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一般向け/高校生向け楽しい化け学
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数日前、塾生が怪訝な目でこの物質の化学式を見ていました。

高校生にはあまりなじみがないようです。

単純な構造の分子なのですが。

教科書の後ろのほうに出てくる、化学史的には重要な物質なのです。


今日の分子 No.53 二硫化炭素 CS2


WinMOPACで計算・描画 ※空間充填モデル,見やすくするため原子サイズ変更。


構造式「S=C=S」。

二酸化炭素と同じ直線分子。

ちょうど二酸化炭素の酸素原子が、酸素と同族元素である硫黄と置き換わった分子である。

ただし二硫化炭素は分子量が大きいため液体である。

赤熱させた炭素に硫黄蒸気を反応させて合成する。


純度の高いものは無色でほとんど無臭の液体。
(通常は不純物などで不快臭を持つ)

揮発性・引火性である。

第四類危険物(引火性液体)特殊引火物に指定されている。

危険等級はⅠで、第四類危険物の中では最も危険な物質に分類されている。

発火点は90℃。

これは、火を着けなくても90℃になれば自然と発火してしまうことを意味する。
(参考;重油の発火点は約300℃)

また、引火点(火を近づけたら燃える最低の温度)は-30℃以下だとされる。

さらに爆発範囲は1.0~50.0体積%で、異常な広さ、下限値の低さである。

  ☆ 爆発範囲(別名:燃焼範囲)[単位:体積%];
   ある可燃性物質の蒸気が空気と混合しているとき、
   着火などのきっかけでその物質が爆発するときの濃度範囲。
   可燃性物質が薄すぎても爆発せず、濃すぎても酸素が少なくて爆発しない。
   爆発範囲が広かったり、下限値が低かったりすると爆発する危険性が高いと言える。

しかも二硫化炭素は燃えると有毒な二酸化硫黄を出す。

また、二硫化炭素自体きわめて有毒で、農薬(殺虫剤)にも用いられるという。

このように二硫化炭素は非常に危険な物質である。

しかし、二硫化炭素は水に溶けずかつ水よりも重いので、貯槽に水を張り二硫化炭素を沈めることで安全に貯蔵できる。


危険であるが、二硫化炭素はかなり重要な物質である。

二硫化炭素は優秀な溶媒で、多くの有機化合物を溶解し、さらに硫黄・ヨウ素・リン等も溶かす。

ゴム等、高分子化合物を溶かす性質も優秀である。

また、工業化学史最高に重要なもののひとつ、ビスコースレーヨンの製造に使われる。

これは高校の化学Ⅱでも習う。

綿(セルロース)を濃水酸化ナトリウムで処理したのち二硫化炭素に溶かす。
(コロイド溶液になる。これをビスコースと呼ぶ。)

ビスコースを細い穴から希硫酸中に押し出すと、セルロースが再生し綺麗な繊維になる。

こうして得られた繊維をビスコースレーヨンと言い、品質の低い綿を美しい絹状繊維に作り変えることのできる、画期的な技術である。

ちなみに、ビスコースを膜状に再生するとセロハンになり、こちらも言わずもがな生活に役立つ材料である。


ビスコースレーヨンができる詳細な経路は高校では習いません。

でも次回詳しく書こうと思うので、興味のある人はご覧ください。
→コチラです。


◎ 参考
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さっき、パソコンで見る動く分子事典のJmolのライブラリ見てたら面白い分子を発見!!

その名も「かつお節ペプチド」。

そこだけで便宜的にそう呼ばれているだけなのかと思って、本見てみたりネットで調べたりしてみたがどうにも結構共通認識な物質名のようだ。

他にもイワシペプチドとかブナハリタケペプチド、ワカメペプチド、ノリペプチド、ゴマペプチドというのもあるらしい。

世の中に星の数ほど種類のあるペプチドですが、なぜわざわざ彼らは特別に名前を付けらたのでしょうか。

かつお節ペプチドを例に探ってみましょう。


今日の分子 No.52 かつお節ペプチド IVGRPRHQG


Jmolで描画。クリックで拡大。


かつお節のたんぱく質を酵素で分解して得られるペプチド。

ペプチドとは、アミノ酸がアミド結合で数個~数十個繋がったもの。

さらに多くのアミノ酸が繋がったものをたんぱく質という。

たんぱく質を酵素等で加水分解するとペプチドになり、さらに加水分解するとアミノ酸に分解される。


ペプチドはアミノ酸が順序良く結合したものなので、その構造を表すときアミノ酸の略号を並べる。
(化学式で表記するには分子が大きすぎ、わかりにくい。)

たとえばかつお節ペプチドは構造式に相当するものが「IVGRPRHQG」であるが、これは

イソロイシン-バリン-グリシン-アルギニン-プロリン-アルギニン-ヒスチジン-グルタミン-グリシン

という順で結合したペプチドであることを表している。

また、かつお節ペプチドには構造が「LKPNM」である別種もある。


生物はそれぞれ固有のたんぱく質を持っている。

近年、食品中のたんぱく質から生成するある種のペプチドが様々な生理活性を示すことが明らかになってきた。

例えばかつお節ペプチドは血圧降下作用を示すという。

他にもイワシペプチドや酸乳ペプチドと呼ばれるものも血圧降下作用をもつという。

これらは、人間の血圧上昇にかかわる酵素;アンジオテンシンI変換酵素(ACE)なるものを阻害することでその力を発揮するという。


これらペプチドが配合されたサプリメントや機能食品がトクホ取ったりして発売されたりしているらしい。

例えば日経のこの記事にこれらのペプチドや、その商品化、阻害機構が載っています。

上に示したページの真ん中辺に、これらのペプチドがACEの活性部位に入り込むことが書いてあるが、これらのペプチドを調べることにより新しいタイプの人工ペプチドが画期的な医薬品として登場するかもしれない。


◎ 参考


今日は酸素分子を紹介します。

「そんな簡単な分子!」っと思うかもしれませんが、酸素はなかなか複雑な難しい分子です。

塾で授業してると、高校化学ではO=Oという構造式を習うのでそう教えますが「実は違うんだよね~・・・」と思いながら教えています。

まず物性から、そして酸素の本当の姿を説明しましょう。


今日の分子 No.51 酸素 O2



Jmolで描画(空間充填モデル)


酸素の単体。

無色無臭の、水に少し溶ける気体。

液化酸素は淡青色、固体は青色である。
(酸素分子の会合体が生じていると予想されている。)

酸素は気体でも液体でも固体でも常磁性体であり、特に液体酸素が磁石に引き寄せられてくっつくのは有名。

同素体にO3がある。
(酸素または空気中で無声放電すると生じる。)


非常に身近な分子であり、空気中に約20%存在する。

生物は酸素を吸い、細胞内で燃焼反応を起こすことで化学エネルギーを得て生命活動を行う。

植物は光合成により二酸化炭素と水に光エネルギーを与え反応させ、炭水化物(ブドウ糖)を作り出す。

そのとき副産物として酸素を生じる。

6CO2 + 12H2O → C6H12O6 + 6H2O + 6O2
(この反応式の両辺に水があるのは、まず12個の水を消費して反応が始まり、結果最終的にたまたま6個の水が再生しているということをあらわしています。)

中学生の理科の引っ掛け問題でよく出るが、日中植物も酸素を吸って呼吸している。

ただ、日中は光合成が活発なため、酸素の消費より生産のほうが多い。


通常、酸素は酸化剤として反応する。
(ただしフッ素や六フッ化白金との反応のときのみ還元剤として振舞う。)

酸素は化学的に活性な物質であり、希ガス、ハロゲン元素、貴金属元素(金・白金など)以外の全ての元素と直接化合して酸化物を作る。

特に熱や光を出して酸素と化合することを燃焼という。

ある物質がそれ以上酸素と化合しなくなるまで燃焼することを完全燃焼という。

例;C + O2 → CO2

一方、燃焼反応の生成物がまだ燃焼できる化合物であったとき、その燃焼反応を不完全燃焼という。

例;2C + O2 → 2CO

ただし、普通に燃やしても進まない酸素との化合は普通燃焼反応といわない。

例;2CO2 + O2 → 2CO3
(コロナ放電で生じる。二酸化炭素は不燃物であり、この反応は燃焼ではない。)

燃焼反応は一般に複雑であり、多段階の素反応から成る。

また、酸素濃度や圧力が変わると可燃物の発火のしやすさが変わるなどの重要な現象がある。

そのため「燃焼学」という独立した学問・学会があるほどである。


酸素の実験室的製法としては過酸化水素の分解がある。

このとき、触媒として二酸化マンガンやカタラーゼを使う。

2H2O2 → 2H2O + O2

工業的製法は、主に空気の液化分離法である。

また、中・小規模では吸着分離法(ゼオライトに酸素を吸着させ、分離する方法)も使われ、膜分離法による酸素富化等も行われている。


他にも、酸素濃度・酸素ラジカル除去能力と老化速度が関係していることや、酸素元素発見のもととなった「フロギストン説」等の逸話も面白いが、今日は割愛する。



では、本題(?)。

高校では酸素の電子式、構造式は次のように教わる。




高校で習う酸素分子


が、これは現実的ではない!

実際、常温常圧の我々の周りの空気中に、上のような構造をした酸素分子はほとんど存在していないという。

驚くべきことに、実際的に存在している酸素分子は次のようにビラジカル構造(ラジカルを二つ持った構造)をしている。




酸素分子の実際的な構造


普通、ラジカルは不安定であり、しかも分子内に二つもラジカルを持つ分子なんてめったにない。

理由は、量子化学的に考えると明快だが少し難しい。

次のように古典的に考えるとわかりやすいかもしれない。
(が、この古典的な説明は本当みたいな嘘みたいな本当みたいな嘘って感じで、誤魔化した説明であるが・・・)

酸素原子は孤立電子対を二つも持っているので、酸素原子二つが近づくのは電子同士の反発を招き不利である。

なので、二重結合せず単結合してちょっと原子間に距離を置くことでつりあいを保っている。

もしくは逆に、二重結合するほどの距離には反発により近づけない、と考える。

このように、酸素の本当の姿はビラジカルなのだ。

通常状態でラジカルだから、酸素が関係する多くの反応はラジカル反応で進む。

たとえばクメン法のクメンヒドロペルオキシドの生成反応や、脂肪の酸化などは酸素がラジカルであると認めると生成物が-O-O-結合を持つことが理解できる。

また、ラジカル(不対電子)を持つ物質は磁性を持つので、酸素が常磁性であることも説明できる。

環境問題や健康などで話題になっている「一重項酸素」や「三重項酸素」という物も、上の構造式から理解できる。
広島大学大学院の生物圏科学研究科のページにわかりやすく載ってます。)


以上。

酸素は実は安定な分子ラジカルだったのです。

学校で習うことが必ずしも全て「妥当」であるとは限らない。
(「ウソ」ではなくとも。)

だから酸素を教えるとき「う~ん・・・」と思いながら教えるのですが、勉強にはステップというものがあるので、まずは基本の八電子則で構造を考えるんですよね。


◎ 参考

・ 『高圧ガス保安技術 第8次改訂版』高圧ガス保安協会著(2011)


昨日・一昨日とスチレンの重合の記事を書いていたので、今日もそれに関連してこの分子。

数日前の実験でポリスチレンを作るときに重合開始剤として用いた物質です。


今日の分子 No.50 アゾビスイソブチロニトリル [C(CH3)2CN]2N2


Jmolで描画

正式名称:2,2'-アゾビス(2-メチルプロパンニトリル)

略称:AIBM

無色の固体。

不安定なアゾ化合物であり、熱・光・衝撃により容易に分解し爆発することもある。

第五類危険物、第一種自己反応性物質(危険等級I)として消防法で危険物指定されている。

ちなみにニトログリセリンやトリニトロトルエン、ニトロセルロースも同じく第一種自己反応性物質である。

要するに加熱や衝撃で爆発してしまうという超危険な物質である。

またAIBNは有機シアン化合物で劇物指定もされている。


AIBNはゆっくり加熱すると次のように分解し、ラジカルを生成する。



このラジカルは誘発分解(※)しにくいため、優良な重合開始剤となる。

すなわちスチレンに混ぜてゆっくり加熱すると、一昨日の記事

R-R → 2R・

に相当する反応を担う。

※ 誘発分解:生成したラジカルがさらに分解したり、まだ未分解の分子を攻撃すること。開始剤の無駄な消費になってしまう。


同様に重合開始剤として過酸化ベンゾイル(C6H5CO)2O2も有名だが、 コイツは誘発分解するはAIBN以上に爆発しやすいはで微妙。

ただし、AIBNは密栓して保存しておくと、自然に分解して放出した窒素で内圧がかかって危険なことや、毒性などの欠点がある。


◎ 参考


今日の分子No.49 今日は筆者が昨日実験で使ったスチレンを紹介します。


今日の分子 No.49 スチレン C6H5CH=CH2


Jmolで描画

別名スチロール。

一置換ベンゼンで、芳香族炭化水素に分類される。

無色透明の液体。

引火性があり、消防法では第四類危険物に指定されている。

工業的にはエチルベンゼンC6H5CH2CH3を触媒で脱水素して作られる。

C6H5CH2CH3 → C6H5CH=CH2 + H2


身の回りにもあるプラスチック(例えば発泡スチロール)のポリスチレンの原料。

スチレンが付加重合するとポリスチレン(略号PS)になる。

n C6H5CH=CH2 → [-CH2-CH(C6H5)-]n

(実際には重合開始剤(2011/4/14のブログ参照)やその他もろもろの薬品も反応させる。)

このとき「スチレンはポリスチレンのモノマー(単量体)である。」「ポリスチレンはスチレンのポリマー(重合体)である。」 「ポリスチレンはスチレンをモノマーとするポリマーである。」等と表現する。

要するにポリスチレンはスチレン単位同士が長く繋がった高分子である。

ポリスチレンは今や生活に欠かせないプラスチック材料であるため、その原料であるスチレンは非常に重要である。

また、スチレンは他の不飽和炭化水素とともに重合させ、二種類以上のモノマーから成るポリマー(共重合体)を作ることもできる。

たとえばブタジエンと共重合させるとスチレン-ブタジエンゴムを作ることができる。


ちなみにスチレンは、同じようにポリマーを作るアルケンであるエチレン等よりかなり重合させやすい。

というのも、スチレンにはフェニル基(ベンゼンの水素がひとつない基C6H5-)があるためである。

ベンゼン環が付いていると、ベンゼン環の隣にある炭素はかなり反応性が高くなる。

するとスチレンはマイナス電荷的な反応剤ともプラス電荷的な反応剤とも、電気的には中性なラジカルの反応剤ともよく反応し重合反応を起こす。

そのためスチレンはさまざまな他のモノマーの反応性を比較するときの指標とされている。


◎ 参考
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