)
- 筆者の大学の先生の有難いお言葉
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