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一般向け/高校生向け楽しい化け学
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10-8mol/L塩酸のpHは8?


HCl → H+ + Cl-

塩酸はどんな濃度でもほぼ完全電離するから、

[H+] = (塩酸濃度) ・・・・(A)

かつ pH = -Log[H+] なので、

様々な濃度に対する塩酸のpHは

・ 1×10-1mol/L → pH 1

・ 1×10-2mol/L → pH 2

・ 1×10-3mol/L → pH 3

・ 1×10-7mol/L → pH 7 (?)

・ 1×10-8mol/L → pH 8 (?)


・・・と誤答してしまう方が多い。

しかしよくよく考えると

酸を加えたのに溶液が中性とか、ましてや塩基性になるはずがない

のです。

もちろん溶液はpH7で中性、pH7より大きかったら塩基性。

でも、その常識がわかっていても一体どう計算したら正しいpHが求まるのか、案外難しい。

今回は1×10-8mol/Lの塩酸のpHがちゃんと酸性になる、正しいpHの計算法を紹介します。


◎ 見落としているのは・・・水の電離!

さて、上の計算でどこに問題があったのか。

答えを言うと、式(A)のH+濃度です。

結論を言うと、塩酸が高濃度の時は溶液中のH+はHClが出したものばかりだから式(A)で良い。

だから1×10-1~1×10-3のpHはこの計算で良い。

が、式(A)は実際は不十分である。

水溶液中でH+を出すのはHClだけではない、H2Oも電離してH+を出す

H2O → H+ + OH-

だから

[H+] = (HClが出したH+) + (H2Oが出したH+) ・・・・(A')

である。

ここでもちろん塩酸はどんな濃度でもほぼ完全電離するから、

(HClが出したH+) = (塩酸濃度) ・・・・(B)

はその通りである。

もしも塩酸濃度が高ければ(A')式の第一項が第二項より大きくなるので

[H+] ≒(塩酸濃度) ・・・・(A)

となって(A)に一致するわけである。


さて問題は塩酸濃度が低くて式(A')を計算しなければならない場合である。

そこでは水が出すH+の量はどれくらいかということを知る必要がある。

ここで水溶液中では次の関係が必ず成り立つことを知っておく必要がある。

Kw = [H+][OH-] ・・・・(C)

Kwは水のイオン積と呼ばれ常温ではKw = 1×10-14 mol2/L2という定数である。
(水の電離の化学平衡に由来する。)

この関係式を知っていればもう大丈夫。

ここで

・ (HClが出したH+濃度)=(塩酸濃度)= C

・ (H2Oが出したH+濃度)= W

とおくと

・ [H+] = C + W

・ [OH-] = W
(∵H2OがH+を生じた分だけOH-が生じるから。)

であるので、(C)式に代入すると

Kw = (C+W)W

というWに関する二次方程式となる。

Kwは既知の定数、Cは既知であり、水の出したH+の量が知りたいわけだからこれをWについて解くと

W = {-C+√(C2+4Kw)}/2 ・・・・(D)

となる。

したがって

[H+] = C + W = C + {-C+√(C2+4Kw)}/2 = {C+√(C2+4Kw)}/2

となり、塩酸濃度Cに対する[H+]が求まった!


以上より、


・・・・・・・(E)    

という関係がわかった。

さっそくこれに

・ 塩酸濃度 C = 1×10-8 mol/L

・ Kw = 1×10-14 mol2/L2

を代入すると

[H+] = 1.05×10-7 mol/L

すなわち

pH = 6.98 ;ギリギリ酸性

となり

1×10-8 mol/L塩酸 → pH 6.98

と妥当な値がわかった!!!


同様に様々な塩酸濃度について(E)式で計算してみると

塩酸濃度 (mol/L)pH
1×1000
1×10-11
1×10-22
1×10-33
1×10-44
1×10-55
1×10-65.996
1×10-6.56.46
1×10-76.98
1×10-86.98
1×10-96.998
07


となる。

すなわち塩酸濃度を薄くしていくと限りなくpH7;中性に近づいていくという結論である。

これは常識のとおりである。

また、塩酸濃度0、すなわちただの水はpH7となり、これも一般常識と一致している。

さらに表より、式(A)すなわち塩酸濃度が濃いときの近似

[H+] ≒ (塩酸濃度) ・・・・(A)

が成り立つのは1×10-6.5 mol/L = 3.2×10-7 mol/L くらいが限界であるとわかる。

この表をグラフにすると(ただし横軸は-Log C)





となり、塩酸濃度が濃いところでは直線になり(A)式の近似が成り立つが、 C=1×10-6.5 付近で成り立たなくなって、それ以上薄くしてもpHは7に近づいて行くだけだとよくわかる。


以上のように、水の電離を考慮することで強酸濃度が希薄な時の、強酸濃度とpHの関係を計算することができる。

ちなみに、弱酸の時は電離度が1ではなく濃度に関係するのでもう少し複雑になる。

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さて、先週塩酸の蒸気をもろに吸い込んで地獄を見た筆者です。

塩化水素HClが高濃度で溶けた水溶液を煮沸していました。

もくもくと上がる塩酸の湯気、これはヤバイです、吸わないように本当に注意しましょう!!



塩化水素HClの構造。「塩化水素」はコイツの物質名、「塩酸」はコイツの水溶液の呼び名。
WinMOPACで計算・描画



さて、具体的に濃塩酸とはどれくらい危険なのでしょうか?

一般的なイメージでわかりやすいpH;水素イオン指数で表してみましょう。

まず市販されている試薬の「濃塩酸」とは、一般的にモル濃度が12 mol/Lの塩化水素水溶液です。

なぜ「濃塩酸」が12 mol/Lと中途半端な濃度かと言うと、塩化水素を飽和するくらいまで水に溶かすとこのくらいの濃度になるかららしいです。

※ 「HCl」という物質は「塩化水素」である。塩酸とは「塩化水素水溶液」のことを指す。この違いは重要。
 また、塩化水素は揮発性なので、ある濃度の塩酸を持ってきてもそのうち塩化水素が気化して濃度が変わってしまう。だから塩酸は滴定等の標準物質には適さない。
 ちなみに、空気中の二酸化炭素を吸ってしまう水酸化ナトリウムも標準物質には不適。覚えておこう!


では12 mol/Lの塩化水素水溶液のpHとはどれほどか?

塩化水素は強酸で完全電離していると考えると(※後述)、12 mol/L濃塩酸の水素イオン濃度[H+]は12 mol/L。

pH = -log [H+]

なので

pH = -1

「え!pHがマイナス!?」

っと思うかもしれない。

しかし別にpHが負の数値を取ることは驚くことではない。

定義より、[H+] = 1 mol/LならpH = 0だし、[H+]がそれより大きな値ならpHは負の値になる。

小学校・中学校のイメージで

「1・・・強酸性、7・・・中性、14・・・強アルカリ性」

なんてイメージがあるが、別にpHは1から14までの値とは限らないのだ。


さて話を戻しましょう。

しかし濃塩酸のpHは「-1」で、これはかなりヤバイレベルの強酸性である。

コワイコワイ。

この濃度の濃塩酸はガンガン気化する塩化水素で発煙し、かなりの刺激臭がし、人体に危険なこと極まりない。

手につくくらいなら大したことないが、目に入ると失明してしまう危険性がある。

だから「濃塩酸」と書いた試薬瓶から塩酸を取りだす際は、ドラフト等でキチンと換気しながら取り扱いましょう。

間違っても蒸気を吸ってしまったりしないように!!

あれは悶絶物です・・・・



※ 濃塩酸中で塩化水素は完全電離しているか?

結論を言うと、そう考えて問題なさそうです。

強酸で、いつも電離定数なんて考えない塩酸ですが、ちゃんと電離定数Kaはあります。

Ka = 104

くらいです。

これはかなり大きな値です。

酢酸のKa = 1.75×10-5と比べると、なんと10億倍の酸性度!!ということ。

ゆえにいつもは電離定数なんて考えずに完全電離しているものとして計算しますが、今回は濃度が濃いのでこれを考慮してみましょう。

化学平衡の式より、

Ka = [H+][Cl-]/[HCl]

ここで

[Cl-] = [H+]、

[HCl] = C - [H+]

を代入し、2次方程式を解くと
(C;塩酸の全濃度、すなわち12 mol/L)

[H+] = -Ka/2 + √(Ka2+4KaC)/2

Ka=104 mol/L、C=12 mol/Lを代入すると、

[H+] = 11.99 mol/L
(電離度α=99.9%)

これは有効数字を考えると実質[H+]=12 mol/Lで、塩酸が完全電離していると考えても良いと言うことになります。

ゆえに濃塩酸は

pH = -1

というところ。

たまには馬鹿でっかい平衡定数の化学平衡も計算したくなりますね。


ところで、今日はヨードホルム反応の記事『ヨードホルム反応の仕組み』で、「わかりやすかった」と筆者あてにTwitterで呟いてくれた方がいました。

いや~うれしい。

この手の話でいつも言っていますが、「頑張って書いた甲斐あったな~」と思います。

これからも精進いたします。


昨日、仕事仲間とパーティー用のいわゆる"ヘリウム"を吸って声変えて遊んでました。

パーティ用のいわゆる"ヘリウム"はヘリウム約80%、酸素約20%の混合気体です。

ヘリウム分子や、ヘリウムと酸素の混合気体については今日の分子No.45ヘリウムを参照ください。

ヘリウムを吸って声が高くなる現象を、その独特の声色からドナルドダック効果と言います。

なぜヘリウムを吸うと声が高くなるのでしょうか。

まず音とはどのような現象であり、物理化学的に音速はどのように表現されるかから考え、気体の種類と音の高さを考えてみましょう。


まず、音とは波です。

音波は空気を媒質として伝わる疎密波です。

ここまでは高校物理で習います。

ここで、実は音波の疎密波は空気が断熱過程で圧縮・膨張していると知られています。

なので高校物理の熱力学でちょこっと習う断熱過程の式

PVγ = 一定

の関係を使うことができます。

この式を微分して、気体の弾性率と音速の関係式(難)・理想気体の状態方程式を使うと※注、音速vは

v = √(γRT/M)    ・・・・(1)

と表されます。

ただしRは気体定数、Tは絶対温度、Mは気体分子のモル質量(単位:kg/mol)です。

また、高校の物理Ⅱでも習いますが、γは比熱比でγ=Cp/Cvです。

ただしCpは定圧モル比熱、Cvは定積モル比熱。

気体がN原子分子の場合

Cv = (N+0.5)R

Cp = Cv+R = (N+1.5)R

よって

γ=(2N+3)/(2N+1)    ・・・・・(2)

です。


(1)式と(2)式を使えば(理想)気体中での音速を計算することができます。

例えば25℃の窒素中での音速を求めてみましょう。

窒素N2は2原子分子なので、(2)式にN=2を代入すると

γ=1.4

γ=1.4、T=298K、M=0.028、R=8.31J/(K・mol)を(1)式に代入すると

v窒素 = 352 m/s

となります。


次に、ついでに空気中での音速を見積もってみましょう。

簡単のため、空気はほぼ酸素と窒素の混合物なので、分子量29の理想気体で、2原子分子だと仮定しましょう。

すると室温25℃すなわちT=298Kでは

v25℃ = 346 m/s

となり、0℃すなわちT=273Kでは

v0℃ = 331 m/s

0℃における乾燥空気中での音速の実測値は331.3m/sらしいので、うまく一致しました。


一方で、(1)式より音速は気体の分子量の平方根に反比例することがわかります。

すなわち軽い気体ほど音速は速くなります。
(ただし構成原子数が異なるとγも変わります。)

25℃のときのヘリウム中では音速は

vHe = 1014 m/s
(単原子分子でN=1よりγ=5/3)

速い!!

なんと音速はヘリウム中では空気中での音速の三倍ほどの速さになります。

このように、音速は気体の分子量(と構成原子数)に関係します。


では本題の音の高さに参りましょう。

波の基本式

v=fλ

より

f=v/λ

です。

ただしfは振動数、vは波の速さ、λは波長です。

気体中を伝わる音波の場合、vは音速になります。

仮に笛を吹いたときなど、λが一定のときを考えましょう。

(1)式よりvは分子量が小さい程大きいので、すなわち分子量が小さいとfは大きくなります。

中学理科で習うように、振動数が大きいほど音は高くなります。

したがってヘリウムのような軽い気体中では音が高くなります。

これが、ヘリウムを吸ったら声が高くなる理由です。

物理の波動や熱力学、熱化学は関係なさそうで密接に関係があり、式変形により日常の現象においても有益な数値を与えてくれます。


※ 音速の式の導出過程は東京学芸大学の松浦研究室様HPのページhttp://topicmaps.u-gakugei.ac.jp/physdb/heat/moleculartheory.aspの上から三分の一くらいの項目に詳しく載っています。


ルイス構造式・・・ってあれ?

高校じゃルイス構造式って言わないんでしたね。

「H:H」とかの表記法を「電子式」って言うのでしたね。

普通、この表記法を考案者のルイスさんにちなんでルイス構造式と言います。
(まあ名前はどうでもいい。)


今日は塾で分子の形や極性をレクチャーしてました。

分子の形を考えるのには、まず電子式を理解せねばなりません。

電子式で分子を表現できたら、あとは電子対反発則、すなわち電子対(結合電子対と非共有電子対)同士が反発するという簡単な法則から分子の形を決めることができます。
分子のカタチ参照)


次に極性です。

極性とは分子全体で見た電荷の偏り。

H-Clなら電子は塩素原子の方に引かれ、水素の方がδ+(少し正に帯電)、塩素の方がδ-となり、すなわち極性があるといいます。

H2Oなら?

O-H結合は、もちろん水素より電気陰性度の大きな酸素が電子を引きますが、問題はO-H結合が二本あることです。

分子全体の電荷の偏りはそれぞれの結合の電荷の偏りのベクトル和であらわされ、水分子の場合なら下図のように分子を串刺しにするように電荷の偏りがあり、極性分子だと言えます。




各分子の、結合の電子の偏りと分子全体の電子の偏り(極性)


一方二酸化炭素では?

C=O結合はOがCから電子を引きます。

が、二本のC=O結合の電荷の偏りは逆向きに同じ大きさのベクトルなので、分子全体で見て和を取ればキャンセルし合って消えてしまい、すなわち二酸化炭素は無極性分子だと言います。

メタンも同様、空間的なのでわかりにくいですが、ベクトルの和はゼロベクトルで、無極性分子です。

このように、たとえ電気陰性度の違う原子と結合を作っていても、分子の形によっては極性がないことがあります。

だから分子の形は重要。

よって電子式も重要。

電子式なんていつ役に立つんだという人もいますが、こういうときに役立つのです。


今日塾でバイトをしていると、こんな問題に出会いました。

どんな問題かと言うと、要するに、

「金属は熱伝導率や電気伝導率が高いが、なぜでしょうか?」

という問題。

答えは「自由に動き回れる自由電子があるから。」

たぶん高校化学ではこう習うし答えにもそう書けばいいのですが、

「なぜ自由電子があればそんな性質でるんですか?」

と言うのが気になるところ。

さあ難問だ。

これは高校化学で説明することはできない。

が、噛み砕いて言うことはできる。


電気伝導率が高い理由;

「金属中では金属イオン(金属原子)の周りを電子が自由に動き回っている。
その電子は電圧をかけると簡単に動かすことができるから。」


金属中の自由電子の様子


一方非金属の結晶には自由電子はなく、電子は価電子として原子と原子の間に束縛されるため電気伝導性を示さない。
(逆に言えば非金属でも自由に電子が動ければ電気伝導性を示す。例:黒鉛)

上のモデルを見ると、金属が展性・延性を持つ理由もわかる。

自由電子がざっくりと金属原子同士を結びつけているため、外力を加えて原子の位置がずれても同じく
ざっくりと原子同士が結びつきあうため、非金属のように切れたり割れたりしにくいのだ。


熱伝導率が高い理由;

「物質の温度とは構成粒子の振動の激しさである。金属に熱をかけると
原子と自由電子の振動が激しくなるが、動きやすい自由電子は次々に熱振動を隣の電子に伝えていくから。」

ざっくり言うとこんな感じ。


このように、金属特有の性質は自由電子が原因である。

延性・展性・熱伝導性・電気伝導性・・・・

実際にちゃんと説明しようと思うと、電気伝導性はバンド理論持って来ないといけないし、熱伝導性は統計力学使わないと説明できない。

しかし、結局伝導電子の存在が熱・電気伝導性を決めるので、「電気の良導体は熱の良導体である」という結論が出るのが面白い。

ちなみに金属光沢も自由電子が原因。

なぜなら

「金属には自由に動ける電子があるからプラズマ振動の角振動数が大きく、ゆえに可視光の屈折率が虚数となり全反射するから。」

いや~物性論って難しい~


◎ 参考
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