一般向け/高校生向け楽しい化け学
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数日前にツイッターで少し触れたコレステロール。
今回はこの分子を少し詳しく見ていきます。
今日の分子No.78 :コレステロール C27H46O
Jmolで描画
生体分子の一群「ステロイド」の中の一種。
脂質の一種でもある。
「コレステロール」という名前の通り、アルコール(○○オール)である。
生化学的にみると、イソプレン単位6つからなるトリテルペンの誘導体である。
コレステロールのステロイド環
60 kgのヒトの体内には約175 gのコレステロールが含まれているらしい。
この分子は取り過ぎたりすることで動脈硬化等の生活習慣病を引き起こすことは一般的によく知られている。
動脈硬化は、主にコレステロールと炭水化物が動脈にお粥のような沈殿を作り、そこに血漿の中からカルシウムイオンが蓄積されていって硬くなるという病気である。
☆ 動脈硬化はギリシャ語でatherosclerosis;「硬いお粥」という意味。
だからコレステロールというと悪者のようなイメージがあるが、実は生物にとってとても大切な物質である。
大きな役割はふたつあり、
1. 他のステロイド物質(ホルモンや胆汁酸など)の生合成原料となる。
2. 細胞膜の成分として機能。(後述)
である。
人間はコレステロールを食事で摂取して生体機能物質として使っている。
なお、いくら「コレステロールは嫌だ!」と言って食事で摂らなかったとしても、1日に約800 mg(成人)のコレステロールが体内で合成されている。
わざわざ体内で合成するほど大切な分子なのである。
◎ コレステロールの細胞膜の成分としての働き
コレステロールが生化学的に重要であることの例として、細胞膜の成分としての働きについて書きます。
まず予備知識の確認から。
生物の細胞を覆う細胞膜はリン脂質というある種の界面活性剤でできています。
リン脂質は、トリグリセリドである油脂のカルボン酸残基の1つがリン酸(のエステル)残基に置き換わった分子です。
リン脂質の構造(ホスファチジルコリン)
これは「頭が親水性、足が疎水性」でセッケン分子とよく似ています。
しかし一本足のセッケン分子がミセルを作るのに対して、リン脂質は二本足になることで「脂質二重層」という二重になったミセルのような集合体を作ります。
これがまさに細胞膜なのです。
細胞膜はリン脂質の集合体
また、これを見るとすぐわかるように、細胞膜は割とふにゃふにゃです。
この中途半端な膜構造が、細胞膜の自由な流動性と物質の透過性を担っているのです。
しかしさすがにこれだけでは柔らかすぎて頼りない。
ではどうしているかというのが本題です。
さて、ではコレステロールの話に移りましょう。
コレステロールの分子構造を見ると、親水性の-OHと、疎水性のステロイド環+アルキル基を持っていることがわかります。
そう、似ているのです。
細胞膜は上記のようにリン脂質が並んだものですが、コレステロールはそのリン脂質とリン脂質の間にうまく割り込みます。
細胞膜のリン脂質の間に割り込んだコレステロール
するとどうでしょう。
コレステロールの硬くてほぼ平面のステロイド環は、リン脂質とリン脂質を疎水性相互作用で糊のように繋ぎます。
そうすることで、コレステロールは膜の構造的堅さの維持に役立っているのです。
一方で、コレステロールには自由自在にクネクネ曲がる「尾」(アルキル基)が付いています。
これがあることでコレステロールが入っても膜の流動性は損なわれません。
もしこれがないとコレステロールが細胞膜をガチガチに固めてしまって使い物にならなくしてしまうかもしれません。
このように、コレステロールはその絶妙な化学構造で膜の安定性維持に役立っているのです。
また、コレステロールは膜が結晶化するのを防ぎ、流動性を維持するという働きもしているようです。
以上、コレステロールは細胞膜にとってとてもとても大切な物質であるということがわかったと思います。
「悪者」という誤解をしてあげないでください。
縁の下の力持ち、コレステロール分子は細胞膜で頑張っています。
ちなみに「ではどのくらい細胞膜にコレステロールが入っているのか?」ということが気になってきますが、なんと例えば肝細胞では膜脂質の約25%がコレステロールであるそうです。
そのくらい細胞には多く含まれていて、大切な物質なのです。
◎ 参考
- 『アトキンス 分子と人間』, P. W. Atkins著, 東京化学同人(1990)
- 『パソコンで見る動く分子辞典』本間善夫, 川端潤著, 講談社(2007)
- 『マクマリー生物有機化学(生化学編)』, John McMurry著, 丸善(2010)
- 『Organic Compound Bible』, Ka Man Fong(2011)
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前回記事にちらっと出てきた「ベンザイン」。
今回はこの奇妙な分子を紹介します。
今日の分子No.77 :ベンザイン C6H4
ベンゼンのC=Cの1つがC≡Cになった構造の分子。
「二重結合(-ene)」的なベンゼン(benzene)に対し、「三重結合(-yne)」になったベンザイン(benzyne)、という感じの名前の由来。
1,2-デヒドロベンゼンと呼ばれることもある。
ベンザインは極めて不安定で約0.00000002秒間しか存在できない。
反応中間体としてのみ知られている。(後述)
その構造的な不安定さは、分子模型を組もうとするとよくわかる。
普通結合角は、∠C=C-Cは120°、∠C≡C-Cは180°なので、そのままでは不可能な構造をしているのだ。
ベンザインを組もうとして案の定ボンドが折れてしまったの図。2012/2/11筆者撮影
実際のベンザイン分子は結合がもうちょっとうまいことねじ曲がっているので何とかその構造を維持しているが、でもその命は20ns(ナノ秒)である。
このように、ハンパなく構造的に無理のある不安定な分子なのです。
あまりに無理な構造であるため、最初提案された時はほとんどの化学者が信じなかったという。
しかし以下に示す反応等がベンザインの存在を裏付けている。
☆ 以下ちょっと大学化学的な内容が入ってきます。
ではベンザインは一体どんな反応に関わっているのだろうか。
実は有機化学的には極めて重要な反応中間体なのである。
例えば、次のような反応がある。
液体アンモニア中でクロロベンゼンをカリウムアミドKNH2と反応させるとアニリンが生成する反応;
これだけぱっと見れば普通の芳香族求核置換反応(SNAr機構、付加脱離機構)のイプソ位置換反応に見えるかもしれないが、そうだとすると理解できない事実がある。
例えばクロロベンゼンのイプソ位のC(クロロ基の付いているC)を14Cにしてマークしておくと(以下「*」で示す)、驚くべきことにイプソ位(C1位)の隣のオルト位(C2位)にアミノ基-NH2が置換した物が等量得られる。
これは次のようにして考えれば合点がいく。
(反応機構;「巻き矢印」は電子対の動きを表します。)
(1) 強塩基であるアミドイオンNH2-がクロロベンゼンのオルト位のH+を引き抜いてフェニルアニオン種を生成する。(脱プロトン化)
◎ クロロ基の誘起効果によりオルト位のHの酸性度が上がっているのがポイント。
(2) フェニルアニオンがクロロ基を塩化物イオンとして脱離して、活性中間体ベンザインを生成する。
(3) 極めて反応性に富むベンザインにアミドイオンが付加し、溶媒NH3からH+を引き抜く。
もしくは
すると付加するパターンは2パターン、アミノ基がイプソ位に現われるものと、オルト位に現われるものである。
これは他の芳香族求核置換反応(SNAr機構等)に対して「ベンザイン機構」(もしくは付加脱離機構に対して「脱離付加機構」)と呼ばれている。
ベンザインが極めて不安定、すなわち極めて反応性に富むことによって、付加しにくいアミドイオンでも付加させれるのがポイントです。
他にも、アントラニル酸をジアゾ化したのち水酸化物イオンで中和して得られるカルボキシラート-ジアゾニウム双性イオンを加熱することで、ベンザインを発生させることができる。
気相でこの反応を行うとベンザインの二量体が生成する。
上の双性イオンを質量分析にかけると上記の反応が起こり、ベンザイン(M=76)とベンザイン二量体(M=152)のピークが見える。
また、この双性イオンから生じたベンザインはDiels-Alder反応の求ジエンとなりジエンと反応できる。
以上のように、その反応の中で確かにベンザインは短命ながらも生成・存在していることがわかります。
○ おまけ;ベンザインが関係する面白い反応
(2-クロロフェニル)-プロパンニトリルを液体アンモニア中でナトリウムアミドNaNH2と反応させると、四員環の環化反応が起こる。
一見すると何がどうなったのかよくわからないが、ベンザイン機構を考えるとスムーズに理解できる。
これは上述と同様なベンザインの生成反応に次いで、シアノ基-CNの隣のH+が引き抜かれて生成する二重結合がベンザインの三重結合と反応することによる。
他にも立体障害やアニオン同士の反発を利用して、ベンザイン機構の置換位置に選択性を持たせたりできる等、色々ある。
このように、一瞬しか存在しないベンザインであるが、その存在はとーーっても重要なのです。
◎ 参考
- 『ボルハルト・ショアー現代有機化学〈上〉』, K.Peter C. Vollhardt, Neil E. Schore著, 野依良治監訳, 化学同人; 第4版 (2004/03)
- 『ウォーレン有機化学〈上〉』, Stuart Warrenら著, 野依良治監訳, 東京化学同人 (2003/02)
今回は前回記事『NOxとNOy』で出てきたNOyの一種、硝酸ペルオキシアセチル(PAN)を紹介します。
ちなみにこのPAN、最後に述べるように筆者は個人的に思い入れが深いのですが、先週筆者がバイトしている塾で生徒に演習させていると出てきてテンション上がりました。
大学入試でも環境問題をテーマにした問題が出題されたりするので、受験生はPANも知っておくといいかもしれませんね。
むしろ、高校化学を学んだなら教養的にこのくらい知っておくべき!と思ったりします。
今日の分子No.76 :硝酸ペルオキシアセチル CH3C(=O)OONO2
英語では「Peroxyacetyl nitrate」(パーオキシアセチルナイトレート)と綴られるため、よくPAN(パン)と略記される。
光化学オキシダントに含まれる反応性窒素酸化物NOyの一種。
(NOyについては2012/2/11記事『NOxとNOy』参照。)
ペルオキシ基-O-O-を持ち、不安定で強い酸化力を持つ。
排気ガスから出る窒素酸化物と炭化水素が日光の下で反応して生成する。
例;CH3C(=O)OO・ + NO2 → CH3C(=O)OONO2
その証拠にPANの濃度レベルは遠隔地域では数~数百pptv程度であるが、大都市とその郊外では数~数十ppbvにも及ぶ。
PANは地表付近では熱分解が主要な消失過程であり、その大気中寿命は常温で数十分から数時間程度である。
最近は減ったが以前よく発令されていた光化学スモッグとは、この光化学オキシダントやエアロゾルがスモッグ状になったものである。
構造を見てもらえればその反応性はよくわかっていただけると思うが、こんな物質が大気中をウヨウヨしているのは堪ったものではない。
PANは目の痛みを引き起こし植物の葉を茶色化するなど、オゾンO3と同様に毒性を有する。
ちなみに光化学オキシダントの8割くらいはオゾンであるらしい。
オゾンは紫外線から我々を守ってくれていたりして「良い者」みたいなイメージがあるが、実はこれを吸入したり目に暴露されると甚大な健康被害をもたらす。
他にも光化学オキシダントにはPAN型化合物が数種類存在する。
これらはPANのアセチル基-C(=O)CH3に炭化水素基が付いた化合物である。
すなわちアセチル基の代わりに種々のアシル基-C(=O)Rになっている。
(アセチル基もアシル基の一種である。)
PANsの一般的な構造
このようなPAN型化合物はペルオキシアセチルナイトレート類(peroxyacyl nitrates)と呼ばれ、PANsと略記される。
例えば
・ PPN:パーオキシプロピオニルナイトレート;CH3CH2C(=O)OONO2
・ PnBN:パーオキシ-n-ブチリルナイトレート;CH3CH2CH2C(=O)OONO2
・ PiBN:パーオキシイソブチリルナイトレート;(CH3)2CHC(=O)OONO2
・ PBzN:パーオキシベンゾイルナイトレート;C6H5C(=O)OONO2
・ MPAN:パーオキシメタクリロイルナイトレート;CH2=C(CH3)C(=O)OONO2
・ APAN:パーオキシアクリロイルナイトレート;CH2=CHC(=O)OONO2
等が大気中に存在することがわかっている。
実大気中には PAN >> PPN >> APAN ≒ PiBN ≒ PnBN のような序列で存在しているようである。
種々のPANsの構造
PANは人工的に合成することができる。
人工合成品は気分析の際の標準物質として用いられる。
PANは蒸気圧が比較的高いため得られた溶液は拡散チューブを用いて気化させることができる。
・ 液相合成法
過酢酸CH3COOOHを硫酸酸性下、硝酸でニトロ化し、その後有機溶媒を用いて抽出することで液体のPANを得る方法。
・ 気相合成法
大過剰のアセトン存在下、少量の一酸化窒素NOを導入して光化学反応を起こさせることでPANを得る方法。
まずアセトンに285nmの紫外線を照射することでパーオキシアセチルラジカルCH3C(=O)OO・を生成させ、そこに少量の一酸化窒素NOを導入して二酸化窒素NO2へと変換し、さらにパーオキシアセチルラジカルと反応させることでPANを生成する。
気相合成法は収率が90%以上で高く、かつ安全であるため近年よく用いられている。
個人的にPANは思い入れが深い分子です。
中学生の頃好きだった分子TOP5には確実に入る。
(ニトログリセリンやベンゼンも大好きだった。)
『アトキンス 分子と人間』(東京化学同人)という、中学の時筆者がとても好きだった本に出てきたPAN。
なんてったって「硝酸ペルオキシアセチル」、長くて舌噛みそうな名前。
構造もなんだか他と違っててカッコいい。
挙句の果てに、中学三年生の美術の最後の作品に登場させてしまった。
さてPANはどこにいるでしょうか?
筆者作(当時中学三年) 題名;LIMITLESS(←さすが中学生 笑)
美術の先生苦笑い。
懐かしい。
◎ 参考
- 『実験化学講座〈20-2〉環境化学』日本化学会編, 丸善(2007/1/31)
- 東京大学HP『NH ラジカルと NO の高温反応に関する研究』
さて、前回『P4分子の構造』という記事を書きましたが、それに続いて白リンについての記事を書きます。
美しいバラには棘がある、美しい白リン分子には毒がある。
リンの同素体は未解決。
さて、白リンとはどんな物質でしょうか。
今日の分子 No.75 白リン P4
分子式P4を持つリンPの同素体の一つ。
正四面体の各頂点にP原子が配置している化学構造を持つ。
白リンの融点は44.1℃と非常に低温である。
これはまさに白リンが分子結晶を作ることによる。
※ 結晶の融点は融点は一般に 共有結合結晶>イオン結晶>金属結晶>分子結晶 の順になる。
(各結晶の構成要素(原子orイオンor分子)同士の結合の強さによる差から生ずる。)
ベンゼンC6H6や二硫化炭素CS2等に溶け、水に不溶な無色~白色の固体。
暗所では青白色の「燐光」が観測でき、これが今日の化学用語「リン光」の語源にもなっている。
ニラのような匂いがすると言う。
一方分子の美しさとは裏腹に、反応性が高くかなり危険な猛毒物質である。
皮膚に触れると火傷を負い、また皮膚から吸収され中毒を起こし、服用すると数時間ののちに死亡(経口致死量0.1g)するという。
また自然発火性があり、たった50℃に発火点を持つ。
酸化されやすいため、空気中で酸化されて熱を持ち発火点50℃に達すると自然発火するのである。
一旦発火し燃焼すると、融点が低いため融解し液状となり火面を広げ被害を拡大する恐れがある。
以上のようにとても危険なため第三類危険物(自然発火性物質)で危険等級Ⅰ(←最も危険な部類)に指定され規制対象である。
一方水とは反応しないので水中に沈めることで安全に保存できる。
ただし、保護液(水)の酸性化を防ぐために消石灰を溶かしておくのだが、塩基性が高くなりすぎると次は下記の反応が起こり可燃性で自然発火性かつ猛毒なホスフィンPH3ガスを発生する。
P4 + 3OH- + 3H2O → PH3 + 3H2PO3-
このように、美しい分子構造とは裏腹にかなり危険な性質を持っている物質である。
白リンの形態での用途は少ないが、その発火性・反応性・毒性ゆえに軍事用の焼夷弾(白リン弾)や発煙剤、殺猟剤に使われる。
大部分はリン酸や赤リンなどの原料として使われる。
白リンはその名の通り、白色のロウ状の固体という外見を持ったリンである。
淡黄色の固体である「黄リン」と呼ばれる物質を精製すると得られる。
「白リン = 黄リン」や「黄リンはリンの同素体」という記述がよくなされるが、正確には誤り。
正確には黄リンは、表面に赤リンが含まれることで黄色みがかった白リンであり、同素体(純物質)ではなく混合物であるという。
黄リンに対して、赤リンはP原子が複雑に配置した物質で、空気中で安定で無毒であり発火点も約260℃と高く、反応性が低い。
赤リンは黄リンを約400℃で加熱することで生じる赤褐色の粉末である。
赤リンは紫リンと白リンとの固溶体とも考えられている。
また黒リンという同素体は化学的に安定で、なんと金属光沢のある電気の良導体である。
取扱いは容易であるが高温、高圧下で合成しなければならない。
他にもリンは様々な同素体が知られているが、よくわかっていないことも多い。
下にリンの同素体をいくつか示す。
同素体 | 備考 |
---|---|
α-白リン | P4構造 |
β-白リン | -76.9℃ 以下α→β転移 |
赤リンI | α-P4→Ⅰ 230~350℃ |
赤リンII | Ⅰ→Ⅱ 460℃ |
赤リンIII | Ⅱ→Ⅲ 520℃ |
赤リンIV | Ⅰ→Ⅳ 490~525℃ |
赤リンV | Ⅰ→Ⅴ 575℃ |
赤リンVI | α-P4→ 300℃(800MPa) |
灰色リン | >400℃(封管) |
黒リン | 斜方;>1300MPa>220℃ 無定形;>550℃ 黒リン→赤リン転移 |
○ 白リンP4が関係する化学反応
・ 白リンの工業的製法
リン鉱石Ca10(PO4)6F2、珪砂SiO2(フラックス)、コークスC(還元剤)を混合し電気炉内で反応させる。
2Ca10(PO4)6F2 + 18SiO2 + 30C → 3P4 + 18CaSiO3・1/9CaF2 + 30CO
・ 赤リンの工業的製法
白リンを約400℃で数時間加熱すると赤リンが生成する。
P4(白リン) → 4P(赤リン)
・ ホスフィンの工業的製法
白リンを水酸化ナトリウム存在下水と分解する。
P4 + 3NaOH + 3H2O → PH3 + 3NaH2PO3
・ 白リンの燃焼
白リンは空気中で燃焼し十酸化四リン(五酸化二リン、無水リン酸とも)P4O10(『今日の分子No.30 :十酸化四リン』参照)を生成する。
P4 + 5O2 → P4O10
☆ また、リン酸の工業的製法(乾式法)はこうして作った十酸化四リンを水や希リン酸で水和する。
P4O10 + 6H2O → 4H3PO4
>> Σ様への拍手レス
◎ 参考
- 『化学便覧 応用化学編 第6版』, 日本化学会編, 丸善(2003/01)
- 『化学便覧 応用化学編 第5版』, 日本化学会編, 丸善 (1995/3/15)
- 『実験化学講座 第5版』, 日本化学会編, 丸善 (2007/1/31)
- 『新実験化学講座 [8]無機化合物の合成』, 日本化学会編, 丸善 (1977/06)
- 『チャレンジライセンス乙種1・2・3・5・6類危険物取扱者テキスト』, 工業資格教育研究会 (著) ,実教出版(2005/10)
数日前貰った石鹸の原材料名の欄に「エチドロン酸4Na」と言う物質が書かれていました。
聞いたことがあるようなないような物質。
ちょっと調べてみました。
今日の分子 No.74 エチドロン酸 CH3C(PO3H2)2OH
系統名;1-ヒドロキシエタン-1,1-ジイルジホスホン酸。
エタノールにリン酸(正確にはホスホン酸)がくっ付いた形をしている。
いわゆるキレート剤※で、金属イオンを挟み込む形で安定な錯体を作り、封鎖・隠ぺいする。
上の画像からわかるように、電離するとリン酸イオンユニットとヒドロキシ基の孤立電子対がUFOキャッチャーの爪のごとく金属イオンを抱きかかえるのであろう。
※ キレート錯体、キレート剤とは?
多配座配位子(例えば多価の酸等)で、配位点がある距離離れている化合物はUFOキャッチャーのごとく金属イオンにまとわりつき包み込むように錯体を作る。
このような錯体をキレート錯体といい、そのような作用をする配位子をキレート剤という。
金属イオンにちょうどフィットするように配位点の距離があり、多配座なものがこの作用が大きい。
キレート錯体はとても安定で、金属イオンは一度キレート剤につかまったら最後、金属イオンがそこに存在しないかの如く不活性化してしまう。(;隠ぺい)
○ エチドロン酸4Na
よく原材料名に「リン酸2Na」等、「○○酸□【金属】」という書き方をしている物質がある。
これは、例えばリン酸2NaならNa2HPO4のことであり、要するにその多価の酸のH+がいくつ分金属イオンに置き換わっているかを表す書き方である。
だからエチドロン酸4NaならCH3C(PO3Na2)2OHであり、全てのHがNaで置き換わった塩を表している。
エチドロン酸4Naは石鹸によく配合されているらしい。
配合している理由は、製造過程でどうしても石鹸に入ってしまう金属イオンをエチドロン酸イオンを加えて安定なキレート錯体にしてしまうことで金属イオンを封鎖するためらしいです。
金属イオンはそのまま石鹸に入ったままにしておくと、長期間保存したときに石鹸の劣化の原因になってしまうらしい。
だから、エチドロン酸のキレートの中に閉じ込めてしまうことでそれを防いでいる、ということらしいです。
同じようなキレート剤の役割をする物質として、エデト酸(もしくはEDTA;エチレンジアミンテトラ酢酸)という物質があります。
大抵の石鹸やシャンプーの原材料名に「エデト酸塩」や「EDTA-4Na」とかそういう感じで書いて配合されていると思います。
チェックしてみましょう。
○ エチドロン酸2Na
エチドロン酸二水素ナトリウムCH3C(PO3HNa)2OHのこと。
こっちは医薬品です。
吸湿性で水に易溶、エタノールにほどんど溶けない白色の粉末。
骨粗鬆症等の骨の病気の薬に使われるそうです。
リン酸系のイオンはカルシウムイオンと強く結び付くので、これを飲むことで骨の代謝を抑制することができるらしい。
具体的には、ヒドロキシアパタイト(骨の主成分のカルシウム塩)との親和性が大きく、ヒドロキシアパタイトの結晶が形成される過程を抑制したりするらしい。
以上のように、あまり聞き慣れない物質ですが我々の生活に関係する重要な機能物質なのでした。
このように身の回りの製品の原材料欄を読むとたくさんの「働く分子」に出会えます。
彼らは縁の下の力持ち、庶民に名が知られぬとも我々の生活を陰で支えるヒーローなのです。
一度色々な製品の原材料欄を読んで、色んな物質について調べてみましょう。
◎ 参考
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