一般向け/高校生向け楽しい化け学
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ここ数日間受けていた理科教育法で聞いた青虫の話にも関連して、こんな分子を紹介します。
高校の化学Iにも関係する基本的な分子です。
今日の分子No.63 :酪酸 CH3CH2CH2COOH
Jmolで描画
炭素数4の直鎖飽和モノカルボン酸。
炭素数4(⇒ブタン)のカルボン酸だからIUPAC正式名称は「ブタン酸(butanoic acid)」。
慣用名;酪酸(butyric acid)。
なぜ「酪酸(butyric acid)」というかと言うと、バター(butter)から初めて単離されたからである(1869年)。
「butyric acid」はラテン語で「バターの酸」という意味だという。
水溶性の油状液体。
弱酸であり、皮膚に対して腐食性がある。
なにより、非常に臭い。
あまりの臭さに「特定悪臭物質」として規制対象にあるらしい。
種々の有機物の発酵・腐敗で生じる。
炭素数5のカルボン酸であるイソ吉草酸(⇒『今日の分子No.54 :イソ吉草酸』)等と同じように足の裏の臭いの元であったり、屁の臭いの成分であるという。
また、アゲハ蝶の青虫を触った時頭から出る臭角(オレンジ色のYの字型のヤツ)の放つあの不快な臭いの元も酪酸や吉草酸等の炭素数4・5のカルボン酸類であるらしい。
ひたすらに不快な臭いのする化合物なのである。
※ カルボン酸の不快臭については『今日の分子No.54 :イソ吉草酸』も参照。
一方、酪酸はプラスチックや可塑剤、界面活性剤、香料等の原料になる。
酪酸は臭いが、酪酸のエステルは果実のような甘く心地よい香りがする。
(多くの低分子量エステルは果実のような香りがし、実際バナナやパイナップル等に含まれる香気成分はエステルである。)
また、酪酸や酪酸誘導体は抗がん剤になるのではないかと世界中で本気で注目されているらしい。
臭かったり、良い香りになったり薬になったり、なかなか不思議な物質である。
◎ 参考
・ 『Organic compound Bible』(iPadのapp)
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先日紹介した『化学ビデオ講座No.3 :ニトロベンゼンの還元によるアニリンの合成』に関連して、ニトロベンゼンを紹介します。
今日の分子No.62 :ニトロベンゼン
Jmolで描画
慣用名:ニトロベンゾール、ミルバン油。
特有の臭いがする淡黄色油状液体。
味は甘いらしい。
水に不溶で、引火性があり有毒。
比重が約1.2なので水に沈む。
最も単純なニトロ化合物である。
コールタールから得られる。
1834年にE.Mitscherlichという人が初めて単離に成功したらしい。
靴や部屋の研磨剤、塗料の溶剤、皮製品の仕上げ剤、香料として用いられる。
ちなみに、ニトロベンゼンは化学的には「ニトロ化合物」であるが、日本の法律(消防法)ではニトロ化合物でなく「石油類」に分類されている。
これは、ニトロベンゼンはニトロ化合物である割には安定であり、爆発性がないからである。
(しかし引火性・発火性はあるため引火性液体第4類危険物第3石油類であると決められている。)
あと、ニトロ基の部分はややこしいですが下記のような構造になっていてNもOもオクテッド則を満たしています。
ニトロベンゼンの構造(共鳴構造式) ※二つの酸素原子は上共鳴式により等価
ニトロベンゼンや、その他ニトロベンゼン誘導体は合成化学的にはベンゼンを混酸(濃硫酸:濃硝酸=3:1で混ぜたもの)でニトロ化して合成する。
ベンゼンのニトロ化
少し詳しく述べると、まず硝酸が硫酸によりH+化、脱水してニトロニウムイオンNO2+を生じる。
ベンゼン環は比較的電子が多くマイナス雰囲気なので、そこへニトロニウムイオンが寄って行って「求電子付加」し、H+が取れてニトロベンゼンが生成する。
ニトロベンゼン(やその誘導体)は還元することによりアニリン(や対応する誘導体)に変換できる。
Fe/HClやSn/HCl、H2/Ni、Zn(Hg)/HCl等の還元法がある。
(先日紹介した『化学ビデオ講座No.3 :ニトロベンゼンの還元によるアニリンの合成』も参照)
また、アニリン(やその誘導体)を酸化することによりニトロベンゼン(や対応する誘導体)に変換できる。
酸化剤としてはトリフルオロ過酢酸CF3COOOHが用いられる。
すなわち、芳香族ではニトロ基とアミノ基が変換でき、これが合成化学的には非常に重要。
ニトロ基はベンゼン環から電子を引っ張るのでメタ配向性で、アミノ基はベンゼン環へ電子を押し込むのでオルト・パラ配向性である。
例えばアニリンからm-クロロアニリンを合成したいときには、アニリンを一旦酸化してニトロベンゼンにしてからクロロ化してm-クロロニトロベンゼンにし、還元してm-クロロアニリンにする。
(そのままアニリンをクロロ化してもo-クロロアニリンとp-クロロアニリンができてしまう!)
このように、ニトロ基とアミノ基の相互変換は配向性のパズル的合成の一手を担う。
◎ 参考
- 『ボルハルト・ショアー現代有機化学〈下〉』, K.Peter C. Vollhardt, Neil E. Schore著, 野依良治監訳, 化学同人; 第4版 (2004/06)
前回のクロロホルムに続いて、関連物質のヨードホルムを紹介。
ちなみにCHX3(Xはハロゲン)をハロホルムと言う。
マニアックで高校化学では出て来ないが、フッ素の時はフルオロホルムCHF3、臭素の時はブロモホルムCHBr3である。
フルオロホルム以外はヨードホルム反応と同様な、対応するハロゲンを用いたハロホルム反応で得られる。
今日の分子No.61 ヨードホルム CHI3
WinMOPACで計算・描画
IUPAC正式名称はトリヨードメタン。
水に不溶な淡黄色の固体。
特有の不快臭がする。
融点118~121℃。
外皮用殺菌消毒剤として用いられる。
(後述する「ヨードホルム反応の生成物」というイメージが強いが、ちゃんとヨードホルムには使い道があるのです!)
ヨードホルムは次のヨードホルム反応で生成する。
ヨードホルム反応
次の構造を持つ化合物は水酸化ナトリウム水溶液中でヨウ素と反応してヨードホルムの沈殿と1炭素少ないカルボン酸塩が生じる。
(50℃くらいのお湯で加熱。)
ヨードホルム反応陽性の化合物が持つ構造
(例)左:アセトン・エチルメチルケトン等、右:エタノール・2-プロパノールなど
※注:酢酸はヨードホルム反応陰性である。
すなわち、この試験を試みてヨードホルムが生じると、上のいずれかの構造を持つ化合物であったということがわかる。
構造解析の、19世紀に確立された古典的な化学的手法の一つである。
左の構造(アセチル基を持つ構造)の場合、反応式は
CH3-CO-R + 3I2 + 4NaOH → CH3COONa + CHI3 + 3H2O + 3NaI ・・・・(1)
である。
右の構造(1-ヒドロキシエチル基を持つ構造)も同じ結果を与える理由は、右の構造が酸化されると左の構造になるからである。
(ただ丸暗記するのではなくて、そう理屈をつけて考えると覚えやすい。)
右の構造の第一級アルコールもしくは第二級アルコールは塩基性条件で次のように酸化されて左の構造を与える。
CH3-CH(OH)-R + I2 + 2NaOH → CH3-CO-R + 2NaI + 2H2O ・・・・(2)
よって右の構造の場合のヨードホルム反応式は、(1)式と(2)式を足して、
CH3-CH(OH)-R + 4I2 + 6NaOH → CH3COONa + CHI3 + 5NaI + 5H2O ・・・・(3)
である。
ヨードホルム反応は、有機化合物の構造決定で入試でもよく出されて重要。
ヨードホルム反応は係数がややこしいので係数付けの問題もしばしば出題されている様。
ちなみに筆者は未定係数法で係数付けをしない。
だって連立方程式で6個も変数出てきて計算ややこしいし、間違えるし。
じゃあどうしているかと言うと、いつも反応機構考えて係数付けてます。
(※反応機構:2011/7/20の『エステル化 ~酸の頭が取れる!~』等で紹介した、電子の動きを考慮して一つ一つの素反応を考えて作った反応式。)
ヨードホルム反応の反応機構だと、筆者だと2分くらいで書き終わる。
(さっき実際に測ってみると1分53秒だった。)
反応機構を考えれば、仮にNaIやH2Oが副生することをすっかり忘れていても生成することが必然的にわかるから安心。
さて、こうまで書くと一体どんな素反応が実際起こっているか気になってきませんか?
まさかのまさか、実は「不安定ですぐ異性化する」という言葉で名高い「エノール」が関係していたりするのだ!
(正確に言うと、エノールが電離した形の「エノラート」という陰イオン。)
どんな反応かというのは、非常に難しい。
話せば長くなるので、続きは次に回しましょう。
→ 続き;『ヨードホルム反応の仕組み』
◎ 参考
- 『ボルハルト・ショアー現代有機化学〈上〉』, K.Peter C. Vollhardt, Neil E. Schore著, 野依良治監訳, 化学同人; 第4版 (2004/03)
- 『ウォーレン有機化学〈上〉』, Stuart Warrenら著, 野依良治監訳, 東京化学同人 (2003/02)
さっき高校化学の教科書を読んでいて思ったのですが、個々の有機化合物の説明ってほとんどないですね。
有機化合物の反応性・物性は官能基の種類などで系統的に理解できるし、あまりに種類が多いので説明を省いているのでしょうが、でもちょっとさびしい。
例えばクロロメタン類。
環境化学的・工業化学的にかなり重要な物質なのに、なんと説明が脚注に細々と書いてあるだけ・・・
これでは教科書を読んだ初学者は、有機化合物が個性のない記号であらわされた暗記物として認識する恐れがあるんじゃないかと思います。
本当は、有機化合物は実に個性的です。
今日の分子No.60 クロロホルム CHCl3
Jmolで描画
IUPAC正式名称はトリクロロメタン。
メタンの水素が塩素(クロロ-)に三つ(トリ-)置き換わったもの。
特徴的な臭気と灼けるような甘い味をもった透明で無色の蒸発性の液体である。
1831年にユストゥス・フォン・リービッヒ博士らが発見したという。
優秀な有機溶媒である。
引火性もない。
比重は1.5で、水より重い。
だからクロロホルムを分液ろうとでの抽出溶媒に使うと、有機層は下になることに注意。重要!!
(ジクロロメタンCH2Cl2、テトラクロロメタン(四塩化炭素)CCl4でも同様。だたしクロロメタンCH3Clは引火性の気体。)
一方でハロゲン化メタン類は人間の健康を害し、また環境汚染物質である。
クロロホルムは「トリハロメタン」の一種であり発がん性・環境汚染性があるため、化学工場ではできるだけクロロホルム溶媒を用いないようにシフトしつつある。
四塩化炭素やジクロロメタンも同様に規制がかかっている。
クロロホルムには麻酔性があることが有名である。
サスペンスなどで「クロロホルムをしみ込ませたハンカチで口と鼻をふさいで眠らせる」という表現が度々あるが、現実はいくらか違う。
まずクロロホルムにはそんなに微量・短時間で効果があるわけではないため、サスペンスのように数滴のクロロホルムをしみ込ませたハンカチで口と鼻を押さえたくらいでは多少せき込むくらいだという。
が、量が多いと恐ろしいことになる。
こんな話を大学の先生に聞いたことがある。
以前、某大学の化学系の学生が面白がってこれを友達に試したらしい。
すると相手は昏睡状態に陥り、すぐに病院へ運ばれ、3日間眠り続けたという。
このときは3日寝ただけで目覚めたわけであるが、目覚めないこともあるという。
かなり危険な薬品であることを理解しなければならない。
ちなみにクロロホルムはマグネシウムや強塩基と混ぜるな危険!である。
これらとは反応するため、クロロホルムを溶媒として用いるときに注意が必要。
※ マニアック
クロロホルムはマグネシウムと反応すると炭素原子のメタル化反応が起きる。
また、クロロホルムは強塩基と反応するとジクロロカルベン(CCl2)という炭素の手が二本しかない異様な化学種を生じる。(合成化学的には重要な反応。)
◎ 参考
- 『新しい工業化学―環境との調和をめざして』足立 吟也 (編集), 馬場 章夫 (編集), 岩倉 千秋 (編集), 化学同人 (2004/01)
- 大学の先生の有難いお話
- 『ウォーレン有機化学〈下〉』, Stuart Warrenら著, 野依良治監訳, 東京化学同人 (2003/02)
今日は久々に白衣を洗いました。
二酸化マンガンと思しき褐色の汚れをブラシでこすって根性で取りました。
さて、予告通り今日はビニロンを紹介します。
ちなみに昨日「筆者は最近PVAをよく扱う」と言ってPVAを紹介した続きなのですが、今日も実験でPVAを触ってました。
今日の分子 No.59 ビニロン ---CH2CH(OH)-(C4H6O2)---
1939年に桜田一郎博士によって合成された日本初の合成繊維。
世界初の合成繊維はナイロン(1937年)であり、ビニロンは世界で二番目の合成繊維である。
強度が高く、耐薬品性も高く、化学反応にも熱にも強い優秀な高分子材料である。
合成繊維は一般的に疎水性(=水をはじく性質)であるが、ビニロンは親水性で吸水性がある。(後述)
なのでビニロンで服を作ると汗を吸ってくれるためその点では綿のような感じである。
70年以上前に作られた繊維なのに、未だ作業服やロープなどに使われている優秀な合成繊維である。
ちなみに開発者の桜田博士は日本の高分子化学者の大権威者で、ナイロンに続いてたった2年で新素材を開発したことも大きな功績であるが、他にも高分子物理の理論式を作った等多くの功績がある。
「高分子」という言葉を日本に定着させたのも彼だとか。
ビニロンはポリビニルアルコール(PVA)とホルムアルデヒドの脱水縮合で合成される。(酸触媒)
ビニロン(部分構造)の生成反応
PVAの隣り合った2つのヒドロキシ基とホルムアルデヒドが脱水縮合し、六員環構造の環状アセタール構造を持つビニロンが生成する。
ビニロンの物性やこの合成反応は高校の化学Ⅱでも習う。
ここで注目すべきは生成したビニロンの構造である。
全てのヒドロキシ基がホルムアルデヒドと反応して消費されるのではなく、分子内にいくらか未反応のヒドロキシ基が残る。
したがってビニロンは程良く親水性である。
ちなみに・・・なぜこのようにビニロンは繊維として使え、PVAは繊維として使えないのだろうか。
PVAもヒドロキシ基を持ち親水性であるが、ヒドロキシ基が多すぎて親水性が高過ぎ、もし繊維にして服として着ると汗に溶けて洗濯糊になってドロドロと溶けてしまうだろう!
しかもヒドロキシ基が多いと分子間力が大きいので、PVAは硬い結晶質の物質であるから繊維に使うのは厳しいでしょう。
そういう中、ヒドロキシ基をいい感じに少なくして親水性・硬さをコントロールできるビニロンは素晴らしい高分子材料なのである!
◎ 参考
- 『基礎高分子科学』高分子学会編, 東京化学同人 (2006/07)
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