一般向け/高校生向け楽しい化け学
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鉄は酸素があると酸化されてサビる――
これは小学生でも知っている事実です。
しかし、「酸素がないところで選択的にサビる」という驚きの現象があります。
例えば上図のように、一方が大気に解放されている水道管があるとする。
すると大気に触れている上部は酸素が多い状態になり、深く埋まっている下部は酸素が少ない状態になる。
するとなんと、酸素がほとんどないはずの水道管深部が酸化されサビてしまうのだ!
これは、酸素濃度の高いところと低いところが触れ合うことによって形成される「酸素濃淡電池」の原理によります。
今回はそんな不思議な濃淡電池を紹介することにします。
濃淡電池
例えば次のような電池を考える。
電解質溶液(NaCl aq)は素焼き板で左右に分けられていて、それぞれの部屋には白金電極が浸されている。
左の部屋は1気圧の酸素が溶けていて、右の部屋には2気圧の酸素が溶けているとする。
このような状態の時、左右の物質が同じにもかかわらず2つの電極間に起電力が生じ、電池として作用する。
上図のように左の電極で水の酸化反応が、左の電極で酸素の還元反応が起こる。
これは一見とても不思議な事のように見えるが、実はとても簡単。
左右の部屋で酸素濃度を合わせようとしているのです。
左の部屋は酸素が少ないので酸素を増やす反応:水の酸化が起こります。
右の部屋は酸素が多いので酸素を減らす反応:酸素の還元が起こります。
このように、濃度差によって電池反応が起こって電流が流れる電池を濃淡電池と言います。
濃淡電池は酸素に限ったものではありません。
酸素の代わりに水素を用いてもいいし、過マンガン酸カリウムを用いてもいいです。
また、左右の部屋で濃度差が大きいほど起電力も大きくなります。
酸素濃淡電池と腐食
さて本題。
なぜ水道管は酸素がない場所でサビてしまうのか。
水道管は鉄でできていて、開口部が酸素が多く、深部は酸素が少ない。
内部は水で濡れている。
これと等価な電池の図を書くと、次のようになります。
したがって先程と同様に酸素濃度を合わせるために、酸素の少ない左の部屋では酸化反応が、酸素の多い右の部屋では還元反応が起こるでしょう。
しかし、さっきと違うところは電極が鉄であるところです。
鉄は水素よりイオン化傾向が大きく、水よりも酸化されやすいため、水の酸化ではなく電極である鉄の酸化が起こります。
したがって酸素の少ない水道管深部でサビが進行します。
電池の考え方を応用すると、このように摩訶不思議な腐食現象もスッキリ理解できます。
この他にも、金属の腐食は電池反応で解釈できるものがたくさんあります。
このような電気化学的な腐食を抑えるため、実際の水道管やパイプラインには犠牲電極や外部電圧印加といった工夫がなされています。
私たちが水道から綺麗な水を飲めるのも電気化学のおかげです!
参考
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言わずと知れた「ベンゼンのC-Cは共鳴により1.5重結合である」。
共鳴により二重結合を作るπ電子は6つのCに均等に共有され、全てのC-C結合長は等しく、その長さは単結合と二重結合の間の値。
ベンゼンの共鳴
したがって
<C-C結合次数>=[単結合]+[二重結合]
=1(重)+6(電子)÷6(原子)÷2(/対)= 1.5重結合(?)
という気もする。
が、こんな単純平均で良いのだろうか?
今回はベンゼンの分子軌道をヒュッケル法という量子化学的手法を用いて求め、個々のC原子のp軌道の"重なり"から結合次数を手計算により算出してみる。
(分子軌道・・・分子の中の電子の分布。LCAO-MO法では個々の原子の原子軌道の一次結合により表される。)
☆ 以下、仰々しい計算をしますが、計算の仕方・前提は量子力学なのでまだ習っていない方は適当に流してください。
逆に言えば、大学化学ってこんな感じです。
※ 画像が多いので表示に時間がかかったり、うまく表示されないかもしれません(そのときは「更新」してください)。
◎ ヒュッケル法によるベンゼン分子軌道(π軌道)の算出。
仮定;
・ ベンゼンは平面分子とする。
・ ベンゼンの分子軌道Ψを式(1)とする。
・・・(1)
ただし添え字1~6はそれぞれ炭素原子1~6に対応する。
またC1~C6は対応する炭素原子の原子軌道φに掛けられる係数で、規格化条件
・・・(2)
が成り立つ。
・ π軌道のエネルギーの期待値εを、変分定理を用い式(3)で定義する。
・・・(3)
ただし
とした。※ βは負の値である。β<0。
エネルギーεを最小(極小)にするC1~C6を決め、Ψを求める。
εをC1~C6で偏微分すると0になるので(∵そのCの値でεが極小になるから)
・・・(4)
一方(3)式を変形し
・・・(3)'
この(3)'式の両辺をC1~C6で偏微分したそれぞれの結果と(4)式より
・・・(連立方程式A)
となる。
ただしχは
・・・(5)
と置いた。
ここで、連立方程式Aは C1=C2=C3=C4=C5=C6=0 以外の解を持たなければならない。
したがって連立方程式Aの係数行列の行列式は0となるから、
・・・(永年方程式B)
が導かれる。(実は上の偏微分計算をしなくても一発で永年方程式を出すこともできる。)
これを計算すると、(とても綺麗に因数分解できるので、あえて途中計算を書くと)
χについて解くと、
χ = -2, -1(二重解), 1(二重解), 2
である。
したがって(5)式よりそれぞれのχの値に対するεが求まる。
χのそれぞれの値で場合分けする。
それぞれのχの値を永年方程式Bに代入し、それと式(2)を連立させた6元2次連立方程式を解き、C1~C6を求める。
※ 連立方程式Aだけでは同じ意味の式が出てきて求まらないから規格化条件:式(2)も連立させる必要がある。
代数的に解くと難しいので、分子軌道の対称性も考えて解きました。詳細は今度。
(i) χ=-2のとき(ε=ε1=α+2β)
6元2次連立方程式を解くと
したがって分子軌道は
(軌道の図はベンゼンを真上から見たときのもの。赤は+符号、青は-符号を表す。
また、数字は炭素の番号。以下同じ。)
(ii) χ=-1のとき(ε=ε2=α+β)
6元2次連立方程式を解くと
もしくは
したがって分子軌道は二組
(iii) χ=1のとき(ε=ε3=α-β)
6元2次連立方程式を解くと
もしくは
したがって分子軌道は二組
(iv) χ=2のとき(ε=ε4=α-2β)
6元2次連立方程式を解くと
したがって分子軌道は
以上より6つの分子軌道が求まった。
(合計6つの電子が各炭素原子より提供されているので、分子軌道も6つになる。)
βは負の値であるから、分子軌道のネルギーεは
ε1<ε2<ε3<ε4
であるため、安定な分子軌道Ψ1から順に2つずつ電子が組になって配置されるから、(基底状態の)ベンゼンの電子配置は次のようになる。
各軌道のエネルギーと電子の入り方。矢印は電子を表す。「↑↓」で電子二つの対。
以上よりベンゼンの分子軌道が求まった。
◎ π電子密度の算出。
炭素原子rの持つπ電子(二重結合の電子)の数(π電子密度)qrは、上で求めたΨi軌道の炭素原子rに対応する係数Cirを使って
と表される。(ただしνiはΨi軌道に入っている電子の数。「OCC」が乗ったΣは、電子の入っている全ての軌道で和を取るという意味。)
したがって各炭素原子についてqを求めると
となる。すなわち、
π電子(二重結合の電子)はどの炭素原子にも均等に1つずつ存在している。
◎ π結合次数の算出。
炭素原子rと炭素原子sの間のπ結合次数(二重結合の次数)Prsは同様にCir、Cisを用いて
と表される。(CirとCisの積を取ると言うのはその2つの炭素原子の原子軌道の重なりを評価することに対応する。)
したがって各炭素原子についてPを求めると
となる。
ここで、仮にC-Cの一本目の結合(σ結合)は完全に次数1であるとすると、上記Pに1を足したものがC-C間の結合次数になるから
となる。
したがってこれから言えることは
ベンゼンのC-C結合は全て等価で1.67重結合
である。
ということで、以上のヒュッケル法という量子化学的計算によりベンゼンのC-C結合は1.67重結合だと算出されました。
計算手法はともかくとして、手計算でも一生懸命に計算すると結合次数すら計算できるというのが面白いですね。
ちなみにWinMOPACを使ってコンピュータシミュレーションでベンゼンのπ結合次数を計算しても0.666と計算されました。
「結合次数」にも色々な定義があるため一概には言えませんが、少なくともヒュッケル法を用いるとベンゼンは1.5重結合ではないと導かれます。
また、上記の計算は隣接していない原子の影響は全くない等の仮定を置いていますが、実際はそうではないのでモデルの置き方でも色々変わってくると思います。
以上のお話からわかることは、単純平均みたいな直観的計算では結合次数を決めることはできないということです。
◎ 参考
- 『バーロー物理化学〈下〉』G.M. バーロー著, 東京化学同人; 第6版 (1999/05)
- 筆者の大学の先生が作ったとてもわかりやすいプリント
14日、15日にセンター試験がありました。
イオン化エネルギーの問題は毎年出ますね。
今年は正誤問題にチラッと出てました。
「第一イオン化エネルギーの正しいグラフを選べ」なんていう問題も定番ですが、グラフの細かい形まで気にしている受験生は少ないかもしれません。
今回のテーマはズバリ「イオン化エネルギーのグラフにデコボコがあるのは何故か?」です。
◎ 第一イオン化エネルギー(横軸;原子番号)
※ 数値は『Visual Chemistry Pro HD』より
第一イオン化エネルギーとは気体状原子から電子一つを取り除くのに必要なエネルギーのこと。
原子番号に対して第一イオン化エネルギー(Ip)は次のような一般的挙動を示す;
(1) 同周期では原子番号が大きくなるとIpは増加する;1族で最小、希ガスで最大を繰り返す。
(2) 周期を経るごとにIpは減少して行く。
以上の二つを知っていれば普通は十分で、グラフの大体の形(1族で最小、希ガスで最大の減衰振動型)がわかりますが、しかしよく見ると引っかかる部分がありますよね;
(3) 2族原子(Be、Mg)がやたらと大きくて13族原子(B、Al)と逆転している。
(4) 15族原子 (N、P)もやたらと大きくて16族原子(O、S)と逆転している。
この(3)、(4)のせいで、(1)の予想に反して第一イオン化エネルギーのグラフはデコボコしています。
第一イオン化エネルギーのグラフは2族と15族の部分でデコボコしている!
まず簡単に(1)と(2)のおさらいをしてから(3)、(4)の謎に迫りましょう。
○ 一般的傾向(1)、(2)の理由
最外殻の電子配置を考えます。
ヘリウムを除く希ガス原子は最外殻に8個の電子を持ち、オクテッド則を満たすので安定です。
ヘリウムは2つしかありませんがK殻にはそもそも2つしか電子が入らないので安定な閉殻構造になっています。
ゆえに18族ではイオン化エネルギーは大きくなります。
「閉殻ならばイオン化エネルギーが大きい」と言えます。
一方1族原子は最外殻電子が1個ですが、これが取れると希ガス配置になって安定です。
ゆえに1族原子はイオン化エネルギーが小さいです。
では1族と18族の間はどうなっているかというと、周期表で右に行くにつれ原子が小さくなっていく且つ核電荷が大きくなっていくので、電子が核に引きつけられる力が大きくなるのでイオン化エネルギーは大きくなっていきます。
以上が(1)の理由です。
一方周期が大きくなると、原子が大きくなって核から最外殻電子までの距離が遠くなります。
すると核と最外殻電子の間に働くクーロン引力が小さくなるのでイオン化エネルギーは小さくなります。
これが(2)の理由です。
以上の二つは高校化学で習ます。
○ デコボコの原因(3)、(4)の理由
では本題に入ります。
まず前提として、実は「電子殻」(K, M, L...)の中にはさらに「軌道」(s, p, d...)と呼ばれるものがあります。
例えば第二周期の原子の最外殻はL殻ですが、このL殻は1つの「s軌道」と3つの「p軌道」という"電子の居場所"があります。
軌道1つには2つの電子がペアになって入るので、最高でs軌道に2つ、p軌道に2×3=6つ、合計8つ入ります。(⇔L殻には最高8つの電子が入る!)
入り方にはルールがあって、(i)s軌道から入る、(ii)p軌道にはできるだけ分散して入る、等がありますがここでは細かくは省略します。
例えば具体例で、6個の電子を持つ酸素原子の最外殻(L殻)の電子配置は次のようになっています。
酸素原子の最外殻(L殻)の電子配置;1つのs軌道と3つのp軌道
横棒は軌道(電子の居場所)、赤丸は電子を表します。
酸素原子には6個の最外殻電子があるので、ルール(a)、(b)に従って上図のようにs軌道に2つ、p軌道に4つ電子が配置します。
・ (3)の理由
では、ここで問題のBe原子の最外殻(L殻)の電子配置を見てみましょう。
Be原子の最外殻(L殻)の電子配置;軌道閉殻
Be原子には2つの最外殻電子があるので、上図のようにs軌道に2つ入って満タンになっているはずです。
この構造、「殻が満たされて安定」という希ガスの閉殻構造に少し似ていますね。
殻の中にある軌道も、その軌道がピッタリ満たされれば安定になります。
このように軌道がピッタリ満たされることを「軌道閉殻」と言います。
ゆえに軌道閉殻をしているBe原子は安定になります。
同様の理由で、最外殻に2つの電子を持つMg等の2族原子は軌道閉殻構造をしているため予想よりも安定になるのです。
・ (4)の理由
次にこれも問題のN原子の最外殻(L殻)の電子配置を見てみましょう。
N原子の最外殻(L殻)の電子配置;半閉殻
N原子には5つの最外殻電子があるので、上図のようにs軌道は2つ入って満タンになり(軌道閉殻)、p軌道には3つに1つずつ入ります。
ここで注目すべきはp軌道の電子配置です。
3つのp軌道それぞれに1つずつ電子が入っています。
実は電子からするとこれも対称性が良くて安定な構造なのです。
このように「軌道に1つずつ電子が入って”半分だけ閉殻”みたいな電子配置」になることを「半閉殻」と言います。
ゆえに半閉殻をしているN原子は安定になります。
同様の理由で、最外殻に5つの電子を持つP等の15族原子は半閉殻構造をしているため予想よりも安定になるのです。
以上が第一イオン化エネルギーのグラフのデコボコの理由です。
「"殻"はさらに"軌道"にわかれている」ということがポイントです。
ちなみにもう少し上の考え方で考えてみると、例えばヘリウムとネオンは下図のような電子配置をしています。
Ne、He原子の最外殻の電子配置;閉殻
ヘリウムはs軌道しか持っていないため、s軌道閉殻で閉殻構造。
ネオンはs軌道とp軌道を持っているが、どちらも軌道閉殻していて閉殻構造になっています。
このように「全部軌道閉殻になっている」状態をいわゆる「閉殻」と言ってとても安定なわけです。
※ ・・・というと色々問題があるのだが、ここでは閉殻の詳しい定義は省略する。
これらをまとめると、下図のように「軌道閉殻」「半閉殻」「閉殻」が安定な電子配置となるわけです。
安定な電子配置;「軌道閉殻」「半閉殻」「閉殻」
これらが第一イオン化エネルギーのグラフの形を決める要因です。
ちなみに遷移金属になると"d軌道"という軌道を持つため、さらにデコボコが増えます。
しかしだいたい同じように考えることができます。
「軌道」は高校では習いませんが、これ以外にも有機化学などで役立つこともあるので知っておくと便利かもしれません。
◎ 参考
- 『リー無機化学』, J.D.LEE著, 東京化学同人 (1982/01)
- 『Visual Chemistry Pro HD』, (C)voi nguyen(2011/06/24)
最近界面活性剤の話をよく耳にしたので、ここでちょっとミセルに関するマメ知識を紹介してみます。
今回のキーワードの「臨界ミセル濃度」の概念を知っておくと、生活の中で役に立つかもしれません。
◎ 予備知識
まず用語確認をしましょう。
※ 「臨界ミセル濃度」は高校化学では習わないので覚えなくてもいいですが、最後に述べるようにこれを知っておくと生活の中で役に立つこともあります。
○ ミセル
セッケン分子等の界面活性剤分子が溶液中で数十~数百分子程集まって作る球状の分子集合体をミセルと言う。
例えば水中でセッケンがミセルを作ると、内側が疎水性、外側が親水性になり水に分散(溶解とは少し異なる)している状態になる。
※ ミセルはある程度大きな粒子なのでコロイド粒子としてふるまう。
界面活性剤は手を加えなくても自発的に秩序立った集合体を作りますが、この様な現象を「自己組織化」と言います。
○ 臨界ミセル濃度(critical micelle concentration:CMC)
界面活性剤を水に溶かしたとしても、実際は界面活性剤がある濃度以上でないとミセルを形成しない。
ミセルを作るか作らないかのギリギリの濃度を臨界ミセル濃度と言い、界面活性剤の種類で変わる。
◎ 「なぜ臨界ミセル濃度以上でないとミセルは形成されないのか」
さて、気になるのは「なぜ臨界ミセル濃度以上でないとミセルは形成されないのか」ということである。
界面活性剤分子がミセルを作るドライビングフォース(界面活性剤にミセルを作らせる要因)を考えて、説明しましょう。
まず、単純な直鎖アルカン(もちろん疎水性)をただの水に添加していくことを考えます。
アルカンは「油」なので水にはなじみませんが、そんな物質でもほんの少しは溶けます。
すると下のグラフのように、<横軸>アルカンを添加していくと <縦軸>水中に溶けているアルカンの単分子数は途中まで増えていきますが、溶解度(溶解限界)以上になると溶けきれなくなって、それ以上添加しても溶けている分子数は変わらなくなるでしょう。
※ 「単分子数」と言っているのは、後に示す界面活性剤の場合と軸を合わせるためです。アルカンは水中でミセルを作らないので、「単分子数=分子数」です。
アルカンを水に添加したとき。
じゃあ溶けきれなくなったアルカンはどこへ行ったかというと、相分離(いわゆる二相分離)して水の上に浮いてしまっているでしょう。
量との関係は下の図のように示されるでしょう。
水にアルカンを溶解限界以上添加した分は相分離する。
ここまでは簡単ですね。
溶けきれなくなったら分離する、それだけです。
では次に界面活性剤を水に添加して行く場合を考えます。
結論を言うと、下図のようにアルカンの場合と同じグラフになります。
界面活性剤を水に添加したとき。
ただし溶解限界が臨界ミセル濃度に置き換わっています。
さて、一体何がどうなったのでしょうか。
界面活性剤分子だって、まずは普通に溶けます。
1分子1分子バラバラで溶けます。
しかしモノには溶解度というものがあって、界面活性剤だってある濃度以上では相分離を起こさざるをえません。
だから途中で水溶液中の単分子の増加はなくなります。
がしかし!
界面活性剤はミセルを作ることにより、アルカンの場合のように塊りになって分離しなくても済みます。
逆にいえば、ミセルを作ってもミセルの内側と外側で確かに相分離は起こっているわけです。
アルカンの場合と同じで、相分離を起こすか否かの限界である「溶解度」があるわけですが、ここで相分離の結果としてミセルを形成するわけです。
いわゆる二相分離とは違う形の分離なので、ミセルを作る場合のこの相分離を起こすか否かの限界を「臨界ミセル濃度」というのです。
水に界面活性剤を臨界ミセル濃度以上添加した分はミセルという形で相分離する。
以上のように、相分離を起こさないとミセルを形成できない(形成する必要がない;形成する気がない;凝集するのは熱的に不利)ので、ある十分な濃度「臨界ミセル濃度」以上でないとミセルの形成は起こらないのです。
しかし「洗浄」「乳化」等の日ごろの界面活性剤のお仕事は、ミセルを形成していないと起こらない現象です。
だから臨界ミセル濃度以上でないと、界面活性剤はいわゆる界面活性剤としての役目は果たせない。
例えば、家計を気にして洗剤の量を半分とかにケチる方がいますが、
それが臨界ミセル濃度以下の量ならその洗剤は洗剤としての仕事を全くせず、節約どころかむしろ洗剤を捨てているだけ
ということになります。
臨界ミセル濃度の概念がわかっている人は、洗剤のパッケージに書かれている使用量をちゃんと守って使ってくれるはずです。
◎ 参考
- 筆者の大学の先生の有難いお話。
今日塾でアルバイトをしていると、セルシウス温度と絶対温度の取り扱いでわけがわからなくなっている方がいました。
確かに「温度」と「温度差」はややこしいので、ちょっと今回はそれを取り上げてみましょう。
「温度」と一口に行っても、「セルシウス温度(単位℃)」と「絶対温度(単位K)」の二種類あります。
セルシウス温度は「今日の気温は5℃で寒い」とかのいつもの温度です。
一方絶対温度とは、それより寒くはならない限界の温度「絶対零度」である-273℃を0K(K;ケルビンと読む)と決めた物理学的な温度です。
だから同じ「温度」でもセルシウス温度と絶対温度は別の単位を持つ別物です。
しかし「温度差1℃」と「温度差1K」は等しいため
・ -273℃ = 0K
・ 0℃ = 273K
になります。
さて、早くも「温度」と「温度差」で頭がこんがらがってきました。
両者の違いをよく考えて、「温度差1℃と温度差1Kは等しい」とはどういうことか考えてみましょう。
◎ 「温度」とは。
温度とはいわゆる「熱いか冷たいか」を表す量で、物理学的には物質の構成粒子の運動の激しさに対応します。
とりあえず物理学的意味に関してはこのくらいにして置いておいて、「温度差」というものに対して言うと次のようになります。
「温度」とは温度計の針(もしくは温度計の液の上端)が示している数字である。
「温度は5℃だ。」
なんの難しさも無い。
いつもの通りの温度。
さて、「℃」の単位を持つ温度計は上のようになっていてよく知っていますが、「K」の単位を持つ温度計は見たことがないと思います。
もし「℃」の単位を持つ温度計と「K」の単位をもつ温度計を並べたら次のようになります。
「温度は1℃=274Kだ。」
セルシウス温度tと絶対温度Tの間には
T = t + 273
という関係が成り立ちます。
(-273℃ = 0K だから。)
だからもし25℃の部屋で「℃温度計」と「K温度計」を並べると上の図のようになるでしょう。
両者の違いは、単に数字が273ずれているだけです。
以上が温度1℃と温度1Kは、数値が273だけずれていて違うということです。
◎ 「温度差」とは。
温度差とはいわゆる「今日は昨日より2℃温かい」(温度差が2℃だ)等と言う使い方をする量です。
すなわち、或る温度と或る温度の差を表しています。
さて、「温度1℃と温度1K」は上記のとおり違いますが、実は「温度差1℃と温度差1K」は同じです。
なぜか。
それは「℃温度計」と「K温度計」を並べた下図を見るとわかるように、セルシウス温度と絶対温度は一目盛りの間隔が等しいからです。
「℃温度計」と「K温度計」は一目盛りの間隔が等しい。
ゆえに「温度差」を表す時は単位℃と単位Kは同じです。
要するに「今日は昨日より2℃温かい」と「今日は昨日より2K温かい」は同じ意味です。
※ もちろん温度を表すときは℃とKは違うので、「今日の気温は25℃だ。」と言うのと「今日の気温は25 Kだ。」と言うのは全く異なります。
「今日の気温は25℃だ。」=「今日の気温は298Kだ。」が正しいです。
さて、「℃」と「K」の単位入れ替えの本題に入っていきます。
例えば水の比熱(1gの物質を1℃上げるために必要なエネルギー)は
(水の比熱)= 4.2 J/(g・℃)
ですが、この「℃」は「温度差」を表しているので「K」と同じなので
(水の比熱)= 4.2 J/(g・K)
と、℃をKに入れ替えても同じです。
(「1℃温める」というのと「1K温める」は同じだからです。)
一方、温度T[K]の時に気体分子が持つエネルギーは、ボルツマン定数kを使うと
(気体分子が持つエネルギー) = 3/2 kT
です。
しかしこの絶対温度T[K]は「温度」なのでセルシウス温度t[℃]とは違います。
だから
× (気体分子が持つエネルギー) = 3/2 kt
です。
セルシウス温度t[℃]で書きなおしたければ
○ (気体分子が持つエネルギー) = 3/2 k(t+273)
となります。
以上のように、℃やKの温度は温度でも「温度」か「温度差」かきちんと区別して考えないとめちゃくちゃになります。
気をつけましょう。
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