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一般向け/高校生向け楽しい化け学
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「有機化学の歴史と化学者 第二弾」

今日紹介する有機化学の歴史は、「異性体の発見」について。

それについて、今回の「今日の分子」は雷酸。


「今日の分子」No.8、雷酸 HCNO


WinMOPACで計算・描画 ※2010/10/7修正


この雷酸のHと銀が置き換わった雷酸銀AgCNOが、今回のポイント。

昨日紹介した「今日の分子No.6」のシアン酸アンモニウムを見てください。

このアンモニウムイオンの代わりに銀イオンの場合はシアン酸銀AgOCNです。

すなわち、雷酸銀もシアン酸銀も、どちらもAg,O,C,Nがひとつずつからなる異性体です。

化学者ヴェーラーは昨日のブログのようにシアン酸塩を研究していて、一方リービッヒは雷酸塩を研究していた。

当時はまだ異性体という概念はなく、あるひとつの分子式であらわされる化合物はただ一通りに決まる、と考えられていた。

しかし雷酸銀には爆発性があるが、シアン酸銀にはない。

この二つの物質は明らかに違う性質を示し、分子式は同じだが異なる物質、すなわち異性体であるとこの二人の化学者は結論付けた。

この二つの物質は無機化合物であるが、この異性体という概念を導入することでたくさんの異性体を持つことが多い有機化合物の研究の発展に大きな恩恵をもたらした。


ユストゥス=フォン=リービッヒは筆者がもっとも尊敬する化学者です。

ヴェーラーとともに19世紀最大の化学者といわれ、有機化学の確立に大きく貢献した。

リービッヒ教授はすごい。

今もとても基本的で重要な有機化合物群の「アルデヒド」というのも、リービッヒのネーミングらしい。

そして有機化学であまりに重要な「官能基」という概念もリービッヒが使い出した。

しかし!なぜかヴェーラーと比べてちょっとマイナーである。

でも実は高校の教科書にも載っている。

リービッヒ冷却器、という実験器具をご存知だろうか。

「下から入れて上から出す」という有名なフレーズのやつである。

リービッヒ冷却器


ちなみにリービッヒとヴェーラーは仲良しで、多くの共同研究をしている。

共同でベンズアルデヒドの研究をしてベンゾイル基を見つけたり、尿酸・尿素の研究をしてヴェーラーは「異性化」と、例の「有機化合物初合成」の理論を作り上げたのである。

特にリービッヒはヴェーラーのことが大好きらしく、彼の論文(の日本語訳)を見ると、「ヴェーラー博士は・・・」「ヴェーラー教授によると・・・」という脚注がいーーっぱい出てくる。(ちなみにヴェーラーが三歳年上)

他にもリービッヒは、子供のころ学校の勉強よりも化学のほうが大好きだったので成績が悪かったり、中学校に爆薬を持って行って爆発させて中退になったりした。

そして仕方なく彼は隣町の薬剤師の元へ修行へ(要するに職業指導である)行った。

そこで彼は屋根裏部屋を貸してもらったのだが、またしても彼はその爆薬を誤爆させてしまい怒られまくって追い出されて実家へ・・・

とても人間味があって面白い人物だと思いませんか?

ちなみにその「爆薬」というのは上で紹介した雷酸塩である。

そして1826年、23歳の若き化学者は「異性体」の概念を発見した――
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「有機化学の歴史と化学者 第一弾」後半(前半

「今日の分子」No.7、尿素 (NH2)2CO


Jmolで描画


人間の尿に含まれるので尿素と呼ばれる。

たんぱく質が分解するとアンモニアが出てくるが、アンモニアは有毒なので肝臓で二酸化炭素と反応させて尿素とし、無害化させ尿として排出している。

この分子は人類が始めて無機化合物から合成した有機化合物である。

1828年、フリードリヒ=ヴェーラーは前半で紹介した無機化合物シアン酸アンモニウムの水溶液を加熱することで有機化合物である尿素を作り出した。

NH4OCN → (NH2)2CO

それまでは有機化合物は生物にしか作り出せないと信じられていた。(生気説)

しかしもちろんそんな事はなく、このようにヴェーラーはその説をぶち破り、当時の学会に大きな衝撃を与えた。

そして彼は有機化学の父と呼ばれ、今日の教科書にも必ずその名と反応が載るほどの大有機化学者となった。


ちなみに多くの教科書には「ヴェーラー」ではなく「ウェーラー」と書かれていると思う。

間違いか?と言われるとそういうわけではない。

彼はドイツ人で「Woehler」という名前なのだが、ドイツ語では"W"はヴァ行の発音をするのでヴェーラーと読む。

しかしこれを今の自然科学の世界で一般的な言葉である英語で読むと「ウェーラー」になるので日本語の教科書にも英語読みで書かれている。

だが、まあヴェーラー本人に言わせれば、「ウェーラー」は間違いなんだろうなぁ・・・


「有機化学の歴史と化学者 第一弾」前半

今日から数日間は有機化学の歴史と化学者について特集します。

今日は初めて人工的に合成された有機化合物について。

それに関連する分子を「今日の分子」No.6とNo.7を一挙にあげます。
(今日の分子No.7は次の記事)

「今日の分子」No.6、シアン酸アンモニウム NH4+ -OCN


WinMOPACで計算・描画


左のアンモニウムイオンと右のシアン酸イオンからなる塩である。

アンモニウムイオンとシアン酸イオンは共有結合ではなくイオン結合(+と-がクーロン力で引き合っているだけの結合)なので、上の図では結合の線は描かれていない。また、二重結合や三重結合は省略されて一本の線で表されている。

イオン結合とかの細かいところまでちゃんと計算して描画してくれる分子軌道計算ソフトのWinMOPACはすばらしい。

そして無機化合物であるシアン酸アンモニウムは次に挙げる有機化合物;尿素の原料となる。

(後半)


昨日・一昨日は体に影響を与えるアルカロイド分子を取り上げたので、今日もそれに関連して他の物質をあげてみます。

「今日の分子」シリーズNo.5はこの分子、テトラクロロジベンゾパラジオキシン C12H4O2Cl4


筆者自作の発泡スチロール分子模型


舌噛みそうなややこしい名前の分子。

もっと正確に言うと2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-1,4-ジオキシン。

ちなみに切るところは テトラ/クロロ/ジ/ベンゾ/パラ/ジ/オキシン 。

「四つの塩素で置換されたベンゼン環が2つくっ付いた、反対位置に酸素が置換しているジオキシン」という意味。

ジオキシンとは、"酸素二つのベンゼン環もどき"な分子のことで、上の分子模型で言うと真ん中の酸素(赤色)入りの六角形である。

またちょっと発音変わっているが、ジオキシン(dioxin)とはダイオキシンのこと。

要するにテトラクロロジベンゾパラジオキシンはダイオキシンの一種である。

しかもダイオキシンの中でも最も毒性の強いものと代表されるもの。

催奇性があり、また発がん性があるといわれる。

ダイオキシンはベトナム戦争で使われた枯葉剤に含まれていたことなどで有名。

また塩素系プラスチックを燃やしても不完全燃焼体としてダイオキシンが発生することがあり、注意が必要。

このことから学校の焼却炉が使用禁止になった。

それまではゴミは何でもかんでも適当に燃やしていたということだから恐ろしい。


中学生の頃、筆者はこの分子の構造を知りその毒性も含めて非常に興味を持った。

中3のときの"班ノート"(先生のコメントがつく班の中の交換ノート)に、この分子の構造と性質について延々と書き連ねたことがあるのを覚えている。

はたから見ると変な少年であった。


ちょっと背景の重い分子が続いたため次は楽しい分子を紹介しようと思います。

なににしようかなぁ。


そして前記事と連続して「今日の分子」シリーズNo.4はニコチン C10H14N2


Jmolで描画, クリックで拡大。


タバコに入っていることが有名なニコチン。

純粋なものは無色の油状液体。窒素が2つ含まれていて、アルカロイドの一種である。

中枢神経・末梢神経を興奮させ、血管を収縮させて血圧を高める。一方タバコ以外にも利用されていて、硫酸塩は農業用殺虫剤。(参考;スーパー大辞林)

タバコは吸わないほうがいいですね。麻薬の仲間のアルカロイドを吸うのだと考えたら吸わないほうが良いのは歴然。ちなみに筆者はタバコを吸ったことがないので常習性という真の恐ろしさを知らない。

昔作ったニコチンの発泡スチロール分子模型(高1くらいだったかな・・・)




◎ 参考
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