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一般向け/高校生向け楽しい化け学
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さて、最近「今日の分子」を書いていなかったので、久々に分子を紹介しましょう。

筆者が最近扱った物質に、例えばPVAがあります。


今日の分子 No.58 ポリビニルアルコール [-CH2CH(OH)-]n


ChemSketchで描画


無色透明の合成樹脂。

Polyvinyl alcohol」なので略して「PVA」と呼ばれる。

多数のヒドロキシ基を持つため親水性が高く、水に溶ける。

なので洗濯糊に使われる。

PVA水溶液がスーパーなどで「PVA洗濯糊」や「化学糊」と表記されて販売されている。


写真:PVA(上に"化学糊"、下に"PVA"と書いてある。)


PVAを洗濯糊に使うと、洗濯した後PVAが析出して固化して、シャツなどがパリッと綺麗な形に仕上がるわけである。

かつてはデンプンを洗濯糊として用いていたが、デンプンで仕上げたままタンスに保存すると虫が湧いてしまうという欠点があった。

一方PVAは虫に食われないため、PVA洗濯糊で仕上げればタンスに入れていても虫が湧かないのである。

ちなみにPVA等化学合成によって作られた洗濯糊を「化学糊」、デンプンなどの天然物を用いた洗濯糊を「天然糊」という。

ほかにもスライムを作るのに使われる。
『スライムを作ろう!』参照

重要なのはPVAの合成法である。

普通、高分子というのはその繰り返し単位となっている分子(モノマー)から合成する。

例えばポリエチレンならモノマーであるエチレンの付加重合で合成できる。

n CH2=CH2 → [-CH2-CH2-]n

ではポリビニルアルコールはそのモノマーであるビニルアルコールCH2=CHOHの付加重合反応

n CH2=CHOH → [-CH2-CH(OH)-]n

で合成できるだろうか。

実はできない。

というのも、モノマーであるビニルアルコールは、実質的に存在しないのである。
(本当はアセトアルデヒドと化学平衡になっていて極々少量のみ存在する。)

ビニルアルコールを合成したとしても、たちまちアセトアルデヒドに異性化してしまう。
(本当は、化学平衡がアセトアルデヒド側に大きく偏ってビニルアルコールの量がとても少なくなってしまう。)

CH2=CHOH → CH3CHO

よってほとんど存在しないビニルアルコールをモノマーとして付加重合しPVAを合成することはできない。


ではどうやってPVAを合成するのであろうか。

次の2つの反応を使うことで上手にPVAを作ることができる。


1) ビニルアルコールではなく、酢酸ビニルを付加重合する。

n CH2=CHOCOCH3 → [-CH2-CH(OCOCH3)-]n


2) 生成したポリ酢酸ビニルを水酸化ナトリウムで加水分解する。(けん化反応)

[-CH2-CH(OCOCH3)-]n + nNaOH → [-CH2-CH(OH)-]n + CH3COONa


以上のようにして、安定な酢酸ビニルを使って一旦前駆体であるポリ酢酸ビニルを合成してからPVAに変換するのである。

この合成法は高校でも習う重要な方法である。


ちなみに、「2)」のように高分子にしてからの反応を「高分子反応」という。

高分子は一般的に溶媒に溶けにくいし、粘度も大きくなるので、高分子反応は難しく、様々な方法が研究されてきた。

その中でPVAの高分子反応として、日本で開発されたビニロンの合成がある。

[-CH2-CH(OH)-CH2-CH(OH)-CH2-CH(OH)-]n + nHCHO

→ [-CH2-CH(OH)-CH2-(C4H6O2)-]n

ビニロンに関しては次回紹介することにします。

「今日の分子No.59: ビニロン」


◎ 参考
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つい昨日アセチルサリチル酸を合成したので、今日の分子はそれで。


今日の分子 No.57 アセチルサリチル酸 C6H4(COOH)(OCOCH3)


Jmolで描画


慣用名:アセチルサリチル酸。

商品名:アスピリン

IUPAC名称:2-acetoxybenzoic acid

代表的な消炎・解熱・鎮痛薬。

昔はアセチル化されていない普通のサリチル酸C6H4(COOH)(OH)が解熱鎮痛薬として用いられていたが粘膜を刺激し胃を痛める副作用があった。

1897年にバイエル社(独)のFelix Hoffmanはサリチル酸をアセチル化することにより副作用の少ないアセチルサリチル酸を合成した。

なぜアセチル化により副作用が低減できるか → 『隣接基効果~アスピリンとサリチル酸の酸性度の違い』 を参照。

画期的で、20世紀初頭に大ブレイクした超有名医薬品である。

現在でも用いられている。
◎ ちなみに「半分はやさしさでできています」のバファリンもアセチルサリチル酸である。
(小児はアセチルサリチル酸でライ症候群なる病気を引き起こしうるので、子供用はアセトアミノフェンを使っているらしい。)

サリチル酸、アセチルサリチル酸、アセトアニリド、アセトアミノフェンなどは高校化学Ⅱで出てくる重要な医薬品物質です。
(『今日の分子No.33:アセトアニリド』、『今日の分子No.36:アセトアミノフェン』も併せてお読みください。)


アセチルサリチル酸はサリチル酸C6H4(COOH)(OH)がアセチル化されたものである。

サリチル酸に無水酢酸(CH3CO)2Oを反応させて得る。



サリチル酸のアセチル化 → アセチルサリチル酸


ちなみに「-COCH3」(酢酸の-OHが外れたもの)をアセチル基といい、アセチル基を導入する反応をアセチル化反応という。


筆者もこの方法で合成しました。

合成したのち再結晶をし、綺麗な結晶を得ることができました。


アセチルサリチル酸の結晶 2011/06/16 筆者撮影



>> ごりえ様への拍手レス


最近身の回りでガソリンの話題が多いので、ここでちょっと紹介してみます。

「オクタン価」とか「ハイオク」等という、どうにもアルカンに関係ありそうな単語がガソリンスタンドに書かれています。

一体何のことでしょうか。

(比較的)安い「レギュラー」と高い「ハイオク」のガソリンの違いは?

そして「オクタン価」の「オクタン」はいわゆる”オクタン”(CH3(CH2)6CH3)ではないのだ!!


今日の分子 No.56 イソオクタン (CH3)3CCH2CH(CH3)2


Jmolで描画


IUPAC正式名称:2,2,4-トリメチルペンタン。

分子式がC8H18の枝分かれアルカンであり、直鎖のオクタン(CH3(CH2)6CH3)の構造異性体。

常温で常温では無色透明の液体。

ガソリンの成分である。

ガソリンは炭素数5~10くらいの炭化水素の混合物で、原油を「化学変換」して得られる。

ガソリンの詳しい組成は
ガソリンの成分の詳細分析』, シグマアルドリッチ社, 2011/06/11引用
を参照。


さて、ガソリンの一成分のイソオクタンは「オクタン価」を決める指標となっています。

オクタン価とはガソリンのアンチノック性を表す指標です。

まず「アンチノック性」とは;

車のエンジンでは、気化したガソリンと空気をシリンダー内に吸い込み、圧縮しプラグで点火して、この爆発により運動エネルギーを生み出している。

一方、点火プラグで点火する前に自然着火してしまうと、エンジンから「コンッ!」とか「カラカラ」という異常な音が出る。

これをノッキングという。

ノッキングが起こると燃費が悪くなり、場合によってはエンジンの故障などにつながる。

なので、アンチノック性(ノッキングしにくい性質=自然着火しにくい性質)の高いガソリンが求められる。

一般に炭素数が等しい場合は、芳香族>枝分かれアルカン>ナフテン>アルケン>直鎖アルカン、の順にアンチノック性が高い。


イソオクタンは枝分かれアルカンで安定して燃える性質があり、ノッキングを起こしにくい。

なのでアンチノック性を示す指標として「オクタン価」を導入し、イソオクタンをオクタン価100と定義されている。

逆に、直鎖ヘプタンは非常にアンチノック性が低いため、直鎖ヘプタンはオクタン価0と定義されている。

イソオクタンと直鎖ヘプタンの混合率をオクタン価としてアンチノック性の指標にしている。

例えばイソオクタン:直鎖ヘプタン=70:30の混合油はオクタン価70と言える。

ガソリンに対して燃焼試験を行い、もしこの「イソオクタン:直鎖ヘプタン=70:30の混合油」と同じだけのアンチノック性が測定されれば、そのガソリンは「オクタン価70のガソリン」と言える。

市販のレギュラーガソリンはオクタン価89以上で、ハイオクガソリン(=高オクタン価ガソリン)は96以上である。


イソオクタン以上にアンチノック性が高い物質もある。

そのためそれらアンチノック性の高い物質をガソリンに混合し、オクタン価を高めることができる。

オクタン価100を超えることも可能。

昔はテトラエチル鉛(C2H5)4Pbという物質がオクタン価向上のため添加剤として入れられていたが、鉛による環境汚染の回避のため現在は使われていない。
(※ 飛行機用のガソリンには有機鉛系化合物が未だ使われている。)

最近はエチルターシャリーブチルエーテルC2H5OC(CH3)3が使われている。


ちなみに、普通のレギュラーガソリン用エンジンの車にハイオクを入れてもほとんど意味がないらしい。

逆に、ハイオク車にレギュラーガソリンを入れるとノッキングで壊れるという。

難儀である。


以上、イソオクタンが「ハイオク」とか「オクタン価」とかの正体でした。

筆者は「オクタン価じゃなくてイソオクタン価の方が正確だ!むしろ直鎖のオクタンは非常にオクタン価が低い!」と思うので、どなたかガソリン会社に勤めたらぜひ名称変更してください(笑)


◎ 参考


今日テレビでショウガのテンプラをやっていました。

なんと!

関東ではショウガのテンプラがないようですね!!

うちの地域では普通で食べるのに・・・スーパーでも普通に売ってるのに・・・おいしいのに・・・

それを「しょっぱい」など・・・

文化の違いってありますよね。

さてさて、ということで今日はショウガにまつわる分子を紹介しましょう。


今日の分子 No.55 ジンゲロン C11H14O3


Jmolで描画


ショウガの成分。

香り分子で、ジンジャエール等の香料として使われるらしい。

脂肪燃焼作用もあるとかなんとか、サプリや健康食品でも騒がれている物質。

ちなみにジンゲロンそのものは生きたショウガには含まれておらず、調理等の際に次に挙げるショウガ中のジンゲロールから生じるらしい。

だから新鮮な生姜よりも、長時間加熱した生姜に多く含まれるという。

ショウガの成分分子には他にも

・ショウガオール

・ジンゲロール

・ジンギベレン

等の香り・辛み成分があるらしい。

どれもショウガやジンジャーっぽい名前である。

☆ 生姜に含まれるこれらの構造、詳しい説明は株式会社シオダ食品HP 『生姜について』をご参照ください。食品化学的でとても良いwebページだと思います。


ショウガオールは英語でも「Shogaol」らしい。

無論、日本語の「ショウガ」から来ているらしい。

「ジンジャー」のスペルは「ginger」。

ジンゲロールのスペルは「gingerol」で、ショウガな名前である。

が!

ジンゲロンの綴りは「zingerone」、ジンギベレンは「zingiberene」であり、期待を裏切ってくれる。

謎。

誰か理由知ってる人は教えてください(笑)


◎ 参考


下品な話で申し訳ありませんが、今、筆者の足がとても臭いです。

匂いがするということは、その匂い分子が揮発して鼻の嗅覚レセプターに結合して信号を送っているということ。

では一体この臭いにおいはどんなヤツが原因なんでしょうか。

そう、コイツが足の裏の臭いの犯人だ!


今日の分子 No.54 イソ吉草酸 (CH3)2CHCH2COOH


Jmolで描画


正式名称:3-メチルブタン酸。

炭素数が同じで直鎖のCH3CH2CH2CH2COOHを吉草酸といい、それの枝分かれした異性体なのでイソ吉草酸と呼ばれる。

天然の脂肪酸である。

水に少し溶け、有機溶媒に溶けやすい無色透明、揮発性の液体。

不快な刺激臭がある。

この物質は足の裏の匂いや口臭の原因物質だといわれる。

ライオン株式会社は東京医科歯科大と連携して中高年の口臭の原因は、足の裏の匂いの原因物質のこのイソ吉草酸等の揮発性低級脂肪酸であると明らかにしたという。

http://www.mylifenote.net/009/lio_27.html

細菌がこのイソ吉草酸を生産し、あの特有の不快臭を出すのだという。



一般に脂肪酸は臭い。

例えば酢の成分である酢酸CH3COOHは刺激臭がある。

酢の匂いはいわゆる酸っぱい酢の匂いであるが、炭素数が増大するに連れて不快さが増すという。

C3H7COOHあたりから匂いの質が変わってきて、酢的匂いから不快な匂いになるという。

パルミチン酸C15H31COOHもかなり不快なにおいがする。

ただし一番臭いのは炭素数4、5あたりである。

なぜなら炭素数が増大すると分子が大きくなるので揮発性が乏しくなり、鼻に到達しにくいので匂いがあまりきつくならないからである。

炭素数4、5あたりが不快さと揮発性の和が最大に達するわけである。

で、イソ吉草酸は最悪の臭さの炭素数5である。

炭素数4、5あたりの揮発性脂肪酸は「凶悪的な臭さ」・「3日前のウ●コみたいな臭い」と言われる。

※ 筆者の表現ではない。筆者の大学の先生様がそうご表現なさったのである。


一方、揮発性低級脂肪酸のエステルは果実のような快い芳香を持つ。

例えばイソ吉草酸エチル(CH3)2CHCH2COOCH2CH3は、においが180度変わってリンゴのような良い香りがし、香料に用いられる。

他にも酢酸エチルCH3COOCH2CH3も果実臭がするし、酪酸メチルC3H7COOCH3は食品用香料に用いられ、実際天然の果実に含まれる。


化学物質は少し構造が変わるだけで、ここまで性質は変わる。

これが化学の面白いところ。

この場合決定的なのはカルボン酸の酸性のHがエステルになってなくなった、ただそれだけのことです。

香水を嗅いで「良い香り・・・」とうっとりしても、もしかしたらその分子は足の裏の臭い分子とほとんど構造が同じかもしれない。



◎ 参考
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